北太平洋漁業委員会2025結果報告 サバやサンマの漁獲枠削減も不十分 庶民の食の未来に暗雲
2025/04/24
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- 2025年3月24日から4日間にわたり開催されていた、サンマやマサバなどの漁業資源の管理について話し合う国際会議、北太平洋漁業委員会(NPFC)年次会合が閉幕しました。年次会合では、マサバとサンマの総漁獲可能量(TAC)の削減に合意されましたが、早期の資源回復のためには不十分であり、庶民の魚の未来に不安を残す結果となりました。一方、洋上転載時のオブザーバー乗船義務化の詳細が合意されるなどIUU(違法、無規制、無報告)漁業対策には進捗がみられました。
はじめてマサバの資源評価結果に合意
2025年3月24日から27日まで、大阪で北太平洋漁業委員会(NPFC)の第9回年次会合が開催されました。
9の加盟国・地域(*)が参加したこの会議では、サンマやマサバなど北太平洋の魚種を中心とした漁業資源の保全と利用について話し合いが行なわれました。
*日本、アメリカ、カナダ、ロシア、中国、韓国、バヌアツ、EU、台湾
今回2025年の年次会合では、漁獲量が急減しているマサバについて、初めての資源評価結果が合意されるか、また近年の不漁に対処できるTACの削減に合意されるか、注目されていました。
マサバは、日本では、塩焼き、味噌煮、しめさば、缶詰などさまざまな形で消費され、庶民の魚として親しまれています。
マサバ資源には、太平洋系群と対馬暖流系群の2つがありますが、その産卵場は主に日本沿岸に位置することから、歴史的にも日本が多く漁獲してきました。
しかし、近年は、北太平洋の公海上において、遠洋漁獲国による漁獲が急増。日本が独自で実施した最新(2025年)の資源評価結果によると、マサバ資源(太平洋系群)は乱獲・枯渇状態で、厳しい漁獲制限が必要となる限界管理基準値周辺まで低下していると評価されました。
一方、NPFCでは、いままでマサバについて資源評価が実施されていませんでしたが、2025年、NPFCとしてのマサバ資源評価結果が合意されました。
NPFCによる資源評価結果においても、日本独自の資源評価結果と同様、マサバ資源は近年急減しており、漁獲圧が高すぎるという結果となりました。
なお、資源評価で使用している漁獲データは両者で異なり、NPFCよりも1年分新しいデータを使用している日本独自の資源評価のほうが、近年の不漁をより強く反映した悲観的な結果となっています。

NPFC会場。大阪の難波で開催されました。
マサバの総漁獲量(TAC)は前年実績並みに削減
近年のマサバ漁獲量および資源量の著しい減少を食い止めるため、日本の政府代表団はTACを50%削減する案を提案。WWFなどのNGOも、速やかに漁獲量・圧を下げ、資源を回復させるべきだと強く主張しました。
【関連情報】
【WWFがNPFCに提出したポジションペーパー(英文)】
WWF NPFC2025 Position Statement.pdf
しかし、近年急激に漁獲量を増やしている中国はそれに反対。議論は最終日まで続けられましたが、最終的にはTACは29%減の7.1万トンとし、2024年の漁獲実績並みに制限することで合意されました。

NPFC年次会合風景。対面による会議とオンライン会議のハイブリッドでの開催となりました。
サンマTACは漁獲制御ルール(HCR)により10%削減が決定
秋の風物詩でもあるサンマですが、以前は主に日本沿岸(EEZ内)で漁獲、庶民の魚として重宝されていました。
しかし近年は、遠洋漁業国による公海上の漁獲が急増。現在は日本以外にも台湾、中国、韓国、ロシア、バヌアツによって漁獲されています。
特に台湾、中国の漁獲量増加は著しく、かつて世界1位であった日本の漁獲量は、現在、台湾、中国に続く第3位に後退しています。
遠洋漁業国による漁獲量が急増するにしたがい、サンマの漁獲量および資源量は急減しています。
以前は60万トンもあった漁獲量は、2021年には歴史的最小値の9.3万トンにまで減少。
資源評価結果も「枯渇状態」となり、大きな問題となりました。
NPFCでも管理強化の議論を毎年行なってきましたが、十分なTAC削減の合意ができず、資源が減少し続けていました。
そこで、昨年2024年の年次会合では、資源の変動に応じて自動的にTACを10%増減させることができる漁獲制御ルール(HCR)に合意。その後、早速、遠洋漁業船で、漁獲上限到達による操業が停止されるなど、一定の効果をみせています。
今回の年次会合においても、HCRに従い、TACを10%削減させる提案がなされました。すでに昨年合意した事項にもかかわらず不満を漏らす国もありましたが、無事合意され、2025年のTACは2024年の10%減の20.25万トン(公海上は12.15万トン)に設定されました。

マイワシも危険 漁獲圧が急増
マサバ、サンマが危機的状況にありますが、実はマイワシも危険な状況です。
日本EEZとNPFC管理区域をまたがって分布するマイワシ(太平洋系群)資源は、最新2024年の日本独自の資源評価結果において「漁獲圧が高すぎる」と評価されており、国内TACは2024年比で30%削減されています。
一方、NPFC管理区域では、マイワシは、日本以外にも中国、ロシアにも漁獲されていますが、まだ資源評価が完了していないため、TACの設定もされていません。
また近年、中国のマイワシに対する漁獲圧は、日本、ロシア以上に急増していることから、いち早くTAC導入などの管理強化をしなければ、乱獲に陥るリスクが高まると懸念されています。
そこで日本政府は、NPFCに対し、近年のマイワシの漁獲圧増大を懸念し、資源評価が完了していない状況ではあるものの、緊急的にTACを設定することを提案しました。
しかし、中国はこの提案に反発。TACの設定は残念ながら見送られることとなりました。一方、マイワシを管理優先種と指定し、今後、NPFCで資源評価を実施できるよう、体制を整えていくこととなりました。

マイワシは、刺身、塩焼き、煮つけ、缶詰などで食べられるほか、養殖の餌としても使用されています。
IUU漁業対策強化に成功 洋上転載時のオブザーバー乗船義務化の詳細決定
現在、違法、無報告、無規制(IUU)漁業が、水産資源の乱獲を招くだけでなく、奴隷労働の温床にもなっていることから、SDGsやG7、G20など、世界の優先課題としてとりあげられています。
【関連情報】
IUU漁業について
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/282.html
特にIUU漁業が起こりやすい漁業活動として「洋上転載」があげられます。
洋上転載とは、運搬船と漁船が洋上で積み荷を交換(漁船からは漁獲した魚を、運搬船からは水・食料や仕掛けの餌などを補給)することです。これにより、漁船は、長期間、洋上で操業が可能となることから、洋上転載は、マグロ、サンマ、サバ、イワシなどの遠洋漁業で多く用いられる手法です。
しかし多くの場合、運搬船は、複数の漁船から魚を受け取り、同じ冷凍庫に保管するため、どの漁船由来の漁獲物か区別するのが難しくなってしまうことから、違法なものが入り込みやすい状況となっています。
加えて、漁船が監視もされずに長期間操業できてしまうことから、奴隷労働が発生しやすく、大きな問題となっています。
したがって、複数国で漁業を管理する地域漁業管理機関(RFMO)のほとんどは、基本的には洋上転載を禁止し、運搬船に監視員(オブザーバー)を乗せていた場合のみ、例外措置として洋上転載を許可しています。
NPFCにおいても、今回の年次会合で転載時のオブザーバー乗船義務化の詳細が合意されました。2026年4月より義務化されることとなり、IUU漁業対策強化が大きく進捗しました。

深海底曳き漁業に対し新たに禁漁区を設定
NPFC管理区域では、キンメ、クサカリツボダイという深海魚種が、日本の底曳き漁業によって漁獲されています。
深海には、冷水性サンゴやヤギ類といった惰弱な海洋生態系(VME)種が多く存在し、それらは成長がとても遅く一度破壊されてしまうとなかなか回復できないことから、NPFCでは、VME種への影響が少ない漁業を実現するため、長年議論が行われてきました。
2025年の年次会合では、科学委員会の勧告にしたがい、VME種への影響が大きいと思われる雄略海山を、新たに禁漁区として設定することが合意されました。

キンメは、静岡県や千葉県など太平洋沿岸の産地が有名ですが、北太平洋の天皇海山海域や南インド洋でも漁獲されています。
サンマの二の舞とならないため 予防的管理の徹底を
今回のNPFC年次会合の結果に対し、オブザーバーとして会合に参加したWWFジャパン海洋水産グループ水産資源管理マネージャーの植松周平は、次のように述べました。
「今回の年次会合では、サンマだけでなく、マサバ、マイワシの危機的状況が明らかとなりました。
特にマサバについては、資源の激減に加え、成長・成熟の遅れが報告されており、資源動態を把握することすら難しい状況です。
日本政府代表団の粘り強い交渉もあり、何とか前年漁獲実績までTACを削減することができましたが、もしNPFCの資源評価で、日本独自の資源評価と同様、1年分新しいデータを使用できたのであれば、現状をより強く反映した厳しいTACに合意できていたかもしれません。
NPFCは、今よりも正確かつスピーディーに漁獲データや資源動態を把握できるよう、他のRFMOで導入が進みつつある電子的な漁獲報告(ER)や電子モニタリングシステム(EM)、漁獲証明書(CDS)等の導入を急ぐべきです。
そして、サンマ、マサバ、マイワシ、イカ類などの庶民の魚を守るうえで、現行の管理措置が十分であるか、NPFCは再確認しながら、迅速な対応を行うべきです」。
WWFは、北太平洋の持続可能な漁業の確立とIUU漁業廃絶のため、引き続き各国政府に働きかけをおこなっていきます。