Jurgen Freund / WWF

「2030年までに森林減少を食い止める」首脳宣言に141か国が署名

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イギリス・グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の開幕2日目、2030年までに森林減少を食い止めるために協力する共同宣言「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」が発表されました。これ以上の森林減少を進行させないため、国家、企業、金融機関、一般市民などすべての関係者が宣言に続き、行動を起こすことが求められます。
目次

本格化する気候変動対策としての森林保全

イギリス・グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の開幕2日目となった2021年11月1日、100を超える国と地域の首脳や代表が、「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」(以下「グラスゴー宣言」)を発表しました。

これは、2030年までに森林減少を食い止めるために、各国が協力することを宣言する内容で、その後も署名は増え、11月末には140か国を超えました。

今回のCOPでは森林や自然がかつてないほど取り上げられており、議長国イギリスのリーダーシップによって実現した「世界リーダーズ・サミット」の2日目のテーマも「森林と土地利用」でした。

イギリスのジョンソン首相や、アメリカのバイデン大統領が、森林やその他の自然生態系を保全することが気候変動対策としても重要であることを訴え、政府を挙げて対応する意思を表明しました。

森林にまつわる温室効果ガス
©WRI, Global Forest Watch

世界の森林は、温室効果ガスの吸収・貯留源として大きな存在となっています。2021年1月に発表された調査によると、年間で160億トンのCO2(二酸化炭素)を大気中から吸収している一方で、火災や伐採により森林減少は81億トンのCO2を放出しています。これは、世界の森林を一つの国と例えると、中国、アメリカ合衆国に続いて第3位のCO2排出量となります。これほどの放出量を減らし、吸収量をもっと増やすために、森林の保全が不可欠です。

https://www.wri.org/insights/forests-absorb-twice-much-carbon-they-emit-each-year

今回のグラスゴー宣言で各国は、森林減少を止めて回復に向かわせ、持続可能な土地の利用と開発を推し進めることを約束しました。

また、この実現に向けて、各国政府から120億ドル、民間から72億ドルの資金提供や投資額が発表され、合計192億ドル(およそ2.2兆円)がこの実現に向け投じられることが表明されました。

世界最大の森林面積を誇るロシアを始め、ブラジルやインドネシア、コンゴ民主共和国など、広大な熱帯雨林を有する国も名を連ねており、署名国すべてを合わせると世界の90%以上の森林面積がカバーされることになります。

©Andre Dib / WWF-Brazil

農地転換のため、火災が発生しているアマゾンの森。CO2排出源となっている。

グラスゴー宣言とはどのような宣言か

「森林の保全」とは、森林保護区を増やすことに留まらず、実際そこに暮らす人々の権利の尊重など、さまざまな配慮が必要になります。

グラスゴー宣言にも、これを実現に導く具体的なステップとして以下6つのポイントに整理されています。

  1. 森林およびその他の陸域の生態系を保全し、その回復を促進する。
  2. 持続可能な開発および生産と消費を促進し、国同士の相互利益につながり、森林減少と土地転換に繋がらない貿易・開発政策に取り組む。
  3. 先住民や地域コミュニティの権利と森林の多面的価値を認め、収益性の高い持続可能な農業の開発などを通じて、コミュニティの権利を尊重し、住民の生活を向上させる。
  4. 持続可能な農業を奨励し、食料の安定を高め、環境に利益をもたらすために、農業政策を実施、または必要があれば再設計する。
  5. 持続可能な農業、持続可能な森林管理、森林の保全と回復、先住民や地域社会への支援を可能にするために、あらゆる方面から資金や投資を確保し、その効果を確認し向上させる。
  6. 森林減少と土地転換を食い止める目標に資金の流れを整合させ、森林拡大、持続可能な土地利用、生物多様性、気候に関する目標を推進するような社会経済への変換を加速する。

「先住民や地域コミュニティへの支援」 「持続可能な農業」 「資金や投資の確保」 は、この宣言に関わる議論のなかで繰り返し登場するキーワードですが、これらの実現に向けて署名国が貢献を誓約したことは、世界の森林保全にとって大きな一歩です。

© WWFジャパン

COP26の会場の外で行われた気候マーチ

COP26での共同宣言の先駆けとなったFACT対話

今回のCOP26では、グラスゴー宣言のほかにも、「森林、農業、コモディティ貿易(FACT;Forest, Agriculture, & Commodity Trade)対話」のロードマップ発表が注目を集めました。

イギリスとインドネシアの政府が共同議長を務めるFACT対話は、COP26が開催される前から準備が進められ、2021年5月には25か国が署名をしていました。

このFACT対話は、パーム油、大豆、カカオ、牛肉、木材(紙を含む)などの農林産品の主な生産国と消費国が話し合い、森林減少や土地転換をなくすことを目的に、持続可能な貿易と開発に共同で取り組むことを目指すものです。

森林減少や土地転換の原因となりうる、森林リスク・コモディティと呼ばれるこれらの農林産品の生産と消費を、持続可能なものに変えることができれば、森林や自然生態系をこれ以上破壊せず、回復に向かわせることができると期待できます。

COP26で発表されたFACTロードマップは、以下4つのカテゴリーに関して、各国が取り組む道筋を描きだしたもので、今後も実践しながら改善されていきます。

  1. 貿易と市場の開発
  2. 小規模農家の支援
  3. トレーサビリティと透明性
  4. 研究、開発、イノベーション
FACT Dialogue A Roadmap for Actionより

FACT対話のロードマップが表す4つのアクション

過去の宣言を教訓に「行動」を

今回のグラスゴー宣言は、過去に例を見ない数の国々が賛同した、意欲的なものであり、大きな期待が寄せられています。

しかし、過去に出された森林保全に対する同様の宣言の進捗と成果を振り返ると、ただ宣言を見守っているだけでは森林保全は実現しないことが分かります。

その事例の一つが、2014年の国連気候サミットで採択された「森林に関するニューヨーク宣言(NYDF:New York Declaration on Forests)」です。

これは、2020年までに森林減少を半減させ、2030年にはゼロにする、という宣言で、200以上の国、企業、NGOや先住民コミュニティが署名。大きな期待が寄せられていました。

しかし、2020年に発表された進捗報告書によれば、世界全体で見た森林減少のスピードは、減速はしているものの半減には届いていません。

むしろ、熱帯を始めとした生物多様性の宝庫である自然林に限れば、減少率が宣言前に比べて増加しており、2030年に森林減少ゼロへの道筋は見えていないことが分かります。

今回のグラスゴー宣言が掲げた目標を実現するためには、署名国は以下を実行する必要があります。

  • すぐに行動を起こす
  • 期限付きのターゲットを設定
  • 結果に責任を持ってモニタリング
  • 全ての関係者が進捗を共有できる共通のフレームワーク作り

この中の「すぐに行動」の実例として、EUの欧州委員会はCOP26閉幕直後の2021年11月17日、新たな制度改革案を公表しました。

森林破壊につながる農林産品を輸入しない法案で、輸入企業は生産国のどこで原材料が生産されたのか、確認を求められます。

対象は原材料に加え、それを使った最終商品、例えば家具やチョコレートといった消費者が手に取るものも含まれており、生産地が2020年12月31日以前は森林だった場所だと確認された場合、EUへの輸出はできなくなります。

この法案は、採択されれば、2023年にも成立すると言われており、輸入規制に抵触すれば相手国も、取引を仲介した企業も大きな打撃を受けることになります。

©Luis Barreto / WWF-UK

アマゾンの熱帯雨林

森林保全のため、企業に求められるアクション

COP26という公式な場で、森林減少や持続可能でない土地の利用に立ち向かうために140を超える多くの国々が意欲的なコミットメントを発表したことは大いに歓迎すべきことです。

しかし国連が主導する国際的な枠組みや国による宣言だけでは、世界中の森林は守れません。

実際に森林や土地を利用し、生産活動を行なう企業も問題を理解し、行動に移すことも根本的な解決には不可欠です。

海外からパーム油、天然ゴム、大豆などを含む森林リスク・コモディティを調達する多くの日本企業にとって、サプライチェーンは長く複雑で、多数のサプライヤーを遡るのは時間もコストもかかる作業かもしれません。

しかし、農林産品を使って商品を流通させている企業に対し、取り扱う製品が持続可能に生産された原材料を使用しているのか、世界の消費者は問い始めています。

原産国の法律を遵守して生産されているか、新たな森林減少や土地転換を伴う開発を引き起こしていないか、先住民や地域コミュニティの権利に十分配慮しているか。

こうした点を確認する方針を、確立・実行し、持続可能な調達を行なうことが、企業には今後ますます強く求められるでしょう。

生産現場で問題が起きていないことを確認するためにはまず、原産地までのトレーサビリティを確立することが重要です。

その上で、農林産品の購入企業であれば調達方針、金融機関であれば投融資方針などの形で、どのように環境と調和した事業活動を進めるのか、社会に向けて発信していくことが期待されています。

WWFは、世界のリーダーが森林保全と持続可能な土地利用のためにコミットした今回のグラスゴー宣言を歓迎します。

実際、グラスゴー宣言が各国による実際の行動と結びつければ、WWFが掲げる、2030年生物多様性回復と、2050年脱炭素社会実現、という目標の実現も、より確かなものとなってくるでしょう。

また、これらの国際的な宣言やロードマップは、社会を構成するあらゆる組織と人の理解が無ければ、より実効性のあるものにはなりません。

社会のあらゆる主体、国連や国などの行政組織、企業やNGO、そして一般消費者が、課題を理解し、解決に向かわせることでしか成しえないのです。

WWFは今後も、気候変動の影響を食い止め、生物多様性を回復させるために、こうしたさまざまな主体に、それぞれの立場でできる行動を起こすことを呼びかけ、後押ししていきます。

©Lukas Kovarik / WWF

コスタリカの森でくつろぐノドチャミユビナマケモノ

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