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よみがえれ、オーストラリアの自然

この記事のポイント
コアラやカンガルーなど多くのユニークな野生生物が生息し、壮大な景観を誇るオーストラリア。実はどの大陸よりも哺乳類の絶滅するスピードが速く、オーストラリア政府によれば、約2,000種ちかくの野生生物が絶滅の危機に瀕しています。オーストラリアの自然で何が起きているのか、こうした問題に対してWWFはどのような対策を行っているのか、基礎となる情報をお届けします。
目次

多様でユニークなオーストラリアの自然

日本の20倍以上の広さ(約769.2万km2)を誇るオーストラリアは、6つの州とその他の特別地域という行政区分で構成されています。
しかし、気候や地形、地質、植生、生物種の分布といった自然の特徴でみると、オーストラリアは89の生物区(bioregion)に分けられます。(※1)

国内で唯一標高2,000メートルを越える、オーストラリア・アルプス(Australia Alps Region, AUA)、世界で最も古い森林が広がる湿潤熱帯地域(Wet Tropics, WET)、世界で2番目に大きい一枚岩ウルルがそびえるグレートサンディ砂漠(Great Sand Desert, GSD)、世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフが広がるサンゴ海(Coral Sea, COS)などの生物区があり、オーストラリアの自然は実に多様です。

© DCCEEW, 2021

1. Bioregionはナショナル・リザーブ・システム(National Reserve System)と呼ばれる政策で、各地の自然環境の状況と保全レベルを計測するために設定され、更に細かな419の生物亜区(subregion)に分けられています。© DCCEEW, 2021 (※1)

数億年前、オーストラリアは南半球に存在していた超大陸ゴンドワナの一部でした。大陸分裂が起こり、南アメリカ大陸、南極大陸と離れ、現在の南半球のオセアニアに少しずつ移動。数千万年もの間、他の大陸とは地理的に隔離され、オーストラリアの動植物は独自の進化を遂げてきました。
これまでに確認されているだけでも、植物の86%、魚類の24%、両生類の94%、爬虫類の93%、鳥類の45%、哺乳類の87%が、オーストラリアにのみ棲息する生き物で、世界的に固有種が多い国です。(※2)

© Commonwealth of Australia, 2021 (※4)より和訳

2. 最も有力視されている学説によれば、オーストラリアには60-70万ほどの種がいるとされ、現在分かっている種は菌類を含めても推定数の3割程度(※3)。カンガルーやコアラ、ウォンバットといった袋の中で赤ちゃんを育てる有袋類、カモノハシやハリモグラといった哺乳類なのに卵を産む単孔類などユニークな生き物が多く生息しています。© Commonwealth of Australia, 2021 (※4)より和訳

大陸の約8割は半乾燥・乾燥地帯でRangeland(「牧野」と訳されますが、「荒野」の方がイメージは近い)と称され、砂漠や熱帯サバンナ、草原、疎林、灌木林が広がります。(※5)

3. 現地では奥地や未開地を意味するアウトバックと呼ばれています。(左)©Wim van Passel / WWF、(右)Rangelandの分布図 © Commonwealth of Australia, 2005 (※5)

森林は国土の17%(1億3,400万ha)を占め、天然林の代表樹種はユーカリ属(75%)やアカシア属(8%)、コバノブラシノキ属(5%)など。こうした植物がそれぞれの環境に適応する形で、多くの種に分化していきました。(※6)

© ABARES, 2019

4. オーストラリアの森林面積は、日本の国土の約3.5倍ほどの広さがあり、世界の森林面積の3%に相当します。うち98%が天然林、1.5%が商業プランテーション林、残りは非商業的な人工林などです。© ABARES, 2019(※6)

5. 天然林は林冠の被覆率によって3つのタイプに分けられ、被覆率20-50%のWoodland Forest(天然林の69%)、被覆率50-80%をOpen Forest(天然林の26%)、被覆率80%以上はClosed Forestと定義されています。© Stuart Blanch/WWF-AUS (中央)

特にユーカリは、オーストラリアの森林の77%(約1億100万ha)を構成する代表的な樹種です。
もとは熱帯雨林の植物でしたが、大陸移動ととともに乾燥地域や栄養価が低い土壌に適応できる種が現れ、今では800種ほどに分化しています。
Woodland とOpen Forestの8割はユーカリ属が優占し、コアラをはじめ森に生息する多くの生き物を支える貴重な樹木です。※6
現地ではガムツリーという愛称で呼ばれ、耐久性があることから木材として重宝され、精油がとれるほど油分が豊富であることからエッセンシャルオイルも人気です。このようにさまざまな形でユーカリは人間の生活も支えています。

オーストラリアの自然を脅かす脅威

多くの固有種を育み、壮大な景観を形成するオーストラリアですが、約200年前の西洋人の入植を機に、生態系のバランスが大きく崩れ始めました。
その影響は、2021年に発表されたオーストラリアの自然環境を総括的に分析する環境報告書(State of Environment 2021)でも更に明確になり、オーストラリアの生態系は全体的に劣化し、刻一刻と悪化していると警鐘を鳴らしています。
1788年以降、オーストラリアでは分かっているだけでも100種の野生生物が絶滅しました。
絶滅危惧種の数も年々増加し、オーストラリア国内のレッドリストには、2011年から2016年の間で175種、2016年から2021年で更に202種類が追加され、2022年6月時点で計562種の動物と1,411種の植物が登録されています。※4
特に哺乳類の状況は深刻で、過去200年で全体の10%が絶滅。残っている哺乳類の20%も絶滅の危機に瀕している状態です。これは他の大陸と比較して、最も早く減少・絶滅していることを意味しています。
多くの人々に愛され、オーストラリアを象徴するコアラもまた、2050年までに絶滅する地域が出てくると言われるほど、危機的な状況に置かれています。

© Australia State of Environment 2021(※4)より和訳

6. 2011年、2015年、2020年にオーストラリア環境・生物多様性保護法(EPBC)に、保護が必要と登録された陸上生物と海洋生物の種数の推移。出典:Australia State of Environment 2021(※4)より和訳

オーストラリアの多くの野生生物は、いくつかの脅威に晒されています。特に深刻な問題は、生息地の減少、外来種、そして異常気象です。
これまでにオーストラリアの天然植生の13.2%が都市や農地、資源採掘のために開発され、中でもユーカリ・ウッドランドは分布域の33%が消失しました。(※7)
最も森林が広がるクイーンズランド州では、2013年から2018年の間に消失した森の65%は家畜のウシを、28%はヒツジ育てるための牧場、2.2%は農作物、残りは資源採掘や宅地開発が原因とされています。(※8)
連邦政府の統計によると1990年以降、全土で約610万ha以上の天然林が切り拓かれました。

© Commonwealth of Australia 2021, DISER 2021

7. 1990年から2019年の間にオーストラリアで伐採された面積と再成した森の面積(森林の定義は0.2ha以上の面積で樹冠率が20%以上で樹高2m以上)。 © Commonwealth of Australia 2021, DISER 2021(※7)

2015年から2019年の5年間は、今までの伐採面積よりもずっと小さくなってきていますが、それでも年間約58,000ha(東京都23区分が62,760ha)の広さが失われ続けています。
また、二次林を含めると2000年から2017年の間に開発された面積のうち、770万haは危機的な状況にある野生生物の生息地だった可能性があることも指摘されています。(※9)
一方、年間40万haを越える森が再生していることから、オーストラリアの森は減少していないという見方もあります。
しかし、樹齢100年以上の大木に生息する野生生物にとって、すみかである大樹が、数年の若木におき代わることは、生息地を失うことと同じです。

© Briano / WWF-Australia

また、こうしたデータはオーストラリア全土を観測する連邦政府によるものですが、州によっては独自の方法でより細かく自州の植生変化を観測しており、連邦政府のデータ以上に広範囲で土地利用の変化が起きている可能性を指摘しています。
世界の森の中で、特に森林減少が著しい24ある森林地域は、そのほぼすべてが開発途上国にありますが、オーストラリア東部の森は先進国で唯一、この危機的な森林の中に含まれています。

©WWF-AU

森を破壊する負の連鎖と大規模火災

健全な森が消失、劣化あるいは分断されることで、多くの生き物はすみかや逃げ場を失います。
その結果、ネコやキツネといった外来種から襲われやすくなり、別の森に移動するために道路に出て車と衝突、さらにストレスによる免疫低下で病気にかかりやすくなるなど負の連鎖が続きます。
こうした生息地の消失によってさまざまな問題が生じ、多くの生き物が危機に晒される中、2019年末、オーストラリア史上最悪の森林火災が発生しました。

© Andrew Merry / Getty / WWF

森林火災はオーストラリアでは、落雷などによって毎年発生する自然現象です。通常は植生の約1%程度が緩やかに燃える程度で、野生動物も多くは逃げることができます。
しかし、2019年末に発生した火災は、21%の植生を焼き尽くすという過去に類のない規模となりました。

© CISRO, 2020 (※10)を元に作成

2019年の夏、オーストラリアでは観測史上最も高い気温と乾燥を記録しました。
火災は全土15,000カ所で発生し、強風も重なり、焼失面積は1,700万ha以上(北海道2つ分に相当)にのぼりました。
非常事態宣言が出され、火災はオーストラリア国民の8割に影響を与え、30名以上が命を落とし、3,000世帯の家屋が被災。煙は南米沿岸にも到達し、他国でも健康被害が報告されました。
野生生物も深刻な影響を受けました。
推定約30億頭の脊椎動物が被害にあったと推測されていますが、ここにカウントされていない昆虫など他の生き物も考慮すると、その規模ははかり知れません。
生息地の30%以上を失った生き物が少なくとも70種確認され、中でもカンガルー島のスミントプシス(小型の有袋類)は95%の生息地が焼失しました。
人間活動で危機的状況にあった野生生物はもちろんのこと、従来は絶滅の懸念がないとされていた生き物までもが、火災によって一気に深刻な状況へと陥ってしまいました。

© Shutterstock / Jamen Percy / WWF

この未曽有の事態に世界中から多くの支援が寄せられ、WWFオーストラリアも現地で緊急対応に取組みました。
この数か月におよぶ火災は、その後鎮火したものの、野生生物および自然環境を回復するためには、現在に至るまで、予断を許さない状態が続いています。
何よりも気候変動による異常気象によって大規模化した火災は、今後も繰り返し発生する可能性があります。

WWFの新しい挑戦:Regenerate Australia

WWFオーストラリアはこの2019年の大火災を受け、緊急対応に続いて、残された自然の徹底した保全や、長期的な自然回復、気候変動を食い止めることを目指す取り組みを行なうことを決定。
2021年7月からは、新たにRegenerate Australiaプロジェクトを始動しました。
これはWWFオーストラリア設立以来初となる超大型のプロジェクトで、国内各地で保全・回復に取り組む多くの団体・市民と協働の輪を広げ、最新科学と伝統知識の叡智を結集し、草の根から政策のあらゆるレベルで活動を展開し、失われたオーストラリアの自然再生を目指すものです。
目標は、2019~2020年の火災前の状況に戻すことではなく、それ以前から続いてきた森林破壊や外来生物などの影響を含む環境問題を解決し、本来の姿のオーストラリアの自然を取り戻すことです。

そのためにRegenerate Australiaは5つの柱となるテーマを設けています。

1.KOALAS FOREVER:2050年までに野生のコアラの個体数を倍に増やす。

2.TOWARDS 2 BILLION TREES:2030年までに20億本の樹木を保全する。

3.RENEWABLES NATION:2030年までにオーストラリアを再生可能エネルギーの世界有数の先進国にする。

4.INNOVATE TO REGENERATE:オーストラリアの自然を再生するために革新的なソリューションの開発を支援する。

※日本語字幕で再生する場合は、Youtubeの設定から日本語字幕ONにしてください。

5.REWILDING AUSTRALIA:ある地域で絶滅したバンディクートやネズミカンガルーといったキーストーン種を再導入するための実証実験を推進する。

※日本語字幕で再生する場合は、Youtubeの設定から日本語字幕ONにしてください。

WWFジャパンは、このRegenerate Australiaの活動を支援しています。
その理由の1つは、日本とオーストラリアの、長年にわたる貿易上の深い関わりです。
日本は現在も、多くの資源や産品をオーストラリアから輸入しています。
単一品目としてはオーストラリア最大の輸出農産品(金額ベース)である牛肉も、その一つです。
牛肉は、オーストラリアの森林減少の原因の一つと指摘されていますが、その主要な輸出先の上位には日本も入っています。
日本の輸入と消費が、どこかの地域の自然破壊に、実際に関連しているのか、その点は明らかではありませんが、オーストラリアの自然の悪化に日本が無関係とは言いきれません。
また、世界各地で異常気象を引き起こしている気候変動対策としても、炭素を固定する森林の保全は、必要不可欠な対策です。
Regenerate Australiaを通してオーストラリアの森を再生することは、オーストラリアだけでなく、日本を含む、気候変動の脅威にさらされている全世界にとっても、意味のあることといえるでしょう。
ぜひ、オーストラリアの自然と野生生物たちが鳴らす警鐘に耳を傾け、関係するさまざまな環境問題と、その解決をめざすWWFの取り組みに、広くご関心をお持ちいただければ幸いです。

参考文献

※1. Australian Government Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water (DCCEEW). “Australia's bioregions (IBRA)”. DCCEEW. 2021. https://www.dcceew.gov.au/environment/land/nrs/science/ibra (参照 2022-10-28)

※2. Australian Government Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water (DCCEEW). “Numbers of Living Species in Australia and the World - Executive Summary”. DCCEEW. 2022.
https://www.dcceew.gov.au/science-research/abrs/publications/other/numbers-living-species/executive-summary(参照 2022-10-28)

※3. Cassis G, Laffan SW & Ebach MC (2017). “Biodiversity and bioregionalisation perspectives on the historical biogeography of Australia”. In: Ebach MC (ed), Handbook of Australasian biogeography, CRC Press, Florida, 11–26.

※4. Commonwealth of Australia. “Biodiversity”. Australia State of the Environment. 2021. https://soe.dcceew.gov.au/biodiversity/introduction(参照 2022-10-28)

※5. Australian Government Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water (DCCEEW). “Outback Australia - the rangelands”. DCCEEW. 2021. https://www.dcceew.gov.au/environment/land/rangelands (参照 2022-10-28)

※6. Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics and Sciences (ABARES). “Australia's forests – overview”. Australian Government Department of Agriculture, Fisheries and Forestry (DAFF). 2022. https://www.agriculture.gov.au/abares/forestsaustralia/australias-forests/profiles/australias-forests-2019(参照 2022-10-28)

※7. Commonwealth of Australia. “Land”. Australia State of the Environment. 2021. https://soe.dcceew.gov.au/land/environment/native-vegetation(参照 2022-10-28)

※8. Wilderness Society (2019). “Drivers of Deforestation and land clearing in Queensland” P11. https://www.wilderness.org.au/images/resources/The_Drivers_of_Deforestation_Land-clearing_Qld_Report.pdf(参照 2022-10-28)

※9. Ward MS, Simmonds JS, Reside AE, Watson JEM, Rhodes JR, Possingham HP, Trezise J, Fletcher R, File L & Taylor M (2019). Lots of loss with little scrutiny: the attrition of habitat critical for threatened species in Australia. Conservation Science and Practice 1(11):e117.

※10. CSIRO (Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation) (2020). Climate and disaster resilience, CSIRO, Canberra.

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