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参院選2022選挙公約比較(温暖化対策)

この記事のポイント
2022年7月10日の参議院選挙に向けて、各政党が選挙公約/マニフェストの中で気候変動・エネルギー分野についてどのような方針を掲げているのか、WWFジャパンでは比較を行ないました。国内外の情勢を受けて、2021年10月の衆議院選挙から1年も経過しない中、当該分野に関するより多くの言及が見られました。他方、各政党の方針には依然大きなばらつきがあるほか、どの政党の政策案も十分とは言えない論点も残りました。今回の選挙の後には国政選挙がしばらく無い一方、1.5度目標の達成を左右する2030年が迫ります。その重要な年限に向けて有効な政策を政府が不断に打てるのか、有権者の一票に委ねられています。
目次

概要:WWFジャパンの10のチェック項目

2022年7月10日の参議院議員選挙に向けて、各政党が選挙公約/マニフェストの中で気候変動・エネルギー分野についてどのような方針を掲げているのか、WWFジャパンでは比較を行ないました。

2020年10月にカーボンニュートラル宣言が出されて以降、各政党も気候変動・エネルギー政策に言及するようになりました。

更に、2022年2月から続くロシアによるウクライナ侵攻や、昨今の国内の電力需給逼迫などによる議論の高まりの中、この分野に関する各政党の言及それ自体は厚くなったように見受けられます。

他方、各政党から提言されている内容のばらつきは依然として大きいともに、一部の論点ではいずれの政党が提示する政策も十分とは言えませんでした。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によれば、深刻な気候変動の影響を抑える上で必要な「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える」ために、二酸化炭素の排出量を世界全体で2030年までに約45%削減(2010年比)する必要があると示されています。

また、2021年10月から11月にかけて開催された国連気候変動枠組条約の第26回締約国会議(COP26)では、「パリ協定」の下で目指される目標が1.5度に事実上引き上げられました。同時に、その達成には今後10年の取組みが決定的であることが示されています。

そうした極めて重要な節目である2030年が刻一刻と迫る一方で、今回の参議院選挙から2~3年は国政選挙が無い可能性があります。

2030年に向けて日本が十分な排出削減を達成し、国際的な気候変動対策の議論・取り組みをリードできるかどうかは、今回の参議院選挙で決定されると言っても過言ではないでしょう。

なお、この比較は、気候変動・エネルギー分野のみを対象としたものです。また、2022年6月22日の時点で、各党がウェブサイト等で公開している情報を基に作成しました。

チェック方法

今回、WWFジャパンは、気候変動・エネルギー分野で重要な「10の項目」について、各政党が発表している選挙公約/マニフェスト等を確認し、比較しました。

この比較は、総務省「政党・政治資金団体一覧」(2022年6月22日時点で最新のもの)に記載のある政党を対象としています。
また、政党としての方針全般を評価する観点から、選挙公約/マニフェスト以外に政策集等も評価対象としました。

結果

結果は以下のとおりとなりました。

※政党名の略称について:自民=自由民主党、公明=公明党、立憲=立憲民主党、維新=日本維新の会、共産=日本共産党、国民=国民民主党、れ新=れいわ新選組、社民=社会民主党、N党=NHK党

【評価の内容】
○ :気候変動への対応として十分であり、持続可能な社会づくりを目指す方向に合致している。
△ :気候変動への対応として姿勢は評価できるが、依然として一層の改善が求められる。
× :気候変動への対応として不十分である。
××:言及がなく、気候変動対策が欠如している。

チェック項目の詳細

表の10のチェック項目の詳細は次のとおりです。

1. 温室効果ガスの排出量を2030年までに2013年比50%削減する方針を明示しているか?
2021年4月、日本政府は2030年度に温室効果ガスを2013年度比46%削減し、更に50%の高みを目指すとしました。一方で、同年末のCOP26では、各国・各主体の取組みで気温上昇を2度未満に抑えられることも視野に入りましたが、1.5度目標の達成には依然として足りず、更なる排出削減の強化が求められます。WWFジャパンが試算するように50%削減は現実的な目標です。各政党がその水準の目標を掲げているかを確認しました。

2. 再生可能エネルギーを2030年までに電源構成の50%、2050年までに100%とすることを明示しているか?
日本の温室効果ガス排出の9割近くがエネルギー起源の二酸化炭素です。再生可能エネルギーの導入を促進することが目標達成に不可欠であるとともに、WWFジャパンをはじめさまざまな組織の試算では2030年に電力の50%、2050年に100%を賄えるとされています。各政党がその水準で再生可能エネルギーを導入する施策を掲げているかを確認しました。

3. 原子力発電の想定を現状に立脚したものにし、2040年までに段階的に廃止することを明示しているか?
原子力発電所の稼働数は現状5基に満たず、他方で再稼働に対する国民の理解も醸成されているとは言い難い状況です。ロシアによるウクライナ侵攻では原発への攻撃も生じ、そのリスクが改めて浮き彫りになりました。原発に依拠したエネルギー供給を志向し続けることは現実的ではなく、原則として段階的に廃止することが求められます。各政党がそれに向けた政策を立案しているか確認しました。

4. 国内の石炭火力発電を2030年までに全て廃止することを明示しているか?
石炭火力発電は高効率であってもガス火力の2倍近くの二酸化炭素を排出し、多くの国がその廃止を進めています。石炭火力からの脱却について、COP26のグラスゴー気候合意や2022年5月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケでも特に廃止の方向へ向けて言及されました。日本などの強い主張によって”排出削減策の講じていない”石炭火力は、と追記されましたが、いずれにしても国際的に石炭火力の廃止機運は一層高まっていることは間違いありません。2022年4月発表のIPCC報告書では1.5度目標の達成に向けた世界での排出許容量は残りわずかであり、2030年までに石炭関連は座礁資産化する予測が示されています。G7の中で唯一石炭火力を継続する方針を示している日本は孤立を深めており、早期廃止が急務です。各政党が科学に沿って国内の石炭火力発電を2030年までに全て廃止することとしているかを確認しました。

5. 産業部門について、キャップ&トレード型の排出量取引制度や炭素税、又はそれらと同等の排出削減策の導入を明示しているか?
温室効果ガスの排出を2030年までに半減させるためには省エネの確実な進展が不可欠であり、キャップ&トレード型の排出量取引制度や炭素税が極めて有効です。現在、政府でもカーボンプライシングの検討が活発化していますが、対象範囲をはじめ内実の点で注視が必要な状況です。各政党が排出削減へ真に貢献するこれら2制度の導入を明示しているか確認しました。

6. 業務・家庭部門のうち住宅について、新築の断熱基準を2025年までの早期に既存のZEH水準より上にすること、及び既築の断熱改修を推進する具体策を共に明示しているか?
民生部門における省エネも、パリ協定の実現には欠かせないポイントです。特に一度建築されると以後数十年にわたり存続する点で、建築物の省エネ化が重要となります。2022年6月には新築の建築物全てに省エネ基準への適合を義務づける改正建築物省エネ法が成立しました。しかし、特に住宅の断熱基準については、欧米並みに引き上げるべきことが指摘されています。また、既存住宅の断熱改修の加速も求められます。これらの点に各政党がどう対応するのか確認しました。

7. 運輸部門について、2035年までに内燃機関を搭載した乗用車の新規販売から脱却する目標を明示しているか?
運輸部門でも温室効果ガス排出削減は当然必要です。EUではハイブリッド車を含むガソリン車の販売を2035年までに終了することが掲げられました。アメリカでも一部の州で2030年代前半での同様の規制の導入が打ち出されています。日本の削減目標達成はもとより、自動車産業の維持のためにも、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)への転換を促すこうした規制の導入が求められます。各政党がこの点を明示しているかを確認しました。

8. 熱需要について、グリーン水素その他の再生可能エネルギー由来の熱源及び未利用熱で供給することを明示しているか?
2050年の脱炭素化に向けて電化が進展する一方で、熱の需要は依然大きく、エネルギー需要の半分以上を占めます。幅広い範囲の熱需要に対して、再生可能エネルギーから生成された水素の活用や、未利用の排熱の活用などで対応することが脱炭素化には不可欠です。これらに向けた施策を提示しているか確認しました。

9. 気候変動への適応について包括的な具体策を提示しているか?
温暖化対策では、これまで述べてきた緩和の取組みと同時に、温暖化の社会・経済への影響を縮減する適応の取組みが両輪として必要です。農林水産業、自然災害、健康等の幅広い分野や省庁を横断する施策が必要となるとともに、自治体の取組みを一層支援することが求められます。各党がそうした包括的な適応策を立案しているかを確認しました。

10. 気候変動対策に関する基本法を制定し、より包括的な制度の構築を明示しているか?
地球温暖化対策推進法の2021年3月改正ではパリ協定や2050年カーボンニュートラル宣言等が基本理念に反映されるなど、現在まで地球温暖化対策に関連する法令は度々改正されています。しかし、気候変動問題の解決には多岐にわたる施策を統合的かつ長期的視点で進めなくてはなりません。そのためには、そもそも気候変動対策に関する包括的な基本法が必要です。その制定を通じた新しい体制の構築を各政党が掲げているか確認しました。


上記の10の項目についてのチェックは、主に各政党が開示しているマニフェスト等に基づいて実施しました。

有権者が、投票する政党を選択する際の一つの重要な観点として、こうした情報を是非、活用していただければと思います。

【参考情報】各政党の選挙公約からの一部抜粋

各政党の選挙公約における該当箇所は以下のファイルよりご覧ください。

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