参院選2025選挙公約比較(温暖化対策)
2025/07/17
- この記事のポイント
- 2025年7月20日の参議院選挙に向けて、各政党の気候変動・エネルギー分野での公約を、WWFジャパンは比較しました。国内でも企業・自治体などが温暖化対策を力強く進めるなか、政府がそれを後押しできるか、今回の選挙結果が大きく影響します。2050年カーボンニュートラルをほとんどの政党が目指すとした一方で、その実現のための施策には改善の余地があります。国の温暖化対策の強化は有権者の選択にかかっています。
1.今後の温暖化対策を大きく左右する参院選
2025年7月20日の参議院議員選挙に向けて、各政党が選挙公約/マニフェストの中で気候変動・エネルギー分野についてどのような方針を掲げているのか、WWFジャパンでは比較を行ないました。
地球温暖化はますます顕著になっています。世界気象機関(WMO)によれば2024年は観測史上最も暑い一年であり、世界の平均気温は産業革命前と比べて1.55度上昇していました。
地球温暖化に対処するための国際条約である「パリ協定」では、世界の長期的な平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えることが目標とされています。単年で1.5度を超えたからといって、すぐにパリ協定が失敗したことにはなりませんが、年平均で初めて1.5度を超えてしまったことは、いかに現状が切迫しているのかを物語っています。
またこうした気温上昇は生物多様性にも影響を与えています。
例えば、国際自然保護連合(IUCN)が公表している、絶滅の恐れのある野生生物のリストである「レッドリスト」では、気候変動の影響を受けている絶滅危惧種として、世界全体で7,695種、日本で288種が掲載されています(2025年7月時点)。

一つの例として、アフリカゾウは気候変動などにより干ばつが多発し生息域が減少しています。WWFの保全活動などについてはこちらをご覧ください。
しかし、まだ希望は残されています。その一つに、国内外の企業、自治体、大学といった非国家アクターは地球温暖化の抑制に向けた努力を継続していることが挙げられます。
アメリカでは「America Is All In」という連盟に5,000以上の非国家アクターが参加し、それぞれが高い目標を掲げて意欲的に温暖化対策を進めています。これはアメリカの人口の約63%、同GDPの約74%を占めており、その規模の大きさがうかがわれます。
また日本国内でも、「気候変動イニシアティブ(JCI)」というネットワークに836の非国家アクターが集っており、温暖化対策の強化に向けた政府への働きかけなどを行なっています。

気候変動に関する国連の国際会議「COP」でも、JCIは積極的に取り組みや提言を発信しています。
加えて、科学的知見に沿った野心的な温室効果ガスの削減目標の設定を支援および認定する「SBTi (Science-based Target Initiative)」 という枠組みの下、世界で1万を超える企業が削減目標にコミットし、対策を実施しています。
ここに名を連ねる日本企業は1,700社以上。世界で最も多く、事業活動の脱炭素化をこの先リードしていくことで、国際競争力の強化が期待されます。
こうした潮流を各国政府は後押ししていかなければならず、日本政府も例外ではありません。日本政府は2025年2月に温室効果ガスの削減目標を国連に提出しました。しかし、それに甘んじることなく、国際的に求められる水準まで目標を高めつつ、その達成に向けた実効的な対策を打っていくことが求められます。
今回の参議院議員選挙は、政府与党の政権運営に対して国民が評価を下す機会です。上述の非国家アクターが作る流れを加速させられるのか。衆議院では少数与党である今、選挙結果がそれを大きく左右するのです。
2.WWFジャパンのチェック項目と結果の概要
(1)チェック方法
今回、WWFジャパンは、気候変動・エネルギー分野で重要な「10の項目」について、各政党が発表している選挙公約/マニフェスト等を確認し、比較しました。
この比較は、総務省「政党・政治資金団体一覧」に記載のある政党を対象としています。
また、政党としての方針全般を評価する観点から、選挙公約/マニフェスト以外に政策集等も評価対象としました。
なお、いずれも2025年7月4日時点の情報を基にしています。
(2)比較の結果
結果は以下のとおりです。

※政党名の略称について:自民=自由民主党、公明=公明党、立憲=立憲民主党、維新=日本維新の会、国民=国民民主党、共産=日本共産党、れ新=れいわ新選組、社民=社会民主党、みん=みんなでつくる党、参政=参政党、保守=日本保守党
【評価の内容】
○ :気候変動への対応として十分であり、持続可能な社会づくりを目指す方向に合致している。
△ :気候変動への対応として姿勢は評価できるが、依然として一層の改善が求められる。
× :気候変動への対応として不十分である。
××:気候変動への対応として後退している懸念がある。
NA:言及が無い。
(3)全体の傾向
2020年10月の菅政権によるカーボンニュートラル宣言以降、各党による気候変動への言及が充実するようになりました。この傾向は国際情勢が流動的ななかでも変わらず、ほとんどの政党が中長期的にカーボンニュートラルを目指していくことを提示しています。
加えて温室効果ガスの削減について、与野党から2030年や2035年といった中間的な目標が示されたことは前向きな動きです。
各党には今後も、可能な限り高い目標を掲げていくことが求められます。その際には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)をはじめとした、国際的にも信頼のおける科学的知見に基づくことが重要です。
その一方で、目標達成に向けた対策は一層の改善が求められます。
パリ協定の掲げる1.5度目標の実現に向けて、国際社会は2030年までに、世界全体で再生可能エネルギーの設備容量を3倍にすることや、化石燃料からの転換に向けた取り組みを加速することなどに合意しました。
当然、先進国である日本も国内でこれを実現していくことが必要です。
例えば、建物や農地に豊富に残されている太陽光発電の導入ポテンシャルをどう実現していくのか。地域の自然環境や社会と共生できるように再生可能エネルギーの導入エリアの設定をいかに後押しするのか。
再エネ・省エネについて十分に具体的な提案ができている政党もありましたが、単に「推進」と述べるに留まったり、年限が無かったりするケースも見られました。
加えてカーボンプライシングについては、野党が十分に改善案を示せていませんでした。
2026年度から始まる「排出量取引制度(GX-ETS)」の温室効果ガス削減の効果を高めるために政府の方向性をどう改善していくのか、与野党での活発な議論が今後期待されます。

炭素の排出に金銭を課すカーボンプライシングでは、排出削減が経済的に「お得」になります。生じた政府収入を活用することで負担の軽減も可能です。
また一部の野党から、地球温暖化対策をより包括的・根本的な形で改善するための提言が示されていることも忘れてはなりません。
現状よりも分野を統合した形で温暖化対策ができるようにする基本法や、国の削減目標や計画の策定プロセスを多様なアクターに開かれた形で改善する法律などが提言されています。
どの政党が今回の選挙で勝利を収めようとも、こうした提案を土台として、迅速かつ着実に温暖化対策が前進していくことが重要です。
3.チェック項目の詳細
表の10のチェック項目の詳細は次のとおりです。
(1)温室効果ガス排出量を2030年までに半減(2013年比)以上、2035年までに66%(同)減以上とする削減目標を明示しているか?
上述のとおり、パリ協定の掲げる1.5度目標を達成するためには、世界全体で2030年43%(2019年比)減、2035年60%(同)減が必要です。排出削減の責任と能力を有する先進国として日本はそれを上回って排出削減を進めるべきであり、WWFジャパンの試算では十分に可能だと示されています。各政党がこれらに沿った形で削減目標を提案しているかを確認しました。
(2)再生可能エネルギーを2030年までに電源構成の50%、2050年までに100%とすることを明示しているか?
化石燃料への依存を止めて、発電時に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの割合を増やしていくことが日本の地球温暖化対策では必須であるとともに、国際的にも求められています。WWFジャパンの分析では、再生可能エネルギーが電力に占める割合を、2030年までに約53%、2050年には100%にできます。各政党がその水準での再生可能エネルギー導入を目指しているかを確認しました。
(3)原子力発電の想定を現状に立脚したものにし、2040年までに段階的に廃止することを明示しているか?
岸田前政権の下では、国民的な議論なく拙速に原子力の積極活用に舵が切られました。しかし、再稼働は依然として進んでいません。なにより、再生可能エネルギーの発電コストが大きく下がるなか、安全対策コストなどがかさみ、依然放射性廃棄物の最終処分の見通しがつかない原子力に依存し続けることが現実的と言えるでしょうか。各政党が原発の段階的廃止への方向性を示しているか確認しました。
(4)国内の石炭火力発電を2030年までに全て廃止することを明示しているか?
石炭火力発電はたとえ高効率のものであっても、ガス火力の約2倍のCO2を排出します。そのため、年々廃止に向けた国際的なプレッシャーは高まっています。2024年6月のG7プーリア首脳サミットにおける首脳宣言では、不十分ながらも石炭火力発電を廃止する年限として、2030年代前半という具体的な時期が明記されました。1.5度目標に整合的なIEAネットゼロシナリオでは、OECD諸国等の先進国経済で石炭火力発電を2030年までに廃止することが必要とされています。各政党が科学的知見や国際的な動向に沿って、2030年までの石炭火力発電の廃止を明言しているか確認しました。
(5)産業部門について、キャップ&トレード型の排出量取引制度と化石燃料賦課金を早期に導入することを明示しているか?
温室効果ガス排出量を2030年までに半減させる上で、省エネ・再エネの既存技術の普及が必要です。十分な炭素価格を実現できるカーボンプライシングを早期に導入することで、その加速が可能になります。一方で政府は、法改正によって排出量取引制度(GX-ETS)を2026年度から「本格稼働」させる準備を整えました。大詰めの制度詳細の議論が始まるなか、排出削減効果や炭素価格の上限などの点で改善も要します。各政党がこうした改善案を示せているか確認しました。
(6)国内に残る再エネポテンシャルを顕在化する上で特に重要な政策として、屋根置き太陽光パネルの標準化、ソーラーシェアリングの促進、自然と共生した再エネ導入促進策が明示されているか?
再生可能エネルギーを大幅に増やしていく必要があるなか、日本の国内には依然として導入ポテンシャルが豊富に残されています。特に太陽光発電の場合、ポテンシャルの大部分は建築物の屋根や農地に限定されており、新築住宅への太陽光パネル設置の標準化や、太陽光パネルの下で農作物栽培を行なうソーラーシェアリングといった取り組みが不可欠です。他方、闇雲に発電設備が設置されてはならず、地域の自然環境と共生できるように、例えば地方自治体によるゾーニングの実施にインセンティブを与えるといった工夫も重要です。再生可能エネルギー普及に、特に重要なこれら政策の具体案を各政党が示しているか確認しました。
(7)民生部門のうち住宅について、新築の断熱基準を2030年に十分先立つ形で既存のZEH水準より引き上げること、及び既築も含めて建築物の省エネに関する数値目標を提示しているか?
民生部門における省エネも、パリ協定の実現には欠かせないポイントです。特に一度建築されると以後数十年にわたり存続する点で、建築物の省エネ化が重要となります。2022年6月には新築の建築物全てに省エネ基準への適合を義務づける改正建築物省エネ法が成立しました。しかし、特に住宅の断熱基準については、欧米並みに引き上げるべきです。また、既存住宅の断熱改修の加速も求められます。これらの点に各政党がどう対応するのか確認しました。
(8)運輸部門について、2035年までに内燃機関を搭載した乗用車からの脱却に向けて、EVその他のゼロエミッション車(ZEV)新規販売に関する定量的目標を明示しているか?
運輸部門における温室効果ガス排出の削減も必須です。EUでは2035年までに新車のCO2排出量の100%削減が要件となるなど、ガソリン車・ディーゼルエンジン車の販売を事実上禁止することが目指されています。アメリカでもカリフォルニア州では2035年までに州内で販売される新車を全てZEVにすることとされています。日本の削減目標達成はもとより、自動車産業の維持のためにも、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)への転換を促す規制の導入が求められます。各政党がこの点を明示しているかを確認しました。
(9)熱需要について、短中期的にはヒートポンプの導入など未利用熱の活用や電化の推進を行いつつ、将来的にはグリーン水素も活用することを明示しているか?
化石燃料は発電のみならず、熱需要を満たすためにも使用されます。温室効果ガスの排出削減のためには、熱需要も再生可能エネルギーで満たす必要があります。直近で活用できる技術であるヒートポンプは迅速に導入されていくべきです。また、未利用の廃熱等の活用、電炉製鉄をはじめとした製造プロセスの電化も並行して促進しつつ、将来的には再生可能エネルギーで生成する水素の活用を目指すことも重要です。これらに向けて目標設定や施策を提示しているか確認しました。
(10)気候変動への適応について、適応法に沿った施策の推進とともに、生態系と適応策を関連づけた施策の実施を明示しているか?
地球温暖化対策では、上述の緩和の取り組みと同時に、地球温暖化の社会・経済への影響を縮減する適応の取り組みが併せて必要です。多岐にわたる分野での取り組みを進めるために、気候変動適応法に沿った包括的な適応策が求められます。加えて、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復傾向に向かわせる「ネイチャーポジティブ」の達成も必須であるなか、気候変動の影響を受ける生態系の保全は不可欠です。生態系の力を借りた適応策の実施は、地球温暖化対策と生物多様性の保全の両方に効果をもたらすことが期待されます。各政党が、こうした適応策の実施を約束しているか確認しました。
上記の10の項目についてのチェックは、主に各政党が開示しているマニフェスト等に基づいて実施しました。
有権者が、投票する政党を選択する際の一つの重要な観点として、こうした情報を是非、活用していただければと思います。
(参考情報)各政党の選挙公約からの一部抜粋
各政党の選挙公約における該当箇所は以下のファイルよりご覧ください。
2025年参院選マニフェスト比較 各項目の該当箇所一覧