シラスウナギの不透明な流通とその改善に向けて

この記事のポイント
日本で消費されるウナギの99%以上は養殖によって生産されますが、そこで育てられる種苗(稚魚)は国内外で採捕された天然の稚魚(シラスウナギ)が用いられています。しかしながらシラスウナギの採捕と流通は不透明な部分が多く、密漁や密売が横行していると言われています。ウナギのさらなる減少が危惧され、資源や流通管理の強化が求められていますが、2020年に改正された漁業法と新たに成立した水産流通適正化法が、状況改善の糸口として期待されています。

ニホンウナギの生態とシラスウナギ漁

ニホンウナギは日本をはじめ、中国、韓国、台湾などの東アジアに分布する回遊魚です。
西マリアナ海嶺付近で産卵・孵化した後、海流にのって移動し、東アジアの沿岸域にシラスウナギとなって到着します。

このシラスウナギを網ですくって採るシラスウナギ漁は、各地で冬の風物詩としても知られています。

採捕されたシラスウナギは、いくつかの業者を経由して養殖場に投入され、その後半年から1年半ほどかけて養殖されますが、国内の採捕量は年々減少しており、不足分は中国などからの輸入に頼っています(図1)。

また、稚魚以外にも養殖場で大きく育ったウナギや、かば焼きなどの加工品も多く輸入されています。

図1.ニホンウナギ稚魚の採捕量。ニホンウナギの稚魚の国内採捕量は一貫して減少し続けており、2000年代以降も依然として減少している。

図1.ニホンウナギ稚魚の採捕量。ニホンウナギの稚魚の国内採捕量は一貫して減少し続けており、2000年代以降も依然として減少している。

輸入されるウナギの問題

養殖用のシラスウナギは、その多く(2018年は輸入量の99%)が香港から輸入されますが、香港ではシラスウナギ漁が行われておらず、中国本土で採捕されたもの、または台湾で採捕されたものが香港を経由して輸入されていると考えられています。

現時点で香港から輸出されたシラスウナギが、採捕国で適法に採捕されたのかどうかを識別する方法はありません。

いっぽう鮮魚のウナギについては、中国からの輸入が全体の7~8割を占めるものの、元はエジプトやオーストラリア、アメリカなどさまざまな国から輸入されており、これらはそれぞれ、ヨーロッパウナギ、オーストラリアウナギ、アメリカウナギであると推測されています(図2)。

ヨーロッパウナギはウナギ属の中でも最も絶滅の危険性が高いとされ、ワシントン条約の附属書IIに掲載されていることから、国際取引は規制の対象となっており、その取引が種にとって有害でないことを輸出国が証明し、許可する輸出許可証又は再輸出証明書が必要となっています。さらに、ヨーロッパウナギの主要生息国であるEUからの輸出は全面禁止されています。日本には、中国で養殖された大量のヨーロッパウナギが再輸出証明書付きで輸入されていますが、それらのウナギが適法に生息国から輸出されたものかどうかを確認することは困難であり、複雑な問題となっています。

図2.ウナギの国内生産量と輸入量。日本で消費されるウナギの半数以上は輸入物であり、国産の養殖ウナギであっても、そのシラスウナギは香港経由で輸入されたものが多数を占める。

図2.ウナギの国内生産量と輸入量。日本で消費されるウナギの半数以上は輸入物であり、国産の養殖ウナギであっても、そのシラスウナギは香港経由で輸入されたものが多数を占める。

国内で採捕されるシラスウナギの問題

シラスウナギの採捕は12月から翌年4月にかけて、主に関東から九州の太平洋沿岸で行なわれます。

シラスウナギを採捕するためには、各都府県から特別採捕許可を得る必要があり、採捕した数量は都府県に報告する義務があります。

しかし、養殖場に販売されたシラスウナギの量と、特別採捕報告の量とでは毎年大きな差異があり、採捕量の過少申告が起こっています。

国産のシラスウナギを使った養殖であっても、全国平均でみると、4割から6割が無報告または密漁によって採捕されたシラスウナギから養殖されたものと推定されます(図3)。

図3.ニホンウナギ稚魚の国内採捕量の比較。輸入された数量を差し引いた国内のシラスウナギの採捕量(青棒)と特別採捕の報告量(赤棒)との間には毎年大きな差異がある。

図3.ニホンウナギ稚魚の国内採捕量の比較。輸入された数量を差し引いた国内のシラスウナギの採捕量(青棒)と特別採捕の報告量(赤棒)との間には毎年大きな差異がある。

一方、公的なルールに従った正規の取引ルートにおいても、問題点が指摘されています。


正規ルートでは他県への販売が制限されている場合があり、より価格の高い非正規ルートへの販売、すなわち密売が起こりやすいというのです。

改正漁業法と水産流通適正化法はどう影響するか

2020年に施行された改正漁業法により罰則規定が強化され、密漁には最大3000万円の罰金が課せられる事になりました。

また、シラスウナギの採捕は、2023年から特別採捕許可制から知事許可漁業へと移行することが決まり、それに伴い各県で、これまでの県独自の取引ルールを見直す動きが出ています。

静岡県では1年前倒しで導入する予定で検討が進められており、顕在化するシラスウナギの違法取引にどのような楔が打てるのかが注目されています。

いっぽう国内外のシラスウナギの違法取引の根絶に効力を発揮すると期待されているのが「水産流通適正化法*1」です。

この法律では、国内で漁獲された水産物について適正に漁獲・流通されていることを示す情報の記録・保存を関係者に義務付けます。

また、輸入取引においても、水産物の原産地(海域)や船籍を含む漁獲情報を含む外国の政府機関の証明書の添付を義務付けるものです。

シラスウナギだけではなく、サンマやイカなど身近な水産物の流通にも、この法律の適用が見込まれています。

仮にシラスウナギで適用されれば、香港経由で輸入される出所不明のシラスウナギについて、輸出国の証明書の添付が必須となり、国内で密漁・密売されるシラスウナギについても、適正に漁獲・流通されたされたことを示す記録の添付が必須となるため、違法な取引の歯止めになると考えられています。
*1:特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律

WWFジャパンは、この法律の制定以前から水産庁の主催する検討会に出席し、先行して適用対象とする魚種の選定基準の明確化と将来的に全魚種対象を目標とした対象魚種拡大に向けたロードマップの提示、漁獲段階から最終消費までのフルチェーントレーサビリティの導入を求めてきました。また先行する欧州や米国の違法水産物の流通を排除する同様の制度に関して情報収集や関係者との意見交換を進め、より実効的で意味のある運用となるよう水産庁をはじめとした関係機関に働きかけを続けています。

マーケットの役割と責任とは

残念ながら、国内に流通する水産物の多くで、合法的に漁獲されたかどうかを証明する仕組みは整っていません。日本が輸入する水産物のおよそ3割はIUU漁業、すなわち「違法・無報告・無規制」の漁業に由来すると推定されています。

ウナギは中でも最もIUU漁業リスクの高い種で、国産であっても高い確率で違法に漁獲または販売されたものが含まれています。本来であれば、合法性が担保されない限り、ウナギの取り扱いを継続するべきではありません。

こうしたIUU漁業は世界中で行なわれており、ルールに従って操業する漁業者の利益を損なうだけではなく、過剰漁獲や無秩序な漁業行為により水産資源や海洋生態系に大きな影響を与えます。そればかりか、労働者の人権侵害や搾取、虐待、傷害致死など事例も報告されています。


そして、そもそも IUU漁業由来の水産物を排除することは、水産物を取り扱う企業にとって、これらの問題行為に間接的であれ加担しないための最低限の責任として強く求められるものです。

水産物を取り扱う企業においては、自らのサプライチェーンにおいて、IUU漁業由来の水産物を確実に排除していくこと、そして、そのための枠組みを強化することを国等に求めていくことが必要です。
また、水産物を調達販売する企業の声は、漁業の現場にも大きな影響を与えます。

持続可能な水産物の調達だけではなく、持続可能な漁業の普及に向けたサポートや現場への働きかけが求められます。

その上で、IUU漁業の排除も含めた持続可能な水産物に関して、消費者への理解を促すことも重要な役割のひとつです。

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