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企業向けセミナー「バイオマス燃料の持続可能性」開催報告

この記事のポイント
温室効果ガスの排出削減に寄与する燃料として、注目が高まっているバイオマス。しかし、バイオマス燃料への需要の高まりは、木質やパーム油といったその原料の生産地で、森林破壊などの環境問題や、地域社会への悪影響を引き起こす恐れがあります。近年、日本では特にパーム油を燃料としたバイオマス発電計画が急増していますが、国内にはいまだに、環境や社会に配慮した持続可能性の基準もなく、一方的に開発が進んでしまう大きな課題があります。そこで、WWFジャパンは「バイオマス燃料の持続可能性に関するポジション・ペーパー」を発表。2019 年6 月5 日には、これをバイオマス発電事業者や、燃料供給者に解説する企業向けセミナーを開催しました。

バイオマス発電とその燃料が抱える課題

カーボンニュートラルとされ、国際ルール上も日本の温室効果ガス排出削減に寄与しうるエネルギー源として期待されているバイオマス燃料。

しかし、バイオマス発電は風力や太陽光と異なり、燃料が必要です。
そして、その燃料への需要が高まると、木質やパーム油といったバイオマスの原料生産地で、森林などの自然環境や社会環境、生態系などに悪影響を生じるおそれが高くなります。

それにもかかわらず、現在の日本では、そうした環境や社会への配慮を約束する、バイオマス燃料の「持続可能性の基準」が存在しないまま、バイオマス発電を推奨する制度のみが進んでいるのが実態です。

実際、日本のバイオマス発電事業計画は過去数年で急激に増加しました。

この背景には、2012年に開始した固定価格買取制度(FIT制度)があります。そして、2018年のFIT制度による買取費用総額は3.1兆円に上り、これは賦課金として電気料金に上乗せして徴収され、国民負担で賄われています。また、FIT制度外で大規模バイオマス発電を計画する発電事業者も出てきています。

経済産業省によると、2017年の時点で認定されたパーム油を燃料として使ったバイオマス発電事業は、全体の約4割に及びました。これらの発電所がすべて稼働を始めると、年間約900万トンのパーム油を輸入することになります。

これは、食用および日用品として現在日本が輸入しているパーム油の総量約70万トンのおよそ13倍に相当する膨大な量です。

また、そもそもパーム油によるバイオマス発電は、その原料が生産されてから精製・加工・流通も含めたライフサイクルでの温室効果ガス排出量が、化石燃料よりも高くなるという試算もあり、特に欧米では再生可能エネルギーとして利用する原料には適さないと考えられています。

木質系の燃料についても、近年燃料としての利用量が増加していることから、持続可能性について十分配慮する必要があります。

例えば木質ペレットの輸入量は、FITが導入された2012年の時点では7.2万トンでしたが、2015年には23.2万トン、2017年には56万トンに増加してきています(財務省貿易通関統計)。

こうした木質系燃料についても、パーム油同様、生産から製造、輸送を含むライフサイクルでの温室効果ガス排出量を計算し、化石燃料と比べて十分に有意な燃料であることの証明が必要となります。

また、木材から得られる産物はきわめて多様であることから、建築部材や家具材、構造用材、紙パルプやボード類の製造に使われる低質材など、段階的な利用を経て、最終的に残ったものを燃料として利用するカスケード利用の原則が徹底されるべきです。

WWFの提言

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WWFではこれまで、バイオマス燃料以外の用途で調達される、木材や紙などの林産物、またパーム油などの農作物が、持続可能な方法で生産・利用されることで、生産地域の森林環境が守られるよう、日本でも企業や自治体などに働きかけてきました。

これは、こうした資源の生産が、主に熱帯地域で、自然の森を減少させたり、温室効果ガスを大量に排出させたりする要因になってきたためです。

そして、WWFジャパンでは今回、特にアブラヤシと木質に由来するバイオマス燃料の持続可能なあり方についても提起すべく「バイオマス燃料の持続可能性に関するポジション・ペーパー」を策定。

これをバイオマス発電事業者や、燃料供給者に解説するため、2019年6月5日、東京で企業向けセミナー「バイオマス燃料の持続可能性」を開催しました。

セミナーでは、スマトラ島やボルネオ島で森林保全に取り組むWWFスタッフをはじめ、専門家からも解説を行い、生産現場における課題、また燃料の持続可能性の基準について意見交換を実施しました。

セミナーでの各講演については、下記をご覧ください。

企業向けセミナー「バイオマス燃料の持続可能性」開催概要

日時 2019 年6 月5 日(水)14:00~17:30
場所   ビジョンセンター東京八重洲南口 ビジョンホール
(〒104-0028 東京都中央区八重洲2丁目7−12 ヒューリック京橋ビル7F)
参加者  約70名
主催 WWFジャパン
プログラム 1.脱炭素社会に向けた長期シナリオ
WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ 池原庸介
2.バイオマス燃料の持続可能性について
自然エネルギー財団 相川高信氏
3.WWF森林グループの取り組み
WWFジャパン 森林グループ 橋本務太
4.ポジション・ペーパーの解説 
WWFジャパン 森林グループ 相馬真紀子
5.燃料としてのパーム油
WWFジャパン 森林グループ 南明紀子
6.コメント:燃料の持続可能性について
バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊みゆき氏

各発表の内容

脱炭素社会に向けた長期シナリオ

WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ 池原庸介
©WWF Japan

WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ 池原庸介

セミナーでは、まずWWFジャパン気候変動・エネルギーグループの池原庸介より、パリ協定の発効後、脱炭素化社会に向けて、産業界の取り組みが加速していることを解説しました。WWFが2017年に発表した「脱炭素社会に向けた長期シナリオ」からは、2050年までに日本のエネルギー需要を全て自然エネルギー(再生可能エネルギー)で賄うことは、技術的、コスト的に可能であることがわかっています。しかし、バイオマス燃料による発電量に着目すると、国内の実績値は、既にシナリオが2020年時点で想定する発電量を上回っており、自然エネルギー100%社会の実現に必要なペースを上回るバイオマス燃料が国内で供給されていることを説明しました。

木質バイオマスの一種、ユーカリのチップ
© Michèle Dépraz / WWF

木質バイオマスの一種、ユーカリのチップ

バイオマス燃料の持続可能性について

自然エネルギー財団の相川高信氏
©WWF Japan

自然エネルギー財団の相川高信氏

続いて自然エネルギー財団の相川高信氏より、再生可能エネルギーの利用においても、棄損される生物多様性の存在や、排出される温室効果ガス(以下:GHG)を無視することはできないとの解説がありました。バイオマス燃料に関しても、余っているものを使用するのだからといって、問題がないわけではなく、燃料の生産過程を遡り、その持続可能性を担保する必要があります。しかし、その証明のために利用する国内制度や認証制度は、それぞれカバーしうる範囲が違うため、どの制度を使うべきか、慎重な議論が必要であることにも言及がありました。

燃料となる木材チップを作る植林地や、パーム油の原料となるアブラヤシ農園をつくる上で、天然林を整地するために火が使われることもあり、乾季には毎年火災が起きる
© Tantyo Bangun WWF

燃料となる木材チップを作る植林地や、パーム油の原料となるアブラヤシ農園をつくる上で、天然林を整地するために火が使われることもあり、乾季には毎年火災が起きる

WWFジャパン 森林グループの取り組み

WWFジャパン森林グループの橋本務太
©WWF Japan

WWFジャパン森林グループの橋本務太

その後、WWFジャパン森林グループの橋本務太から、世界で多くの森林が急速に失われ、特に熱帯地域における影響が深刻であることを説明しました。森林減少の多くは、資源の採集や、農地の拡大に起因します。資源の利用は、日本を含む世界の消費とつながっているため、解決には企業セクターによる「責任ある」原料調達が不可欠です。木材や紙をはじめ、パーム油や天然ゴムなど、木質以外の原料についても、調達時のこうした考え方が普及してきていることを共有しました。

かつて熱帯雨林が広がっていた場所、森が伐られた後はユーカリなどの植林地や、アブラヤシ農園などになる。(ボルネオ島)
© Jürgen Freund / WWF

かつて熱帯雨林が広がっていた場所、森が伐られた後はユーカリなどの植林地や、アブラヤシ農園などになる。(ボルネオ島)

「持続可能なバイオマス燃料」とは?

WWFジャパン森林グループ 相馬真紀子
©WWF Japan

WWFジャパン森林グループ 相馬真紀子

続いて、WWFジャパン森林グループの相馬真紀子が、「バイオマス燃料の持続可能性に関するポジション・ペーパー(2019年5月版)」(以下:ポジション)について解説しました。ポジションでは、バイオマス燃料のトレーサビリティを確立することや合法性を確認することに加え、燃料の調達が生物多様性に配慮していること、温室効果ガスの排出についてライフサイクルで把握し削減率を設定すること、労働安全衛生や地域の社会環境にも配慮すること等について基準を定めています。副産物と呼ばれる原料についても同様の確認を行う必要があることも説明しました。また、ある原料を「燃料」として利用する際には、既存用途に配慮する必要があることも強調されました。

植林地から木材を運ぶトラック。土地の利用変化や木材の生産過程、また輸送や加工の過程でも温室効果ガスは排出されている。
©WWF-Canon / Matthew Lee

植林地から木材を運ぶトラック。土地の利用変化や木材の生産過程、また輸送や加工の過程でも温室効果ガスは排出されている。

燃料としてのパーム油

WWFジャパン森林グループ 南明紀子
©WWF Japan

WWFジャパン森林グループ 南明紀子

また、WWFジャパン森林グループの南明紀子より、燃料とされるパーム油の生産過程における問題点を解説しました。パーム油の主要な生産国はインドネシアと、マレーシアですが、インドネシアにおける、プランテーション開発に伴うGHG排出量は今も甚大です。パーム油のような原料をバイオマス燃料に使う場合、実際にその生産過程から排出されたGHGを計測すると、そもそものバイオマス利用の目的とされるべきGHG排出削減に寄与しないケースは多々あります。燃料の生産国によっては、法整備や遵守徹底が充分でない場合や、合法性の証明システム自体に課題がある場合もあり、調達する際は「合法性」だけでなく、環境や地域社会にも配慮した「持続可能性」が欠かせないことを解説しました。そうしたリスクを考慮せずにパーム油を利用する発電事業者が、日本でも市民やNGOによる反対運動や署名運動の対象となっている事例についても言及しました。

枯死した植物が水中で炭化するため、蓄積した泥炭地で火災が起こると、さらに大量の温室効果ガスの排出につながる。
©WWF Indonesia

枯死した植物が水中で炭化するため、蓄積した泥炭地で火災が起こると、さらに大量の温室効果ガスの排出につながる。

燃料の持続可能性について

NPO 法人バイオマス産業社会ネットワークの泊みゆき氏
©WWF Japan

NPO 法人バイオマス産業社会ネットワークの泊みゆき氏

最後に、NPO 法人バイオマス産業社会ネットワーク 泊みゆき氏より、コメントをいただきました。バイオマス燃料を使用するときは、原料の生産過程からのライフサイクルでみることが大前提です。バイオマス燃料の利用は、必要最低限にとどめ、利用するときは、優れた原料、つまりGHG削減率の高い原料を優先的に選択するべきことを強調しました。どうしても新規事業を始める場合は、まずGHGをライフサイクルからみて具体的に確認する必要があるため、まずは原料のトレーサビリティを遡ることから始めるべきと解説しました。

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