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「世界カワウソの日」にコツメカワウソの保全を考える

この記事のポイント
コツメカワウソ、その愛くるしい姿から日本でも人気が高く、「ペット」として飼育している人もいます。しかし近年、このペットとしての需要の高まりが、生息国での密猟や密輸を呼ぶ原因として指摘されています。特に日本のカワウソ人気は、こうした違法行為を助長するものとして、国際的な批判も強まっています。もともと野生動物であり、その習性や行動にはペットとして不向きな面も多いカワウソ類。可愛いから、という理由だけで野生生物を利用する日本の姿勢が今、問い直されています。

「人気者」コツメカワウソの実状

日本で全国的に今、注目を集めている野生動物がいます。
コツメカワウソです。

近年は、水族館のような施設だけでなく、カワウソカフェのような商業施設でも人気者となっているほか、「ペット」として一般家庭でも飼育される例も増加。SNSでもその姿が盛んに投稿されています。

カワウソカフェでエサをもらうカワウソ
©TRAFFIC

カワウソカフェでエサをもらうカワウソ

しかしコツメカワウソは、もともとの生息地である東南アジアの森や水辺の開発や密猟などにより、絶滅のおそれが指摘されている動物。

過去30年間で世界的にみて野生のコツメカワウソの個体数が30%減少したと推定され、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでも「危急種(VU)」として、保全が求められているほか、生息国でもその取引が規制されているなど、保護の対象となっています。

カワウソはペットに向いている? 飼育をめぐる問題

コツメカワウソをペットにすることの問題は、単に絶滅の危機にあるということだけにとどまりません。

コツメカワウソはそもそも、野生ではカニの甲羅を砕いて食べるような強力なあごと歯を持つ野生動物。噛まれれば重症を負う危険もあります。

また、自分の「縄張り」を主張するためにも使われるカワウソの糞は、強烈な臭いを発するため、カフェや一般家庭で適切に飼育するのは非常に困難。

何より、熱帯の水中と陸地の両方を利用して生きてきたコツメカワウソの複雑な生息環境を、日本の家庭のような場所で再現するのが難しいのは明らかです。

こうした点は、IUCNのカワウソ専門家グループ(OSG)の研究者も指摘している問題です。
実際、飼育についての専門知識をもった獣医も限られており、結果的に、運動や栄養不足になったり、腎臓結石などの疾病のため、野生のカワウソと比較して早死にしてしまうペットの個体が一定数いると、OSGの専門家は言っています。

カワウソカフェで展示されるカワウソ
©TRAFFIC

カワウソカフェで展示されるカワウソ

さらに、世話の大変さから飼いきれなくなり、手放すことを希望する飼い主も出始めています。引き取り手を探しても見つからない場合、野外に放してしまうようなケースが生じるかもしれません。もしも放されたカワウソが日本の自然界に定着するようなことがあれば、本来その場所に生息していた魚やカエルなど在来の生物を捕食したり、新たな感染症のような病気を広めてしまう可能性も出てきます。
それは、身勝手な人間の都合で、日本の国内にまた1種「外来生物」が増えてしまう、ということを物語っています。

密輸の犠牲になる人気者

飼育する上でもさまざまな課題を抱えたコツメカワウソは、なぜ日本で広く飼育され、人気者となったのでしょうか。

その大きな原因の一つに、「流通のしやすさ」が挙げられます。
日本のカフェや家庭で飼育されているカワウソは、インドネシアやマレーシアといった生息国から輸入された個体か、国内で人工的に繁殖された個体です。
しかし、その取引(売買)が厳しく管理されておらず、それを規制する法律なども十分でないため、出所の不明な例を含めたたくさんのコツメカワウソが、国内に流通していると考えられるのです。

WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICが行なった、インターネット上に掲載されたカワウソの販売広告の調査では、85頭のうち46%は国内での繁殖個体、20%は海外からの輸入個体と記載があり、残りの34%は出所の記載がなかったことが分かりました。

このように3割以上の出所が不明であることに加え、ペット販売業者などに対する聞き取りでは、「本当に国内で繁殖された個体か分からない」「海外での仕入れ先が信頼できるのか不明」といった発言が目立ちました。

こうした現状は、日本でのコツメカワウソのペット需要を満たすために、生息国での密猟や、違法な取引が行なわれている可能性を示すものです。

実際、近年は生息国からカワウソを違法に日本に持ち込もうとする密輸事件が多発。TRAFFIC東南アジアオフィスの調査でも、2015年から2017年にかけて東南アジアで摘発・押収されたカワウソ59頭のうち、32頭が日本向けであり、最大の密輸先になっていることが明らかになっています。

背景にあるのは、日本のペットショップなどでのコツメカワウソの販売価格の高騰。
もともと国内での流通が少なく、高額で買い求める消費者がいるため、違法行為を犯してでも、コツメカワウソを密輸する例が後を絶たないのです。

さらに、コツメカワウソをインドネシアから合法に輸入し、日本でペットとして販売するビジネスも近年、注目されていますが、野生のカワウソが利用されているのではないかと疑問視する調査報道もされています。

「世界カワウソの日」にコツメカワウソの未来を考える

これらの事態を受け、日本におけるペット・ビジネスが、コツメカワウソの危機を増長し、保全の取り組みを阻害している、という批判が今、国際的にも強まっています。

野生の個体を無理に捕獲する密猟はもちろん、スーツケースなどに積み込んで行なわれる密輸の過程で、命を落とす個体は少なくありません。
こうした現状によって支えられている、ペットショップなどでの販売を抑えるために、日本へのコツメカワウソの輸出を禁止すべきだ、という提案も出されています。

多年にわたり、ペットとしてのコツメカワウソの需要と、その取引状況を調査してきたWWFジャパンでは、日本として問題の現状を把握し、法的な規制の強化などを通じた、違法性が疑われる取引の厳しい管理を実施することが必要と考えています。

また、ペットを愛好する一般の人々に対しても、野生動物をペットにすることの問題と、その飼育にあたって生じる責任の大きさを正しく認識し、密猟や密輸といった違法な行為を助長することの無いように求めています。

世界のカワウソ類を取りまく危機的な現状。
これを多くの人に伝えるため、IOSF(国際カワウソ保護基金)は、5月29日を「世界カワウソの日」に指定し、その保護を訴えてきました。

今日、この日に、一人でも多くの方に、コツメカワウソとペットをめぐる問題について、考えていただければと思います。

©TRAFFIC

水族館で販売されるカワウソグッズ

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