© Tsubasa Iwabuchi / WWF-Japan

インドネシアの洪水被害――「森の防災機能」を取り戻すために

この記事のポイント
インドネシアをはじめ、東南アジアでは、豪雨に伴う洪水被害が広がっています。その原因には、森林破壊が関連しているとの報道が多くなされています。そして東南アジアの森林破壊には、日本の消費やビジネスが関わっている可能性が高いのです。東南アジアの森林破壊を止めるため、日本が実行できることはたくさんあります。
目次

インドネシア・スマトラ島を襲った豪雨

2025年11月、インドネシア・スマトラ島で、豪雨に伴う洪水と土砂災害が発生。各地で地域社会と生物多様性に深刻な影響を与えています。多くの人命が失われ、経済も大きな打撃を受けただけでなく、WWFも設立に参加した世界最古のオランウータン研究施設も大きな被害を受けたと報道されています(※1)。また、被害がこれほど大きくなった背景には、今も続く森林破壊があるのではないかという指摘が多くあがっています。

冠水した農園で作業するインドネシアの女性
© Ola Jennersten / WWF-Sweden

冠水した農園で作業するインドネシアの女性

森林が洪水を抑える仕組み

健全な森林は、雨水を土壌に浸透させ、ゆっくりと河川へ送り出す「緩衝・貯留」の役割を持っています。樹冠は降雨のエネルギーを弱め、落ち葉や落枝、根は土壌の中に空隙をつくり出して浸透を促進。これによりピーク流量が低下し、氾濫や土砂崩れのリスクが緩和されます。森林の伐採や劣化によってこれらの機能が損なわれれば、土砂災害や洪水の発生頻度の増加や被害の激甚化を招くと考えられています。これらの他にも森林には炭素貯留や水源涵養機能などの働きがあり、総じて森林の多面的機能と呼ばれており、森林を保全する必要性がますます注目されています。

日本の消費とビジネスの「間接的な関与」

日本に暮らす人々の生活やビジネスは、インドネシアの森林破壊と無関係ではありません。なぜなら、パーム油、天然ゴム、紙・パルプ、木材製品、 鉱物資源など、インドネシアに由来する原料・製品に依存しているからです。これら調達が森林破壊や泥炭地開発、違法伐採、鉱山開発に伴う水系劣化と結びつく場合、結果としてインドネシアの洪水リスクを増幅する構造に間接的に関与 することになります。日本として、他国の森林破壊に加担することのない責任ある行動が必要です。

いま必要なアクション

企業

企業としてDCF※1やNDPE※2の遵守など方針を立て、それに沿った調達活動を実践していくことが求められます。また、どの農園・生産現場、企業から原材料を調達しているのか、トレーサビリティを確保しなければ、どこにどれほどの森林破壊のリスクがあるのか把握できません。さらに、事業による環境へのインパクトやリスク、それに対応する取り組みについて情報開示(TNFD、TCFDなど)を進めていくことが重要です。

消費者

紙パルプ・天然ゴムなどの森林由来製品におけるFSC認証や、パーム油のRSPO認証は、森林破壊を伴わずに生産された製品であることを示す目印です。また、企業のウェブサイトなどでサステナビリティ方針やその実施状況、事業活動が森林や環境に与えているインパクトなどに関する開示情報を見れば、どの企業の製品を購入することがより森林保全につながり得るか、判断の助けになるでしょう。

金融機関

投融資方針で森林破壊ゼロと人権尊重を明確化し、自らの投融資先を通じて、資金が森林破壊の原因となってしまう”Financed Deforestation”を避ける必要があります。特に森林リスクコモディティを扱うセクターや、森林減少が深刻な地域での土地改変をもたらすプロジェクトを実施する企業へのエンゲージメントを強化することが求められます。

政府

洪水は一見被災地のみでの出来事ととらえがちですが、日本が依存している原材料の生産が滞れば、日本経済や人々の生活にも影響が無いとは言い切れません。日本の依存が海外での森林破壊を招かないよう、コミットメントや宣言のみならず、実効力のある仕組みやルールづくりが必要です。

※1DCF = Deforestation and Conversion Free(森林破壊ゼロ・土地転換ゼロ)
※2NDPE = No Deforestation, No Peat, No Exploitation(森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ)



今回の災害は、森林を基盤とする自然の防災機能の重要性を改めて示しています。日本の消費とビジネスが、森林破壊のない持続可能なサプライチェーンへと確実に転換することで、インドネシアの人々の生活やその基盤である生態系を支える力になります。WWFは、企業・金融・消費者・政府と連携し、世界の森林や環境の破壊・劣化を伴わない日本の暮らしを目指し活動を続けていきます。

洪水の中でもたくましく遊ぶインドネシアの子供たち
© WWF-Indonesia - Supriyanto

洪水の中でもたくましく遊ぶインドネシアの子供たち

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