里親募集の陰で・・・ アメリカの霊長類取引報告書から考える日本の野生動物ペット市場
2026/09/01
- この記事のポイント
- 2026年5月、WWFアメリカ、国際動物福祉基金(IFAW)、動物園水族館協会(AZA)は、アメリカにおけるSNS上の霊長類取引の実態を明らかにした報告書を公表しました。調査では、わずか6週間の間に1,600頭を超える霊長類がSNS上で販売されていることが確認され、野生動物取引の新たな課題として提示されました。こうした課題は、活発な野生動物ペット市場を有する日本にも共通するものがあります。野生動物の利用において、インターネットやSNSでの広告や取引が主戦場となる中、日本にも共通する検討すべき課題を明らかにします。
6週間で1,600頭以上が販売
アメリカの環境保全団体、動物福祉団体と動物園水族館団体の共著である報告書「Primates for Purchase: The Surge in Sales on Social Media in the US(売られるサル:アメリカにおけるSNS上の販売の急増)」によると、調査チームは2025年にFacebook、Instagram、TikTok、YouTubeを対象に調査を実施。
その結果、122のアカウントによる1,131件の投稿から、少なくとも1,614頭の生きた霊長類の販売が確認されました。
販売されていたのはマカク属、オマキザル属、クモザル属、マーモセット属、キツネザル属など多岐にわたり、中にはチンパンジーまで含まれていました。
特にブタオザルを筆頭としたマカク属は非常に多く、幼獣や若齢個体が数多く出品されていました。
さらに問題なのは、販売者の多くが「販売」ではなく「里親募集(rehoming)」「養子縁組(adoption)」といった表現を用いていたことです。
実際は商業取引であるにも拘わらず、動物保護活動のように見せかけることで、利用者間での生体や絶滅危惧種の販売を禁止するといった各プラットフォームの規制を回避している実態が明らかになりました。

報告書 Primates for Purchase: The Surge in Sales on Social Media in the US
https://assets.worldwildlife.org/www-prd/documents/Primates_for_Purchase_Report.pdf >(英文)
「かわいいペット」の裏にある深刻な問題
霊長類は犬や猫のような家畜化されたペットではありません。高度な社会性や知能を持ち、多くの種が複雑な群れ構造の中で生きています。
報告書は、霊長類をペットとして取引することが動物福祉上の問題だけでなく、生物多様性、公衆衛生、合法性など多方面に重大な影響を及ぼすと指摘します。
絶滅危惧種への影響も懸念
そもそも、世界の霊長類の約4分の3はIUCNレッドリストで絶滅のおそれがある種として選定されていて、すべての霊長類が「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の附属書IまたはIIに掲載され、国際取引が規制されています。
本報告書は、ペット需要がこうした種の野生個体群への捕獲圧力を高める要因の一つになっていると指摘します。
また、野生由来個体が「飼育下繁殖個体」と偽って取引(ロンダリング)されるケースも懸念されて、合法取引と違法取引の境界が不透明になることが、取り締まりを難しくしています。
さらにアメリカでは州ごとに霊長類のペット取引や飼育に対するルールが異なることも規制実施のハードルを高めています。

本調査で622頭の販売広告が確認されたブタオザル(Macaca nemestrina)。本種は、東南アジアに生息する絶滅危惧種(EN)である。
日本は無関係ではない
日本では、中型以上の霊長類は、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」で特定動物に指定され、原則飼育は禁じられています。
また、ペット目的の霊長類の輸入は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で禁止されています。
さらに、霊長類を含む哺乳類のオンライン取引も動物愛護管理法で禁止され、日本における取引や飼育は、かなりきびしく制限されているといえるでしょう。
しかし、小型霊長類を含めた哺乳類、鳥類、爬虫類など多様な野生動物がペットとして国内で流通し、SNSや動画配信サービスを通じた広告・情報発信は急速に拡大しています。
オンライン取引が規制されない両生類、魚類、節足動物などは通信販売やオークションサイトなどインターネット・SNS上での取引が活発に行なわれています。
特にSNSは、野生動物を広告/取引する場であるだけでなく、「珍しい野生動物を飼うことが当たり前」という認識を消費者や社会全般に広げる役割を果たしている可能性があります。
また、本調査で確認されたように、販売者が売買を「里親募集」などと言い換える手法は、日本でもすでに散見されます。
プラットフォーム規制や法規制はどうしても後追いになってしまいますが、それであっても、状況に応じて必要な規制を行なわなければ、野生動物取引はより見えにくくなり、違法行為の摘発のみならず、実態把握すら困難になるおそれがあります。

アフリカの森林やサバンナに生息するショウガラゴ(Galago senegalensis)は、本調査で4頭の広告が確認された。日本でもペット取引されている霊長類。夜行性であることや高い運動能力を有することから、飼育下で良好な動物福祉を維持することは難しい。
需要削減と社会課題として取り組む必要性
本報告書は、法規制や取り締まりの強化だけでなく、関連企業や一般市民の役割の重要性を指摘し、政策立案者、法執行機関、SNS運営事業者、そして消費者それぞれに対して対策を提言しています。
- 立法者への提言:連邦法整備、州規制・罰則の強化、法執行・獣医療・保護施設への予算確保
- 法執行機関への提言: SNS取引捜査の強化、企業との連携、押収個体の適正収容
- デジタルプラットフォームを有するSNS運営企業等への提言:霊長類の販売(含里親募集)・広告の禁止、検知強化、ユーザー啓発、法執行機関との連携
- 一般市民:霊長類を購入しないこと、情報を拡散しないこと、疑わしい広告・投稿をプラットフォーマーに通報すること、飼育しているペットを遺棄したり、逃がしたりしないこと
野生動物取引は、売り手だけでは成立しません。需要がある限り、新たな供給が生じます。
SNSで流れてくる「かわいい赤ちゃんザル」や「珍しいペット」の画像・動画の向こう側には、野生からの搾取、親個体との引き離し、輸送中の死亡、飼育放棄といった問題が隠れています。
アメリカで明らかになったSNS上の霊長類取引の急増は、日本にとっても他人事ではありません。
野生動物を「飼いたい」という欲求の先に何が起きているのか、野生動物を飼うことでどのような社会的影響を及ぼしうるのか、市民一人ひとりがその現実に目を向けることが、野生動物を守り、生物多様性を回復させる第一歩となります。

本調査で14頭の販売広告(平均価格1,160USD、約18万円)が確認されたアフリカ原産のベルベットモンキーは、アメリカ・フロリダで野生化し、繁殖個体群を形成している。在来種への影響や人獣共通感染症伝播が懸念される。



