イベント開催報告:東与賀の水田・水路の生きものと米作り
2026/01/14
- この記事のポイント
- 東よか干潟はラムサール条約湿地登録10周年を迎えました。干潟の後背地である東与賀の水田・水路には、ニッポンバラタナゴやカワバタモロコなど希少な生きものが生息しています。また、この地域では20年以上にわたり、地域全体で特別栽培米に取り組んできました。こうした地域の米作りと希少な生きものについて知ってもらおうと、2025年11月24日にイベントを開催しました。
生物多様性の宝庫、水田・水路の危機
日本の水田、そしてその周りに広がる水路は、多様な生きものが息づく、生物多様性の宝庫です。
水田・水路には、カエルやメダカ、アメンボなど、さまざまな生物が生息し、日本固有種を含む6,000種以上もの生物が確認されています。
しかし今、日本の水田・水路には、大きな危機が迫っています。
1960年代から2000年代までの間に、水田面積は3万3,900平方キロから2万5,800平方キロに減少。当初の約24%が失われました。
また、残った水田でも、圃場整備や近代的な水路改修、除草剤や殺虫剤等の利用により、生物の豊かさが失われつつあります。
このような農地の変化は、農業者の高齢化や気候変動への対応、効率的な農業の展開などを踏まえると必要な側面もありますが、一方で、私たちの生活の基盤である生物多様性が急速に消失する要因となっています。
WWFジャパンでは、こうした課題に対し、九州大学と共同で生物多様性重点地域マップを制作し、九州北部の水田地帯で生物多様性保全のための活動を展開してきました。
その活動地域のひとつ、佐賀県東与賀では、市民調査やビオトープ活用、環境に配慮した「シギの恩返し米」との協働を行っています。
本イベントは、東よか干潟ラムサール条約湿地登録10周年にあわせ、東与賀の水田・水路に生息する生きものや自然、そして東与賀の米作りについて、地域の方々に知ってもらうと開催しました。

開会の挨拶をするWWFジャパン淡水グループ久保
じつはすギョい!東与賀の田んぼ・水路の生きものの世界
干拓の歴史が希少な生きものの生息場を創出した
初めに、東与賀の水田・水路に生息する生きものについて、九州大学大学院生物資源環境科学府附属水産実験所 鬼倉徳雄教授より講演をいただきました。
東与賀地区はほぼすべてが、干拓されてできた土地です。約100~150年前は海だったところを干拓し、水路が整備したことで、淡水魚の生息場ができました。人間の歴史と密接につながっているのです。
東与賀でみられる希少な生きものに、ニッポンバラタナゴ(絶滅危惧ⅠA種)とカワバタモロコ(絶滅危惧種ⅠB種)がいます。
ニッポンバラタナゴのオスは産卵期になると、朱色や水色の婚姻色になります。最近では外来種であるタイリクバラタナゴとの交雑が懸念されています。
カワバタモロコのオスは産卵期になると、金色の婚姻色になります。九州北西部に生息していますが、その分布域は近年減少しています。
会場では、定期的に市民と行っているDNA調査の結果も共有され、これらの種の生息状況が伝えられました。

鬼倉徳雄教授
さかなクンによるイラスト解説で大盛り上がり!
次に、東京海洋大学客員教授であり、WWFジャパン親善大使・顧問でもあるさかなクンにご登壇いただきました。
冒頭では、スクリーンに魚のイラストを映しながら、生態などを紹介。
東与賀に生息するニッポンバラタナゴに代表されるようなタナゴの仲間の特殊な生態についても解説いただきました。

魚について解説をするさかなクン

タナゴの生態について解説するさかなクン

55(ギョギョ)チャレンジの様子
次に、55秒で魚の絵を描く「55(ギョギョ)チャレンジ」を披露してくださった、さかなクン。
描いてほしい魚のリクエストを会場に呼び掛けると、元気な声が会場に響き渡りました。
マグロからハコフグ、アユまで、さまざまなリクエストがあがりました。55秒でイラストを完成させながら、魚の解説までしていくさかなクンの姿に、会場は歓声に包まれました。
じつはすギョい!東与賀の米作りの世界
水田・水路に生息する生きものについて学んだあとは、こうした環境を育んできた干潟や米作りについて、3名の方に伺いました。
干潟と水田・水路はつながっている
東よか干潟は、2015年にラムサール条約湿地に登録され、2025年で10周年を迎えました。
東よか干潟ビジターセンターの東よか干潟ワイズユース推進員 中島妙見氏からは、干潟と水田・水路の関係性、普及啓発のための佐賀市の取り組みについてお話いただきました。
豊かな干潟の生態系、これを支える川や田んぼの重要性や近年感じられる生物種の減少に言及があり、また、地元の小中学生が参加する「ラムサールクラブ」の活動についても紹介いただきました。
東与賀での米作り
次に、佐賀市役所東与賀支所 総務・地域振興グループの福岡正和氏から、東与賀での米作りについて伺いました。
東与賀では20年以上、夢しずくという品種で、農薬を5割程度削減する特別栽培米を地域全体で取り組んできました。
昨今では珍しくない特別栽培米ですが、20年以上も、しかも地域全体で継続しつづけることは容易なことではありません。
東よか干潟がラムサール条約湿地に登録されたことをきっかけに、2017年からは「シギの恩返し米」の生産にも取り組んでいます。
「シギの恩返し米」は、有機肥料キトサンや、地域で未利用であった下水道由来の肥料を使用することで、さらに農薬を抑えた環境保全型農業、環境循環型農業を推進。一部では農薬不使用の取組も行っています。
安全・安心な米作りを、これからも
祖父の代から東与賀で農業を営む内田武士氏は、特別栽培米の継続に関しては、地域内でもさまざまな議論があったことに触れ、それでも安全・安心なお米を食べてほしいという思いで、地域一丸となって、長年取り組まれてきたことを教えてくださいました。
「シギの恩返し米」の生産部会長も務められている内田氏。土地を持ち、自然の恵みを受けながら農業をしているからこそ、そこに生息する生きものも含めて、東与賀の農業を次世代に残していきたいと語りました。
安全・安心なお米を地域として生産しつづけようという姿勢が、自然環境にも少なからず良い影響を与えているのかもしれません。

左から、東よか干潟ワイズユース推進員 中島氏、佐賀市東与賀支所 福岡氏、シギの恩返し米生産部会長 内田氏
さかなクンと看板を作ろう!
後半は、参加者で看板を作るワークショップを行いました。
東与賀の水田・水路に生息する8種の魚類(ニッポンバラタナゴ、カワバタモロコ、ミナミメダカ、オイカワ、ドジョウ、ツチフキ、トウヨシノボリ)とキュウシュウヌマガイの塗り絵を用意。
参加者は好きな種を手に取り、思い思いに色づけしていきます。まっさらな画用紙に、ミズアオイなどの植物、ゲンゴロウなどの昆虫、シギやサギなどの鳥類を描く方もいました。
さかなクンも参加者と交流をし、にぎわいました。

看板づくりの様子
また会場では、地域の団体によるパネル展示や水槽展示も行いました。水田・水路やその周辺の環境は、魚類だけではなく、昆虫や鳥類、植物など、さまざまな野生生物が集まる環境なのです。
展示にご協力いただいた皆様
・SATOMORI
・日本野鳥の会佐賀県支部
・さが平野の水辺を守る会
・ネイチャー佐賀
・佐賀大学GreenNexus

展示の様子
参加者で制作した看板は、後日、東与賀小学校のフェンスおよび佐賀市東与賀支所ロビーに設置する予定です。
WWFジャパンでは引き続き、生物多様性保全と農業の両立を目指した、持続可能な水田プロジェクトを地域の皆様とともに実施していきます。

開催概要:じつはすギョい!東与賀の田んぼ・クリークの生きものと米作り
日時:2025年11月24日(月)
場所:東与賀文化ホール
参加者数:約300名
主催:WWFジャパン
後援:佐賀市、東与賀まちづくり協議会



