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世界的な淡水魚の危機を報告『世界の忘れられた魚たち』

この記事のポイント
渓流や大河、湖沼や田んぼなどの自然に生きる、さまざまな淡水魚たち。わずか数センチから数メートルまで、その大きさや生態は、目を見張るほどの多様性を誇ります。同時にこれらの淡水魚は、2億人にのぼる人々の重要なタンパク源として、社会や経済を支える不可欠な存在でもあります。しかし今、世界では淡水魚種の約3分の1が絶滅の危機に瀕しており、絶滅が報告される例も少なくありません。そこで2021年2月、WWFは16の国際的な保護団体らと共に、報告書『THE WORLD’S FORGOTTEN FISHES:世界の忘れられた魚たち』を公開。淡水魚の素晴らしさと重要性、そして直面する脅威とその解決策を紹介しました。
目次

素晴らしい多様性のシンボル、淡水魚

現在、世界に3万5,768種が知られている魚類。

その約51%に相当する18,075種が、淡水の自然に生きる魚、すなわち淡水魚です。

一言で淡水の自然といっても、澄んだ清流や、堆積物の多い濁った熱帯の川、浅い池や沼や湿地帯、巨大な湖、雨期には十数メートルの深さに冠水する森や、乾期には涸れてしまう川、また地下洞窟を流れる水まで、その景観は多種多様。

こうした淡水の自然は、地球上で最も生物多様性に富んだ環境のひとつであるにも関わらず、その総面積は地球上のわずか1%にすぎません。

その限られた環境に、世界の魚類の半分以上と、その魚たちを食物とたのむ鳥や哺乳類、爬虫類などを含めた、全脊椎動物の約3分の1が生息しているのです。

淡水環境は地球上の面積の1%を占めるのみですが、そこに全魚種の51%が生息しています。また、淡水魚の新種も毎年発見されており、南米だけでもこの10年間に、毎年104種以上の新種が見つかっています。© WWF

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熱帯の川にすむテッポウウオ(Archerfish)。水鉄砲のように水を吹きだし、獲物となる昆虫などを水に落として捕食します。

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闘魚として知られるベタ(Siamese fighting fish)の産卵行動。ベタの雄は、水草などを集めた浮き巣を作り、卵や稚魚を守る習性があります。

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南米に分布するシクリッドの一種(Banded cichlid)。親魚は稚魚に危険が迫ると、口内に吸い込んで守ります

人々の健康や生活に欠かせない淡水魚

世界の淡水魚は、有史以前から、それぞれの地域における重要なタンパク源として、人の暮らしを支えてきました。

それは、現代においても変わることはありません。

たとえば次のような点で、淡水魚は今の社会に欠かせない存在となっています。

  • 先住民族を含む約2億人の主な動物性たんぱく質源
  • 6,000万人の生計を支えており、その半数以上が女性
  • 食用を目的とした淡水漁業の経済効果は年間380~440億ドル
  • 釣りなどの淡水魚に関連したレクリエーションによる利益は年間1,000億ドル
  • 観賞魚となる淡水魚は世界で最も人気のあるペット
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ミャンマーの市場。地域社会に動物性たんぱくをもたらすと共に、人々の生計を支えています。

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シベリアやアラスカの重要な漁業資源であるサケは、冬眠前のクマにとっても重要な食物。サケを捕食したクマの排泄物は、海や川の栄養分を、周辺の森やツンドラにもたらします。

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釣りを楽しむ人の数は中国で9,000万人、北米で約5,000万人、ヨーロッパで2,600万人にのぼります。その収益は年間1,000億ドル以上。地域の経済や雇用を支える大きな産業となっています。

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インドの河川に生息するレッドライントーピードバルブ。観賞魚として人気がありますが、絶滅が心配されています。アメリカの「National Pet Owners Survey」によれば、世界で飼育されているネコ 8,830万匹、イヌ7,480万匹、鳥類1,600万羽、爬虫類1340万匹に対し、淡水魚は1億4,200万匹。また、5,300種の観賞魚の90%が熱帯の淡水魚と言われています。

2,400種以上の淡水魚が絶滅の危機に

しかし、世界の淡水魚は、淡水生態系を育む自然と共に今、各地で深刻な危機にさらされています。

WWFの『生きている地球レポート』で報告されている、地球環境の劣化を数値で示した「生きている地球指数」によれば、淡水の自然の豊かさは、1970年以降、84%も劣化。


これと歩調を合わせるように、淡水魚も今では多くが絶滅の危機にさらされるようになりました。

IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストによれば、80種の淡水魚がすでに絶滅、2,400種以上が深刻な絶滅の危機に瀕しているとされています。

その中には1970年以降、76%も減少した回遊性の淡水魚や、94%減少した巨大魚も含まれています。

こうした個体数の驚異的な減少は、その淡水魚が生きる淡水生態系そのものや、そこに生きる他の野生生物にも影響を及ぼします。

淡水魚に迫るさまざまな脅威

淡水魚と淡水の環境を脅かす主な要因には、次のような人間活動による、生息環境の破壊と、個体数の減少が挙げられます。

  • 農業や工業に利用する淡水の過剰な取水
  • ダムなどの大規模なインフラ開発
  • 氾濫原の開発などをはじめとする土地利用の変化
  • 過剰な漁業資源の利用
  • 侵略的外来生物の放流
  • 農業や工業排水による汚染 など
© Justin Jin / WWF-US

建設資材として採掘される川砂。河川環境を破壊し、淡水の生物に負の影響を与える大きな要因の一つです。

© Global Warming Images_WWF

水力発電や取水に利用されるダム。ダムが分断する水の流れは、生物多様性に大規模な負の影響を及ぼす要因です。また堰や暗渠のような人工物も、同様に水や土砂、栄養分の流れを乱し、魚の移動を妨げます。

© WWF

主に灌漑農業のため無計画に行なわれる、河川からの大量の取水は、河水や地下水の枯渇を招き、もともと水の乏しい中央アジアなどの乾燥地帯の生態系に、深刻な影響を及ぼします。

報告書『世界の忘れられた魚たち』

淡水魚と淡水の自然をめぐる深刻な現状を受け、2021年2月、WWFは国際自然保護連合(IUCN)、コンサベーションインターナショナル、カーディフ大学など、16の著名な保護団体、学術機関と共に、報告書『THE WORLD’S FORGOTTEN FISHES:世界の忘れられた魚たち』を発表しました。

報告書『THE WORLD’S FORGOTTEN FISHES:世界の忘れられた魚たち』(英文:PDF形式/5.6MB)

これは、淡水生態系を脅かす、大規模かつさまざまな人間活動の陰で、人知れず、忘れられたように消えていく、世界の淡水魚の危機をまとめたものです。

淡水の危機は非常に大きく、2020年2月には各国の研究者やNGOなどが集まり、淡水生態系の緊急回復計画についてもとりまとめています。

この計画は、淡水生態系の劣化を食い止めるために必要な規模の解決策が提供できるよう、現実性、実用性に配慮して検討されたものです。

© WWF

淡水の生物多様性のための緊急回復計画。本文で示されている重要な点を実行することで、生物多様性の損失のカーブを曲げることができるとされている。

計画が指摘する最も重要な点は、川の流れをより自然なものに近づけ、重要な生息地や種を保護・回復し、汚染レベルを低減する対策の実施です。

また、外来生物の蔓延を抑制し、乱獲や過剰な砂の採掘などを止める必要についても強調。

さらに、今も世界の各地に残る豊かな河川環境を保全し、時代にあわないダムや堰などの障害物を撤去すべきことにも言及しています。

報告書『THE WORLD’S FORGOTTEN FISHES:世界の忘れられた魚たち』が求める、淡水生態系保全のための取り組み

  • 各国政府に対して、2030年に向けた、自然環境の保全に関する、新しい野心的な国際目標に合意し、それを達成する解決策の実施を約束すること。またSDGsに淡水魚に関する具体的な新しい目標を盛り込むこと。
  • 世界のすべての河川、湖沼、湿地帯を、一斉に保護・回復することが困難であることを考慮し、どのような取り組みを選択するか決めること。各国は、SDGsや生物多様性条約、パリ協定の目標と共に、健全な淡水漁業を含めた重要な淡水生態系の価値を考慮し、取り組むべき優先順位を設定すること。
  • 政府、地方自治体、企業、投資家、NGO、地域が一体となって行動すること。

現在、地球上では、森林や海洋をはじめとする、さまざまな生態系が各地で脅威にさらされていますが、中でも、特に深刻な危機にあるとされるのが淡水生態系です。

その象徴ともいうべき野生生物の淡水魚を保全することは、絶滅の危機にある種を守るだけでなく、淡水生態系そのものと、そこに息づく多くの生きものを守り、人の暮らしを守ることを意味します。

人と自然、人と野生生物の共存が実現できるか。世界の淡水魚はそのカギを握る存在といえるかもしれません。

日本での淡水魚保全の取り組み

九州有明海沿岸における淡水魚の保全

日本でも世界と同じように、淡水魚の減少が深刻な問題になっています。

環境省がまとめた日本の「環境省レッドリスト2020掲載種数表」では、汽水域(河口など海水と淡水が混ざる場所)や河川湖沼などの淡水域に生息する日本の魚類の、実に43.3%(評価種約400種)が、絶滅したか、絶滅のおそれがあるとされています。

これは、両生類の51.6%についで高い割合であり、哺乳類の25.6%(160種)、鳥類の16.1%(約700種)、爬虫類の37.0%(100種)、貝類の20.3%(3,200種)、無脊椎動物の1.2%(約5,300種)と比べても、動物の分類群の中で高い割合となっています。(2020年データ)

特に、危機のレベルが高い魚類は、人の手が入ることで形成される水田や水路のような水域に生息する魚たち。

いわゆる、タナゴやドジョウ、メダカといった、「身近」でありながら「忘れられがち」な、日本固有の種を多く含む魚たちです。

そこで、WWFジャパンは、世界的にも貴重かつ独自性の高い淡水生態系が残る九州有明海沿岸の水田地帯で、淡水魚類を中心とした生物多様性の保全に取り組んでいます。

この取り組みのカギとなるのは、水田や水路に直接関係する農業と自然保護の両立。

淡水魚が生きられる自然度の高い水路などを守りながら、持続可能な形で農業を推進していく取り組みを、研究者や地域の農業者の方々と共に行なっています。

こうした取り組みもまた、人と野生生物の共存が実現できるかを問う試みであり、絶滅の危機にある淡水魚たちが、そのカギを握っています。

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