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希少な淡水魚を守る:熊本県玉名市における1年間の活動報告

この記事のポイント
九州・有明海沿岸の各県に広がる水田地帯には、セボシタビラやニッポンバラタナゴなど、日本固有種を含む世界的にも希少な淡水魚が数多く生息しています。しかし、その生息地の多くでは、自然度の高い水田・水路環境の喪失等に伴い、淡水魚類の個体数が減少。姿が見られなくなった水系や支流も、増えつつあります。WWFジャパンは、九州有明海沿岸地域の水田・水路に生息・生育する生きものの保全活動を展開してきました。今回は、この中でも、熊本県玉名市で行ってきた1年間の活動を報告します。
目次

希少な淡水生物の保全に向けた、熊本県玉名市での活動

WWFジャパンは、九州大学大学院農学研究院の鬼倉徳雄教授との共同研究で、過去と現在の魚類相調査結果に基づく「生物多様性優先保全地域地図」を作成。この中で挙げられていた重要地域の一つ、熊本県玉名市には、現在も、世界的にも希少な淡水生物が生息しています。

近年分布域の縮小が課題となっており、国内希少野生動植物種に指定されている日本固有亜種「セボシタビラ」もその一つです。この種は、冬季には止水域に生息し、3~6月の繁殖期になると流水域に移動して、生きた淡水二枚貝のエラに産卵する性質があります。そのため、この種を保全するためには、生息する環境の保全や止水域・流水域の連続性の確保、産卵母貝となる二枚貝の保全が必要です。

WWFジャパンは、2024年から熊本県玉名市において、セボシタビラの保全に向けた地域の高校生や市民との協働をスタートし、様々な活動を展開してきました。

2024年に実施した、玉名高校科学部、市民有志、九州大学との共同による「市民参加型環境DNA調査」の結果、市内のいくつかの地点で、セボシタビラのDNAを検出。また、市民による採水では、1990年代に採捕されて以降記録がなかった地点で生息を確認するなどの成果がありました。この結果を踏まえて、2025年はさらなる環境DNA調査による分布の実態の把握や水路環境の調査に取り組んできました。

玉名の魅力である「生物多様性」の認知拡大を目指して

高校生や市民の皆さんと活動に取り組んでいく中で、「市内のみなさんにもっと玉名の生きものや景観の魅力を知ってほしい!」という声が膨らんできました。

そこで、玉名市民を対象としたイベント「ここがすごい!「玉名生きもの自慢」玉名の貴重な生きものと自然を知る夕べ」を8月2日(土)に開催。

このイベントは、市内で活動する菊池川おおかわの会、日本野鳥の会熊本県支部、あたらしさと、横島まちづくり委員会、市民有志の会との共催で、玉名の生きものや自然の魅力を伝える発表や展示を実施しました。

当日は、九州大学の鬼倉徳雄先生による講演や玉名高校科学部によるセボシタビラの環境DNA調査の報告も行いました。

© WWF-Japan

当日は約70名の市民・近隣市町の皆さんにご参加いただき、玉名の自然や生きものへの思いが溢れる、熱気あるフォーラムになりました。事後のアンケートでは、以下のような感想がありました。

  • 菊池川の魅力を感じた方々が集まり、このようなシンポジウムを実施できる玉名のエネルギーを感じました。
  • 氷河期、縄文海進時代の話もあり、東アジアの中の玉名地区という理解が深まった。高校生が用水路西部などの記文を参考にして、川魚(セボシタビラ)の生息を考察しており、歴史の中に自分もいることを認識でき、人間生活と生物多様性の関係を再考できた。
  • 漠然と玉名は自然に恵まれた土地だと思い込んでいたが、詳しい実態を聞き危機的状況にあるということを知ることができた。今後、何ができるかを考えたい。
  • 想像より多くの生きものが絶滅危惧種にあると知り驚きました。大丈夫なんだろうか…と悲しくなりました。

地域に特徴的な生物の豊かさは、その地域の文化を特徴づける「地域の宝」です。この魅力を地域の皆さんが知り、保全のための行動に移していくことが大切です。今回のイベントの結果を踏まえ、引き続き市民の皆さんと「地域の生物多様性の魅力」を伝える取り組みを進めていきます。

また、このイベントの直後には、この地域において大雨に伴う災害が発生し、多くの市民の方々が被災されました。被災され、今でも復旧に取り組まれている皆様に心よりお見舞いを申し上げます。

人の暮らしの安全を守り、なおかつ、地域の歴史や景観、生物の多様性を守っていく方策についても、引き続き市民の皆さんとともに考えてまいります。

菊池川流域のセボシタビラの分布を把握する、環境DNA調査の取り組み。その結果は?

さて、2025年に実施した環境DNA調査の結果はどうだったでしょうか。

本年は、2024年の調査でセボシタビラの存在が確認された地点を中心に、3月、6月、8月の3回(採水サンプル数のべ98本分)にわたり、高校生・市民との協働による採水を実施しましたが、今年の調査ではセボシタビラは検出されませんでした。

今年検出されなかった理由については、6月の調査については「繁殖盛期で検出感度が最も高い調査日に、降雨で流量が増したため、DNA濃度が検出限界以下まで薄まった」と考察されます。九州大学が過去にこの地域で行った環境DNA調査でも検出できなかった年はあり、また、他の既知の生息地でも繁殖期以外では検出されないことが多く、今後も粘り強く、時期や方法を修正しながらモニタリングを行い、個体群の状況を調べていく必要があります。

その一方で、個体群のサイズが極度に小さくなっている可能性も否定できません。そのため、生息環境や産卵環境(産卵に適した二枚貝が十分に生息できているか)についても調査し、保全に向けたアクションを並行して検討する必要があります。

WWFジャパンは、菊池川流域のセボシタビラの保全に向けて、引き続き様々な活動を九州大学・市民・高校生の皆さんと進めていきます。

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