久留米市発!流域スケールで考えるネイチャーポジティブ・アクション企業勉強会
2026/11/02
- この記事のポイント
- 近年、気候変動に伴う突発的な豪雨や渇水が頻発する中、流域に関係する「あらゆる関係者」によるアクションが求められています。WWFジャパンは、九州・有明海流入河川流域での淡水生態系の保全活動を通して、治水と生物多様性保全の両立に貢献するためのアイデアを整理し、地域や企業の関係者、研究者らとともに実践してきました。2026年9月には、これまで共同活動を実施してきた福岡県久留米市環境部との共催により、流域に拠点を置く企業向けの勉強会を実施。第1回となる今回の勉強会では、参加者が流域の中でどのような困りごとを抱えているのか、ワークショップを通して話し合い、参加者間で共有しました。
流域スケールで考える「水」にまつわるリスク
気候変動に伴う豪雨災害や渇水が、各地で頻発するようになった近年、流域に関係する「あらゆる関係者」が協働し、水にまつわるリスクに対応していく必要性が高まっています。
国土交通省は2020年に「流域治水」の考え方を打ち出し、流域全体での治水対策へと舵を切りました。
この考え方では、河川法で定められる河川の範囲内のみで氾濫を食い止めるのではなく、河川、山地、平野部の農地や都市域など、流域のさまざまな構成要素において、あらゆる関係者が協働することが求められています。
これは、河川や湖沼、水田など、多様な水環境の保全を、治水や減災と同時に推進していく上で欠かせない重要な視点です。
そこで、WWFジャパンは、2026年6月に「流域治水でめざすネイチャーポジティブポイントブック」を発表。この中では、流域スケールで治水を進めるにあたり、生物多様性の保全を同時に進めるための考え方と事例を6つのポイントに基づいて整理しました。

「流域治水でめざすネイチャーポジティブポイントブック」より。
これらのポイントは、流域の中の1か所で実現すれば、すべてが解決するものではありません。
例えば、地方自治体等が管理する区域(河川、道路、調整池等)だけではなく、農地、水路や個人の宅地、企業の拠点などの様々な場所で、自治体、企業、農業者、個人といったさまざまな関係者が連携し、面的に展開しなければ、流域の水循環の健全化は実現できないのです。
また、それぞれの主体が、自然に根ざした手法を積極的に検討し、貢献することにより、治水のみならず、生物多様性の保全を同時に図ることも可能になります。
重要なのは、これらのアクションは「あらゆる関係者」が実施者となるということです。
「治水」と聞くと、ともすると「行政の責任」となってしまいますが、流域に拠点を置く企業や個人が、流域において担う役割に納得し、実践していくことが重要です。
久留米市からはじめる流域アクション
福岡県久留米市は、筑後川の中流に位置する筑紫平野最大の町であり、さまざまな企業が拠点を置く中核都市です。
また、東西に広がる市内には、耳納連山や筑後川とその流入河川周辺に広がる水田地帯など、流域で結ばれた多様な水環境が広がります。
一方で、近年では豪雨による氾濫や渇水が課題となっており、市独自の取り組みとして「流域治水推進プロジェクト」を実施しています。
さらに、同市には、福岡県内では絶滅の危機にある、さまざまな希少な野生生物種が生息しています。
たとえば、ニッポンバラタナゴ、カワバタモロコといった淡水魚や、オニバス、コウホネ、ヒシモドキといった水生植物です。
これらの水生動植物は、かつては水田の周辺の水路や小河川に一般的に見られた種(しゅ)ですが、生息・生育域の環境改変や観賞用の捕獲、侵略性の高い外来生物の侵入により生息・生育の場が失われています。

ニッポンバラタナゴ(学名:Rhodeus ocellatus kurumeus)日本固有亜種で、その学名は模式標本の産地である久留米にちなんでいます。
久留米市では、これらの種の保全に向けて、生物多様性地域戦略に基づき、企業との連携による保全活動を展開してきました。
また、2026年度から新たにスタートした第四次久留米市環境基本計画においては、これまでの活動をさらに展開しつつ、多様な主体による活動を活性化する「環境プラットフォーム(仮)」の創設を目指しています。
これらはいずれも、上述の希少な野生生物の保全や、健全な水環境を保全していく上で、重要な役割を担う取り組みです。
そこでWWFジャパンは、これまでの久留米市との連携活動を踏まえ、今後の協働活動について環境部と議論を進めてきました。
その中で、市内に拠点を置く企業とのさらなる連携の強化や、企業を含む「あらゆる関係者」の巻き込みによる協働の深化に向けた場づくりの試行試行が必要だとの思いが共有されるようになりました。
これらの経緯を踏まえ、WWFジャパンと久留米市環境部は、久留米市とその周辺自治体に拠点を置く企業を対象とした勉強会を、2026年9月16日、えーるピア久留米にて共催しました。当日は、地元に拠点を持つ企業関係者らを中心に13名の参加がありました。
久留米市発!流域スケールで考えるネイチャーポジティブ・アクション企業勉強会(1)
第1回となる今回は、座学とワークショップの二部構成で実施しました。
WWFジャパンからは、プレゼンテーションと映像「Journey of Water 有明海へそそぐ水の旅」の上映を通して、流域の概観や水リスク、地域の生物多様性に関連した話題を提供。また、ウォータースチュワードシップの考え方について説明を行ないました。

「自社拠点」、「その周辺地域」、「流域」という3つのスケールで、できることを考える。(「流域治水でめざすネイチャーポジティブポイントブック」より)
また、久留米市からは、第四次久留米市環境基本計画に関する説明と、生物多様性保全に向けた市の取り組みについて解説をいただきました。
後半は3グループに分かれてワークショップを実施。前半パートの振り返りと、企業が抱える困りごとについての意見交換を行ない、その結果を「困りごとツリー」にまとめました。

勉強会の内容をリアルタイムでまとめたグラフィックレコーディング。さや環境デザイン室の中村さやかさんにまとめていただきました。

ワークショップ成果:みんなの「困りごとツリー」
地域におけるネイチャーポジティブ・アクションの「実装」に向けて
今回の勉強会では、ワークショップを通して、企業の皆さんが抱える「困りごと」を整理。その解決に向けた考え方を共有しました。
この勉強会は今回で終わるものではなく、複数回の勉強会や視察会を実施し、2030年までに流域における企業のネイチャーポジティブ・アクションが実装されていくことを目指しています。
今回得られた「困りごと」に応じて、今後も勉強会を実施してまいります。次回は2027年1月を想定していますので、流域に拠点を置く多くの企業関係者に参加いただければ幸いです。
次回の勉強会への参加を希望される方や、今回の勉強会で利用した資料や冊子「流域治水でめざすネイチャーポジティブポイントブック」の閲覧を希望される方は、WWFジャパン淡水グループ(water@wwf.or.jp)にご連絡いただければ幸いです。
資料案内『流域治水でめざすネイチャーポジティブポイントブック』
https://www.wwf.or.jp/activities/lib/6255.html
