地方銀行の再エネ取り組みが熱い! ―八十二長野銀行による太陽光発電事業―
2026/07/17
- この記事のポイント
- 気候変動対策には地域社会に根ざした再エネ導入が欠かせないなか、地域をよく知る地方銀行が取り組むケースが近年増えています。その事例の1つが八十二長野銀行によるものです。同行は八十二Link Naganoを通じて屋根置き太陽光PPAの拡大に取り組みつつ、県内企業との連携、取引先への脱炭素支援も展開しています。地銀の信頼とネットワークを活かし、地域経済に還元しながら再エネを広げる取り組みを紹介します。
1.いま必要なのは地域に資する再エネ
2026年4月に気象庁は最高気温40度以上の日を「酷暑日」として定めました。刻一刻と深刻化する気候変動とその影響。その原因となる温室効果ガスを削減するため、再生可能エネルギー(再エネ)を最大限導入することが急務です。同時に、その導入は地域が主体となって進めることで、地域社会・経済にプラスの効果をもたらすことも欠かせません。
そして最近では、地域経済の要である地方銀行が、自ら再エネ事業を手掛ける動きが広がっています。地方銀行は地元の経済の実情に長けており、地域社会からも信頼がおかれています。顧客企業の中長期的に持続可能な成長に向けて、再エネ子会社を立ち上げたり、再エネ支援の専門部署を設けたりしているのです。

気候変動は地域の生物多様性や一次産業など幅広い影響をもたらします。
WWFジャパンではこれまでに、全国に先駆けて山陰合同銀行が設立した再エネ子会社・ごうぎんエナジー(記事①、記事②)と、県内の洋上風力ポテンシャルの発揮に向けて専門の支援部署を設けた秋田銀行(記事①、記事②、記事③)を訪問し、それぞれお話を伺っています。詳しくは、リンク先の取材記事をご覧ください。
今回は、1990年代からいち早く気候変動対策に取り組んできた、八十二長野銀行を訪問してきました。同行は、地域商社事業と再エネ事業をともに手掛ける「八十二Link Nagano株式会社」を2022年10月に設立し、地域の脱炭素化への貢献をいっそう加速させています。その取り組みについて、八十二Link Nagano 株式会社 代表取締役社長 下澤敦司様、電力事業部 部長 坂本智徳様にお伺いしました。
2.八十二長野銀行の再エネ事業の取り組み
八十二長野銀行は長野市に本店を置く地方銀行です。2026年1月に八十二銀行と長野銀行が合併したことで、長野県唯一の地方銀行として地域の経済を支えています。また、同行は1990年代の早い時期から環境分野での取り組みを進めており、気候変動対策にも積極的に取り組んでいます。例えば、新店舗は原則として、年間のエネルギー消費量が実質ゼロまたはマイナスとなる「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)」にする方針です。2021年から2025年までに5店舗がZEBとなっています。
こうした取り組みは外部からも評価されています。企業の環境情報開示を推進する国際NGOである「CDP」の調査において、気候変動対策の分野で最高ランクのA評価を、2023年に国内銀行として初めて取得しました。それ以降、直近の2025年に至るまで3年連続で取得しています。
一方、2022年10月には子会社である「八十二Link Nagano」を設立。これは、2021年の銀行法改正による規制緩和を受けたものです。地域課題の解決に向けた新規事業を立ち上げることを目指し、地域外で稼ぐ地域商社事業と、地域内でエネルギーやお金を循環させる再エネ発電事業の2本柱を手掛けます。
銀行の本業は顧客企業にファイナンスを提供することであり、それ単体では顧客や地域の脱炭素化に直接取り組むのは限界があります。そこで、発電設備を保有する子会社の出番です。再エネ電力の提供を通じて、顧客の脱炭素化に直接貢献することが可能になります。言わば、脱炭素化のメニューを提供する「実働部隊」としての役割を担っているのです。
ポイント1:屋根置き太陽光発電への注力
八十二Link Naganoが手掛ける発電事業の主軸は、建築物の屋根に設置する太陽光発電です。これによって発電した再エネ電力を顧客に直接販売する「PPA(Power Purchase Agreement: 電力購入契約)」の枠組みを活用しており、2025年度末までに15件、合計約4,300 kW 分が稼働しています。
屋根に注目した背景の1つに、地域への受け入れられやすさが挙げられます。昨今、問題のある太陽光発電設備の事例が顕在化していることによって、地域社会や自然環境との共生がいっそう重視されるようになっています。特に長野県では、日照時間の長さもあって、早くから大規模な太陽光発電が進められてきており、問題も早期から顕在化しています。結果として県の条例などが全国に先駆けて厳格化されています。こうした状況のなか、自然環境等への負荷が少ない建築物の屋根に設置することを、まずは優先的に進めるべきだと判断したそうです。
さらに事業の実施では、地域住民に安心してもらえるような施設運営が心がけられています。加えて、太陽光発電で営農を支える「ソーラーシェアリング」をはじめ、さらなる事業の拡大も検討されていますが、まずは屋根置きの太陽光発電事業を着実に進めていくとのことです。

八十二Link Naganoの下澤敦司社長(右)・坂本智徳部長(左)。運転していても、つい工場など建物の屋根ばかり見てしまうと笑っておられたお二人。
ポイント2:オール長野でエネルギーと経済の地域内循環をめざす
地銀の子会社としての再エネ会社の最優先の使命は、地域経済の発展です。そのため八十二Link Naganoでは、建設から施工までなるべく長野県内の企業と連携して設置しています。もちろん規模的な要素で県外企業と組むこともありますが、足下で7割くらいは「オール長野」で実施されているそうです。できる限り地域内経済を優先して、しっかり地域に還元していこうとされています。
もちろん顧客となる企業が電気代の高い電力をあえて選ぶということはほとんどないため、規模の大きい県外企業と競合して負けることもあります。そこで八十二Link Naganoでは、中小の製造業を対象とすることに競争優位性を見いだしています。
長野県は製造業が盛んです。大規模な案件だと大手の電力会社に優位性がありますが、実は長野県は、平地が少ないので、中小規模の工場も多いのです。そうした中小企業の工場の屋根であれば、大手があまり対象としないためもあって、八十二Link Nagano に大いに勝算があるのです。
そして何より、顧客企業や地域社会からの信頼が土台にあります。長年、地域に根差して事業を実施し、取引関係を結んできました。こうした関係は経済性が同じぐらいであれば電力の供給元として選んでもらえるといった形で、再エネ発電事業に活かされていると言います。

顧客企業の工場の屋根に設置した太陽光発電の例。
ポイント3:取引先の県内企業の脱炭素化の全面支援
金融機関が投融資する企業からの温室効果ガス排出量は、「ファイナンスドエミッション」と呼ばれ、その金融機関の間接的な排出量とされます。八十二長野銀行では現状把握に向けて、長野県・新潟県に本社を置く融資先 のうちファイナンスドエミッション上位500社に対するヒアリングを、2024年度に実施しました。その結果、80%以上が取り組みの必要性を理解しつつも、その半数以上が排出量を算定できていないという課題が見えたのです。
この結果を踏まえて、同行ではお客さまとの対話の継続により、その脱炭素化を支援することを目指しています。
取引先の脱炭素化を支援するにあたっては、再エネ電力の提供にとどまらず、コンサルティングと多面的なソリューション提供も同行グループ全体で展開されています。合併後に初めて発表された中期経営計画でも、「総合コンサルティンググループへの飛躍」が掲げられています。
3.最後に
今般の合併の効果は、八十二Link Naganoの事業にも好ましい影響をもたらしているとのことです。県内で1つの地銀となったことで、個々の顧客への支援により全力をあげられるようになったという実感があるそうです。顧客の裾野が広くなったことにもまして、顧客との距離が近くなったことが最大のシナジー効果だと述べられていました。
以上の八十二長野銀行でお話を伺った取り組みのように、地域からの信頼を損なわないような形で、その自然的・社会的条件に柔軟に合わせた事業形態を追求することは、再エネを地域で導入していくうえで非常に重要な観点です。
また、地銀同士の合併が、再エネ事業においても顧客との関係性をいっそう密接にしうるというお話は、昨今の地銀再編の動向が、地域の脱炭素化を思わぬ形で後押しすることを示唆しているのかもしれません。
WWFジャパンでは引き続き、地域の成長につながる再エネ事業のカギとなる地方銀行の取り組みについて情報収集や調査を行なっていきます。2026年夏をめどにレポートとして公開する予定です。



