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地方銀行の再エネ取り組みが熱い!―洋上風力を推進する秋田銀行―

この記事のポイント
地球温暖化の影響を最小限に抑え、人々や生き物の暮らしを守るためには、地域の自然・社会・経済と共生する再エネの導入を拡大していくことが欠かせません。その主体として、地域をよく知る地方銀行が直接再エネ普及に取り組むケースが増えています。地域経済のキープレイヤーであるとともに、地域社会から信頼される主体である地銀が実施する意義は? 注目事例の1つである秋田銀行の取り組みを紹介します。
目次

1.地域に資する再エネ導入が重要

猛暑、洪水、森林火災が世界各地で相次ぐ中で、防災対策の強化が喫緊の課題であると同時に、可能な限り速やかに温室効果ガスの削減を進めていかねばなりません。そのカギとなる再生可能エネルギーですが、再エネ設備を無計画に設置すると、立地地域の自然や生活に影響が生じることもあります。十分な検討・調査、モニタリングなどが求められると同時に、再エネが地域経済の成長や雇用につながる産業となることが重要です。これには地域が主体となって進めることが肝心ですが、その1つに地域をよく知る地方銀行による取り組みが挙げられます。

地方銀行は、もともと地域企業の実情をよく知り、地域から信頼される存在です。さらに脱炭素化の政策や補助金動向などにも詳しい人材も多く、地域の企業を伴走支援する立場です。その地方銀行が、地域の企業の将来の成長のためにと、専門の再エネ産業支援部を立ち上げたり、直接再エネ事業を手がける子会社を設立するケースが増えています。

その発端は、2021年の銀行法改正で、コロナ禍で弱った経済を金融を通じて下支えし、再生を支援できるように、銀行の役割が拡大されたのです。従来は預金や貸し出しなど限られた業務しかできなかったのですが、改正によって銀行本体や子会社がデジタル化や地方創生などを支援する業務(コンサル、マッチング、人材派遣等)を行えるようになりました。 これにより地方銀行が再エネ事業を営む子会社を設置することも可能になりました。

その草分けは、島根県にある山陰合同銀行が2022年に設立した再エネ専業子会社「ごうぎんエナジー」です。地域の脱炭素を先導する役割を果たしながら、伴走支援に邁進する山陰合同銀行を取材しました。詳しくは、この取材記事をご覧ください。

豊富な地域再エネと地元事業者の縁結び 山陰合同銀行・ごうぎんエナジー訪問記[前編]
地域で育つ再エネの立役者 山陰合同銀行・ごうぎんエナジー訪問記[後編]

 また全国有数の再エネの供給ポテンシャルを有する秋田県において、秋田銀行は2024年7月に、名前にまさに洋上風力を冠する新しい専門担当部署「洋上風力産業支援室」を、全国で初めて立ち上げました。「風を地域の資源」としてとらえ、地域企業の成長につなげようとする秋田銀行の取り組みについて、株式会社秋田銀行 地域価値共創部 洋上風力産業支援室 室長 三浦雅人様、チーフプランナー 鈴木優佑様、チーフプランナー 佐々木伸様、地域価値共創部 地域産業創出支援グループ チーフ 冨樫拓様、並びに大潟村 生活環境課 環境班 主査 近藤航太様にお話を伺いました。

2.秋田銀行の再エネ事業の取り組み

秋田銀行は秋田市に本店を置く地方銀行で、秋田県内においてメインバンクシェア54.1%を占める地域経済の中心的な役割を担っています。秋田県は陸上風力も早くから盛んな地域で、秋田銀行は2013年に「株式会社A-WIND ENERGY」を地元企業との共同出資で設立したのを皮切りに、港湾内の秋田洋上風力発電や白神ウインドなど秋田県内の風力発電出力の過半以上に関与してきました。また大潟村では未活用だった「もみ殻」を用いたバイオマス熱供給事業を手掛ける株式会社オーリスにも出資しています。

そして2024年に銀行内の「地域価値共創部」の下に立ち上げられたのが、「洋上風力産業支援室」です。同室では、地域資源を活かす新事業として洋上風力産業を磨き上げていくことが目指されています。

背景にあったのが、国をあげての洋上風力産業の推進。2020年に政府はカーボンニュートラルを宣言し、その推進力の一つとして洋上風力の将来ビジョンとして2030年に10 GW、2040年までに30~45 GWの導入目標を掲げました。そして、2024年春には秋田の4海域で事業者が出揃い、秋田県は大きな産業の創出に期待が高まりました。

多大な経済波及効果や雇用が期待された一方で、その経済効果が県外に多く流出することも考えられました。そこで県内の企業や雇用に最大限取り込みたいと、秋田銀行ではこの「洋上風力産業支援室」を立ち上げたのです。

もともと陸上風力にも株主として関わっていたために、そのノウハウもあり、将来的な洋上風力発電に対しても地元企業が参入できそうなところや課題などの勘所もあったそうです。新しい洋上風力産業支援室では、さっそく工事関係者の需要取り込みや地元企業の紹介を手掛けていきました。さらに人口減少に悩む秋田県にとって重要な雇用の創出、特に進学とともに都会に流出しがちな若年層にも魅力的な産業になる可能性を秘めています。

ポイント1:地域企業が関わる仕事を創出する

風力発電、特に洋上風力発電は専門的な知見が求められるため、経験の少ない地元企業が参入することは容易ではありません。洋上風力は海洋にかかわる新たな要素も含まれます。

従前から地域内の陸上風力発電に関与してきた秋田銀行は、将来的な洋上風力発電の展開を見据え、地域企業が既存の技術や資源を活かせる分野を特定し、その事業機会の拡大を目指しています。既に風車を港に置くための架台製造や、洋上風車まで工事関係者を運ぶ船舶の運航管理などの参入事例も生まれています。また、建設・製造や運搬に留まらず、関係者等の人流増加にともなう宿泊需要や食事提供など、多岐にわたる分野で地元企業が関与できるだろうと考えているそうです。

秋田銀行が出資する「株式会社A-WIND ENERGY 」の風車。新たな洋上風力の事業者にも、地元企業について相談される最初の窓口になられています。
© WWF-Japan

秋田銀行が出資する「株式会社A-WIND ENERGY 」の風車。新たな洋上風力の事業者にも、地元企業について相談される最初の窓口になられています。

風力事業者側も、地域資源を使う再エネ事業者として地元との共存共栄が最重要という意識が強く、なるべく多くの地元企業の参画を得たいという希望がありました。そのため、地元企業をよく知る地銀が仲介役となるのは歓迎されたとのことです。秋田銀行にとって、大手企業と一緒に地域企業との連携や地域貢献策を実施してく過程は非常にやりがいもあるとのことです。

秋田県内では、洋上風力発電を新産業として地域に根付かせるための取り組みが進められています。特に、洋上風力発電設備の建設後に継続的に必要となるメンテナンス事業について、これを地域内企業が担い、永続的な地元産業として成長させる動きが活発です。

この動きの一環として、2023年5月には、地元の漁業協同組合3者や県内企業が参画し、風車のメンテナンスを担う新会社「秋田マリタイムサービス」が設立されました。この新会社を業務の受け皿とし、出資企業や協力会社などの“オール秋田”体制でメンテナンス業務に取り組むことを目指しています。

このような地元が主導して事業に関与し、再生可能エネルギー事業を永続的な地元産業として育成する取り組みは、地元からの理解が得られやすい環境を育み、地域経済の活性化につながる道を開いています。

ポイント2:若年層にも魅力的な雇用を創出する人材育成

洋上風力の建設後にも継続的に地元の成長につなげるためには、雇用を広げていくことも肝要です。秋田県も他の地域と同じく、人口減少や若年層の流出に悩んでいます。特に県外に進学した若年層が、秋田県に戻ってきたいと思える仕事を増やしていくことも重要です。ところが、洋上風力は高度な専門知見を必要とするため、将来にわたっての雇用を地元で創出していくためには、人材育成も喫緊の課題なのです。

そのため、必要となる洋上風力発電の作業員や船員を育成する訓練センター「風と海の学校 あきた」が、日本郵船のコンソーシアムで、2024年4月に地元の高校である秋田県立男鹿海洋高等学校内で開所されたのです。ここでは作業員向け基本安全訓練や、船員向け基本安全訓練、シミュレータによる作業員輸送船などが学べます。年間1000人程度の訓練修了生を輩出するとともに、男鹿海洋高校の生徒や近隣の小中学生などにも開放されて、将来的な海事人材の育成にも貢献するということです (*1)

(*1) 風と海の学校あきた

すなわち秋田県内で、洋上風力の専門を学べる場があり、雇用の場も生まれ、さらに今後日本全国で必要となる洋上風力の人材も秋田でも育成されていくのです。すでに卒業生の一人が秋田県内で洋上風力関連産業に就職しているそうです。

洋上風力産業支援室の鈴木様・三浦室長・佐々木様。同室は洋上風力を手掛ける大手企業と対話し、頼られながら仕事する関係が積み上げられる部署だといいます。実は秋田銀行に就職活動する学生にも人気の部署だとか!
© WWF-Japan

洋上風力産業支援室の鈴木様・三浦室長・佐々木様。同室は洋上風力を手掛ける大手企業と対話し、頼られながら仕事する関係が積み上げられる部署だといいます。実は秋田銀行に就職活動する学生にも人気の部署だとか!

地銀から建設会社、教育まで多様なステークホルダーが、オール秋田で取り組むからこそ、洋上風力産業という再エネ産業を地域の成長につなげていくことができつつあります。秋田銀行の取り組みは、地域と共生し、地域経済と雇用に資する再エネ事業の進め方の指針となります。さらに県内に新たな産業の人材育成の場と雇用も創出が始まっています。


秋田銀行の取り組みは、地域経済の成長と魅力的な雇用拡大に資する再エネ事業の在り方に多くの示唆を与えています。資金供給という基本的な機能のみならず、信頼性の高さや地域の事情への精通、事業性評価の知見といった地方銀行の特性は、地域で再エネを導入する際に欠かせない要素となります。

 WWFジャパンでは引き続き、地域の成長につながる再エネ事業のカギとなる地方銀行の取り組みについて情報収集や調査を行なっていきます。2026年夏にはレポートとして公開する予定です。

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