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FSC認証を受けた森林管理が、熱帯林の野生動物保全に貢献

この記事のポイント
オランダのユトレヒト大学の研究チームは、2024年4月10日、国際的な科学ジャーナル『nature』で論文を発表。その中で、FSC®認証を受けたアフリカ中西部の熱帯林では、認証を受けていない森に比べ、より多くのニシゴリラやマルミミゾウなどの大型哺乳類が確認されたことを明らかにしました。WWFも支援したこの調査研究は、持続可能な森林管理の国際認証であるFSC認証に基づいた取り組みが、森林の生物多様性を保全する上で有効な手段となる可能性を示すものです。
目次

持続可能な森林利用を可能にする「FSC®認証」

世界各地で森林破壊が深刻化する中、その保全と持続可能な利用が大きな課題となっています。

特に、生物多様性が豊かであるにもかかわらず、消失の危機が深刻な熱帯林は現在、全体の4分の1が、「コンセッション(企業が国から商業目的の伐採権を取得した森)」で占められており、これがさらなる破壊の原因となることが懸念されています。

こうした問題への取り組みとして注目されるのが、森林環境や地域社会に配慮した、持続可能な森林管理に与えられる国際認証「FSC®認証」です。

FSC認証は、1993年の生物多様性条約の発効後、WWFなどの環境保全団体や先住民団体、林業に関係する企業が共同で設立した第三者機関Forest Stewardship Council((森林管理協議会)により運営されているもので、森林の現場で行なわれる森林認証(FM認証)を実施。

そこで生産された木材に他の非認証材が混ざらないよう、流通過程を対象にした認証(CoC認証)も行なうことで、信頼性の高いサプライチェーンの構築にも、大きく貢献しています。

1994年の設立以降、2024年3月までに、世界でFSC認証を受けた森林は計159万平方キロ。CoC認証は6万1,000件にのぼります。

© Jürgen Freund / WWF

FSCのFM認証を受けた森林で生産された木材。加工され、CoC認証を受けた製品にはFSCのラベルがつけられ、消費者にも一目で環境に配慮した木材・紙であることが分かる仕組みになっています。

ゾウやゴリラの生存にFSC認証が貢献

2024年4月10日に『nature』誌に発表された論文『FSC-certified forest management benefits large mammals compared to non-FSC』によれば、ユトレヒト大学の研究チームは、WCSのガボン事務局や現地の研究機関の協力と、WWFオランダおよびWWFドイツの支援のもと、アフリカ中西部のガボンとコンゴ共和国で、FSC認証を取得した森林と、認証を取得していない森林で比較調査を実施。

FSC認証を取得した5社と、認証なし6社の、企業11社が伐採権を持つ、14カ所のコンセッションの森林内で、474地点でのカメラトラップ調査を行ない、約130万枚におよぶ野生動物の画像データを入手、解析しました。

約4年間にわたる調査で確認された哺乳類は、ニシゴリラやマルミミゾウ、ヒョウ、アフリカゴールデンキャット、マンドリルなど計55 種。

そして、認証の有無で比較を行ったところ、下記のような傾向が明らかになりました。

  • FSC認証を受けたコンセッションでの哺乳類の出現率は、認証を受けていないコンセッションの、1.5倍高い
  • 特に、体重が10kg以上の中型・大型の哺乳類については、出現率が2.5倍~3.5倍高い
  • IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」で絶滅危機種に選定されている哺乳類の出現率は、2.7倍高い

これらの点から、FSC認証を受けた森が、より多くの野生動物、希少種にとって、重要なすみかとなっている可能性がうかがわれます。

© Michel Gunther / WWF

アフリカのコンゴ盆地を中心とした熱帯林に生息するニシゴリラ。森林破壊や感染症の拡大によって、絶滅寸前の危機にあります。

なぜ、適切な森林管理は生物多様性の保全に有効なのか?

FSC認証を受けた森が、認証を受けていない森に比べ、なぜ生きものが豊かなのでしょうか。

その根拠としては、次のような理由が考えられます。

  • FSC認証を受けたきちんと森林管理がなされている森には、密猟者が入りにくい
  • 自然の中で、植物の種子を広域に散布する役割を担っている、マルミミゾウなどの野生動物が多くいることで、多様な植生が維持される
  • 伐採企業が、森林や野生生物を保護する手段を講じている など

森林管理による効果と影響

FSC認証の基準では、森林の管理や伐採にあたり、地域の生態系への配慮を求めています。

たとえば、認証を受けたエリアでは、伐り出した木材などを輸送するための道路の幅などに制限を設けたり、伐採が終わった後は林道を閉鎖するなどの処置を行なっています。こうした対応は、密猟者が森の奥に侵入するのを防ぐ手立てになっています。

西アフリカでは食肉(ブッシュミート)利用を目的とした野生動物の捕獲や売買が盛んですが、厳しい森林管理がなされているエリアでは、地域住民との合意に基づいた代替タンパク源の支援などが行なわれている例もあり、こうした対応が密猟を抑えることにつながっています。

© WWF-International

コンゴ盆地の森に生息するウシ科の野生動物ピーターダイカー。適切な森林管理の実施は、こうした野生動物の密猟だけでなく、人と野生動物が直接、接触する機会を減らすことにもなるため、動物由来感染症(人獣共通感染症)が地域コミュニティに広がるリスクを低減させる上でも、重要な取り組みとなっています。

また、森林の伐採権を持つ企業が、独自にコンセッション内での保全に取り組んでいるケースもあり、こうした場所では、森林性のダイカーなどの中・小型草食動物の出現率が、保護区と変わらないとする指摘もあります。

認証を取得していないコンセッションでは、この出現率が大幅に低くなる点を考慮すると、森林管理の徹底が、森林や野生生物の保全に貢献する、大きなカギとなっていることがわかります。

動物たちが森を豊かにする

コンセッションの多くは2,000平方キロ以上の面積を持つため、FSC認証の基準に基づき、適切に管理できれば、森林景観の「分断」を防ぐことにつながる可能性があります。

これは、広い生息環境を必要とする大型哺乳類を保全する上で、重要な手立てとなります。

一方、こうした大型哺乳類の保全は、森林に利益をもたらすものでもあります。

たとえば、さまざまな植物の種子を食べるマルミミゾウなどは、森の中を広く移動しながら、これを糞と共に散布し、その発芽と拡散を助けます。

殊に、大型になる樹種の種子を散布する野生動物が多ければ、そうした植物の成長に伴い、その森林に貯蔵される炭素の量も増加します。

また、下草を踏みつけたり、低木をかき分けることで、林床にスペースや日光の差し込む余地を作ることにも貢献。植生の多様化を促進することで、そこに生きる野生生物の多様化にも一役買っているのです。

こうした生きものたちのつながりがもたらす、有機物と無機物の循環、捕食と被食の関係性は、健全な生態系を育むと共に、経済的価値の高い樹種の生育にも貢献するため、森林の管理や保全にかかるコストを上回る収益を生む可能性もあります。

© WWF-International

アフリカゾウの一種マルミミゾウ。アフリカの熱帯林を広く移動しながら、さまざまな植物を食べてくらしています。

OECMのカギになる森林管理の在り方

森林を保全する上で、最も優先すべき手立ては、保護区などの指定を通じて、手つかずの森林を守ることです。

しかし、森の全てを保護区に指定することは困難。そのため、コンセッションや私有地を含む保護区外の場所で、森の生物多様性をどう守っていくかは、重要な課題となってきました。

FSCの森林認証は、あくまで森林の持続可能な「利用」のための仕組みであり、利用や侵入を制限する保護区とは異なった土地管理の手段ですが、今回のユトレヒト大学の調査研究も示す通り、この仕組みを活用した適切な森林の管理や利用が実現できれば、これもまた森林や野生動物を守る、一つの手立てとなることが期待できます。


とりわけ、コンゴ盆地を中心とした、アフリカの熱帯林では、保護区に指定された地域が21%にとどまっています。ここに生息するチンパンジーとニシゴリラの分布域も、保護区に重なるエリアはわずか15%。そして、マルミミゾウを含む多くの野生動物の生息域は、大半がコンセッション内に広がっています。

アフリカの熱帯林の生態系を保全し、人と野生動物の共存を実現するためには、保護区のみに頼らない保全と、持続可能な人の暮らしを実現する必要があるのです。

こうした取り組みは、2023年の生物多様性条約・締約国会議(CBD-COP15)で合意された、生物多様性保全のための世界の目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で掲げられた国際目標「30by30」(2030年までに陸域及び内陸水域、海域及び沿岸域の30%以上を適切に保全する)にも通じるものです。

生物多様性条約では、30by30を実現するカギとして、保護区以外の保護地域を指定する手段として、「OECM(other effective area-based conservation measures:保護地域以外で生物多様性保全に資する地域」の指定と登録を推奨していますが、FSC認証に基づく管理が行なわれた森林環境は、まさにOECMをも包括する「保護区以外の地域での保全」の優良な事例となるでしょう。

今回の調査研究は、あくまでアフリカ中西部の熱帯林をフィールドに行なわれたものであり、他の地域の植生や気候、森林利用の在り方全てに通用するものではありません。

それでも、その結果は、適切な森林管理が生物多様性の保全に貢献する取り組みになり得ることを示す、貴重なものとなりました。

WWFでは今後も、森林保全の手段の一つとして、国内外でFSC認証の広がりを含めた、持続可能な森林・土地の利用を推進していきます。

引用・参考情報

natureのサイト(英語)
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07257-8

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