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気候変動に関するCOP28会議について

この記事のポイント
ほぼ全ての国が参加して脱炭素化に取り組むことを約束したパリ協定。パリ協定は今や世界経済を動かす世界共通のルールとなっています。そのパリ協定に関する国連会議COP28が、アラブ首長国連邦のドバイで、2023年11月30日から12月12日まで開催されます。このCOP28では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新報告をベースに、2035年の世界全体の削減目標についての議論や2022年末のCOP27で合意された「損失と損害」の基金の設立、化石燃料の段階的削減などが焦点となりそうです。
目次

最新情報

パリ協定の「実施」で問われる対策の強化

2015年に採択されたパリ協定は、2020年から本格的に実施の段階に入っています。世界の経済活動は、パリ協定に沿って脱炭素化を目指すことが通常となりましたが、世界の削減努力はパリ協定の長期目標である世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるためにはまだまだ足りません。

2023年は世界的に観測史上最も気温の高い年となるなど、気候危機はますます顕在化しています。2021年~2023年にまたぐ形で順次発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書は、気候変動が人為的活動を原因とすることには疑いがないこと、世界全体の平均気温の上昇を1.5度に抑えるためには、もはや一刻の猶予もなく対策の強化が必要であることが、改めて強調されました。
このような中、2023年11月30日から12月12日までアラブ首長国連邦ドバイで開催されるCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)には、大きく分けて3つの期待があります。さらに政府以外のアクターによるイニシアティブにも注目です。

  1. 初グローバルストックテイク(全体的な進捗評価)の実施と2035年目標
  2. 化石燃料エネルギーの段階的廃止に合意できるか?
  3. 「損失と損害」の資金組織の立ち上げ

その他注目点:非国家アクターの動き

1.初グローバルストックテイク(全体的な進捗評価)の実施と2035年目標

パリ協定の長期目標は、世界全体の平均気温の上昇を産業革命前と比較して2度に抑えることから、2021年のCOP26において事実上1.5度に強化されています。しかし現状各国がパリ協定へ提出している温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標(NDCと呼ばれる)は、1.5度はおろか、2度未満に抑えるにも全く足りておらず、現状のままでは2.4度以上上昇すると予測されています。いかに各国に削減目標を引き上げてもらうか。それがパリ協定をめぐる交渉の最大の焦点です。

パリ協定では各国がそれぞれ削減目標を自主的に決めることができるため、それらを自主的に引き上げていってもらう仕組みが入っています。それが5年という短い期間ごとに新たな削減目標を掲げるという5年サイクルの仕組みです。ここのカギは、次の期間の目標は以前の目標を上回ることが義務であることです。

5年ごとに各国に最大限の目標引き上げを検討してもらうために、世界全体でパリ協定の長期目標に照らしてどの程度達成できているか、その進捗を包括的に評価する制度であるグローバルストックテイク(日本語で全体的な進捗評価を意味する)が実施されます。各国はそのグローバルストックテイクの技術的な評価を受けて、それぞれ最大限の努力をすることになっています。

2023年9月に、これまで2年かかって実施されてきたグローバルストックテイクの技術的対話をまとめた統合報告書が出されました。

その中では、2023年3月に発表されたIPCC (気候変動に関する政府間パネル) の第6次評価報告書の統合報告書の内容を受けて、1.5度に抑えるために、温室効果ガスを世界全体で2030年に43%、2035年に60%削減(2019年比)が必要だと示されています。

COP28ではパリ協定始まって以来初めてのグローバルストックテイクの成果として、これらの科学的知見を受けて、いまだ足りていない2030年目標の強化と、次に提出する2035年目標を科学に沿った野心的な目標とするなど、世界各国に対して更なる脱炭素に向けた行動を促すメッセージがCOP28決定文書として合意できるかが焦点となります。

図1:1.5度に抑えるために2030年に43%、2035年に60%削減(2019年比)が必要と示す
出典:第1回グローバルストックテイク統合報告書
(Synthesis report by the co-facilitators on the technical dialogue)

https://unfccc.int/sites/default/files/resource/sb2023_09_adv.pdf (2023/9/8発表)

2.化石燃料エネルギーの段階的廃止に合意できるか?

温暖化の主な要因は、化石燃料からのCO2排出であるため、温暖化問題はエネルギー問題だと言っても過言ではありません。そのためCOPにおいてもエネルギーに関する合意ができるかも重要なポイントです。

実は2021年イギリス・グラスゴーにおけるCOP26における大きな成果の一つが、COP決定文書の中で「対策をしていない石炭火力発電の段階的削減」について合意されたことでした。国連の交渉では、特定の技術や燃料について方針を出すことはまれですが、石炭が最も温暖化を進めている化石燃料であるという世界的コンセンサスを元に、画期的な合意がなされたのです。

続く2022年のエジプト・シャルムエルシェイクのCOP27では、石炭火力発電のみならず、化石燃料全体の削減を打ち出せるかが期待されていました。島嶼国やEUなど80ヶ国が賛同したにもかかわらず、議長国エジプトはこれを重視せず、石油国の強い反対で合意を得られず、最終的にはCOP26の時と同じ表現にとどまったのです。深刻化する気候危機の中で、化石燃料からの移行について強いメッセージを打ち出すことに、COP27は失敗したことになります。

今回のCOP28は、石油産出国であるアラブ首長国連邦がホスト国です。まさに化石燃料の本拠地で開催されるCOP28で、化石燃料全体の段階的削減/廃止などに合意できるかは、世界の注目するところです。今のところ、アラブ首長国連邦のアル・ジャベルCOP28議長は「対策をしていない化石燃料の段階的削減は避けられず、不可欠である」と発言しており、期待されるところですが、予断を許しません。

化石燃料についての合意と同時に、アル・ジャベル議長は、再生可能エネルギーを3倍に、エネルギー効率を2倍に、といった呼びかけもしています。温暖化の主な要因として、COP会議においてエネルギーに焦点が当たった議論がなされることは注目に値します。

3.「損失と損害」の資金組織の運用化

2022年のCOP27において、当時の議長国エジプトが最も力を入れたのが、温暖化による「損失と損害」でした。損失と損害とは、温暖化によって、もはや防ぐことのできない破壊的な被害がもたらされていることに対し、どのように対応していくかというものです。

近年はパキスタンの大洪水などをはじめとして、世界各地で猛暑や洪水、干ばつによる森林火災が相次いでいます。特にその被害は、アフリカや中央アジア、小さな島国などの後発開発途上国に大きなダメージを与えており、その多くは自力ではなすすべもありません。これらの後発開発途上国はそもそも開発が進んでいないので、温室効果ガスを排出しておらず、温暖化に対する責任はほとんどありません。そのためパリ協定の下で、国際社会の公正な支援を強く求めています。
実はパリ協定の8条として定められている「損失と損害」は、先進国の立場からすれば、ともすれば気候変動で発生した被害に対する補償責任につながるため、できる限り専門的な知見の面での支援だけに限りたいと考えています。そのため、これまで「損失と損害」に対する資金支援の話は全く進んでいなかったのですが、それがCOP27では、とうとう「損失と損害」に対して新たな資金組織を立ち上げることが決定されたのです。パリ協定では決められなかった「損失と損害」に対する資金支援のファンドが立ち上がる決定がなされたことは、歴史の転換点といっても過言ではありません。その資金支援のファンドが、今回のCOP28で設立されることになっています。

しかし問題は山積みです。中でもどの国が資金支援対象になるのかと、資金の出し手はどうなるか、といった点の交渉が難航することが予想されます。
前回のCOP27では、資金支援の対象国として欧州連合などの先進国側は、温暖化の影響に脆弱な後発開発途上国に限る、といった主張をしていましたが、途上国側が強く反発して、最終的に「途上国、中でも脆弱な国々」といったあいまいな表現で合意されました。そのためどの国が支援対象になるのか、という議論はCOP28で再燃することが予想されます。

またこの損失と損害ファンドに、どうやって資金を集めるか、というのも大きな焦点です。損失と損害ファンドの資金の出し手は、先進国も含めて、既存の資金メカニズムや多国間・二国間組織、NGOから民間まで幅広く想定されており、気候変動に関する国連基金では初めて、革新的資金メカニズムも検討されることになっています。

その他COP28では、気候変動の影響が顕在化する中で、その影響に対する「適応」対策についての世界的目標を作成すること、排出量削減対策や適応対策に必要な「資金」の流れについて、2025年以降の目標に合意すること、市場メカニズムのルールを決める6条の具体的なやりかたなども重要な論点です。

交渉「外」でのイニシアティブ/パートナーシップ等の発表

最後に、交渉の「外」で発表されるイニシアティブやパートナーシップの発信にも注目です。近年のCOPでは、国連会議としての正式な合意とは別に、会期中に自主的に国を超えた有志で発表される様々なイニシアティブやパートナーシップ等の発表も重要な要素となっています。それは、各国政府だけでなく、非国家アクターと呼ばれる企業、自治体、市民団体、消費者団体、労働組合など、様々な主体が互いに連携して発表されるケースが増えています。

中でもCOP27では、国連グテーレス事務総長のリードの下、専門家会合によって発表されたネットゼロの提言書が注目されました。これは企業、自治体、その他の非国家アクターのネットゼロ宣言がグリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)とならないための基準が書かれたものです。

10項目からなる提言書には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示す1.5度シナリオに沿うネットゼロ目標のもと、5年ごとの計画を公開し進捗を管理することのほか、カーボンクレジットは自組織の削減目標に使ってはならないこと、化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの増加を目標に含むこと、自組織と異なる方針を持つ所属団体に積極的な気候変動対策を求めることなどが含まれます。急速な高まりを見せてきた非国家アクターのネットゼロへの削減策は、その質が問われるようになる一つのきっかけとなりました。

そのほか、GFANZと呼ばれる世界の機関投資家連合による様々な基準書の発表など、政府間の交渉の外でも、事実上世界経済を動かすような発表が相次ぐのが昨今のCOP会議なのです。

WWFネットワークは今回のCOP28では以下の成果を期待しています

WWFが考えるCOP28からの重要な成果:

  • 1.5度目標を達成するためのより強力なNDC(国別貢献目標)への強化を可能とする、成功したグローバルストックテイク
  • 2050年までの化石燃料の段階的廃止に関する決定
  • 損失と損害ファンドの完全な運用化と、約束された資金の提供
  • グローバル適応目標に関する包括的な枠組み、グローバル目標と指標、および実施手段に関する決定
  • 先進国から途上国からの公的・民間合わせた資金動員を、年間1000億ドルを超える水準に拡大すること
  • すべての民間および公的資金の流れが気候目標と調和すること

日本について言えば、今回のCOP28での上記の6つの分野それぞれにおいて建設的な貢献をすること、世界の脱炭素化潮流を受け止め、国内対策の議論に反映させていくこと、特に、不十分なGXのカーボンプライシングの規制化などの強化、それに石炭火力発電所の段階的廃止を含む化石燃料全体の削減が加速されることが必要です。

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