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気候野心サミット2023での不在が語る日本の遅れ

この記事のポイント
2023年9月20日、国連で開催された「気候野心サミット2023」。そこには世界に先駆けて野心的な気候変動対策に取り組む各国・非国家アクターの代表者たちが集まりました。他方、そこには日本を含む温室効果ガス排出量の多い国々の姿は無く、化石燃料に依存する現状も相まって各国の取り組みの不十分さも改めて浮き彫りになりました。同サミットでの議論の概要を紹介するとともに、日本の取り組むべきことについて解説します。
目次

気候野心サミット2023のハイライト

2023年9月20日、アメリカのニューヨークにある国連本部で「気候野心サミット2023(Climate Ambition Summit 2023)」が開催されました。
そこに集ったのは、世界に先駆けて野心的な気候変動対策に取り組む、各国や非国家アクターの代表者たち。グテーレス国連事務総長に「最も先行して行動・実践する者たち(First movers and doers)」として見込まれ、サミットに招かれた人々です。

今回のサミットのテーマは、再生可能エネルギーを基盤として、気候変動に対して強靭な経済への公正な移行を、スピードと規模の両面で加速させるために世界が何をするべきか。

これについて、参加者の間では活発に意見が交わされたほか、個別のテーマのためのセッションも設置されました。気候変動の影響に備える適応策でさえ防げない被害に対応するための「損失と損害」については資金拠出のあり方が議論されました。その他、企業などが示すネットゼロ誓約の信頼性向上、気象災害リスクの高まりを住民に前もって知らせる早期警戒システムの途上国での普及・拡大、蓄電池の普及といった脱炭素化の更なる加速が話し合われました。

こうした議論の中、いくつか明るい兆しも見られました。例えば、ブラジルは排出削減目標を引き上げるとともに、2030年までに国内での森林破壊をゼロとすることを約束しました。また他の国々からは、途上国の気候変動対策を資金面で支援する「緑の気候基金」への拠出がコミットされています。

しかし一方で、現状の対策の遅れや不十分さに対する強い危機感も示されました。主に次の2点が挙げられます。

(1) 多排出国における気候変動対策の加速の必要性

今回のサミットでは、気候変動対策の強化を打ち出すことが参加に当たっての要件とされ、高いハードルが設けられました。その結果、温室効果ガスの排出量の多い国々はほとんど参加できず、気候危機を回避する上で求められる取り組みとの間に、大きなギャップが依然として存在することが浮き彫りになりました。

他方で、グテーレス国連事務総長は、世界各地で異常気象による災害が頻発している状況を踏まえて、「人類は地獄の門を開いてきた」と表現。そして、最も苦しんでいるのは、過去にほとんど排出してこなかった貧困国・途上国であると指摘しました。こうした不公平さを背景として、気候野心サミットでは、特に先進国が2040年に可能な限り近い時点でネットゼロを達成できるよう、排出削減を進めるよう求めました。

(2) 化石燃料からの脱却が遅れる国際社会への警鐘

グテーレス国連事務総長はまた、化石燃料による利潤を求める強欲さから、再生可能エネルギーへの移行が何十年も遅れていることを指摘。その上で、OECD加盟国に対して、2030年までに石炭火力発電から脱却するために、信頼に足る計画を持つべきことを求めました。

加えて、参加したカリフォルニア州知事は「気候危機は化石燃料による危機だ」と表現したほか、世界通貨基金(IMF)は2022年の間に世界全体で7兆ドルもの「補助金」が化石燃料に投じられたことを示しました。

多排出国から化石燃料の段階的廃止に向けたコミットが示されないなど、化石燃料に依然として依存し続ける国際社会に対して強い危機感が示されたと言えます。

化石燃料から再生可能エネルギーの普及や途上国での取組みへ、資金の流れを大きく変える必要があります。
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化石燃料から再生可能エネルギーの普及や途上国での取組みへ、資金の流れを大きく変える必要があります。

存在感が皆無だった日本

今回のサミットに日本の政府代表の姿はありませんでした。その原因が、上述の参加要件を満たせなかったのか、日本政府の説明するように日程の問題だったのかは、定かではありません。

いずれにせよ、日本も政策の遅れが改めて浮き彫りになったことは明らかです。その傾向が最も顕著な分野が、化石燃料の段階的廃止に対する取り組みです。

(1) 化石燃料への「補助金」を続ける日本

先述したとおりIMFは、各国政府の政策の実施・不実施によって化石燃料の価格が本来あるべき価格より下げられた結果、世界全体で7兆ドルが化石燃料の利用を促す「補助金」ともいえる形で用いられたことを示しました。当然これは日本も無関係の話ではありません。

IMFのデータ(※)では、2022年における日本の化石燃料への「補助金」は総額3,100億ドルであり、GDPの6%を占めるとされます。また石炭については約400億ドル、うち発電用は185億ドルでした。

化石燃料全体と石炭の両方について、日本はG7の中でアメリカに次いで2番目に多い金額の補助金を支出しています。さらに世界の中でも、化石燃料全体に対する「補助金」総額は5番目、石炭は7番目に多い状況です。これらを鑑みると、日本は世界の中でも化石燃料への「補助金」が多い部類に入るといえます。
(※)International Monetary Fund (2023), “Fossil Fuel Subsidies by Country and Fuel Database”

G7の中でも、日本はアメリカとともに化石燃料への「補助金」が多い状況です。
IMF (2023), “Fossil Fuel Subsidies by Country and Fuel Database”よりWWFジャパン作成。

G7の中でも、日本はアメリカとともに化石燃料への「補助金」が多い状況です。
IMF (2023), “Fossil Fuel Subsidies by Country and Fuel Database”よりWWFジャパン作成。

(2) 排出削減目標の強化と石炭火発の段階的廃止は最低限の責務

今回の気候野心サミットでは、化石燃料への一層の危機感が示されました。2023年末の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)に向けて、その段階的廃止を求める機運の高まりが予想されます。他方、石炭火力発電の段階的廃止すら道筋をつけられていない日本は、このままでは更に周回遅れとなり、国際社会での存在感を低下させてしまいます。それを避けるためには、次の2つの取組みが不可欠です。

第1に、2023年内に、各国の排出削減目標などを定めた国際約束「国が決定する貢献」(NDC)の改定・引上げに向けた議論を早急に開始するべきです。

パリ協定の下、日本も含む各国はNDCを5年ごとに改定し、削減目標を引き上げなければなりません。次の新しいNDCは、2025年末のCOP30の9~12か月前には提出することが求められます。日本が社会での広い議論を基にNDCを改定するには、遅くとも2023年末には検討が始まっている必要があるのです。

その際には、まず2030年までの目標を少なくとも「50%の高みを目指す」とした50%以上に目標と施策を強化していくこと、そして2035年までに温室効果ガス排出量を世界全体で2019年比60%削減すべきという、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の科学的知見に整合した次の2035年NDCの議論を開始することが求められます。また同時に、歴史的排出責任のある先進国として、少なくとも2035年60%以上のNDCの設定を検討するべきです。

また、今回グテーレス国連事務総長が述べたように、カーボンニュートラルの達成時期を2040年近くまで前倒しすることも、議論の俎上に載せられるべきです。
 
第2に、日本国内においては、排出削減対策のとられていない石炭火力発電を、2030年までに段階的に廃止できるように目標・計画を直ちに策定するべきです。

2024年の秋ごろにエネルギー政策の基礎をなす「エネルギー基本計画」の改定が見込まれます。上記の国際的潮流を鑑みれば、その内容に、石炭火力発電の段階的な廃止に向けての目標・計画を盛り込むことは最低限必要でしょう。また、世界と歩調を合わせて日本も、石炭のみならず化石燃料全体の段階的廃止に向けた道筋を描くことも求められます。

サミット参加国からは「(化石燃料を燃やすための)煙突を消し去る必要がある」との声も。
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サミット参加国からは「(化石燃料を燃やすための)煙突を消し去る必要がある」との声も。

グテーレス国連事務総長はスピーチの中で、「今回の1回のサミットで世界は変わらない」としつつも「未来は我々の手中にある」と、これからの気候変動対策を鼓舞しています。そしてこのサミットが、2023年11月末からアラブ首長国連邦のドバイで開催されるCOP28に向けて、機運を高めるきっかけになり得るとしています。

そのCOP28の注目点の1つが、パリ協定の掲げる国際目標に向けた進捗状況を把握する「グローバルストックテイク」。これまでの専門・実務的な評価に基づいて、NDCの引上げをはじめとした気候変動対策の更なる強化へ、政治的メッセージを打ち出すことが各国に期待されます。

このように、「パリ協定」の掲げる「1.5度目標」を達成した未来を実現するために、世界は取り組みを加速させ続けているのです。責任と能力を有する先進国の一員として日本も、まずは上記2点を実施することが最低限の責務と言えるでしょう。

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