© Shutterstock/Denis Vrublevski/WWF

【開催報告】企業向け森林セミナー第2回 日本のFSC®認証林で実施したLEAPアプローチの検証結果

この記事のポイント
ネイチャー・ポジティブを実現していくために、企業や投資家の役割や行動の重要性に注目が集まり、2023年9月には、企業活動と自然の接点に関する情報開示の新たな一歩となる「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」のフレームワーク」が公開される予定です。公開に先駆けて、WWFジャパンは南三陸森林管理協議会とパイロットテストを実施。報告会を2023年8月3日に開催し、約400名の方々にご視聴いただきました。また、2023年8月30日には、本パイロットの結果を取りまとめた報告書「TNFDが求める開示 企業と自然との依存と影響 -南三陸のFSC®認証林を事例に-」も発表しました。
目次

生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せていくことを目指すいわゆるネイチャー・ポジティブを実現していくためには、地球上のあらゆる人々が行動をとらなくてはいけません。そうした中で、企業や投資家の重要性に注目が集まっています。

企業や投資家の重要性は、国連の会議(生物多様性条約第15回条約国会議(CBD・COP15))でも言及されており、本会議で採択された国際目標「昆明・モントリオール枠組み」には23個の目標が掲げられ、その中の一つである目標15では、企業や金融機関に対して、生物多様性へのリスク、依存、影響を評価し、開示することを求めています。

TCFDからTNFDへ:炭素排出と自然関連情報

この目標とも関連深いのが、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」と呼ばれるフレームワークです。

生物多様性分野よりも先行する気候変動分野では、「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」が策定され、こちらは既に東証プライムに上場する企業には事実上の開示義務が課されています。TCFDのいわば「自然版」として2021年に設立されたTNFDも、有力な開示の枠組みとして期待されており、2023年9月に正式版が公開される予定です。いよいよ企業と投資家によるネイチャー・ポジティブに向けた新たな一歩が開始されようとしています。

しかし、自然関連情報が脱炭素に関する情報開示と大きく異なる点があります。それは、自然の情報は特定の場所に紐づいているからです。例えば、典型的な企業と自然の接点は原材料の調達ですが、原材料が生産された地点をたどり、その「場所」における自然と事業との関わりを評価することは容易ではありません。

TNFDでは、このような原材料生産の「現場」における自然関連の情報について、LEAPという枠組みを用いて収集し、依存とインパクトを明らかにしたうえでリスクや機会を分析し、開示のベースとすることを提案しています。

LEAPの使用が必須ではないものの、実際に現場でどのようにLEAPや類似のプロセスを運用して自然と事業活動との関係性をつまびらかにできるのか、という点がTNFD開示の肝であると言っても過言ではありません。

FSC®認証林で実施したTNFDのパイロットプロジェクトの報告

WWFジャパンでは、自然資本の中でも特に「森林」と、森林に大きくかかわる産業である「林業」の現場で、LEAPを通してTNFDの開示要求に対しどのような情報を引き出しうるのか、宮城県南三陸森林管理協議会のFSC®認証林にてパイロットプロジェクトを実施し、検証を行いました。

上記パイロットプロジェクトの結果を取りまとめたレポートはこちら

また、2023年8月3日には、同パイロットプロジェクトの結果を報告するため、今回のパイロットの部隊となった南三陸森林管理協議会の佐藤太一氏とともにウェビナーを実施しました。

本セミナーでは、パイロットテストから得られた結果や考察の紹介とともに、TNFDとFSCの「親和性」についての検証結果を報告しました。

FSC®認証を取得している南三陸森林管理協議会の森は明るく、下層の植生が繁茂している。
© WWF Japan

FSC®認証を取得している南三陸森林管理協議会の森は明るく、下層の植生が繁茂している。

プログラムと各スピーカーの講演資料はこちら

第1部 講演 「パイロットテストの概要」
橋本務太 (WWFジャパン 金融グループ長)
(講演資料1)

第2部 講演 「南三陸町のFSC認証林でTNFDのLEAPアプローチを実施した結果」
佐藤太一 (南三陸森林管理協議会 事務局長、株式会社佐久 専務取締役)
天野陽介 (WWFジャパン森林グループ)
(講演資料2)

第3部 講演 「FSCとTNFDとの親和性検証結果」
相馬真紀子 (WWFジャパン 森林グループ長)

【第1部】「パイロットテストの概要」

はじめに、TNFDと今回検証したFSC®認証の概要を紹介しました。TNFDの暫定版では、バリューチェーン下流の企業が開示するために作成された「開示推奨項目」がある他に、いくつかのガイダンスが作成されています。中でも開示推奨項目に必要な情報を収集するための手順はLEAPと呼ばれています。実際にTNFDの正式版が発表されると、バリューチェーン下流の企業はさまざまな方法で情報収集に走ることが想定されますが、おそらく中にはこのLEAPに沿った内容を一次生産者に問い合わせるといったケースもあり得ます。そこでWWFジャパンが実施したパイロットテストは、問い合わせを受け取った一次生産者が、仮にFSC®認証を取得していた場合に、どういった情報を応えられるかを検証しました。

実際にTNFDが動き出すと、想定される社会の動き
© WWFジャパン

実際にTNFDが動き出すと、想定される社会の動き © WWFジャパン

【第2部】「南三陸町のFSC®認証林でTNFDのLEAPアプローチを実施した結果」

第二部は、FSC®認証を取得している南三陸森林管理協議会がLEAPに沿って作成された質問票を受け取ったと仮定し、それぞれの質問に対してどのような作業が発生し、どういった内容を答えることができたかを紹介しました。FSCとTNFDは大きな整合性が確認された一方で、全ての情報をそのまま使えるわけではなく、TNFDの定義への紐づけや、優先度の重みづけ分析といった追加作業が必要でした。こうした作業は、林業経営を強化するためにも有効だったと協議会の佐藤氏は語っていました。また、生産者がLEAPを実施することで、バリューチェーン下流企業が求めている情報を提供できるだけでなく、生産者自身が今後のビジネスに活用するといった2つ活かし方があることも、本パイロットテストを通じて分かりました。

LEAPを実施して抽出した情報をイラスト化した南三陸森林管理協議会の森林管理

LEAPを実施して抽出した情報をイラスト化した南三陸森林管理協議会の森林管理 © WWFジャパン

【第3部】FSCとTNFDとの親和性検証結果

FSC®認証林にはTNFDのLEAPプロセスに必要な依存、インパクト影響、リスク、機会の元になる情報が概ね存在し、特に自然関連のリスクには一定の配慮があることが確認できました。

ネイチャー・ポジティブの実現には、認証を越えた取組みが必要といった意見もありますが、それは認証が不要という意味ではありません。生物多様性やネイチャーの関連で様々な手法が登場していますが、FSC®は世界中の林産物生産・調達の現場で30年近く使われてきた歴史と、現場でのノウハウの蓄積があります。FSC®のような信頼性の高い認証はリスク管理のツールとして、森林や海洋、淡水域などの自然生態系や人権をネガティブな影響から守るために、引き続き有用と考えられるでしょう。FSC®以外の認証(RSPO、ASC、MSC)についても、LEAPとの整合性が明らかになることを期待します。

最後に、LEAPの実施をとおし、現場の情報に触れることの重要性を再確認することとなりました。大企業や金融機関がバリューチェーン最上流の情報をすべて把握することは現実的ではないかもしれません。しかし、自然関連の情報は場所に紐づくからこそ、優先度の高い地域では現場の情報を把握することで、リスクや機会を見逃す可能性を格段に減らせると考えられます。今後TNFDの開示を進めていく企業は、バーチャルな自然関連の情報も活用していくことになると思いますが、現場を見ることも大切なのです。原材料調達におけるトレーサビリティの追求は一層重要となっていくでしょう。

WWFジャパンでは今後も、このようなセミナーを通じて、持続可能なビジネスへのヒントとなる情報を発信していきます。

【イベント概要】

タイトル: WWFジャパン 企業向け森林セミナー②
     TNFDパイロットテスト報告会
     日本のFSC®認証林で実施したLEAPアプローチの検証結果
日時:2023年8月3日
場所:オンライン開催
参加者数:約400名
主催:WWFジャパン

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP