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【開催報告】WWF・JSCI共催セミナー:繊維産業に求められるサステナビリティとは? ~水リスクとコットンについて考える~

この記事のポイント
WWFジャパンとJSCI(Japan Sustainable Cotton Initiative)は、2023年5月10日、繊維産業やコットンの課題と企業やNGOの取り組み、トレーサビリティの重要性や国際的な認証制度を用いたサステナブル調達のあり方を紹介するセミナーを開催しました。 衣料品の約98%を輸入に頼っている日本企業と消費者には、原材料や製品の生産現場の水環境や人々の暮らしに責任があります。 その責任をどう果たしていくのか。繊維産業のサステナビリティのあり方を考えた、セミナーの内容を報告します。
目次

2023年3月、46年ぶりとなる「国連水会議」が開催され、大きな注目を集めました。
今、この会議が開かれたのか。その背景には、世界の人々の暮らしや、さまざまなビジネスに深刻な影響を及ぼしている「淡水」の危機があります。

そこで、WWFジャパンとJSCI(Japan Sustainable Cotton Initiative)は、2023年の「コットン(綿花)の日(5月10日)」に合わせ、繊維産業やコットンにかかわる課題と、それに対する企業やNGOの取り組み、さらにトレーサビリティの重要性や国際的な認証制度を用いたサステナブル調達のあり方を紹介するセミナーを開催しました。
※JSCIは一般社団法人「M.S.I.」、認定NPO法人「フェアトレード・ラベル・ジャパン(FLJ)」、一般社団法人「ソリダリダード・ジャパン」、一般社団法人「日本サステナブル・ラベル協会」、一般社団法人「持続可能なサプライチェーン研究所」の5団体で構成されるイニシアチブです。

「繊維産業」は原材料の生産や加工、染色の工程で、大量の淡水を消費し、汚染の原因となっている産業。また、主原材料の一つであるコットンは、生産に際して多くの淡水を利用する作物です。

この繊維産業が今後、サステナビリティをどう確立していくのか。その試みは、世界の水環境の劣化をくい止め、その持続可能な利用を実現していく上で、大きな責任と可能性を持つものであり、自然環境のみならず、労働環境や人権等、SDGsの目標にも深く関係する取り組みでもあります。

衣料品の約98%を輸入品に頼っている日本の企業と消費者には、その原材料や製品の生産現場である、海外の国々の水環境や地域の人々の暮らしに、確かなかかわりと、責任があります。

本セミナーでは、その責任をどう果たしていくのか。特に、企業の水の取り組みや、サステナビリティを証明する国際認証の仕組みとその活用の実例を紹介しながら、参加者の方々とご一緒に考えました。

開催概要

会議名:WWF・JSCI共催セミナー:繊維産業に求められるサステナビリティとは? ~水リスクとコットンについて考える~
日時: 2023年5月10日(水) 13:30~17:20
場所:  STUDIO VIZ EBISU ※ウェブ同時配信
参加者数:会場30名 オンライン視聴215名
主催:WWFジャパン、 JSCI (Japan Sustainable Cotton Initiative)
企画運営:WWFジャパン、JSCI
総合司会:持続可能なサプライチェーン研究所 代表理事 吉田 秀美氏

プログラム

開会の挨拶 (Textile Exchange アンバサダー 稲垣 貢哉 氏)

第一部:水課題に対する繊維産業の取り組み
世界の水課題と繊維産業  繊維関連企業によるWater Stewardship活動
WWFジャパン (淡水グループ繊維担当 小林 俊介)

水保全の取り組みと持続可能な原材料調達
H&M へネス・アンド・マウリッツ・ジャパン株式会社 (CSR/サステナビリティ・コーディネーター 山浦 誉史 氏)

原材料生産地での水負荷の削減と環境再生型農業の推進
ソリダリダード・ジャパン (事務局長 楊 殿閣 氏)

第二部:国際認証とサステナブル・コットンの調達
繊維産業における持続可能な調達の取り組みの重要性と国際認証
日本サステナブル・ラベル協会 (代表理事 山口 真奈美 氏)

繊維産業における人権対応とフェアトレード調達
フェアトレード・ラベル・ジャパン (事務局長 潮崎 真惟子 氏)

オーガニックテキスタイル国際認証GOTSの最新動向とサプライチェーンの水負荷の削減
Global Organic Textile Standard 【GOTS】(GOTSジャパン・リプレゼンタティブ 松本 フィオナ 氏)

日本の繊維企業によるGOTS認証の取得事例の紹介
丸三産業株式会社 (開発本部本部長 藤本 透 氏)

第三部:パネルディスカッション
ファシリテーター:Textile Exchange
パネラー:H&Mジャパン、丸三産業、スタイレム瀧定大阪株式会社(業務推進部 環境品質管理室 室長 森田 芳弘 氏)、日本サステナブル・ラベル協会、WWFジャパン

閉会の挨拶 WWFジャパン

(*講演者 敬称略)

各講演の概要

開会挨拶

稲垣貢哉(Textile Exchange アンバサダー)
会議の冒頭では、 Textile Exchange アンバサダーの稲垣貢哉より、開会の挨拶がありました。
稲垣氏は、本日の会議にオンラインで申し込み約300名、会場に約30名と多くの方にご参加いただき、水と繊維のサステナビリティについて、多くの方の関心があることがわかって嬉しいと述べました。 JSCI(Japan Sustainable Cotton Initiative)はジャパンサステナブルコットンイニシアチブを推進している団体であり、フェアトレード・ラベル・ジャパンなどさまざまな団体が加盟していることを紹介しつつ、現状ではサステナブル・コットンが日本ではまだまだ普及していない現状を伝えました。今回のセミナーで得た知見を周囲の方に伝えて頂き、「常識を超えて」コットンの課題、ひいては環境や社会の課題に一緒に進んでいこうと締めくくりました。

第1部 水課題に対する繊維産業の取り組み

世界の水課題と繊維産業 繊維関連企業によるWater Stewardship活動

WWFジャパン  小林俊介

小林からは、世界の水リスクや企業にとっての水リスクの課題、そして繊維産業とコットンが与える水環境への影響について、話題提供しました。
まず、特に淡水域の野生生物の減少率が陸域や海域に比べて非常に高いことを説明。また地球上の水のなかでも淡水はそのわずか2%しかなく、今後も人口増加などによりその需要は増えていくことから、水のリスクがますます高まっている点を挙げました。加えて、繊維産業やコットン生産と水の関わり、水のリスクについて解説をしました。また、企業の水リスクを考える際にも、繊維産業の拠点のみならず拠点のある流域全体で水リスクの軽減を捉える責任ある水の利用管理(Water Stewardship) の重要性を指摘しました。実際の事例としてトルコで行われているコットン・繊維のプロジェクトを紹介し、現地の生産者だけなく海外のブランドと一緒に活動をおこない、資金提供のみならず課題解決の議論からともに行うことが重要だと訴えました。最後に小林から、こうした水に関する課題に対して、繊維産業のみなさまと出来ることを共に考えるきっかけとしたいというメッセージが投げかけられました。

水保全の取り組みと持続可能な原材料調達

H&M ジャパン・CSR/サステナビリティ・コーディネーター 山浦誉史

H&M ジャパンでCSR/サステナビリティ・コーディネーターを務める山浦氏からは、水資源とコットンについて企業として実施していることの一例をお話いただきました。
水資源の保全について取り組む理由として、水リスクの管理に取り組まなければ、パキスタンの大洪水のような甚大な被害がでかねないことや、大手ファッションリテール事業は、たくさんの生産地や農家との繋がりがあり、災害等の影響は自社の生産にも大きく影響を与えることを挙げられました。
H&Mでは、企業の成長と水資源消費を切り離すことを掲げて、新たな水資源戦略の策定と絶対使用料の30%削減を含めた2030年までの水資源戦略を設定していることにも言及。また、H&Mで使用している素材のなかでも61%を占めているコットンについても、100%リサイクルまたはサステナブルに調達されたコットン使用の実践を強調し、リサイクルコットンの使用量拡大やリジェネラティブコットンといった新しい領域での今後の取り組みについても言及しました。

原材料生産地での水負荷の削減と環境再生型農業の推進

一般社団法人ソリダリダード・ジャパン事務局長 楊殿閣

ソリダリダード・ジャパンの事務局長である楊氏からはコットン原料の生産地の課題について、またその課題解決に向けての取り組みについてお話いただきました。ソリダリダードは1969年に創設された国際NGOで世界40か国以上で活動を展開しており、小規模農家の支援を中心に持続可能な農産品サプライチェーンの構築を目指しています。
コットンのサプライチェーンが長大で、サプライチェーンの下流に位置する消費国の日本ではなかなかイメージがわかない生産地の状況について、インドで実際に行なっている支援活動の事例を交えて課題およびその改善策について説明しました。2018年から20,000農家を対象に、水の効率的な利用による綿花生産方法のトレーニングと生産者組合の能力開発研修を実施しました。そして2021年から8,000農家を対象に、環境再生型農業の導入を行なう中で、土の再生が土壌の保水力や綿花の収穫量・収益性、生物多様性・農地炭素吸収などの向上につながることを報告しました。
今後は水の資源保全と農業の生産改善の両立を推進するために、様々なパートナーと一緒に支援活動のスケールアップを邁進していきたいと述べました。

第2部 国際認証とサステナブル・コットンの調達

繊維産業における持続可能な調達の取り組みの重要性と国際認証

一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会 代表理事 山口真奈美

山口氏からは、サステナブル・ラベルの仕組みや繊維産業における調達にサステナブル・ラベルの果たす役割についてお話いただきました。
山口氏は日本サステナブル・ラベル協会の活動紹介として、国際認証ラベルを総称してサステナブルラベルとして日本における普及啓発を行なっていることなどを説明。また近年、児童労働など人権侵害への対応が各国で進められている現状を紹介し、持続可能な製品の流通やルール策定がヨーロッパを中心に進んでおり、今後更に主流となっていくことに言及しました。そういったなかでスキームオーナー、第3者認証機関、認定機関の3者によって認証されるサステナブル・ラベル認証制度は、透明性や公平性が担保されており、客観的および科学的なエビデンスをもとに認証をうけられるシステムであることから、消費者への製品に関する情報の可視化につながり、企業にとってもメリットとなることを説明。
最後に、「買い物は未来への投票」であることを掲げ、認証をツールとして活用することで責任ある調達やサプライチェーンの可視化の必要性を強調して締めくくりました。

繊維産業における人権対応とフェアトレード調達

認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長 潮崎真惟子

潮崎氏はコットン生産の現状について、世界の耕作地の2.1%を占める大きな産業であり、小規模農家がその生産者の大半を占めることや、児童労働、強制労働が発生しやすい状況にあること、また買取価格が不安定なこともこういった人権の課題につながっていることを指摘。潮崎氏はフェアトレード認証は経済、社会、環境の3つの側面から認証基準を捉えていることに言及し、さらにプレミアムと呼ばれる資金について、取引量に応じて買い手から生産者に支払われるルールであり、現地で使途を決定し現地の課題解決に活用されていると紹介しました。近年SDGsや人権への注目もあり、フェアトレード市場は前年比24%増と日本の市場にまだまだ伸びしろがあることにも言及。最後に、フェアトレードは人権尊重のうえに成り立つが、自然環境への配慮は人権の尊重と相互に関連しあっていてこれらの課題に対しての総合的な視点、アプローチが重要との見解を述べました。

オーガニックテキスタイル国際認証GOTSの最新動向とサプライチェーンの水負荷の削減

GOTSジャパン・リプレゼンタティブ  松本フィオナ

松本氏はオーガニックテキスタイルのための世界的な加工基準であるGOTSの認証方針や最近改訂が行われた認証基準についてなどGOTSの最新動向についてお話くださいました。GOTSはオーガニック原材料から作られたテキスタイルの製造加工に対する基準であり、加工製造、流通までのサプライチェーン全体が認証範囲であることを紹介しました。求められる要件として、認証書の管理を含む記録を保持していることや、認証製品とその他の製品の分離と識別が実施されていること、全てのプロセスで社会的及び環境的要件が満たされていることなどを挙げました。さらに、ケミカルの管理、廃水管理、そして環境管理方針を要求事項に含めることで、水負荷の軽減もカバーしていると説明。2022年末には全世界で13,548件の認証施設が認証機関より報告されたと発表しました。GOTSは3年に一度基準の改訂が行われており、今回改訂されたGOTS7.0においては、パブリックコメントを公募してオープンなプロセスで協議を実施するなど透明性を重視していることを強調。今回の改訂で注目する点として、認証事業者自身の事業とそのサプライチェーンについて、リスクベースのデューデリジェンスを実施するための新たな要求事項を導入したことを挙げ、最後に水負荷の削減を含む人権・社会的・環境的影響に関するリスクを軽減する包括的なソリューションとしてGOTSを事業者に活用してほしいというメッセージで締めくくりました。

日本の繊維企業によるGOTS認証の取得事例の紹介

丸三産業株式会社 開発本部本部長 藤本透

藤本氏からは丸三産業でのGOTS認証の取得事例を紹介いただきました。丸三産業で製造販売しているコットン100%の化粧綿、不織布、晒綿(さらしわた)、清浄綿などを紹介し、これらを製造する過程で綿花に含まれる異物の除去を原料投入から晒綿・不織布の製造及び製品加工の間に合計27か所で実施していることを説明。またこれらの製造過程で出る副産物(全体の10-15%)を家庭用の油処理材や海上汚染でのオイルハンターなどに再利用していることなども述べました。 自社でGOTS,OCS認証を取得している理由として、生産国へ行って綿花の現物を確認して購入することや、サステナブル調達のため関連企業と連携すること、また安定供給のための公平公正な選定・評価を重視しているメーカーとして、GOTS認証やOCS認証を取得することで、品質を担保してくれると考え、導入しているとの考えを示しました。最後に新たに生産者の顔が見えるシステムを現在、アメリカで構想していることを示し、サプライチェーン上でトレーサビリティが担保されていることが、コットンのサステナビリティを考える上で重要ではないかというメッセージを強調しました。

パネルディスカッション

繊維産業の環境取り組み

会議では最後に、サステナブルコットンと水分野への取り組みを進めている企業および団体4者が登壇し、各社の取り組みや課題を話し合う、パネルディスカッションを行ないました。
ファシリテーターは、Textile Exchange アンバサダーの稲垣貢哉氏が進行しました。
話題それぞれの応答について、要旨をご紹介します。(敬称略)

登壇企業:
● H&M へネス・アンド・マウリッツ・ジャパン株式会社 CSR/ サステナビリティ・コーディネーター 山浦誉史
● スタイレム瀧定大阪株式会社 業務推進部 環境品質管理室 室長 森田芳弘
●丸三産業株式会社 開発本部本部長  藤本透
●一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会 代表理事 山口真奈美
●WWFジャパン 淡水グループ 小林俊介

ファシリテーター:Textile Exchange アンバサダー 稲垣貢哉

議論の要旨:
―― スタイレム瀧定大阪の取り組みについて森田氏より説明
(森田)スタイレム瀧定大阪はテキスタイル、アパレル製品、ライフスタイル、マテリアルなど4つの事業をおこなっており、特に環境に配慮したテキスタイルとマテリアルを ECOARCH®として展開しています。その中の取り組みとしてGOTSなどの国際認証の取得にも前向きに取り組んでいます。2020年から1500件のインド農家とオーガニック栽培の推進をしています。
今後は染色工程での水使用ゼロという野心的な取り組みである超臨界流体状態の染色にチャレンジしていく予定です。

―― どうしていま繊維に関して、コストをかけてまで水や原材料の持続可能な取り組みをしているのですか。
(山浦)ファッション産業全体、そして当社はコットンを含む天然資源に強く依存しています。コットン生産を担う農業を含む天然資源の持続可能性には生物多様性が必要で、ひいてはビジネスにとっても重要です。
また、ファッションリテール分野においても当社はこれらの動きをリードしていきたいと思っています。
環境や生物多様性の保全はビジネスアジェンダにも組み込まれており、ますますの推進が重要と考えています。

――アパレル産業全体の課題構造とも関わりがあると思いますが、スタイレム瀧定大阪のテキスタイル事業において、過去にGOTS認証など国際認証を取得したり、取りやめたりしている理由はどういったところですか。
(森田)2017年に当社はGOTS認証を取得しました。当時はまだGOTS認証の情報も少なく、わかっていなかった部分が多い中で、製品にサステナブルラベルをつけてみたいということでスタートしました。
ところが、ラベルを付けて売り出した商品が日本ではあまり売れませんでした。商品がなくなるとラベルの必要性がなくなったというのが実態。当時はビジネスでメリットがあるかどうかという視点でしか、GOTS認証を捉えていませんでした。今はビジネスや環境、社会の持続可能性の両立が大事だとおもっていて、今年から再度認証を取得するための手続きを進めています。

――海外の取引先と日本の取引先ではサステナブル認証に対しての反応に違いはありますか?
(森田)アパレル事業におけるサステナブルな取り組みへの要求は海外のほうが高いです。

――既にGOTS認証を取得している丸三産業の藤本さんに質問です。GOTS認証をとるのは結構大変ですか?
(藤本)正直、苦労はあります。ただ、GOTS認証を取得するために必要な管理体制が社内で確立できるので、GOTS認証を取得するための過程を、製品の品質を保証するために必要な体制をととのえるための一種のツールとして考えています。
一方で、GOTS認証を取得することで、お客様からの評判はよく、とても喜んでもらえています。おそらくいままでこの業界には、こういったサステナブル認証を取得している例がなかったことが大きな理由だと思います。

――丸三産業では、OCS認証(Textile Exchangeによるオーガニック認証)とGOTS認証の両方を取得していて、それらの認証製品の販売を国内と海外でわけているのはなぜですか?
(藤本)海外の取引先の要求レベルが高いので、海外との取引ではGOTS認証レベルの商品が必要です。一方、国内は現状そこまで要求が高くないので、OCS認証を利用しています。

――繊維業界は他の産業と比べてサステナブル・ラベルの普及はどうですか?
(山口)持続可能な調達を掲げている企業が多いです。国際的には、あらゆる産業を持続可能なものに変えていこうという流れになっています。あくまで認証はツールであって、認証をとることで、持続可能な調達に関する様々な要件を満たしているという証拠にもなります。
繊維産業は今後、特にグローバルの視点でみると、サステナブル認証をうけた製品がますます重要になってくると考えられます。

――これまでのお話をきいて、小林さんいかがですか。
(小林)今後、ますます持続可能な調達が求められるなかで、認証取得にはコストがかかるかと思います。一方で、認証は自社製品が「持続可能な商品」であることを証明するツールの一つとして、効果的なツールなのだと思います。
。水という観点では、他業種の取り組みも参考になるかもしれません。
例えば、ドイツのEDEKAとWWFは水の取り組みについて主要な農産物の水リスクを把握して分析をしていく取り組みを行なっていく予定です。
まず水リスクの分析を行ない、優先的な課題の解消をおこなっていく。このときに環境の観点からだけでなく事業として重要な観点なども踏まえて、流域ごとの水リスクやその他の観点も含めて包括的に考えていく予定ですが、これらは今後、試行錯誤してつくっていくものです。
水リスクを分析できるような有効なツールもいくつかできているので、今回の話を聞いて少しでも関心がある企業さんがいれば、気軽にWWFに声をかけて頂いて、まずは社内での勉強会や一緒に考えることからはじめていけたらと思っています。

――認証をとることによるメリットとデメリットはなんでしょうか?
(森田)認証はツールという話がでましたが、国内での取引による認証取得のメリットは正直見いだせないのが現状です。認証は理解するのに時間がかかるし、費用もかかるし、周りの理解もなかなか得られません。ただ、認証の取得に必要な書面の準備や保管などの煩雑な工程は製品管理としては当然やるべきことだと考え、認証取得を今後のための勉強の機会と捉えています。将来的には認証のためでなくても、基礎知識として備わっているくらいにレベルアップしていきたいと考えています。

――さきほどGOTS認証は社内でも影響があるということでしたが、具体的にはどういうことですか?
(藤本)認証取得のメリットは、海外の取引先からの引き合いがここ最近増えてきたことです。晒綿(さらしわた)なら丸三産業ということでヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアからの問い合わせが増えてきました。サステナブル認証を取得していることで製品の品質と価値が認められるようになってきました。当社が世界的に有名になってきているのが一番のメリットです。

――最近はグリーンウォッシュや人権デューデリジェンスなどの課題が、国際的に取りざたされていますが、そういった課題に対して日本の企業にできることはどんなことがありますか?
(山口)日本ではこれまで、会社と顧客との信頼関係を元に取引が成り立ってきました。信頼関係が重視されること自体はよいことでもありますが、今後は書面や科学的、客観的なエビデンスを求められることが増えてくると考えられます。製品の一部のみでもオーガニックとして販売することは可能ですが、消費者が誤解してしまうような表現を使用したり、すべてがオーガニックであったり、サステナブルだと主張することを画策するような企業も存在します。こうしたグリーンウォッシュと差別化を図るためにも、きちんとした基準で透明性を担保する目的で認証を活用することができます。国際的に商取引を行なうなら、どの国でも通じる共通言語として理解される国際認証を活用することが、製品や企業の信頼につながると思っています。これからは顧客に選ばれる企業から、企業が取引先、売り先などを選んでいく時代にもなっていくのではと期待しています。

―― 先進的に関わっているからこその苦労やその意義はなんでしょうか?
(山浦)例えば、「認証」の社内での位置づけについても、繊維産業の中でもサプライチェーンのどのセクターにいるかによって違ってきます。当社のようなリテール業はお客様に最も近いところで事業をおこなっています。特にリテールの現場にいると、認証ラベルがあるのとないのとでは、お客様にとっての製品の印象が全然違うことを実感します。また認証ラベルがついていることによって、自信をもってお客様に製品の説明やおすすめすることができます。循環型のビジネスを作り出すのは企業だけでは無理で、消費者や様々なステークホルダーが必要です。それらのステークホルダーをつないでいくもののひとつが、サステナブル認証であると思います。ただ、認証を取得するためにはたくさんの人たちの努力が必要で、認証をとる意義や目的をお客様に正しく伝えることが重要だと思っています。

(小林)認証はツールであり、正しいことを正しく伝えるための手段でもあります。もちろん認証の取得には苦労があると思いますし、認証以外の取り組みも様々なものがあるかと思います。ですが、これから多くの観点での取り組みが求められる中で、認証と同等の取り組みを自社で作っていくのは難しいこともあると思います。使いやすいツールとして、環境認証を取り扱ってみるというのは一つのステップとして検討していただければと思います。

(稲垣)本日は、「水とコットン」というテーマで、メーカーやテキスタイル業者、リテーラーなど多種多様なメンバーが集まって、大変有意義な意見交換ができました。
今日この場に集まって聞いてくださった人たちも含めて、こういったクロスセクターでパートナーシップを組んでいけるように、色々な取り組み今後もみなさんと進めていきたいと思っています。

閉会の挨拶

WWFジャパン 小林俊介

最後に、主催者を代表し、WWFジャパンの淡水グループ、小林俊介より、参加者の皆さまに対し、御礼のご挨拶を申し上げました。
小林は、4時間の長丁場のセミナーに参加してくださったこと、今日の会議にて多くの意欲的な意思を持つ関係者にお会いできたことに感謝を述べ、繊維産業の関係者やそれ以外の方も含め、今後もぜひ一緒に水資源やコットンの持続可能な利用について考えていきたいとして、どんな疑問や相談でも気軽に問い合わせてほしいと語りました。

(WWFジャパン 淡水グループ、小林俊介)

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