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石垣島に生息する希少淡水魚の合同調査プロジェクト開始

この記事のポイント
沖縄県の石垣島では、陸域で進む開発等により、淡水生態系が危機に瀕しています。そこで、WWFジャパンは、2022年6月、絶滅が危惧されている石垣島固有の希少なハゼ科魚類であるイシガキパイヌキバラヨシノボリと、ドジョウ科のヒョウモンドジョウの生息調査と系統保存を行う緊急保全プロジェクトを、日本魚類学会、美ら海水族館、国立環境研究所、神奈川県立生命の星・地球博物館と合同で開始しました。プロジェクトの目的や内容について報告します。
目次

沖縄県の石垣島では、陸域で進む開発等により、淡水生態系が危機に瀕しています。そこで、WWFジャパンは、2022年6月、絶滅が危惧されている石垣島固有の希少なハゼ科魚類であるイシガキパイヌキバラヨシノボリと、ドジョウ科のヒョウモンドジョウの生息調査と系統保存を行う緊急保全プロジェクトを、日本魚類学会、美ら海水族館、国立環境研究所、神奈川県立生命の星・地球博物館と合同で開始しました。プロジェクトの目的や内容について報告します。

石垣島の魚類相の豊かさと水環境の危機

沖縄県の石垣島は、カンムリワシをはじめとする数多くの絶滅危惧種の生息地となっているところ、魚類の生物多様性の豊かさも日本有数となっています。

日本魚類学会瀬能宏会長『名蔵アンパル周辺に生息する希少淡水魚類の保全に向けた日本魚類学会からの要望』発表資料(2022年2月1日開催)より引用

こうした魚類には、八重山固有の希少種や絶滅危惧種も含まれており、その生息地は、サンゴ礁の海や沿岸だけではなく、陸域の淡水・汽水域にも広がっています。そして、石垣島の陸域水系の豊かさは、周辺の山地を水源とする数多くの小河川によって支えられています。

石垣島の川と方言名。石垣市総務部市史編集課「いしがきの地名(1)」より引用

石垣島の中でも、日本最南端のラムサール条約湿地である名蔵アンパルが面する名蔵湾周辺は、沿岸のサンゴ礁に生息する海水魚に加え、海と川を行き来する両側回遊性の魚類や汽水・淡水魚など、特に多種多様な魚が見られます。周辺山地から名蔵アンパルへ至る水系には、「琉球列島の地史や、関連する生物進化の謎を紐解く上で極めて重要な希少魚類が生息しています」(2022年1月28日付け日本魚類学会の要請書より)。

この石垣島の陸域水系の豊かさを象徴する生物として、2022年、世界で石垣島だけに生息する固有のハゼ科魚類のイシガキパイヌキバラヨシノボリが新亜種として掲載されました。他にも、ヒョウモンドジョウやタウナギ属の1種など石垣島の陸の水域には極めて希少な魚類が分布しています。

しかし、陸域における近年の急速な開発等によって、石垣島の汽水・淡水生態系は危機的状況にあります。上記のキバラヨシノボリ群とヒョウモンドジョウのいずれもが絶滅の恐れの高い種として、沖縄県希少野生保護動植物条例で捕獲等が禁止される種に指定されているだけでなく、石垣島では後者の生息情報が近年途絶えています。

特に今、名蔵アンパル上流の前勢岳で計画されている大規模ゴルフリゾート開発事業は、大量の地下水のくみ上げによる河川水の減少や、ゴルフ場で継続的に使用される農薬の流出により、これらの魚類にとって残された最後の生息地といえる水環境に、致命的な影響を及ぼすことが懸念されています。

この開発計画の問題点については、以下ご参照ください:

緊急保全プロジェクトの目的と内容

そこで2022年6月、WWFジャパンは、日本魚類学会自然保護委員会、美ら島財団(美ら海水族館)、国立環境研究所琵琶湖分室、神奈川県立生命の星・地球博物館と合同で、絶滅の淵のあるイシガキパイヌキバラヨシノボリとヒョウモンドジョウの生息状況を調査し、種の系統保存を行う緊急保全プロジェクトを開始しました。

このプロジェクトでは、まずはこの2種の魚類について、その生息状況を調査し、生息地の水域環境をモニタリングし、沖縄県希少種保護条例の許可を得て捕獲した個体の遺伝子解析と系統保存を行う予定です。

©鈴木寿之

ゴルフリゾート計画地周辺の水系に生息しているとみられる石垣島の固有亜種イシガキパイヌキバラヨシノボリ。絶滅危惧IB類(環境省)、絶滅危惧IB類(沖縄県)、沖縄県希少野生動植物保護条例に基づく指定希少野生動植物種。

©日本魚類学会

名蔵アンパルの水系で1980年に採集されて以降、記録が途絶えているヒョウモンドジョウ。沖縄県指定希少野生動植物種、情報不足(環境省)、絶滅危惧IA類(沖縄県;ドジョウとして)。

今後プロジェクトの成果を発信していくとともに、5者で協力して、種の系統保存や生息地保全のための具体的対策につなげることを目指します。

プロジェクト実施体制

本プロジェクトは、以下の5団体で連携して実施します。

プロジェクト開始に寄せて

日本魚類学会・自然保護委員会 藤本治彦氏(アンパルの自然を守る会・魚類アドバイザー)

「かつて宮良川に生息していたキバラヨシノボリは底原ダムに沈み、ブネラ湿原の消失・河川改修等と共にヒョウモンドジョウの生息も危ぶまれています。今回のプロジェクトにより、石垣島の希少淡水魚が保全され、普及啓発につなげられる事を期待しています。

神奈川県立生命の星・地球博物館 瀬能宏氏

「過去40年間に石垣島の陸水環境は著しく悪化しており、多くの希少淡水魚がぎりぎりまで追い詰められています。このプロジェクトがきっかけとなり、希少淡水魚の保全が進むことを期待します。」

国立研究開発法人国立環境研究所琵琶湖分室 馬渕浩司氏

「現在の生息環境をしっかり記録・モニタリングすることにより、この地の貴重な淡水魚類が、良好な生息環境とともに適切に保全されることを期待します。」

沖縄美ら島財団(美ら海水族館) 岡慎一郎氏 松崎章平氏

「水族館事業で培った飼育技術を駆使して,これら希少種の系統保存に貢献できたらと考えています。」

WWFジャパン・野生生物グループ 小田倫子

「WWFが20年以上にわたって活動してきた石垣島では、新たな開発により、日本最南端のラムサール条約湿地・名蔵アンパル周辺の陸域水系が危機に瀕しています。島の名前が付けられたイシガキパイヌキバラヨシノボリ等の生息状況について、各分野の最先端で調査研究に取り組まれているプロジェクトメンバーと一緒に究明していけることは、非常に心強く、楽しみです。今後の生息地保全につなげていきたいと考えています。」

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