©福岡県ワンヘルス国際フォーラム2022

自然共生にむけてワンヘルスの取組、福岡県から世界へ

この記事のポイント
福岡県でのワンヘルスへの取組が加速しています。「人と動物、環境の健全性はひとつ」とするワンヘルスの重要性をふまえ、2016年11月、北九州市で「第2回世界獣医師会-世界医師会“One Health”に関する国際会議」にて「福岡宣言」を採択し、2021年1月には福岡県ワンヘルス推進基本条例を取りまとめるなど、県全体でワンヘルスの活動を実施しています。2022年2月12日、13日には福岡ワンヘルス国際フォーラム2022が開催され、WWFジャパンも環境保全に関する分科会に登壇し、生態系の観点からワンヘルスの重要性について議論をしました。
目次

加速するワンヘルスの理解

ワンヘルスとは、人と、動物、そして生態系の健康を求める、分野横断的な活動です。

その起源は2004年9月29日ニューヨーク・ロックフェラー大学においてWCS(野生生物保全協会)主催の国際シンポジウムで提唱された12の行動からなるマンハッタン原則です。

→詳しくは以下参照
WWFジャパン メディア勉強会シリーズ「コロナ後の国際動向〜生物多様性とワンヘルス」発表資料 動物由来感染症とワンヘルスを巡る世界と日本の動向 村田浩一(2020年12月)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )の蔓延が2019年12月に報告されてから、まだその収束を見ていませんが、ワンヘルスの取組はコロナウイルスのような新たな動物由来感染症(人獣共通感染症)を防ぐための非常に重要な考え方であり、注目されています。

ワンヘルスは国連食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)、世界保健機関(WHO)(Tripartite)並びに国連環境計画(UNEP)が、世界規模で活動を実施しています。

最近Tripartite+UNEPに助言を与える、ワンヘルスハイレベル専門家パネルでは、2021年12月にワンヘルスの定義を再検討しています。

Tripartite+UNEPもこの新しい定義を歓迎しています。

ワンヘルスの定義
ワンヘルスの概念図
©WHO

ワンヘルスの概念図 ©WHO

「ワンヘルスとは、人、動物、生態系の健康を持続的にバランスよく最適化することを目的とした、統合的、統一的なアプローチ。

これは、人間、家畜、野生動物、植物、そしてより広い環境(生態系を含む)の健康が密接に関連し、相互依存していることを認識するものである。

ワンヘルスアプローチは、社会のさまざまなレベルの複数のセクター、分野、コミュニティを動員して、幸福を育み、健康と生態系への脅威に対処するために協力し、清潔な水、エネルギー、空気、安全で栄養のある食品、気候変動への対策、持続可能な開発への貢献という共通のニーズに取り組む。」

つまり、世界の現状をとらえ、気候変動への対策や持続可能な開発への貢献といった包括的な取り組みとして定義づけられています。

福岡県から世界へ ワンヘルスの取組

福岡県はワンヘルスの取組を力強く進めている、自治体です。

福岡県では、2016年(平成28年)11月に北九州市で開催された「第2回世界獣医師会・世界医師会“One Health”に関する国際会議」において、ワンヘルスの理念を実践する上で基盤となる「福岡宣言」を提示しています。

さらに、2020年(令和2年)6月の本県議会定例会で、条例制定を含めた「人獣共通感染症への対応力の強化に関する決議」が議決され、福岡県ワンヘルス推進基本条例を策定し、2021年(令和3年)1月5日に公布。

更に2021年よりワンヘルス国際フォーラムを開催し、国内だけでなく、国際的にもワンヘルスの取組を加速させています。

2022年2月12~13日に開催された第2回目となるワンヘルス国際フォーラム2022では、初めて環境を重視した分科会が設置され、WWFジャパンも発表を行ないました。

分科会ではワンヘルスの研究で著名な国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 生物多様性研究拠点 拠点長 岡部貴美子博士が座長を務められ、以下の発表者、パネリストを迎えて議論が行われました。

講演 1
八代 真紀子氏
(国連環境計画アジア太平洋事務所 企画調整官)
環境的側面に焦点を当てたワンヘルスへの 包括的なアプローチに関するUNEPの取り組み

講演 2
森田 香菜子氏
(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 生物多様性・気候変動研究拠点 主任研究員)
生物多様性、気候変動、健康分野の相互連関

講演 3
クリス ワルツァー氏
(野生生物保全協会ヘルスプログラム エクゼクティブ ディレクター ヘルス、オーストリア ウイーン獣医科大学 保全医学 保全医学教授兼学科長)
ワンヘルスによるパンデミック防止の推進には、 ネイチャー・ポジティブな解決策が必要

講演 4
テレサ・ムンディタ・S・リム氏
(ASEAN生物多様性センター エクゼクティブ ディレクター)
生物多様性の主流化-ASEANにおけるワンヘルスの強化

講演 5
松田 英美子
(WWFジャパン 自然保護室 生物多様性グループ長 パブリックセクターパートナーシップグループ長)
ワンヘルス共同宣言をうけて、WWFが目指す生態系保全

新型コロナウィルスオミクロン株の蔓延を受けて、残念ながら全てオンラインでの開催となってしまいましたが、各パネリストかは今後のワンヘルスの推進に向けて、活発な意見が出されました。

フォーラム会場近郊(福岡市千早周辺)
©福岡県観光連盟

フォーラム会場近郊(福岡市千早周辺)

ワンヘルスの下、環境保全にもまたがる迅速なアクションが必要

パネルディスカッションでは、新型コロナウイルスの収束をまだ見ない中でのワンヘルス展開、また推進するにあたっての課題、さらに政府、研究機関、国際機関、市民での実施に向けた役割などについて議論が行われ、以下のような意見が示されました。

  • 気候変動や公衆衛生といった分野の違いや、国や地域性に関わらず、環境要素は重要であるという共通認識が広まってきており、迅速にその取り組みを加速させる必要性がある
  • 一般市民にワンヘルスの重要性をわかってもらうためには、科学的な知見のわかりやすい共有が必要であり、最新技術の活用と具体的な施策も必要
  • 生態系の恩恵、つまり自然資本をよく理解し、政府、研究者、金融やビジネス、消費者といったそれぞれのレベルで行動を起こすことが重要

発表や討議の様子は2022年3月1日より、福岡県ワンヘルス国際フォーラム公式ホームページにて公開されます。

© naturepl.com / Cyril Ruoso / WWF

福岡から世界へ、ワンヘルスの取組

福岡県では、すでにワンヘルスセンター(仮称)設置を検討しており、人の健康や環境保全に関する機能を有する県保健環境研究所を、最先端の設備と共に、新興感染症をはじめとするワンヘルスの様々な課題に対応できるように整備するとともに、家畜だけでなく愛玩動物や野生動物を一元的に担う動物保健衛生所を新たに整備することとしています。

また2022年11月11日~13日にかけて第21回アジア獣医師会連合(FAVA)大会 を福岡で実施することも決定しており、県レベルから世界レベルへの取組みが加速しています。

WWFもこのような自治体の取組を後押しできるように、生態系保全の観点から尽力できればと思っております。

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