「人と動物、生態系の健康はひとつ ワンヘルスシンポジウム」を開催しました

この記事のポイント
世界的なパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。この感染症は、野生動物が本来持っていた病原体が、自然破壊などによって人に感染し、引き起こされた動物由来感染症と考えられています。新型コロナに続く、新たなパンデミックの発生を防ぐためには何が必要なのか。2021年2月13日、WWFジャパンは、そのカギとなる、環境破壊と人の健康、そして動物の健康を一つのものと捉え、守っていく考え方「ワンヘルス」をテーマにしたオンライン・シンポジウムを開催しました。

ポスト・コロナ社会のカギ「ワンヘルス」

新型コロナウイルス感染症はなぜ引き起こされたか

2021年3月、ついに1億人を超える感染者を出した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。

ワクチンの開発と供給が急がれる一方で、変異株の出現が相次ぎ、世界的にはまだ収束の兆しが見えていません。

この新型コロナウイルス感染症は、もともとは野生のコウモリが保有していた病原体のウイルスが原因で発生した、動物由来感染症(人獣共通感染症)。

自然界に存在したウイルスが、森林破壊や野生生物取引などの行為によって、人と接触し、さらにグローバルな人やモノの移動に伴って拡散したと考えられています。

©︎WWF Indonesia

そして、この問題は、今後新型コロナウイルス感染症が収束したとしても、自然破壊と行き過ぎたグローバル化が続く限り、また別の病原体によって引き起こされる可能性があります。

地球規模の環境破壊はもはや、人の健康や社会的な活動に、直接的かつ深刻な影響をもたらす問題となっているのです。

「ワンヘルス」という考え方

こうした現状について、世界の各分野専門家や国際機関は2020年以降、次々と声明を発表し、生物多様性の保全が感染症のパンデミックを防ぐ上で、きわめて重要な要素であることを指摘してきました。

そして、次のパンデミックを防ぐ上でのカギとなる考え方「ワンヘルス」の重要性についても言及。その実現を求めています。

「ワンヘルス」とは、人と動物、生態系の健康をひとつと捉え、守っていく考え方で、環境を保全し、生物多様性を守りながら、持続可能な社会を築いていくことを目指すものです。

ワンヘルスの考え方。WWFジャパン メディア勉強会「コロナ後の国際動向〜生物多様性とワンヘルス」(2020年12月17日)村田浩一(日本大学生物資源科学部/よこはま動物園ズーラシア)発表資料を基に作成

分野を超えた協力のもとオンライン・シンポジウムを開催

しかし、現在の日本では、「ワンヘルス」はもとより、感染症のパンデミックが環境問題と深くかかわっていることについても、まだほとんど認識されていません。

そこでWWFジャパンは、IUCN(国際自然保護連合)日本委員会、(一社)リアルコンサベーションと共に、2021年2月13日、国際機関や医療、獣医学、感染症、人類学などの専門家、さらに日本政府や自治体、NGOの関係者の協力を得て、オンライン・シンポジウム「人と動物、生態系の健康はひとつ ワンヘルスシンポジウム ~ポスト・コロナ時代の感染症と生物多様性保全~」を開催。

各分野、各機関それぞれの立場から、感染症と生物多様性、そして「ワンヘルス」についての知見の共有や、その考え方を踏まえた行動の呼びかけを行ないました。

オンラインで開催されたこのシンポジウムをご視聴くださった方は、600名以上。この問題に対する関心の高さがうかがわれました。

講演内容およびご登壇いただいた皆さま

冒頭、WWFジャパン事務局長の東梅貞義より、今回のシンポジウムの主旨を説明。新型コロナウイルス感染症が動物由来感染症であるということが、ニュースではなかなか報道されない現状の中、多くの皆さまと共に、人と自然、野生生物の「つながり」と、次のパンデミックを防ぐカギとなる「ワンヘルス」について、認知し、より深く考える機会にしたいと、ご挨拶をいたしました。

また、WWFジャパン秋篠宮文仁名誉総裁からメッセージが寄せられました。

そして、小泉進次郎環境大臣からも、生物多様性の消失により生じた新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、自然界からの大きな警鐘であるというご指摘と、多様な分野の専門家の集った今回のシンポジウムが「ワンヘルス」の次の一歩につながる貴重な機会となることへのご期待について、メッセージいただきました。

司会進行:WWFジャパン顧問 前田智子

・開会挨拶
WWFジャパン 事務局長 東梅貞義

・秋篠宮皇嗣殿下からのお言葉
WWFジャパン名誉総裁 秋篠宮皇嗣殿下

・環境省からのメッセージ
環境大臣 小泉進次郎

第1部 次のパンデミックを防ぐためのワンヘルス

第1部では、基調講演として、京都大学の山極壽一名誉教授と、長崎大学の山本太郎教授より、アフリカなどの世界の現場でのご経験をふまえ、人間活動が人や動物の健康にどう影響を及ぼしているのか。そして感染症と生態系、人のかかわりについて、お話をいただきました。

また、世界保健機関(WHO)のマリア・ネイラ氏からも、人と野生生物、生態系の健康を、一つのものと捉えたアプローチの重要性について、メッセージをいただきました。

後半は、日本大学の村田浩一特任教授から、感染症のパンデミックに対する国際的な取り組みとしての「ワンヘルス」の成り立ち、その実現に向けた課題についてご講演をいただきました。

そして、日本の自治体として初めて「ワンヘルス」の推進条例を定めた福岡県の取り組みについても、同県保健医療介護部生活衛生課の田村聡課長より、先駆的なその内容をご紹介いただきました。

基調講演:
「ゴリラから見た新型コロナウイルスと人間社会」
 京都大学 名誉教授 山極壽一
  →講演資料(PDF形式)

・「新型ウイルス感染症と生態系 ウイルスの視点から」
 長崎大学 熱帯医学研究所 教授 山本太郎
  →講演資料(PDF形式)

・世界保健機関(WHO)公衆衛生・環境・健康の社会的要因担当ディレクター マリア・ネイラ

「ワンヘルス」共同宣言の紹介
【宣言の内容はこちら】人と動物、生態系の健康はひとつ~ワンヘルス共同宣言

講演:
「ワンヘルスとは?~国内外の連携と今後の課題~」
 日本大学 生物資源科学部 動物資源科学科 特任教授 村田浩一

・「福岡県におけるワンヘルスの取組み」
 福岡県 保健医療介護部 生活衛生課 課長 田村聡
  →講演資料(PDF形式)

第2部 生物多様性と感染症

第2部では、まず「ワンヘルス」の国際的な取り組みを推進するため、2020年に初めて、環境分野からWHO、FAO(国連食糧農業機関)およびOIE(国際獣疫事務局)のハイレベル専門家会合に参加することになった国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長が、ビデオメッセージをお寄せくださいました。

そして、国際獣疫事務局(OIE)の釘田博文アジア太平洋地域代表より基調講演として、これまでの国際的なワンヘルスの取り組みの概要について、さらにWWFジャパン野生生物グループの浅川陽子からは、動物由来感染症の拡大の原因となる野生生物取引、特に日本で取引されているエキゾチックペットについて発表いたしました。

生物多様性条約(CBD)のデイビッド・クーパー副事務局長からは、愛知目標と生物多様性条約の2050年ビジョンに日本の里山が反映され、生物多様性が人の健康保持にも重要な役割を果たすことについて、メッセージをいただきました。

さらに、環境省自然環境局の立田理一郎様より、現在の日本の生物多様性保全の行政と感染症とが関係する取り組井についてご講演をいただきました。

最後に、国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室の五箇公一室長より、動物由来感染症のパンデミックが生じる原因として、自然環境の破壊や過度なグローバル化が大きな要因となっていること、そして「ワンヘルス」の観点をふまえた今後の未来の社会のビジョンについて、示唆に富んだお話をいただきました。

シンポジウムの終了にあたっては、主催者を代表し、IUCN(国際自然保護連合)日本委員会会長の渡邉綱男より、今回のシンポジウムが、医療をはじめ多様な分野の専門家との新たな連携の機会を見出す機会となったこと、これからの自然と人の共存に向けた取り組みの一歩となったことについて、感謝のご挨拶を申し上げました。

基調講演:
・「ワンヘルス及び野生動物に関するOIEの取り組み」
 国際獣疫事務局(OIE)アジア太平洋地域代表 釘田博文
    →講演資料(PDF形式)

国際機関からのメッセージ
・国連環境計画(UNEP)事務局長 インガー・アンダーセン

・生物多様性条約(CBD)副事務局長 デイビッド・クーパー

講演:
「野生生物取引と動物由来感染症 ~日本のエキゾチックペット取引~」
 WWFジャパン 野生生物グループ 浅川陽子
    →講演資料(PDF形式)

「生物多様性行政と感染症」
 環境省 自然環境局 野生生物課鳥獣保護管理企画官 立田理一郎
 →講演資料(PDF形式)

「環境問題としての新興感染症」
 国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室 室長 五箇公一 氏
 →講演資料(PDF形式)

■閉会挨拶
 国際自然保護連合(IUCN)日本委員会 会長 渡邉綱男

また、このシンポジウムでは、Z世代の若者たちのコミュニティdotのメンバー、園木優美子さん、伊藤健太さん、増渕菜々子さんの3人による、グラフィック・レコーディングも行なわれました。

このグラフィック・レコーディングは、各講演者のお話を、イメージに落としていくもので、シンポジウムの終了後には、講演内容を踏まえた一つの大きな絵が完成しました。

ワンヘルス実現のための連携と賛同

「ワンヘルス」共同宣言について

なお、シンポジウムではWWFが11団体と作成した共同宣言も紹介しました。

ワンヘルスを実現していくためには、ワンヘルスの3つの要素である「人」「動物」「生態系」に携わる専門家や団体が、それぞれの専門分野や立場の垣根を超え、連携して取り組んでいくことが欠かせません。

WWFでは、2021年1月15日に人や動物の医療、公衆衛生、環境の専門家とともにそれぞれの専門性を発揮しながらも、知見や情報共有を行ない、協力してワンヘルスの実現を目指すワンヘルス共同宣言を作成しました。

キャンペーン「ワンヘルスで守ろう、私の大切なもの」

また、このワンヘルスの認知拡大のために、共同宣言の賛同や共感の輪を広げるキャンペーン「ワンヘルスで守ろう、私の大切なもの」を実施しました。

キャンペーンでは、このまま自然破壊と感染症とのつながりを顧みず、アンバランスな状態を放置してしまうことのリスクについて、新型コロナウイルスのパンデミックがひとりひとりの日常に及ぼした影響をふまえ、さまざまな方がそれぞれの立場で警鐘を鳴らしました。

シンポジウムでは、この呼びかけに対し、45の企業、団体、自治体、6500人を上回る個人から賛同をいただいたことを報告しました。
(※最終的に、48の企業や団体、自治体、7,391人の個人から賛同をいただきました)

ご賛同いただいたすべての方に、厚く御礼申し上げます。


多くの皆さまの賛同とご理解をいただきつつ、WWFでは今後も、各機関と連携・協力しながら「ワンヘルス」の理念のもと、生物多様性を保全していく手立てを検討し、その実現を目指してゆきます。

今回のシンポジウムにご参加、ご視聴くださったすべての皆さま、開催にご尽力をいただいた皆さまに、改めてお礼を申し上げます。

【イベント概要】 人と動物、生態系の健康はひとつ ワンヘルスシンポジウム ~ポスト・コロナ時代の感染症と生物多様性 保全~
日時 2021年2月13日(土) 13:00 ~ 16:30
場所 オンライン開催
主催 WWFジャパン
共催 (一社)リアルコンサベーション、IUCN日本委員会
後援 環境省、厚生労働省、(公社)東京都医師会、(公社)東京都獣医師会、(公社)日本医師会、(公財)日本自然保護協会、(公社)日本獣医師会、(公財)日本野鳥の会、人と動物の共通感染症研究会、福岡県、認定NPO法人 野生生物保全論研究会(50音順)

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