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「インドネシア・スラウェシ島 エビ養殖業改善プロジェクト」進捗報告

この記事のポイント
インドネシア・スラウェシ島で2018年7月に開始した、エビ(ブラックタイガー)養殖業改善プロジェクト。自然環境、労働者や地域社会に配慮した養殖業の証である「ASC(水産養殖管理協議会)認証」の取得を目指し取り組んできました。プロジェクトは、現地エビ加工会社のPT. Bogatama Marinusa/ PT. BOMAR、同社からエビを調達する日本生活協同組合連合会、WWFインドネシア、WWFジャパンの4団体の協働で実施。2021年6月までの進捗についてご報告します。
目次

エビ養殖業改善プロジェクトの発足

命と暮らしを支えるマングローブ

生物多様性の高さから生命のゆりかごとも言われる、マングローブ。

熱帯から亜熱帯の、海辺や河口などの海水と淡水が混ざり合う汽水域に広がる、ヒルギ科の樹種を中心とした森林です。

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生い茂るマングローブ

魚類、甲殻類、貝類、鳥類など、さまざまな生きものが息づき、豊かな生態系がつくられています。

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マングローブ域に生息する生きもの:ミズオオトカゲ

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マングローブ域に生息する生きもの:コサギ

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マングローブ域に生息する生きもの:シオマネキ

豊かなマングローブ生態系は、人間にとっても重要です。

特に、そこに生息する魚類や甲殻類は、食料として人々の生活を支えています。

また、高潮や強風、津波などによる自然災害の影響を軽減する減災の役割を果たし、沿岸域に住む地域住民の命や暮らしを守ることにもつながっています。

加えて、地球規模の問題となっている気候変動についても、炭素を吸収し固定する能力が高いマングローブは、温室効果ガスの削減を考えるうえで注目されています。

危機にさらされるマングローブ

多様な生きものの命と人々の暮らしを支えているマングローブですが、過去数十年間にわたり危機にさらされています。

特にそれが顕著な国の一つが、世界一のマングローブ面積を有するインドネシアです。

1980年から2005年の間で、100万ヘクタール以上のマングローブが失われました。

インドネシアにおけるマングローブ面積の推移 国連食糧農業機関(FAO)「The world’s mangroves1980-2005」より作成

その主な原因は、エビ養殖池の開発です。

汽水域はエビの生育に適しているために、広大なマングローブが伐採され、養殖池がつくられてきました。

さらに、管理が不十分なことによる病気の発生や生産性の低下により、養殖池が放棄され、代わりに別の場所で新たにマングローブが伐採され養殖池がつくられるといったことも起きています。

こうした無計画なエビ養殖により、マングローブやそこに生息する野生生物が危機にさらされ、それにより人々の暮らしへの影響も懸念されています。

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同じエビ養殖池の2017年(写真左)と2019年(写真右)の様子。養殖池の開発後に残っていたマングローブも、その後邪魔になり伐採されてしまいました。

このようにして養殖されるエビは、日本を含む海外に多く輸出されています。

エビは日本でも人気の高い水産物の一つですが、そのほとんどが海外からの輸入です。

そして、インドネシアは主な輸入国の一つで、日本のエビ類供給量で第3位となる13%を占めており、日本人のエビ消費を支えています。

そのため、インドネシアで起こっているマングローブの減少をはじめとしたエビ養殖に関わる問題は、日本とも深くつながっているのです。

財務省「貿易統計」、FAO「Fish stat」より作成

日本のエビ類供給量(2019年)

持続可能なエビ養殖業への転換に向けた協働

マングローブ生態系を保全し、将来にわたってエビの生産と消費を続けていくためには、エビ養殖を持続可能なかたちに転換させていくことが不可欠です。

そこでWWFジャパンは2018年7月より、インドネシアのエビ加工会社PT. Bogatama Marinusa/ PT. BOMAR(以下、BOMAR社)、同社からエビを調達する日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)、WWFインドネシアと協働し、「インドネシア・スラウェシ島 エビ(ブラックタイガー)養殖業改善プロジェクト」を開始しました。

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収穫されたエビ(ブラックタイガー)

プロジェクトの現場は、スラウェシ島南部、南スラウェシ州にあるピンラン県。

この場所もかつてはマングローブが生い茂っていましたが、今では多くが伐採されエビ養殖池に変わってしまいました。

一方で、エビ養殖は住民の生計を支える、地域に根差した重要な産業と考えられています。

そのためプロジェクトでは、マングローブ生態系の保全と地域住民の持続可能な生計の確立を目標に掲げ、自然環境、労働者や地域社会に配慮した養殖業の証である「ASC(水産養殖管理協議会)認証」基準にもとづいた、エビ養殖の改善に取り組んできました。

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プロジェクト現場の南スラウェシ州ピンラン県

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プロジェクト現場の南スラウェシ州ピンラン県

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プロジェクト現場のエビ養殖池

養殖業改善プロジェクトを進めるうえで重要となるのが、養殖池から加工、商品までをつなぐサプライチェーン上の関係者の協働です。

水産物を調達する企業が、こうしたプロジェクトに関わるとともに、継続的な購入を約束すれば、現地の生産者や加工会社の安定した運営・経営につながり、改善に取り組む大きな動機にもなります。

しかし、ASC認証のような国際認証は、誰でも簡単に取れるものではありません。

特に、大規模な水産会社ではなく、個人経営の小規模な養殖業者では、認証の取得に必要な情報や技術が不足しがちなうえ、それにかかるコストが大きな負担となります。

インドネシアでのブラックタイガー養殖の場合も、主に個人の生産者による小規模な養殖が広く行なわれているため、現地の関係者だけで、ASC基準を満たすような改善をしていくことは簡単ではありませんでした。

そのため本プロジェクトでは、サプライチェーン上の関係者であるBOMAR社および日本生協連が協力する形で、一丸となって、エビ養殖の改善に取り組んできました。

「インドネシア・スラウェシ島 エビ養殖業改善プロジェクト」の活動と進捗

環境と社会に対する影響評価と改善点の把握

プロジェクトでまず取り組んだ活動が、エビ養殖により懸念される、環境と社会への影響の調査と、改善点の把握でした。

まず、環境影響評価では、養殖池の開発によるマングローブの伐採が、自然環境への直接的な影響として示されました。

他方、養殖池周辺に絶滅のおそれのある野生生物は生息しておらず、また養殖池の開発前から生息していた野生生物が今も見られることから、現時点での重大な影響は確認されませんでした。

しかし、マングローブの消失により、野生生物の生息地の減少や生態系の劣化が懸念されることから、マングローブの再生が必要であるという結論に至りました。

また、エビ養殖と地域住民との関わりの調査をしたところ、エビ養殖を含む漁業・養殖業が、地域住民の生計の4割近くを占め最も多く、主な収入源となっていることが明らかになりました。

加えて、雇用機会も適切に提供されており、エビ養殖の関係者と地域社会との間で軋轢が生じる可能性も低く、地域に根差した産業となっていることが分かりました。

こうしたことから、エビ養殖の改善が地域住民の持続可能な生計の確立につながることが示されました。

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地域住民の方への聞き取り調査

試行錯誤を繰り返したマングローブの再生

環境影響評価でもその必要性が明らかになったマングローブの再生は、WWFの主導により、プロジェクトの開始に先駆けて2017年7月より開始。

しかし当初は、マングローブの活着率(苗木の生存の割合)が思わしくなく悪戦苦闘。

養殖池周辺で放し飼いになっているヤギに苗木を食べられてしまったり、そもそも苗木の質が良くないなどの問題を抱え、当初は大部分のマングローブが活着しませんでした。

そこで、再生する場所を十分に考慮するとともに、良質な苗木の調達や生育に取り組みました。

その結果、2021年6月までに、15万1,283本、23.6ヘクタールにあたる面積の再生が完了し、活着率も79%まで改善されました。

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マングローブの再生

また、活着率の向上に加え、幅広い関係者の参加が得られたことも、マングローブ再生の進捗につながりました。

環境保全に関心の高い学生を中心に、南スラウェシ州政府やピンラン県の警察なども参加。

2021年6月までに実施した57回にわたるマングローブ再生への参加人数は、延べ2,775名にのぼります。

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マングローブの再生に参加する学生たち

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マングローブの苗木を運ぶピンラン県の警官

生産者に向けた啓発活動

マングローブの再生が進捗する一方、エビ養殖生産者の方々の取り組みへの理解と関与が課題となっています。

生産者の方々の主体的な関与なくしては、持続可能な養殖業の証であるASC認証を取得することは困難です。

これまでプロジェクトでは、ASC基準で求められている、野生生物と遭遇した際の対処、養殖池での水質調査、また労働環境などに関する手順書を作成。

生産者の方々がこれらの理解を深め自ら実践できるよう、研修を行なってきました。

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生産者の方々への研修

しかし、こうした取り組みは、普段の作業に加えて労力や時間を要することもあり、生産者の方々の理解や関与は十分とはいえない状況です。

プロジェクトの重要な活動の一つであるマングローブの再生についても、「自然災害から養殖池を守ってくれる」や「鳥など養殖池周辺の生きものにとって大切」などの前向きな意見が聞かれる一方、積極的な参加にはつながっていません。

そのため、生産者の方々との個別の丁寧な話し合いを通じて理解の促進を図り、力を合わせてプロジェクトを進めていけるように取り組んでいきます。

ASC基準の約9割を適合、残る課題は

プロジェクトではこれまでの取り組みを通じて、ASC基準を88%満たすところまでエビ養殖の改善が進捗。

7つある基準の原則のうち、マングローブの再生を含む生物多様性や生態系の保全に関する原則では、94%を満たすところまで進みました。

一方で、特に法令遵守に関する原則で課題が残っています。

この原則では、エビ養殖池の土地所有や養殖操業に関する公文書の取得が求められていますが、インドネシアの小規模なブラックタイガー養殖業においては、こうした公文書の取得が一般的ではありません。

そのため、これらの要件を満たすために手続きを進めていくことが難しく、時間を要しています。

また、新型コロナウイルスの世界的な大流行により、インドネシアでも感染が爆発し、移動や集会が制限されるなど、プロジェクトにも大きな影響が出ています。

しかし、こうした困難な状況下でも、安全面や健康面に配慮しながら現場で活動を進めるとともに、オンライン会議を活用して関係者間での話し合いを行なうなど、プロジェクトが前に進むよう取り組んでいます。

新たな課題、親エビの持続可能性

養殖業の持続可能性を考えるうえで、養殖されるエビが、完全養殖されるわけではなく、海から獲ってきた天然の親エビ由来の場合、養殖現場以外の海域での取り組みも必要となります。

実際、インドネシアのブラックタイガー養殖では、天然のブラックタイガーを漁獲し、孵化場(ハッチェリー)で産卵させ、生まれた稚エビを養殖池に池入れします。

つまり、天然の個体なくしては養殖を行なうことができず、その天然のブラックタイガー漁業が持続可能でない場合、エビ養殖を続けていくことも困難になるということです。

こうした背景からWWFは、天然のブラックタイガーの持続可能性の改善に向けた活動にも新たに着手。

適切な漁業管理体制の構築を目指し、政府を含む関係者と漁業管理計画の策定に向けた話し合いを始めました。

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養殖用の稚エビの親として使用される天然のブラックタイガー

今後の展開

2018年の開始から3年間を通じて、プロジェクトは大きく進捗し、エビ養殖の改善が進みました。

一方で、生産者の方々の理解の向上や主体的な関与をはじめとした課題も残っています。

また、親エビの持続可能性という新たな課題も浮き彫りになっています。

こうしたことから、本プロジェクトは取り組みを拡大させ、「インドネシア エビ養殖業改善プロジェクト」として、さらに2年間(2021年7月~2023年6月)にわたり活動を実施していきます。

スラウェシ島で進めてきたエビ養殖業の改善については、引き続きASC認証の取得を目指し取り組んでいきます。

加えて、インドネシアでのエビ養殖業の持続可能性の拡大に向けて、ジャワ島でもエビ養殖業の改善を展開します。

そして、これら養殖現場での改善に加えて、天然の親エビの持続可能性の改善にも取り組み、インドネシアで本当に持続可能なエビの養殖業が実現することを目指します。

こうした取り組みを推進していくうえでは、インドネシアからエビを調達する企業が、調達先の現地の加工会社や生産者に改善を働きかけ、積極的に関与していくことが重要です。

そして、日本の消費者の皆さまの応援も欠かせません。

持続可能な水産物の証であるMSC認証(天然水産物)やASC認証(養殖水産物)のラベルのついた商品を選んでいただくことは、世界中の海の自然を守ることにつながります。

認証製品を普段の生活の中でも選んでいただくと共に、持続可能な漁業・養殖業への転換に向けた、改善のプロジェクトに、引き続きご関心をお持ちいただけますと幸いです。

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プロジェクトの関係者

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