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野生生物のネット取引について深く知ろう メルカリで社内勉強会を実施しました

この記事のポイント
2018年8月6日、フリマアプリを運営する株式会社メルカリの社内勉強会に、トラフィックが講師として登壇しました。現在、活発に行われているCtoC(個人間商取引)市場の中で、野生生物由来の製品もインターネット上の取引が急成長しています。メルカリは2017年11月9日、同社のアプリ内での象牙の出品を禁止するなど、野生生物取引の問題に真摯に取り組んでいます。今回の勉強会は、野生生物のオンライン取引における課題について社内の理解を更に深めて業務に活かす目的で行われました。

野生生物の取引の現状

今回、株式会社メルカリの東京オフィスで行われた勉強会には、ユーザーが出品した商品のチェック等を行うカスタマーサービス部門を中心に、法務やPRのご担当者、計25名の参加がありました。

©WWFジャパン

メルカリ社員の皆さん。仙台からオンラインで参加してくださった方々も!

まずは、トラフィックより野生生物の取引における現状や課題、最新の調査結果などをご説明しました。トラフィックはWWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムで、野生生物の取引の動向の分析やモニタリングを行っている機関です。「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の条約事務局とも密接に協力関係を築いています。

現在、多くの野生生物が人の利用によって絶滅の危機に瀕しており、さまざまな対策が必要とされていますが、ワシントン条約は取引がその種の存続に悪影響を及ぼしている国際取引を規制しているもので、すでに何らかの方法で原産国から持ち込まれてしまった野生生物や野生生物由来の製品の国内取引に関しては、対象外となります。

そのため、過剰な取引により絶滅のおそれがある種を保全するためには、こうした国際的なルールを守るだけではなく、国内に持ち込まれた動植物やそれらからなる製品の取引を、国内法で適切に管理、取り締まる必要があります。日本では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」がその法律に当たりますが、現在のところ、この法律でカバーされているものは、ワシントン条約が対象としている動植物(附属書掲載種)のわずか2%にすぎず、大部分が国内法の網のかからない状態で取引されているのが現状です。

近年は、輸送技術や通信技術の発達により、野生動物の密猟や違法取引も組織化され、大規模な摘発事例が目立つようになりました。アフリカゾウの牙(象牙)やサイの角(犀角)など、アジアでの需要が高い製品の摘発事例も後を絶ちません。取引ルートも日々刻々と変化しており、ITの普及やSNSによる情報の拡散もあいまって、野生生物の取引はますます複雑化しながら拡大している様子がうかがえます。

勉強会では、こうした野生生物の取引全般をめぐる現状を解説したあと、オンライン取引においても、ネットオークションやフリマアプリを使った違法取引が摘発される事例が出ていることをご紹介しました。同時に、トラフィックが2018年に行なったeコマースサイトの調査結果もご報告しました。モニタリングをかいくぐるような出品の事例や2017年に行なった同様の調査との比較などの情報は、社員の方々にとっては本業にかかわる部分とあって非常に関心が高く、皆さん熱心にスライドをご覧になっていました。

また、オンラインという媒体の性格上、全体の取引件数の多さや売買スピードの速さ、また個人を装って事業者が出品していると思われるケースなど、モニタリングの難しさなどの課題の共有に対しても、皆さん深く頷きながら聞いてくださいました。

グループセッションを通じて理解を深める

勉強会の後半はグループセッション形式で、アイスブレイクを兼ねたゲームとディスカッションを行いました。まずは、さまざまな野生生物の写真と、それらが原料となって作られた製品の写真をシャッフルして、正しいペアを選ぶカードゲームです。どの製品がどの生き物からできているのか、グループで相談しながら組み合わせを考えていただきました。

たとえば「タイマイ」と「べっ甲」、「ウナギ」と「蒲焼」といった写真の組み合わせはすぐ分かっても、「ウナギが絶滅危惧種だとは知らなかった」という声が出るなど、参加者の方々からは作業を通じて色々な感想が聞こえてきます。そんな際には、各テーブルに着いたトラフィックのスタッフが少しずつ解説も加えさせていただきました。

その後のグループセッションでは、社員の皆さんから、日々のフリマアプリ運営業務の中で野生生物の取引をモニタリングする際の悩み、難しさなどを共有しながら、そうした課題の解決策を出し合うディスカッションを行っていただきました。

©WWFジャパン

グループセッションの様子。和気あいあい、でも真剣です!

特に象牙製品については、法律で取引が禁止されていない中、先進的な取り組みとして自社のポリシーにおいて禁止商材に指定しモニタリングをされています。そんな中、ポリシー違法とは知らずに出品しているケースや、知っていてカモフラージュしているケースなど、それぞれ利用者への対処法はもちろん、違法ではないものの規制に対する理解を得る難しさといった声が上がりました。また、「悪意のない」利用者の方々に対して、必要な情報をどのように伝えるのが良いか、知恵を絞って色々なアイデアを出し、披露してくださいました。

生き物から作られた製品の取引が、実はその生物を絶滅の危機に追いやっている可能性があることなど、背景に潜む問題についても伝えていくことを企業の責務として考えていらっしゃることが伝わってきました。

更なる企業の取り組み

トラフィックからは、事例のひとつとして、国際的な取り組みとなる「野生生物の不正なオンライン取引終了に向けた国際的な連合体(Global Coalition to End Wildlife Trafficking Online)」のご紹介をしました。

アメリカと中国の企業を中心に立ち上がった連合体ですが、インターネットでの野生生物・野生生物製品の不正取引を2020年までに80%削減する、という目標を掲げています。
連合体が立ち上がった2018年3月時点では、21社がこの目標に賛同し、目標達成のための取り組みや活動を自社の企業方針として取り入れ、実施していくこととしています。

トラフィックは、この連合体の中での企業向けのトレーニングツールの開発などに携わるなど、企業の取り組みをサポートしています。

今回のメルカリ社内での勉強会は、こうした流れの中において日本のe-コマース業界の中では先進的な第一歩と言えます。

©Martin Harvey
©TRAFFIC

メルカリでは2017年11月よりアプリ内での象牙製品の出品を禁止しています

2時間半を超える長丁場の勉強会でしたが、皆さん最後まで集中力が途切れることなく積極的に参加してくださいました。WWF、またはトラフィックとの今後の連携についても前向きな声をたくさんいただくことができ、スタッフにとっても非常に有意義な時間を過ごすことができました。この度、社内勉強会をアレンジしてくださったご担当者、および参加いただいた社員の皆様に厚く御礼申し上げます。

トラフィックはこれからも、同社のように真摯な姿勢を打ち出している企業や団体などとも連携しながら、オンラインにおける野生生物の取引問題に取り組んでゆきます。日本でも業界全体として取り組み促進が進むことを期待しています。

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