SOKNOTにおけるアフリカゾウ保護 活動報告(~2026年6月)
2026/10/29
- この記事のポイント
- アフリカ東部タンザニアの北東部に位置するムコマジ地域では、近年、アフリカゾウと地域住民の間で「あつれき(軋轢)」の問題が多発しています。ゾウによる農作物被害や水を求め集落に出没する事件が地域の暮らしを脅かし、ゾウに対する不安や報復行為のリスクを高めています。その解決のため、WWFは住民や自治体と協力しながら被害の実態把握、対策の導入、人材の育成を推進。養蜂なども活用した、地域主体で対応できる体制づくりに取り組んでいます。2026年6月までの1年間に取り組んだ活動と成果を報告します。
アフリカゾウをめぐる保護活動の進展と課題
アフリカの東部、国境線を越えて広がる、ケニア南部およびタンザニア北部の「SOKNOT(Southern Kenya and Northern Tanzania)」は、ライオンやアフリカゾウ、シマウマ、ヌーなど、アフリカを代表する野生動物の楽園です。
ここは、セレンゲティ国立公園や、マサイマラ国立公園など、野生動物の保護活動で大きく成功した保護区があることでも、世界的に知られています。
しかし、こうした保護活動の成功は、SOKNOTの全域で実現できているわけではありません。
保護区と保護区の間に広がる、民間の土地のエリアや、農地や放牧地と野生動物の行動圏が重なる地域では、いまだに危機が続いています。
WWFジャパンがWWFタンザニアを支援し、アフリカゾウの保全活動を展開している、タンザニア北東部のムコマジ地域は、そんな場所の一つです。

SOKNOTを代表する保護区のひとつアンボセリ国立公園のアフリカゾウ
ムコマジ地域で問題となっているゾウと人の「あつれき」
ムコマジ地域は、ケニアのツァボ国立公園と、国境を挟んで接している、ムコマジ国立公園を中心とした一帯で、農業を主産業とした複数の自治体で構成されています。
ここはかつてはアフリカゾウが十数頭しかいないエリアでしたが、2010年代の後半に、ケニア側から千頭以上のゾウが移動してきたため、人との間で「あつれき」、すなわち衝突を起こす問題が生じるようになりました。
実際、アフリカゾウは広大な生息域を移動しながら暮らす野生動物ですが、このことは、人口増加が進み、土地利用の在り方も変化する中で、人とゾウの接触機会を増やすことにつながっています。
ムコマジ周辺でも、ゾウが農作物を荒らしたり、貴重な水を求めて人の集落に姿を現し、人身や家屋に被害をもたらすケースが発生。
さらに、気候変動などがこうした事態を助長する可能性もあり、地域住民の暮らしとゾウの生存に深刻な影響が及び始めています。
ムコマジ地域における問題
そこでWWFタンザニアは、2022年からWWFジャパンを通じた日本からの支援によって、地域住民や自治体と協力した、ゾウとの共存を実現するための活動に取り組んできました。
その最初の取り組みは、まずゾウによる被害実態の把握です。
ムコマジ地域では、ゾウの出没や被害が生じていることは分かっていましたが、通信手段も限られ、その実態を把握できるデータが不足していました。
また、自治体によっても、対応や情報収集の状況が異なっており、対策を協力し合える状態ではありませんでした。
そのため、広域を対象とした効果的な対策が難しく、地域住民のゾウに対する不安や不満が増大し、報復行為につながる懸念がありました。

ムコマジ国立公園の周辺に位置する地域のトウモロコシ畑。公園からやってきたゾウに踏み荒らされています。こうした食物への食害も発生しています
ゾウとの共存に必要なことは? WWFタンザニアの挑戦
そこでWWFタンザニアでは、地域住民や自治体と協力しながら被害実態の把握、対策の導入、人材育成を推進。
2026年6月までの1年間も、地域主体でモニタリングや対策を継続できる体制づくりを進めるとともに、養蜂などを活用した、ゾウの被害防除と、住民の生計向上を支援する活動に着手しました。

1.人とゾウの「あつれき」対策の強化
地域で保護活動に取り組むレンジャーや、パトロール隊のメンバーを対象とした研修を継続。ゾウの出没や被害状況を把握するためのモニタリング体制の強化を進めました。また、集落での普及啓発活動やタウンミーティングも実施。アフリカゾウの保護に対する理解の促進と、地域住民の参加を促しました。
2026年6月までの1年間には、ムコマジ地域にある29の集落で継続的なデータ収集を実施。現場では、地域主体で被害状況を把握できる仕組みが定着しつつあります。
成果:
研修の継続により、被害に関するデータの収集や、集落や農地に出没する野生のゾウの回避策の実施精度が向上しました。これらは、地域のゾウ被害に対する、対応能力が向上していること、そして人とゾウが傷つけあう問題の回避につながっていることを示すものです。
課題:
対応能力の向上にもかかわらず、実際の被害件数は大きく減少には転じておらず、ゾウの行動や、環境の変化を踏まえた新たな対応策の検討が必要になっています。

ゾウの出没や被害状況などについてのデータを入力中。こうした情報の収集と活用が、被害の軽減を支えています。
2.地域主導の保全体制づくり
地域の行政機関や住民組織との連携を深め、アフリカゾウとの「あつれき」対策を、地域自らが継続できる体制の強化を進めました。あわせて、住民の意見や課題を反映するための対話の場を継続的に設けました。
その結果、自治体のレンジャーや地域のパトロール隊が、状況把握のためのモニタリングと、被害対策の実施を中心的に担える体制が整いつつあります。
成果:
地域レベルでの情報共有と課題把握が進み、被害発生時の対応力向上につながっています。
課題:
体制は出来つつありますが、対策を継続的な運用に乗せるためには、さらなる技術や資金の支援、さらにデータを活用できる能力を持った人材の育成が必要です。
3.養蜂を活用した生計向上支援
住民の収入向上とゾウによる被害対策を両立する手段として、養蜂事業の支援を本格的に開始しました。
これは、ゾウがハチの羽音を嫌う性質を利用した取り組みで、集落や農地の周辺に巣箱を置き、養蜂を行なうことで、ゾウの接近を防ぐ試みです。また、この養蜂で得られたハチミツを売ることで、住民は収入を得ることができます。
2026年6月までの1年間では、特に養蜂事業を支援する対象地域の実態調査を実施。活動の担い手となるグループを選定したうえで、養蜂の器材の配布を行ないました。
成果:
3つの自治体の域内で実態調査を行ない、高い実施可能性を持つ4つのグループを選定。器材配布の第一段階も完了しました。将来的な地域の収入向上と、ミツバチを活用したゾウ回避策の導入に向けた基盤が整い始めています。
課題:
養蜂事業を安定的に運営できる体制づくりには、時間がかかると予想されます。また、生産されたハチミツの品質管理や、販売ルートの確保など、収入を確かなものにするための対策は、多く残されています。

養蜂を実施する地域に向けた説明会や対話会議。ゾウよけのための養蜂で使うさまざまな機材は、日本からの支援で贈ることができました。地域へのこうした物資の支援も、アフリカゾウと人の共存を目指した取り組みの一つです。
アフリカゾウの未来に向けて ~WWFの今後の取り組み
2030年までに、人とゾウの軋轢を減らし、アフリカゾウが安全に暮らせる環境を守ることがWWFの目標です。
2026年6月までの1年間にも、WWFは、ムコマジ地域において地域が主体となった、ゾウとの「あつれき」の回避に向けた取り組みと対策を、さらに強化することができました。
被害実態などのモニタリングデータをさらに活用できれば、こうした対策の効果は、さらに高めることができるでしょう。
また、養蜂をはじめとする、自然と共生した生計手段の向上を広げることで、地域住民が利益を得ながら、アフリカゾウ保全の担い手として活動できる仕組みづくりも、今後のさらなる進展が期待されます。
WWFは、このほかにも、ゾウの生息地保全や移動経路の保持、密猟や違法取引対策なども、関係機関と連携しながら推進し、SOKNOT全体で、人とアフリカゾウが共存できる未来の実現を目指していきます。

担当スタッフより:ご支援いただいた皆さまへ
野生生物グループ:西野亮子

WWFジャパンのアドプト・スポンサーズの皆さま、いつも私たちのアフリカゾウ保護活動をご支援いただき、ありがとうございます。
アフリカゾウは日本人の私たちにとっては、魅力にあふれた、時にかわいいとさえ思う、人気の野生動物ですが、同じ地域で暮らすアフリカの人たちにとっては、決してそうではありません。
一度でも農地が荒らされれば、半年分の収入を失うこともありますし、人が犠牲になり時に命を失うことさえもあるからです。
2022年に、このSOKNOTで私たちがWWFタンザニアの仲間たちとプロジェクトを始めた時、現地の人たちから、ゾウについて聞かされた言葉は、どれも恐れや困惑を伝えるものばかり。この中で、どのような取り組みを行なえば、状況を変えられるのか、頭を悩ませる日々でした。
それでも、多年に及ぶ活動によって、地域の意識は確かに変わりつつあります。最近は、まだわずかですが、地域の人たちの間からも、ゾウやその保護活動に対し、好意的かつ前向きな言葉も聞かれるようになりました。
地域の人々との地道な交流を継続して、こうした小さくとも確実な「変化」を実現してきた、WWFタンザニアの仲間たちを、私は本当に誇らしく思います。
そして、これらの長年の努力を可能にしてくださったのは、活動を支え続けてきてくれた、WWFのアフリカゾウ・スポンサーズの皆さまの力です。
アフリカゾウは今も絶滅危惧種ですが、南部アフリカでは、回復の兆しも見せており、地域の人たちの保護活動への参加が、これを成功に導いたといいます。
私たちのSOKNOTでも、こうした成功、生物多様性の回復、すなわち「ネイチャーポジティブ」を、皆様と共に実現したいと思います。
日本とタンザニアのWWFが取り組む、アフリカゾウの保護活動を、どうか引き続き支えていただきますように、心よりお願いを申し上げます。

