【WWF声明】変革(G「X」)の意志なきGX基本方針の閣議決定に抗議する

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2023年2月10日に岸田政権は「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。しかし、排出削減効果の高いカーボンプライシングを早期に導入せず、原発を積極活用する点で問題です。また、その策定は一部の事業者・有識者の拙速な議論を経たに過ぎません。WWFジャパンは、この基本方針が今後10年の温暖化対策とされることに改めて抗議します。その上で、2030年までに日本が温室効果ガス排出量を半減するために確保すべき点を提示します。

2022年12月22日に開催の第5回GX実行会議で提示された、成長志向型カーボンプライシングを中核とする「GX実現に向けた基本方針」(以下、「本基本方針」)が、パブリックコメントを経て2023年2月10日に閣議決定された。
 WWFジャパンは、カーボンプライシングを早期に本格導入しないこと、及び国民的議論を欠いたまま拙速に原発を活用していくことが、今後10年の日本の温暖化対策とされたことに深く失望し、再度抗議する。パリ協定の掲げる1.5度目標とそれに不可欠な2030年までの温室効果ガス排出量半減の達成には、キャップ&トレード型排出量取引制度や再エネ・省エネ既存技術の最大限活用など実効性ある排出削減策が必須である。またその政策の立案・実施は社会全体での議論に根差していなければならない。これらの点を最も重視した上で、今後の国会審議や制度詳細の議論では、本基本方針の内容に囚われずに以下の3点が確保されなければならない。
 第一に、キャップ&トレード型排出量取引制度を早期に導入するべきである。同制度は、総排出量の上限設定や制度参加、目標未達時の排出枠購入が法的に強制されるため、排出削減の実効性が高い。他方、成長志向型カーボンプライシングは企業の自主性に依存しているため効果に疑問があり、その導入スピードも遅い(※1)。振り返ってみれば、過去30年にわたる日本の温暖化対策の遅れは、この「自主性依存」にあったと言わざるを得ない。またGX実行会議における検討プロセスは、一部の事業者や有識者のみで構成され(※2)、5か月という短い期間の議論に留まり、年末年始にかかる形ばかりのパブコメを経るのみで拙速に実施された。本来、このような国の将来を担う重要な決定は、透明性を確保しつつ、多様な専門家や関連アクターが参加し、国民的議論を経て決定するべきである。
 第二に、原子力利用の方向性について最低限まずは、幅広い層の国民が参加する熟議を確保するべきである。今回、従来の政府方針が大きく転換されたが、広い国民の熟議も理解も無い拙速なものであった(※3)。このことは各地方経済産業局で開催される意見交換会の紛糾からも明らかである。また、革新炉開発・建設は、2030年までの排出量半減に貢献せず、再エネへの投資原資を奪う可能性がある点も当然考慮されなければならない。
 第三に、GXへの投資支援策も改善する必要がある(※4)。排出削減効果が低く、パリ協定下のタイムラインにも整合しない水素・アンモニア混焼・専焼技術の追求を転換し、石炭火力発電の廃止目標・計画を直ちに設定すべきである。他方、地域間連系線の増強やペロブスカイト太陽電池の開発加速は、まさに2030年までの削減に資する点で評価できる。原資が限られるなか、これら再エネ・省エネ既存技術の導入拡大の支援こそがGX投資に求められる。
 国際的に認知されるカーボンプライスの形成に向けては産業界の自主性頼みから脱却する必要がある。また、キャップ&トレード型排出量取引制度や再エネ・省エネ既存技術の開発・実装に対する集中的支援こそが、本来は2030年までの排出量半減を達成する政策の中核をなす。社会全体を巻き込む形で制度詳細を議論し、世界で標準とみなされる温暖化対策の実現、真のグリーントランスフォーメーションが図られるべきである。
 政府は本基本方針と同時に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。関連する法案も今後提示される予定であり、それらについては改めて後日WWFジャパンとしての意見を述べる。

(関連するWWFジャパンの声明)
※1:「脱炭素を達成する真の『成長』を志向するなら、早急なカーボンプライシング本格導入を!」(2022年12月1日付)〔https://www.wwf.or.jp/activities/statement/5199.html
※2:「2030年目標達成のため排出削減を強く促すカーボンプライシングを透明性の高い議論に基づき導入することを要請する」
(2022年11月4日付)〔https://www.wwf.or.jp/activities/statement/5169.html
※3:「原子力の積極利用の方向性へ国民的議論なく大きく転換することに断固反対する」(2022年12月9日付)〔https://www.wwf.or.jp/activities/statement/5210.html
※4:前掲1に同じ

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