【WWF声明】脱炭素を達成する真の「成長」を志向するなら、早急なカーボンプライシング本格導入を!

この記事のポイント
2022年11月29日に政府官邸でGX実行会議が開催され、「成長志向型カーボンプライシング構想」を中核とする政策の具体案が示されました。しかし2050年・2030年の温室効果ガス排出量削減目標の達成には不十分な内容です。実効性の高い政策であるキャップ&トレード型排出量取引制度の早期導入、投資促進策での再エネ導入拡大・省エネ推進の重視、石炭火力発電の廃止政策の追加をWWFジャパンは求めます。

政府は2022年11月29日に第4回GX実行会議を開催し、「成長志向型カーボンプライシング構想」制度案などGXを実現するための政策イニシアティブの具体案(以下、「本具体案」)を提示した。WWFジャパンは、政府の提示する本具体案が2030年温室効果ガス排出量半減及び2050年カーボンニュートラル、ひいてはパリ協定の掲げる1.5度目標の実現に全く不十分となることを強く懸念する。特に「成長志向型カーボンプライシング構想」に主としてかかわる以下の3点について、早急な改善を要請する。

(1) キャップ&トレード型の排出量取引制度を速やかに導入すること

本具体案は、①化石燃料の輸入事業者等への炭素に対する賦課金を最初は低い負担から導入すること、②企業の自主的目標に基づく排出量取引制度(以下、「GX-ETS」)を2026年度以降に導入することなどを示す。しかし、この施策案とタイムラインでは、2030年度に温室効果ガス2013年度比46%削減、更に50%の高みを目指す日本の削減目標の達成が危ぶまれる。
第1に、政策としての実効性に疑問がある。キャップ&トレード型排出量取引制度が実効性のある排出削減策とされるのは、対象企業全体に総排出量上限(キャップ)が設定されること、そのキャップが経時的に縮小すること、また制度参加や目標未達時の排出枠購入が罰則で法的に強制されることによる。これらこそ不可欠の要素であるが、GXリーグ及びGX-ETSでは現状欠落している。各企業の自主的目標では、その総和が必要な排出削減量を満たす保証は無く、当該目標の達成も強制されないため、現段階の施策案では排出削減の実効性に乏しい。
第2に、導入のスピードが遅すぎる。過去20年以上、「自主的な取り組み」に依存した結果として脱炭素分野で大幅に遅れをとった結果を反省する必要がある。賦課金も、キャップ&トレード型排出量取引制度も、現状は一定期間経過後の導入予定となってしまっている。2025年までに世界全体で温室効果ガス排出量をピークアウトさせ、2030年までに半減させるべきことに照らすと、このスケジュールは妥当でない。政府の検討で懸念されている経済・産業への悪影響も制度設計の工夫で対応でき、何より一部の民間企業は野心的な削減目標を掲げて既に動き出している。これ以上の後ろ倒しは不要である。
財源機能や自主性などの本質的でない要素に拘泥することなく、実効性の高い排出削減策として、キャップ&トレード型排出量取引制度の詳細な議論を直ちに開始し、可能な限り早期に導入するべきである。

(2) 政府が投資支援を実施する場合は再エネ導入拡大・省エネ推進に重点を置くこと

本具体案では、今後10年間で必要な官民での投資額を150兆円と見積もり、産業競争力強化と排出削減の2点から政府支援の類型を検討する。確かに2050年カーボンニュートラルには技術開発投資とその支援も必要ではある。しかし、まず2030年の排出半減を達成すべきところ、「革新的技術」への期待を理由に国内での対策を遅らせてきた過去の反省を活かすならば、まずは支援対象として「技術的に削減効果が高く、足元で、直接的に国内の排出削減に貢献する」ことを優先するべきではないか。
2022年4月公表のIPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書は、2030年までの温室効果ガス排出量半減の大半が太陽光・風力、エネルギー効率の向上等で達成できるとする。また、WWFジャパンは、2020年から2030年までの10年間で、省エネ・再エネ・電力設備に計61兆円を設備投資することで2030年までに排出量の半減を達成できると試算した。こうした再エネ・省エネに係る既存技術の最大限活用に向けた重点的な投資支援が、2030年目標の達成には有効である。本具体案の投資支援策が総花的なものになっていないか、「賢い支出」の観点からも改めて点検するべきである。

(3) 石炭火力発電の廃止に関する政策を含めること

クリーンエネルギー戦略中間整理はアンモニアを「石炭火力の脱炭素化の鍵」と位置づけ、本具体案でも投資促進策の対象とされる。しかし、現時点でアンモニアは化石燃料から製造されるとともに、製造時のCO2を回収・利用するCCUSや再エネによるアンモニア製造技術を2030年までに実用化し大規模に運用する目処は立っていない。これらを踏まえるとアンモニア混焼による排出削減効果は限定的であり、実質は石炭火力発電の延命策と言わざるを得ない。本来は石炭火力発電の明確な廃止計画が含まれるべきである。
科学的知見も国際政治も、火力発電、とりわけ石炭火力発電からの脱却を各国に強く促す。前述のIPCC報告書では、1.5度目標達成までに許容される世界の累積排出量に鑑みると、火力発電所等の新設の余地は無く、石炭関連は2030年までに座礁資産となるリスクが示されている。更に、2021年のCOP26で採択されたグラスゴー気候合意は(排出削減対策のとられていない)石炭火力発電について段階的縮小に言及し、COP27のシャルムエルシェイク実行計画でもその表現は踏襲された。2022年5月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケはG7国内での段階的廃止を求めており、2035年までに電力部門の大宗を脱炭素化するとされた。
G7の一員として日本は、石炭火力発電の廃止に関する目標と計画を早期に提示すべきである。排出削減対策にはならない水素・アンモニアの混焼・専焼技術の追求や、それらのアジア諸国に向けた展開の方向性は転換する必要がある。

パリ協定の下、1.5度目標の達成に向けて、世界各国の排出削減策は一層強化が求められていく。日本も当然例外ではない。我が国が2030年までに温室効果ガス排出量半減を成し遂げ、その先も世界の取組みを牽引できるように、本具体案について上記3点を再考するよう強く要求する。

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