2030年46%削減を確実に実行できる温暖化政策を導入せよ


2020年10月、菅首相は日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、今年4月には温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比46%削減、更に50%削減の高みを目指すことを発表した。今般、これらの目標を確実に実施するために重要な具体策となる計画案が3つまとめられ、2021年9月3日からパブリックコメントの募集が開始された。「第6次エネルギー基本計画(案)」「地球温暖化対策計画(案)」そして「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)」である。

そもそも日本では温室効果ガスの排出量の8割超がエネルギー起源の二酸化炭素であるため、日本では温暖化対策=エネルギー選択である。すなわち「地球温暖化対策計画(案)」と「第6次エネルギー基本計画(案)」は不可分の関係にあり、これらの計画は、2021年11月に開催されるパリ協定の国連会議COP26に向けて提出される日本の温暖化対策(NDC:国別目標)の元となる。そのNDC案もまた、今回のパブリックコメントに付されている。

加えて「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)」も、2050年ゼロ実現のための日本の取組みを示す将来ビジョンとして、パリ協定に提出される。すなわち日本の今後の政策の指針を国内外に示し、目標の達成に向けて長期に政策を方向づける点で、これら3つの計画はいずれも大きな重要性を持つ。

しかし、今回政府から提示された案は、その目標を達成する上でなお不十分であると言わざるを得ない。例えば、2030年における電源構成、排出削減を強化する部門、推進する施策などの点で大きな課題があるとWWFジャパンは考える。以下、それぞれの案ごとに課題を述べる。

「第6次エネルギー基本計画改正案」の素案について

2030年の電源構成では、再エネ36〜38%、原子力20〜22%、石炭19%、LNG20%、石油等2%、水素・アンモニア1%と示されたが、これで2030年の削減目標46%(2013年比)を実現するには、現実味が乏しい。
1. 再エネのポテンシャルを最大限に活かし、約50%まで引き上げるべき
38%はこれまで通りの積み上げ方式で、日本の再エネのポテンシャルを過小評価している。WWFジャパンが2020年12月に発表した「脱炭素化に向けた2050年ゼロシナリオ」をはじめ、いくつかの機関が出した試算において、再エネの大幅な拡大が可能であることが示されている。再エネの主力となる風力発電の業界団体からは、野心的な数値目標があってこそ民間投資がついてくるとの指摘がされており、また、多くの企業や自治体などが再エネ導入の拡大を切望し、政府の再エネ目標を40%~50%へと引き上げることを求めている。今回の案は、その可能性を抑圧する目標であると言わざるを得ない。

2. 原発について現実的な想定にするべき
20%以上見込むことで、非化石電源比率を従来計画より引き上げたが、現状10基未満、電源比率にして4%程度しか稼働していない。依然として再稼働に対する国民の理解が醸成されていない中で、これは非現実的な見込みであることは周知の事実である。46%削減目標達成に最も重要となる非化石電源比率を59%と示している以上、原発が目標を満たさなかった場合の代替案を明記するべきである。また、原則として、原子力は段階的に廃止していく方針を明確に打ち出すべきである。

3. 石炭火力について廃止計画を明示するべき
国際的に批判され続けている石炭火力は、非効率はフェードアウトするとしつつも、なお19%を維持していく事が示された。高効率であってもガス火力の2倍近くのCO2を排出する石炭火発が世界的に廃止される方向の中、この方針を、11月に行われるCOP26を前に、2050年ゼロに向かう2030年の計画、すなわちNDCとして提出しても日本の真剣度が疑われる。COP26ホスト国のジョンソン首相もCOP26にて表明するべき4つの事項の一つとして、「先進国は2030年までに石炭火力の廃止」を要請している中、少なくとも石炭火力全体の廃止計画を明示するべきである。

4. 火力発電温存の姿勢について
現時点で全く商業化されておらず、コストの見通しもないアンモニア火力などを見込んで将来的にも火力発電に依存し続ける姿勢が示されている。これでは2050年脱炭素化へつなぐ2030年の日本のエネルギー計画としては非常に心もとない。

なお、WWFジャパンでは、システム技術研究所に委託して「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」を発表した。その中で2030年には再エネ約50%が可能であり、さらに石炭火力ゼロにしても、既存のガス火力の稼働率を上げることによって、日本の電力供給には問題ないことを、24時間365日のダイナミックシミュレーションで検証した。ご参考にされたい。

「地球温暖化対策計画」の素案について

上記のエネルギー基本計画案を軸にした地球温暖化対策計画には大きく分けて3つの課題がある。

1. エネルギー転換部門の責任を家庭や業務に転嫁するべきではない
2030年の排出削減を家庭部門で66%、業務部門で約50%としているが、いずれも約7割が電力由来の排出であり、大本の電力供給インフラの脱炭素化がカギを握る。すなわちエネルギー転換部門の責任が大きいにも関わらず、家庭や業務に責任が負わされている。まずはエネルギー転換部門の大幅な脱炭素化が進まなければ、家庭・業務部門においても効果的な対策が打ちだせない。

2. エネルギー転換部門の電源係数目標を明示するべき
エネルギー転換部門に対しては、従来の電気事業者の自主的な電源係数目標(0.37kg-CO2/kWh)、 高度化法の非化石電源比率44%以上の追加の施策がない。国の削減目標が26%から46%削減に変わっているにも関わらず呼応していない。少なくとも非化石電源比率が以前の44%から59%に上がったことと整合する電源係数目標を明記するべきである。

3. カーボンプライシングの導入を明示するべき
あと9年で大幅削減するには、省エネルギーが重要だが、省エネルギーを推進する追加の施策がない。排出量取引制度や炭素税についての記入はあるが、従来通り「専門的・技術的な議論を進める」にとどまっている。「成長に資するカーボンプライシングに躊躇なく取り組む」と菅首相の宣言に沿って、早期にカーボンプライシング政策を導入するべきである。

4. 産業界の自主行動計画依存のみから脱し、転換を後押しする政策こそ導入するべき
全体として国民の行動変容や産業界の自主行動計画に相変わらず依存しており、政策が乏しすぎる。このままでは、2030年46%、さらに50%の高みを目指すには不十分であることは明らかだ。特に電気事業分野について、「見直された排出係数目標の達成ができないと判断される場合には、施策の強化」といった表現もあるが、2030年まで時間が限られるなかで新たなページに入った温暖化対策は、国内対策もいつまでも自主行動にゆだねるのではなく、政策的対応に大胆に踏み込むべきである。
特に再生可能エネルギーの拡充による電源の早期の脱炭素化は、企業が国際競争力を確保していく上でも喫緊の課題である。世界の機関投資家が、脱炭素化に対する具体的な計画を持っているかなどを企業に投資する際の判断基準とするようになり、グローバル企業が再エネ100%経営を実現しようと必死に導入を進める中、政策による加速的な後押しがなければ、日本企業の国際競争力を弱める結果となることが強く懸念される。

一方で、今回の温暖化対策計画は、はじめて1.5度を目指すことを明示し、バックキャスティングの考え方が明確に表された。また、新型コロナウィルスからのグリーンリカバリーとしても重要となる「脱炭素に向けた攻めの業態転換及びそれに伴う失業なき労働移動の支援などを大胆に実行」といった産業転換や雇用の移行の重要性も明示されていることは評価できる。従来の温暖化対策計画と一線を画した新たなフェーズに入ったことを感じさせる。

「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)」について

「第6次エネルギー基本計画改正案」「地球温暖化対策計画」さらに「グリーン成長戦略」などをミックスしたこの長期戦略案には、上記二つの案で指摘した課題に加えて、以下の課題がある。

1. 電力部門において長期的にも火力発電温存の姿勢から脱却していない
最もCO2排出量の多い石炭火力についての廃止計画すら示されないまま、電力部門の取り組みとしては、水素・アンモニア発電・CCUS火力発電という選択肢が示されているのみである。長期戦略において、いつ商業化されるか目途が立たず、高コストな新技術に頼って、火力発電を温存することは理に適っていない。まずは2050年ゼロに向かって現実的なタイムラインで、コスト効率的な火力発電のフェーズアウト計画を示すべきである。
廃止計画が示されないことによって、高炭素設備の導入が進められ、国内に座礁資産がさらに増加していけば、近い将来に日本企業の弱体化を招くことにもなる。
また、火力発電を、再エネの変動性を補う調整力として必要だとして正当化するのは、再エネの変動性を吸収する柔軟性は多様に存在する中、科学的な根拠に欠ける。

2. 脱炭素化が難しい産業界の取り組みとして、鉄リサイクルの推進など現状可能な計画も明記するべき
脱炭素化が難しいマテリアル産業として、鉄鋼、化学工業、窯業土石製造業、製紙業のプロセスの変更があげられているが、水素還元製鉄や人工光合成などの将来的なイノベーションの取り組みしか計画されておらず、今の技術で可能な削減策が抜け落ちている。たとえば日本のCO2排出量の15%も占める鉄鋼業については、個別に削減計画を示すべきである。水素還元製鉄などのイノベーションを待たずとも、現状のリサイクル鉄による電炉生産の比率をあげていく事によって、CO2排出量は激減させることが可能である。

3. 資源循環を脱炭素化へ向けた産業界全体の取り組みとして位置づけるべき
そもそも、都市鉱山化している先進国の脱炭素化は、資源循環が欠かせない。その資源循環について、地域における資源循環として、「金属製品やプラ製品はすでに存在する重要な資源、あらゆる分野での資源循環を進めることで資源制約に対応できるだけではなく、温室効果ガス排出削減にも貢献~(中略)~資源循環による脱炭素化」との記述はあるが、これらは地域だけが取り組むものでない。なぜ日本の産業界全体の取り組みとして計画されないのか?

4. 政策の早期の導入と炭素価格上昇の方向性を示すべき
2050年に向かって産業構造の転換を図っていくには、それらを後押しする政策の導入が欠かせないが、全体として産業界の自主行動計画に頼り、新たな政策導入がない。カーボンプライシングについては、長期戦略においても「専門的・技術的な議論を進める」との記載止まりであり、あまりにも力不足である。特に炭素価格は、産業構造の転換を促すには、将来にわたる炭素価格がどのようにあげられていくか(たとえば2030年にはトン当たり1万円、2040年には1万5千円など)の予見可能性が、企業の投資判断に重要である。炭素価格は先進国やもちろん主要新興国においても主要政策となり、炭素国境調整措置などが導入される中、日本がいつまでも“検討”のみでは、2050年ゼロに向けたドライバーがないと言わざるを得ない。今やJCLPなど企業グループからも導入を促す声がある中、早急にカーボンプライシングなどの実効力のある政策導入を図り、2050年に向かっての予見可能性を示すべきである。

5. 国内の長期戦略のレビューのプロセスを策定せよ
長期戦略について、どの場でどのタイミングで見直し議論をしていくか、まだ決まっていない。本長期戦略の最後に「6年程度」という目安が示されてはいるがが、多くのステークホルダーが参画して策定できるプロセスと場を決めるべきである。

一方で、脱炭素社会に向けた産業構造転換に当たって重要である「労働力の公正な移行」について、2050年カーボンニュートラルに向けた6つの視点の一つとして位置づけたことは大いに評価される。コロナ禍からのグリーンリカバリーがまさに焦点となる中、産業構造転換の支援も明示され、労働者のリスキリングは重要な課題である。しっかりと政策対応をして後押ししてもらいたい。
また、従来環境省と経産省で別々に議論されていた温暖化対策とエネルギー基本計画が、より連携して議論されるようにはなってきた。まだ道半ばではあるが、方向性としては、新たなフェーズに入っている。その歩みをもっと加速させ、省庁横断で政策的措置を大胆に導入し、日本の将来の国際競争力の源泉としていくべきである。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP