太陽光発電のリサイクルを巡る国の動きと課題
2025/12/04
- この記事のポイント
- 気候変動対策やエネルギー自給率の改善に向け、太陽光発電の普及が喫緊の課題となっています。その中で、使用済み太陽光パネルの処理を巡り、国の動向に注目が集まっています。2030年代には大量排出が予測され、埋立処分場への負担を避けるにはリサイクルの徹底が求められるためです。当初、国はリサイクルの義務化を検討するも、2025年8月には義務化の断念を公表しています。しかし、太陽光パネルはリサイクルが可能であり、そのコストダウンや処理施設を整えるためには、早期の対応が必要です。本稿では、太陽光のリサイクルの重要性と課題解決を巡る国の動きを解説します。
太陽光発電の普及にともなう廃棄課題
太陽光発電の普及経緯
太陽光発電は、風力、水力、地熱などと並び、自然の力を活用することで電力を生み出す再生可能エネルギーです。石炭、石油などの枯渇資源を燃焼させる火力発電等と異なり、他国からの燃料輸入に依存しません。
そのため、エネルギー自給率の向上はもちろん、深刻化する気候変動問題、さらにはその影響を受ける生き物を守るための対策としても、重要な役割が期待されています。

日本のエネルギー自給率は依然として低く15%程度。国の安全保障にも大きく関わる。出典: 「総合エネルギー統計(2023)」及び「令和5年度(2023年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」よりWWFで作図
東日本大震災の原発事故により、国内のエネルギー供給のあり方が見直され、2012年からは、国が再生可能エネルギーの電力を買い取るFIT制度がスタート。それ以降、太陽光を中心に急速に普及が進みました。
ただ依然として、日本のエネルギー自給率は低く、国が掲げる導入目標にも届いていないため、今後も太陽光発電の導入拡大が必要です。しかし、普及が進んだことで、現在新たな課題に直面しています。それは「太陽光パネルの廃棄」です。
近い将来に始まるパネルの大量排出
FIT制度では、買取期間が定められており、太陽光は20年間となっています。また太陽光パネルの寿命も約20年~30年程度であるため、FIT制度当初に大量導入された太陽光パネルが、早ければ2032年頃から役割を終え、排出が予測されています。

現在は年数万t以下と見られる排出量ですが、2030年代中頃には年間30万t弱に。さらに2040年代には年間50万t近くに上ると試算されています(※1)。
これは、自動車リサイクルにともない排出されるシュレッダーダスト(破砕くず)の年間46万t(R4年度)や、家電リサイクル法で再商品化処理される年間重量57万t(R5年度)に匹敵するものです(※2)。
そのため、大量排出されるパネルをリサイクルせず全て埋立処分した場合、2040年代のピーク時には、現在の年間最終処分量の約5%程度に相当すると予測されています(※3)。適正にリサイクルをしなければ、逼迫する最終処分場への新たな負担となります。
不十分な国内のリサイクル体制
一方、パネル排出が急速化する2030年代まで、残すところわずか数年にも関わらず、いまだ国内には十分なパネルリサイクル施設が整備されていません。

特に都道府県別にみると、これまでの太陽光発電の導入量とリサイクル能力が比例しておらず、地域によっては、パネルリサイクル能力のある施設がまったく存在しない都道府県も多く存在します。

リサイクル施設の整備には時間がかかるため、パネルの大量排出が始まってから施設整備をするのでは間に合いません。逼迫する埋立処分場への負担を避けつつ、リサイクル事業者や発電事業者の事業に予見性を与えてサーキュラーエコノミーを推進するには、早期に対応することが必要です。
リサイクルに向けた国の動き
審議会による“義務化”の提案
このような切迫した状況に対応するため、長らく、国も太陽光のリサイクルに向け検討を進めてきました。
2015年には、太陽光や風力のリサイクル・廃棄に関する報告書を取りまとめ、翌16年にはリサイクルガイドラインを公表。それ以降もリサイクル関連の検討会を継続的に実施してきました。

そして2024年、これまで“任意“だったリサイクルについて“義務化“を視野に置いた制度を、環境省と経産省の合同会合で検討開始。
同年12月には取りまとめ(案)を公表し、パブリックコメントを経て、2025年3月には環境大臣に意見具申として提出されました。
意見具申では、太陽光発電の“リサイクルの義務化“を明記。設置済み(既設)および新設するパネルの両方のリサイクル費用を、これから製造販売するパネル製造者に課すことを提起しました。

専門家による検討会から意見具申のポイント
これは、通常、消費者(太陽光の場合は発電事業者)に求められる責任を、その製品の製造者にまで遡って課す「拡大生産者責任(EPR)」に基づく内容で、欧州などで先行採用されている考え方です。
待ったをかけた内閣法制局の指摘
専門家による検討会の意見に沿って、このままリサイクル義務化の法律が制定されると考えられていましたが、同年8月、急きょ環境大臣が義務化の断念を公表。そのため、パネル廃棄への対応が宙に浮いている状況にあります(2025年11月初旬時点)。
義務化の検討を進めてきたにもかかわらず、断念の判断をするに至った背景には、内閣法制局(法令等の審査や調査をする行政機関)からの指摘があります。そのポイントは大きく3つです。
(1) 埋立処分とリサイクルでは費用差が大きいこと
(2) 製造者に責任を求める建付けが他のリサイクル関連法と相違があること
(3) そのなかで高いリサイクル費を課すことは合理的でないこと
これらの指摘を受けて、国は代わりに努力義務化を目指すとの報道がされています(※4)。
義務化を念頭においた検討を
法制局の指摘がある一方、果たして義務化を断念することが正しいのかは、議論の余地があります。
それは、意見具申を出した専門家会合では、法制局が提示したような課題を十分踏まえた上で、今回の義務化の結論を出しているためです。

出典: 環境省,太陽光発電リサイクル制度小委員会,第3回資料より抜粋
例えば、(2)他のリサイクル法との相違についても、他法と比較しながら議論がされています。その上で、太陽光発電は事業期間がより長く、設置者(発電事業者)に費用負担させる場合には事業破綻などで徴収できないリスクがあること。逆に、製造者負担にすれば、徴収確度を高められる点や、リサイクル費を減らす環境配慮設計を促せる点など、多角的に検討した上でメリットがあるため、他のリサイクル法と異なる“パネル製造者への負担”という結論を導いています。
また、(1)埋立処分とリサイクル費用の差が大きいという指摘については、むしろ費用差を埋めるためにもリサイクル量を増加させて単価を下げる必要があり、義務化をやめることは逆効果になる可能性もあります。

太陽光発電のリサイクル技術はすでに複数あり、高いリサイクル率での実施が可能。リサイクルの処理量にくわえ、リサイクル後の製品に対する需要量を上げていくことも費用回収=コスト削減につながる
義務化しないことのリスク
また、義務化そのものを断念することには大きなリスクが伴います。例えば、努力義務ではリサイクルをしない事業者に罰則を課せないため、事業者はコストの安い埋立処分を選択する可能性が高くなります。

産業廃棄物の最終処分場の残余年数は20年。新設やリサイクル向上で残余容量は近年やや増加。しかし処分場の新設が容易でないなかでは、新たな埋立負担は避ける必要がある(図出典:環境省,令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書)
そうなれば、結局は埋立処分場への負荷を避けることができません。加えて、義務化されないなかで、果たしてリサイクル施設の整備に十分な設備投資が行われるかは疑問が残ります。

太陽光発電はいまや発電コストが最も安い電源であり、エネルギー安全保障面でも普及拡大が必要。そのためにも廃棄問題を巡って迷惑施設化させないことが重要
義務化を求める動き
こうしたなかで、太陽光パネルのリサイクル義務化を求める動きがあります。2025年8月29日、WWFジャパンを含む9団体が、リサイクル義務化を求める共同声明を発表。
[参考] 共同声明:日本政府に対して太陽光パネルのリサイクル義務化を求めます
また企業サイドからも、義務化の制度的措置の遅れを懸念する声が上がっています。
[参考] JCLP,「太陽光パネルのリサイクル制度に関する意見書」
こうした声は、個人からも上がりつつあります。WWFジャパンもメンバーである、気候変動対策に取り組むNGOのネットワーク「Climate Action Network Japan(CAN-Japan)」では、リサイクルの義務化を求める署名活動を開始。2025年11月28日時点で、38000筆を超える声が集まっています。

[参考] CAN-Japan,太陽光パネルリサイクルの義務化に向けた署名活動
義務化を念頭に国は早期検討を
義務化に向けた法制化のためにも、法制局からの指摘に解を出すことが有効と考えられます。指摘では、リサイクル費が高いなかで製造者への費用負担が過分になることへの懸念が見えます。この懸念を解くべく、国は追加的な検討を早期に進めることが必要です。
先の検討会では、既設・新設の両方のリサイクル費用の負担感が、全体でどの程度になるか、そのうちどの程度を製造者が負担しつつ、他の主体にも負担を按分しうるのか、十分な定量的分析がなされてはいませんでした。そのため、国が主導して精緻な分析・予測を行い、この点をクリアにすることが重要です。
その上で、あらためて義務化という政治的シグナルを出すことで、
太陽光リサイクルに必要な施設整備や、その他の実務的な課題の解決にも早期に取り掛かれるようにするべきです。
WWFジャパンでは、引き続き太陽光発電のリサイクルに関する国の動向を追いつつ、リサイクルの実現を後押しできるよう情報発信や政策提言などの活動を進めていきます。
脚注
(※1) 中央環境審議会循環型社会部会太陽光発電設備リサイクル制度小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会資源循環経済小委員会太陽光発電設備リサイクルワーキンググループ 合同会議(第3回) 資料より。なお現時点での排出量の明確な数値は示されておらず、排出予測図から読み取り数万t/年とした。
(※2) 上記(※1)と同資料
(※3) 上記(※1)と同資料
(※4) 日経新聞,太陽光パネルのリサイクル後退か 義務化難航、政府内に「努力義務」案



