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【開催報告】WWFジャパン 企業向け森林セミナー「木材デューデリジェンス実践編:調達方針からTNFD開示へのステップ」(2026年4月24日/オンライン開催)

この記事のポイント
WWFジャパンは、木材調達方針を策定・公開した後の「運用」「評価」「開示」をテーマとする企業向けセミナーを開催しました。株式会社ニトリホールディングス、三菱地所レジデンス株式会社、住友林業株式会社より、木材デューデリジェンスの実践事例をご紹介し、木材デューデリジェンスを、TNFD(自然関連財務情報開示)にどうつなげていくかについて、WWFジャパンより解説します。
目次

調達方針の「その先」が問われる今

WWFジャパンは、2026年4月24日(金)、森林・木材調達に関わる企業を対象に、オンラインセミナー「木材デューデリジェンス実践編:調達方針からTNFD開示へのステップ」を開催しました。

近年、日本企業の間では森林・木材調達方針の策定や公開が着実に進んでいます。一方で、「策定した方針を実際の取引の中でどう運用すればよいのか」、「調査で得られた情報をどのように評価し、開示につなげればよいのか」といった、新たな悩みや課題の声も多く聞かれるようになっています。

本セミナーは、こうした課題意識を共有し、実務に役立つヒントを持ち帰っていただくことを目的に企画しました。当日は、建設業、住宅、家具、商社、不動産、林産業、メーカー、小売、金融機関など、幅広い業種から278名の方にお申し込みいただきました。

セミナー概要

イベント名 【WWFジャパン森林セミナー】「木材デューデリジェンス実践編:調達方針からTNFD開示へのステップ」
日時 2026年4月24日(木) 16:00 ~ 18:00
場所 オンライン
参加者数 189名(申込278名)
主催 WWFジャパン
プログラム ■主催者挨拶 WWFジャパン森林グルー長 相馬 真紀子
■企業の木材DD事例紹介
株式会社ニトリホールディングス SDGs推進室 室長 奥田 理 氏
三菱地所レジデンス株式会社 経営企画部 サステナビリティ推進グループ(兼務)技術環境部 専任部長 石川 博明 氏
住友林業株式会社 執行役員 コーポレート本部副本部長(サステナビリティ推進・品質・安全マネジメント 統括)委嘱 飯塚 優子 氏
■TNFD開示と木材DDの関連性 WWFジャパン 金融グループ長 橋本 務太
■パネルディスカッション
■質疑

なぜ今、木材デューデリジェンスが重要なのか

ネイチャーポジティブやTNFD開示への関心が高まる中で、自然への影響を「回避・低減」から優先するミティゲーション・ヒエラルキーの考え方が、国際的な原則として共有されています。
木材等の森林コモディティを扱う企業にとって、この原則を調達の現場で具体化する出発点に位置づけられるのが、木材デューデリジェンスの実効的な運用です。

以下の図は、こうした考え方を踏まえ、調達方針の策定から実施・モニタリング、報告・開示へとつなげていく基本的なサイクルを示しています。

出典:「ネイチャーポジティブ実践に向けた手引き− 森林破壊・土地転換ゼロを事例に − WWFジャパン」2022

出典:「ネイチャーポジティブ実践に向けた手引き− 森林破壊・土地転換ゼロを事例に − WWFジャパン」2022

違法伐採や森林破壊、人権侵害といった木材調達に関わるリスクは、現在も世界各地で存在しています。そのため、単に「合法性を確認している」「認証材を購入している」だけでなく、リスクの程度や背景を把握し、その判断理由を説明できることが、企業に求められるようになっています。

また、WWFジャパンが2021年に実施した木材調達に関するアンケート調査と、今回のセミナーに先立って行った事前アンケートの結果をもとに、2021年から2026年にかけての変化についても共有しました。その結果、森林コモディティの調達方針をすでに公表している企業が大きく増加している一方で、企業が直面する課題は、従来の「社内調整」から、一次・二次サプライヤーを含む取引先との調整へと移行していることが明らかになりました。

資料:なぜ今、木材デューデリジェンスが重要なのか

企業による木材デューデリジェンスの実践事例

続いて、木材デューデリジェンスに実際に取り組まれている企業の皆様より、実践事例をご紹介いただきました。

株式会社ニトリホールディングス

株式会社ニトリホールディングスの奥田理様からは、「ニトリグループ 木材調達に関する取り組みについて」をテーマにご発表いただきました。
低価格戦略のもと、樹種や関係企業が多岐にわたる複雑なサプライチェーンにおいて、トレーサビリティ確保やリスク評価・軽減に地道に取り組んできた経緯が紹介されました。2023年の木材調達方針公表後は、調査結果をサプライヤーへフィードバックする仕組みづくりや、監査のトライアルを通じた基準策定、監査体制構築に向けた検討など、木材デューデリジェンスを実際に運用する段階へと進んでいることが共有されました。デューデリジェンスを一方的な確認作業にとどめず、サプライヤーとの対話を通じて改善につなげ、継続的にPDCAを回している点は、方針策定後の運用に課題を抱える企業も少なくない中で、実務として一段踏み込んだ取り組みと言えます。

資料:ニトリグループ木材調達に関する取り組みについて

三菱地所レジデンス株式会社

三菱地所レジデンス株式会社の石川博明様からは、「『配慮している』から『説明できる』への転換 ~三菱地所レジデンスが問いかける木材活用~」と題した講演をいただきました。
マンション開発で使用量が多い型枠合板を切り口に、調達主体と説明責任主体が一致しにくい資材特性の中で、トレーサビリティ確保にどう取り組んできたかが紹介されました。型枠合板は完成後に構造物として残らず責任の所在が曖昧になりやすいことから、南洋材などの高リスク材を起点に調査を進め、認証の連鎖をつなげる仕組みを構築した点が特徴です。取り組みを進める過程で社内外の対話が広がり、勉強会から業界横断の協議会へと発展したこと、また「今は“配慮”だけではなく“説明できるか”が問われる時代」というメッセージは、木材調達における説明責任の重要性を明確に言語化したものとして、強い示唆を与える内容でした。

資料:「配慮している」から「説明できる」への転換。〜三菱地所レジデンスが問いかける木材活用〜

住友林業株式会社

続いて住友林業株式会社の飯塚優子様からは、「住友林業のサステナブル経営―木材調達デューデリジェンス―」をテーマにご講演いただきました。
森林の上流から建築・不動産といった下流まで木材を幅広く扱う企業として、長年にわたる木材調達の経験を基盤に、国別リスク評価や必要書類の考え方を整理しつつ、木材・人権デューデリジェンスを統合的に進めてきた経緯が紹介されました。合法性の確認にとどまらず、環境・社会面のリスクを含めて調達を管理する体制を早い段階から継続的に構築してきた点に加え、TCFDに続くTNFD開示への展開や、LEAPアプローチを用いた依存・影響関係の分析など、非財務情報の高度化にも取り組んでいることが共有されました。木材デューデリジェンスをリスク管理にとどめず、事業の持続性や競争力、企業価値の向上につなげようとする姿勢は、今後を見据えた取り組みとして位置づけられます。

資料:住友林業のサステナブル経営ー 木材調達デューデリジェンスー

TNFD開示と木材デューデリジェンスの関係

WWFジャパン金融グループより、TNFD開示の現状と、木材デューデリジェンスとの関係性について解説しました。日本企業ではTNFD開示が急速に進む一方で、バリューチェーン上流のロケーション情報が不足していることから、自然への依存・影響やリスク・機会の特定が難しいケースが多いことが指摘されました。
木材デューデリジェンスを通じて蓄積されるトレーサビリティ情報は、こうした課題認識を整理し直すための基盤となるだけでなく、経営判断に資するリスク・機会評価にも活用できること、また「開示のための開示」にとどめず、戦略に活かす視点が重要であることが強調されました。

資料:TNFD開示と木材デューデリジェンスの統合

パネルディスカッション:現場の課題と乗り越え方

パネルディスカッションでは、「社内体制や経営層の理解をどう得るか」、「一次・二次サプライヤー以降の情報をどう収集するか」といった、参加者から多く寄せられていた実務上の課題について意見交換が行われました。
社内理解については、取り組み初期には業務負担やコストへの懸念が生じやすい一方で、投資家や市場からの要請、将来的な事業リスクを具体的に示し続けることで、時間をかけて理解が広がっていった経験が共有されました。また、サステナビリティ担当部門だけで完結させるのではなく、調達や商品開発部門と一体となって取り組むことで、社内に協力者が増えていく点も共通した教訓として語られました。
サプライチェーン上流の情報収集については、「聞いても分からない」「欲しい情報がすぐに得られない」といった課題がある一方で、目的を丁寧に説明しながら対話を重ねることで、徐々に情報が集まるようになったこと、また実務上は認証材の活用が有効な選択肢となる場合があることなど、現場に即した知見が共有されました。

全体を通じて、

  • いきなり完成形を目指さず、スモールスタートで進めること
  • 粘り強い対話を続けること
  • 「開示のため」ではなく「事業を続けるため」の取り組みとして位置づけること

が、木材デューデリジェンスを実務として前に進めていく上で重要性なポイントであることがあらためて確認されました。

まとめ

本セミナーを通じて、木材デューデリジェンスは特別な取り組みではなく、事業の持続性と信頼を守るための基盤となるプロセスであることが、各社の実践を通じてあらためて確認されました。
調達方針を策定した後、いかに運用し、得られた情報を次の改善や説明、開示につなげていくかが重要となります。その過程には一定の時間と労力が必要ですが、今回紹介された事例からは、「早く始め、地道に積み重ねていくこと」こそが、結果的にTNFD対応や事業リスク管理への近道となることが示唆されました。
WWFジャパンでは、今後も企業の木材や森林コモディティをはじめとする原材料調達に加え、投融資や情報開示を含む自然関連の取り組みを支援し、ネイチャーポジティブな社会への移行に向けた対話と協働を続けていきます。

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