日本の淡水魚~絶滅危惧種図鑑~


絶滅の危機にある魚類について

生息環境の開発や消失、乱獲、外来生物など、さまざまな影響が今、多くの野生生物を脅かしています。
IUCN(国際自然保護連合)が公開している、世界の「絶滅のおそれのある野生生物のリスト(通称:レッドリスト))」に、絶滅のおそれが高い種として掲載されている野生生物の種数は、2万9,473種。2,742種にのぼる、海水魚や淡水魚も含まれています。(2019年9月現在)

そして、日本の淡水魚も、この世界のレッドリストの中に数えられています。

日本のレッドリスト

日本の環境省や、都道府県などの各自治体でも、国内や各地域に分布する野生生物を対象とした「レッドリスト」を公開しています。
これらは、世界のレッドリストと比べ、より詳しく地域ごとに野生生物の絶滅危機を評価しており、国際的なリストとはまた別の重要性を持つ情報となっています。

2019年に発表された、環境省のレッドリストには、3,676種(亜種、植物の品種等を含む)の日本の野生生物が、絶滅が危惧される種(CR、EN、VU)としてリストアップされました。
掲載された動物種は、このうち1,410種。
さらにこの中に、淡水・汽水域に分布する魚類が169種含まれています。

魚類で評価対象となったのは、約400種とされていますから、そのうちの169種に絶滅のおそれがある、という現状は、淡水・汽水に生きる魚類の42%が危機的状況にある、ということを示しています。
このような魚類の多くが水田やその周辺水域に生息しています。

このページでは、日本の水田に生息する、希少な生きものを図鑑としてご紹介いたします。


ヤマノカミ Roughskin sculpin

ヤマノカミ Roughskin sculpin

ヤマノカミ Roughskin sculpin

学名 Trachidermus fasciatus
スズキ目カジカ科ヤマノカミ属 全長15~20cm 絶滅危惧IB類(EN)

日本では九州の佐賀県、福岡県、熊本県に面した、有明海奥部の流入河川と周辺海域にのみ生息する。
産卵期は冬で、11~12月になると有明海に下る。カキやタイラギの死殻を産卵床として利用し、雄は卵の世話をする。
稚魚は、海域で浮遊後、春に淡水域に遡上して成長する。
遡上後は河川下流~中流域や、川に注ぐ水田地帯の水路で生活する。

近年は、水路などの大規模な改修や、諫早湾干拓事業などの影響により、絶滅の危機が高まっている。
頭が大きく、後頭部と頬部に隆起線があり、頭の頂点がへこむ。頭部は全体的に角ばり、ゴツゴツし、正面からみると横長の六角形のようにみえる。
背面には4~5個の濃褐色の斑紋がある


セボシタビラ Blotched tabira bitterling

セボシタビラ Blotched tabira bitterling

セボシタビラ Blotched tabira bitterling

学名 Acheilognathus tabira nakamurae
コイ目コイ科タナゴ属 全長6~12cm 絶滅危惧IA類(CR)

世界では日本にしか分布していないタナゴ類タビラの一亜種。
九州の北西部にのみ分布している。
主に、平野部の河川下流域や水田地帯の水路などに生息し、砂礫~砂泥底の流水環境を好む。
季節や成長段階によって、流れの強さが異なる水路を利用するが、こうした多様な水路のネットワークの減少などにより、現在、絶滅が心配されている。

産卵期は春で、生きたカタハガイやヌマガイなどの二枚貝の鰓に産卵する。
稚魚~幼魚期、及び雌には、背鰭前方に黒色斑があり、名前(セボシ)の由来となっている。
体は扁平し、吻がやや尖る。2対の口髭は長い。雄の臀鰭の外縁と腹鰭の前縁は白色である。雌の産卵管は短い(尾鰭の末端を越えない)。


カゼトゲタナゴ  Kazetoge bittering

カゼトゲタナゴ(北九州個体群) Kazetoge bittering (Northern Kyushu Population)

カゼトゲタナゴ  Kazetoge bittering

学名 Rhodeus smithii smithii
コイ目コイ科バラタナゴ属 全長3~5cm 絶滅危惧IB類(EN)

小型のタナゴ類で、世界で日本にのみ分布する淡水魚の一種。
九州北西部と壱岐島にのみ自然分布する日本固有亜種。本州の山陽地方にも別の亜種が分布するが、いずれも絶滅の危機にある。
また、岡山県旭川水系では、人為的に移植された個体群が確認されている。

平野部の小さな河川の中流~下流、また、水田を中心とした農業水路などに生息。
流れが緩やかで、砂礫~砂泥底の環境に多い。
産卵期は春で、生きたイシガイの鰓に産卵する。

タナゴ類の中では小型である。口髭はない。体側には1本の明瞭な青い縦帯があり、その起点は背鰭、腹鰭より前にあり、先が尖る。
雌の成魚、稚魚・幼魚は、背鰭の前半部の中央に黒色斑がある。山陽集団に比べて体高が大きい。


アリアケギバチ Ariake cuttailed bullhead

アリアケギバチ Ariake cuttailed bullhead

アリアケギバチ Ariake cuttailed bullhead

学名 Tachysurus aurantiacus
ナマズ目ギギ科ギバチ属 全長15~30cm 絶滅危惧Ⅱ類(VU)

九州西部と、宮崎県大淀川水系にのみ分布する、日本の固有種。
かつては東日本に分布するギバチと同種とされていたが、近年になって別種であることが確認されている。

夜行性で水中に根を張る植物や石の空隙などに潜み、長いひげをアンテナのように使って小さな水生生物を捕食する。
河川や水路などに生息するが、こうした環境の改修により、絶滅が心配されている。

産卵期は初夏で、岩などのすき間に巣をつくり産卵し、雄は卵の世話をする。
体形は細長く、ギバチよりも体高が小さい。ギギに比べて尾鰭の切れ込みが浅く、ギバチよりも背鰭が高い。
稚魚は他のギギ属と同様で黄褐色の模様が顕著で、長い背鰭の棘が目立つ。


アリアケスジシマドジョウ Ariake striped spined loach

アリアケスジシマドジョウ Ariake striped spined loach

アリアケスジシマドジョウ Ariake striped spined loach

学名 Cobitis kaibarai
コイ目ドジョウ科シマドジョウ属 全長6~9cm 絶滅危惧IB類(EN)

九州北部の有明海流入河川にのみ分布する、九州固有種。
近年の分類学的な研究により、独立種として整理された。

河川中流~下流域、細流、特に水田周辺をめぐる、農業水路など流れが緩やかな水域に生息。
岸際の植生が豊かな砂泥底を好むが、こうした環境の減少に伴い、絶滅の危機が進行している。
IUCN(国際自然保護連合)でも本種を国際的な危急種(VU)としている。

産卵期は初夏で、岸際の浅い環境で卵をばらまく。
口髭は3対。尾鰭の基底の背側は眼径と同じ大きさの黒色斑が存在するが、腹側にはないか、あっても小さい。尾鰭には3~5列の弧状横帯がある。
従来、スジシマドジョウ小型種九州型とよばれ、コガタスジシマドジョウの1地方集団と考えられていたが、遺伝学的な研究からも明瞭に異なることが確認されている。


ゼゼラ Biwa dwarf gudgeon

ゼゼラ Biwa dwarf gudgeon

ゼゼラ Biwa dwarf gudgeon

学名 Biwia zezera
コイ目コイ科ゼゼラ属 全長4~7cm 絶滅危惧Ⅱ類(VU)

濃尾平野、琵琶湖・淀川水系、山陽地方、九州北部に不連続に自然分布する日本の固有種で、宮城県の伊豆沼や、関東地方、新潟県、福井県、静岡県などにも、人の手で放流された外来個体群が確認されている。なお、琵琶湖・淀川水系には近縁のヨドゼゼラも分布する。

河川下流域の流れの緩やかな水域、細流、水田の水路、ワンド、湖沼などの環境に生息。
砂地や砂泥の水底を好んですむ。
産卵期は春から初夏で、植物の根際などに巣をつくり産卵し、雄は卵の世話をする。

生息環境の減少にともない、各地で絶滅が心配されている。また、琵琶湖産ゼゼラが琵琶湖産アユに混在して各地に放流されたために、各地の在来ゼゼラ集団と交雑する遺伝的攪乱の問題が生じていることも報告されている。

カマツカやツチフキに似ているが、口髭がなく吻がとがらず丸い顔つきをしている。
本種は、ヨドゼゼラに比べて背鰭の後縁がへこみ、体高や尾柄高が小さい。


ニッポンバラタナゴ Japanese rosy bitterling

ニッポンバラタナゴ Japanese rosy bitterling

ニッポンバラタナゴ Japanese rosy bitterling

学名 Rhodeus ocellatus kurumeus
コイ目コイ科バラタナゴ属 全長4~5cm 絶滅危惧IA類(CR)

琵琶湖・淀川水系以西の本州、四国、九州北部に分布。日本固有亜種。
平野部の細流や、水田地帯の農業水路など、流れの緩やかな水域、ため池などの池沼に生息するが、こうした生息環境の劣化や減少にともない、分布域が急激に縮小、分断されている。
さらに、大陸産の亜種で日本の国内に放流されたタイリクバラタナゴとの交雑が進み、絶滅が心配されている。

産卵期は春で、生きたヌマガイなどの二枚貝の鰓に産卵する。
体高が大きく、雄の婚姻色は眼の上縁と尾鰭の中央部が赤い。雌の産卵管は長い。稚魚・幼魚は背鰭に黒色斑がある。外来種のタイリクバラタナゴに似ているが、本亜種は、腹鰭の前縁に白線がなく(タイリクバラタナゴは白線がある)、有孔鱗が0~5と少ない(タイリクバラタナゴは2~7)


WWFジャパンの取り組み

WWFジャパンは、水田・水路の自然と野生生物をまもるために、農業との共生プロジェクトを進めます。水田は、野生生物の宝庫であると同時に、日本の大切な農業の場となっています。私たちは、保全と生産のどちらかだけを優先するということではなく、共に未来を目指すためのプロジェクトを進めていきたいと考えています。

WWFは、現在までに世界の森林や海洋の自然をまもるため、林業や水産業の分野で、生物多様性の保全と林産物や水産物生産の共生を目指すプロジェクトを進めてきました。

このプロジェクトでも、日本の水をめぐる生物多様性の保全につながるように、より良いコメ生産と、そのようにして作られたコメを積極的に選ぶなどのより賢い消費を社会に広げるという視点とともに農業を進めている様々な方々と一緒に取り組んでいきます。

<画像>
©NatureWorks

<引用文献>
細谷和海(編),2019. 増補改訂 日本の淡水魚,山と渓谷社
中坊徹次,2013,日本産魚類検索全種の同定第三版,東海大学出版会
小村一也,2011,淡水魚塗り絵図鑑,NPO法人nature works
河川水辺の国勢調査のための生物リスト(2017)
IUCN 2019. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2019-2

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