2020年に向けた持続可能な調達コード

この記事のポイント
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、「持続可能な開発目標(SDGs)」への貢献を掲げています。大会で使うエネルギーの脱炭素化や、木材・紙・パーム油・水産物などの調達方針(調達コード)を、環境に配慮したものとして策定する試みが進められてきました。この調達方針は、このオリンピックのみならず、今後のさまざまな国際イベントの場でも、環境配慮の際の一つの目安として、レガシーとして活用されることが見込まれます。これまで議論され、策定に至った方針には、ゼロカーボンを目標とする脱炭素の運営計画など、先進的な取り組みもありますが、環境配慮の視点から見ると、不十分な要素が残されているものもあります。そこでWWFジャパンでは、分野ごとに本来あるべき調達コードを提案しています。

スポーツ大会と持続可能性

© James Morgan / WW

2020年に開催される東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献することを掲げています。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会において、2016年から政府や東京都、経済団体、市民社会などの多様なステークホルダーが参画して、東京大会の持続可能性のあり方について検討されてきました。

気候変動、資源管理、大気・水・緑・生物多様性等、人権・労働・公正な事業慣行等、参加・協働、情報発信(エンゲージメント)の5つの主要テーマと目標が掲げられ、「持続可能性に配慮した運営計画第二版」が公表されています。さらにその具体的な方策として、木材、紙、パーム油、水産物、農産物など調達される物品に対する「持続可能性に配慮した調達コード」が定められています。

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東京大会の持続可能な取り組みについて

© Wild Wonders of Europe / Zankl / WWF

2015年からスタートした「持続可能性」を大会運営に反映する検討は、環境、人権などの面から検討を進め、「持続可能に配慮した運営計画」「持続可能性に配慮した調達コード」を策定しています。

また、持続可能性に配慮した調達コードの不遵守に関する通報を受け付ける通報受付窓口も設置されています。

これらの運営計画及び調達コードは、パーム油など世界で初めて東京大会で策定された調達コードや、ゼロカーボンを目標とする脱炭素の運営計画など、先進的な取り組みもあります。

一方で、現状の木材や紙、パーム油、特に水産の調達コードでは、持続可能性がきちんと担保されない点が多々あります。

東京大会の持続可能性の取り組みを、 気候変動対策(脱炭素)の取り組み、水産物、木材、紙、パーム油の調達方針について、その評価とともに全体像をまとめました。

「東京大会の持続可能性の取り組み WWF評価 2019年8月現在」

また、環境に配慮したオリンピックとして知られた2012年のロンドン大会、続く2016年のリオ大会、それに2020年の東京大会の持続可能性の取り組みを比較した表をまとめました。

「オリパラ大会 持続可能な調達 評価と比較」

WWFが考える2019年夏現在の東京大会の持続可能性の取り組みや調達コードについての評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮した調達コード」を記します。

WWFジャパンの推奨する方針と調達コード

1.東京大会「脱炭素の取り組み」の評価

東京大会は、パリ協定の始まる2020年にふさわしく、初めてカーボンゼロ、すなわち「脱炭素」を目標に掲げた大会です。

脱炭素社会を目指す大会として、再生可能エネルギー100%で大会を運営し、まず可能な限りの省エネルギーを図ったのちに、残る排出量をオフセットするという考え方が採用されています。、さらに都市鉱山である先進国・日本の大会としてのリサイクルの推進が、東京大会の取り組みとして明確に掲げられており、パリ協定時代の国際スポーツ大会にふさわしい取り組みです。

再エネの調達方針に関しては、再エネ発展途上の日本の現状を反映して、やや中途半端な取り組みとはなっていますが、全体としては今後の自治体や企業の温暖化対策のモデルとなりうる良い方針といえます。日本社会の脱炭素化を促すレガシーとなることが期待されます。

パリ協定の始まる2020年に、カーボンゼロを目指す大会

東京大会は、Towards Zero Carbon (脱炭素社会に向けて)ということで、「可能な限りの省エネ・再エネへの転換を軸としたマネジメントを実施することにより、世界に先駆けて脱炭素化への礎を全員参加で築く」と明示しました。

そのために、まず大会によって温室効果ガスがどれほど排出されるかを把握し、それからすでにある会場を使うなどして、CO2の排出を回避していますました。さらに、その既存会場や競技会場の省エネルギー化をはかり、再生可能エネルギーを活用し、その後に残った排出量を、オフセットする、という考え方にのっとって計画が実施されています。

気候変動対策の考え方

これは、トップダウンで科学に基づいた「脱炭素化」という目標を決め、その後に可能な限りの排出の回避、削減を実施し、それからオフセットする、という気候変動対策のまさに王道にのっとった方策です。これは、国のみならず、企業や自治体にとっても今後の気候変動対策のモデルとするのにふさわしい考え方です。

再生可能エネルギー100%の運営

東京大会は、目標として再生可能エネルギー100%の運営を謳っています。東京大会の考える再生可能エネルギー(再エネ)は、下記の通りとされています。

  • 発電源が明確で持続可能な再エネ電気
  • 環境価値によって再エネと位置づけられる電気

これを基に東京大会が調達する再エネは、以下の視点を入れたものとし、可能な限りⒶⒷ両方を満たすものを優先し、状況によっては(A)(B)どちらかを満たすものを選択できるとなっています。

(A)太陽光・風力・地熱・バイオマス・水力など発電源を重視する。
(B)環境価値については、トレーサビリティがあるものを優先する。

出典:大会組織委員会(2019)  「持続可能性進捗状況報告書」

これは、日本の現状の再エネ比率が16%程度(2017年度)に過ぎず、再エネ導入において日本は発展途上であることを鑑み、現状可能な中で再エネ100%を実現するためにとられたものです。
一口に再エネといっても、その定義は様々で、一律に決めることは現状では難しいので、東京大会の持続可能性を議論する「脱炭素ワーキンググループ」において検討の結果、上記のようにまとめられました。

© Global Warming Images / WWF

WWFは、東京大会が再エネ普及の推進力となり、大会後に再エネ導入の動きが加速してレガシーとして残ることが最も重要だと思っています。その視点から、東京大会の以下の二つの取り組みに注目しています。

一つは、再エネがどこに由来しているものかを公開する動きを後押しすること、そして既存会場の場合に、その会場がもともと契約している電気を、より再エネ比率の高い排出係数の低い電気に変えていこうとする動きを後押しすることです。

恒久会場での再エネ活用のイメージ

東京大会の会場には、仮設会場と恒久会場があります。仮設会場に供給する電気と、恒久会場における東京大会運営時に必要な臨時電力(増加分)では、発電源が明確な再エネ電気だけを供給する電気メニューを導入する予定です。そして発電源の内訳を入手して、公表していく予定です。

一口に再エネといっても、何の再エネで、どこに由来するのかは、持続可能性を見るうえで非常に重要なポイントです。そのため再エネの発電源をきちんと公開するという方針は、発電事業者に向けて、由来を明示するインセンティブを与える重要なメッセージとなります。

また、恒久会場では、東京大会の運営時だけに必要な臨時電気だけではなく、もともと契約している電気があります。その通常時の電気も、なるべく再エネ比率が高い、CO2排出係数の低い電気を供給する電力会社を推奨しています。

これは電力事業者に、再エネ比率がを高く、そしてCO2排出係数がをより低い電気を供給しようというインセンティブを与えることにつながります。東京大会を契機として、大会の間だけではなく、「再エネ比率の高い電力事業者」の市場価値が上がり、消費者や事業者により選ばれるようになることが強く望まれます。

ただし、まだ再エネの導入が十分ではない日本の現状を鑑み、再エネ導入比率やCO2排出係数の具体的な定量目標は見送られました。これらがより強いインセンティブとならなかったことは、WWFとしては残念であると考えます。

東京大会に使用するオフセットの条件

そもそもパリ協定における「脱炭素化」とは、温室効果ガスを実質ゼロにすることです。すなわち、排出を可能な限り減らした後に残る分は、たとえば森林によるCO2吸収によって相殺する(=オフセットする)というように、実質的にゼロにしていくことを意味します。

2020年に開催される東京大会では、省エネ実施や再エネ導入には現実的には制限があるので、排出の多くの分を、排出クレジットを充てることによってオフセットすることになります。

東京2020大会のカーボンオフセット

出典:東京2020大会のカーボンオフセット
https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/sus-plan/carbonoffset/about/

ただしオフセットするということは、何をもって本当に温室効果ガスが減ったとみなすか、すなわちどんな排出クレジットを使うか、ということがカギとなります。なぜならば、いい加減に排出クレジットを使ってよいことにすれば、実際には排出は減らないからです。

たとえば「省エネ機器を買いました。その省エネ機器で減った分を東京大会でオフセットに使います」としながら、「その省エネ機器で減った分は同時に自社で減った分として使っています」とするならば、これは省エネによって生じた排出クレジットを2重にカウントして使っていることになり、実際には東京大会で増えた分の相殺にはつながりません。

すなわち、東京大会にどのようなオフセットクレジットを使ってよいことにするかが、東京大会の「脱炭素化」の有効性を決めることになるのです。

「脱炭素ワーキングループ」の議論の結果、東京大会では、オフセットの条件として以下の4つの条件を採用しました。

東京2020大会のカーボンオフセットに使用するクレジットの条件
  1. プロジェクトは「追加的」でなければならない。
  2. カーボンクレジットの二重カウントを避けなければならない。取引を記録し、客観的な検証を可能とする独立したシステム(登録簿や取引ログ)が必要。
  3. プロジェクトは、独立した監査機関によって、有効化および検証されなければならない。
  4. プロジェクトは、対象地域の社会・経済・環境に対して、悪影響を与えず、むしろ、便益をもたらすものでなければならない。具体的には、SDGsに対する貢献を説明できなければならない。

上記の条件を満たす例

  • 自治体キャップ&トレード制度のクレジット
  • GS:Gold Standard(海外VER:Verified Emission Reduction)
    原則として2020年9月30日までに無効化申請しているクレジットを使用


出典:東京2020大会のカーボンオフセット

このオフセットの条件は、パリ協定時代にふさわしいグローバルスタンダードな条件です。

この条件を満たしているものとして、開催地東京都の実施しているキャップ&トレード制度のクレジットや埼玉県のクレジット、さらに海外クレジットとしては、環境十全性を確保していることで知られるゴールドスタンダード認証を受けているクレジットなどが挙げられています。

これらの条件は、今後のスポーツ大会やイベントのみならず、国や自治体・企業のオフセットの条件として模範となる方針です。

「東京2020大会における市民によるCO₂削減・吸収活動」の意義

東京大会では、これをきっかけとして、多くの方々がCO2削減や吸収に貢献する活動に取り組み、大会後にもレガシーとして削減行動が定着して広がっていくことを目指しています。

そのため、多くの方が脱炭素社会へ向けた取り組みに取り組んでもらえるように、市民によるCO2削減・吸収活動を集めて、公表することになっています。
その取り組みとしては、家庭においてLED照明などの省エネ家電に買い替えること、車から公共交通機関に乗り換えること、自治体などが手入れの行き届いていない森林の整備をすることなどが挙げられています。

これらから生じる削減や吸収量は、一定の算定式で定量化されて、公表されることになっています。2050年温室効果ガスゼロを目指す横浜市や熊本県、東京都新宿区などがすでにプロジェクトを発表しており、市民が参加しやすいようになっています。

詳しくは東京2020大会における市民によるCO2削減・吸収活動をご覧いただき、奮ってご参加ください!

https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/sus-plan/carbonoffset/citizen/
 

この東京大会の「市民によるCO2削減・吸収活動」の優れているポイントは、東京大会の排出を相殺するカーボンオフセットとは切り離した活動であることです。

いわゆる「オフセット」は、1990年から続く国連交渉において、真に削減につながる排出クレジットはどうあるべきか、ということが長年にわたって国際的に議論・検討されてきました。

なぜならば、オフセットする、ということはある場所での排出を他の場所での排出減少で相殺するということなので、もしその他の場所での排出減少が、真に減少しているものではないならば、単に排出増を許すことになってしまうからです。そのためオフセットしてよいクレジットには国際的な議論を反映した厳格な条件が付けられています。

東京大会の排出は、この厳格な条件にのっとったクレジットでオフセットされることが決まっていますので、この「市民によるCO2削減・吸収活動」は、そこにはカウントされません。あくまでも「市民によるCO2削減・吸収活動」によって生じた減少分は、追加の減少として別にカウントされることになりました。
こうした整理によって、東京大会のオフセットは国際的に評価される取り組みとなっているのです。

このオフセットの手法は今後のイベントのみならず、自治体や企業のオフセットの取り組みにおいて踏襲されるべきレガシーとなることが期待されます。

大幅なCO2削減となる「鉄リサイクル」の推進

日本のCO2排出量の約12億トンのうち、鉄鋼業のプロセス由来のCO2排出量はそのうちの約14%(2016年度)を占めています。こういったプロセス由来のCO2排出量をいかに下げていくかは温暖化対策として重要な課題です。

一方で先進国日本はすでに高層ビルなどが立ち並ぶ、いわゆる「都市鉱山」の宝庫です。東京大会は、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」で、携帯電話やパソコン。デジタルカメラを回収して、リサイクル金属をメダル製作に活用しています。

「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」


この「都市鉱山」からは、毎年取り壊された建築物などから鉄スクラップも大量に発生しています。こういった鉄スクラップをリサイクルして鉄鋼を生産すると、鉄1トン当たりのCO2排出量を4分の3も削減することができるのです。

鉄のLCA手法は複数存在しており、製造までの環境負荷に焦点を当てたLCA手法や、鉄のリサイクル特性を考慮したLCA手法などがある。国際標準であるISO14040シリーズは、内容に準拠していれば、同一製品における複数のLCA手法の存在を排除しない。
 

すでにアメリカでは、リサイクル鋼材の生産比率は70%近くに達しており、欧州では40%程度です。しかし日本の現状は、リサイクル鋼材の生産比率が25%程度と低くなっています。この比率を欧米並みに上げることができれば、日本の鉄鋼業のCO2排出量を大幅に削減することが可能となります。

そこで東京大会は、「電炉鋼材などのリサイクル鋼材」を温暖化対策の目標の主要な指標の一つと位置付けたのです。

気候変動分野の目標

https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/sus-plan/

パリ協定で目指す脱炭素化には、この鉄リサイクルの推進が不可欠といっても過言ではありません。東京大会の方針は、今後の日本にとって欠かせないレガシーとして踏襲されることが期待されます。

東京大会の残すレガシー

このように東京大会の脱炭素の取り組みには、今後の日本のあるべき温暖化対策としての模範となる方針が数多く含まれています。
再生可能エネルギーの取り組みには、過渡期の日本の状況から中途半端になっている点もありますが、全体としては、下記に代表される効果的なCO2削減など、先進的な取り組みが形作られています。

  1. トップダウンの目標の決め方
  2. 排出の回避・削減・再エネへの代替・オフセットという手法
  3. 再エネの由来特定や排出係数の少ない電気の推進
  4. 厳格な基準に基づいたオフセット
  5. 鉄リサイクルの推進

今後の国や自治体、企業における模範として、レガシーとしてこれらの方針が踏襲されるにふさわしい東京大会の脱炭素の取り組みです。

2.水産調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮した水産調達コード」

水産物をめぐる問題

歴史的に人類は食糧を生産する目的で海洋を利用してきた。近年、世界的なたんぱく質供給源としての水産物の重要性は増しており、一人当たりの平均水産物消費量は1961年に9.0kgであったものが、2016年には20.3kgへと増加した。一方、世界的な過剰漁獲の影響からすでに33%の水産資源が枯渇状態にあることが指摘されている。加えて実効性ある資源管理の大きな障害となる「IUU (違法・無規制・無報告)」漁業由来の生産規模は、世界的に年間10億ドルから23億ドルとされており、適切な漁業管理体制を導入することで年間約50億ドルの増益が見込めるとする意見もある。
こうした背景から、持続可能な水産物調達の確保は、消費の現場から適切な資源管理の枠組み導入と遵守状況の向上を促進し、海洋生態系の保全だけではなく、世界的な食糧安全保障問題や沿岸地域の暮らしの改善にも貢献するものとして重要視されている。日本は世界でも有数の水産物消費国であることから、日本が持続可能な水産物消費社会の模範となり、持続可能な水産資源利用を牽引する役割を担うことが期待されている。
なお、水産物調達にあたっては、一般に以下のようなリスクが想定される。

  • 「合法性」のみの確認に留まり、生産活動による生物多様性や地域社会への悪影響のないことが確認できていない、あるいは悪影響が実際に発生している。(枯渇状態にある資源の取扱いや対象種以外を漁獲してしまう混獲、生産者を含む地域社会のステークホルダーへの人権や労働環境等への配慮が不十分であるとの指摘を受ける)
  • サプライヤーの自己宣言等に基づく合法性証明が、上記合法性のみの確認に留まることにより環境面、社会面へのリスク管理を担保できないことに加え、十分に水産資源枯渇のリスクを緩和できていない
  • 各種の書類等の分別管理の不徹底や、漁獲段階からの一貫したトレーサビリティの構築が不十分であることにより、調達された水産物の由来が把握できていない。
  • オリンピック・パラリンピック大会に特有のリスクとして、水産資源の持続可能性に関心のある国際的な利害関係者に、調達した水産物の追跡調査等を行った結果、調達コードに沿った調達実績が、実際には「持続可能な開発目標(SDGs)への貢献」を目指した本来の調達方針に適合してないと指摘されるケースも想定されうる。

オリンピック・パラリンピック大会がグローバルなイベントであることに鑑み、上記のようなリスクを十分に管理しつつ持続可能な方法で生産された水産物を積極的に利用することが求められる。そのため、合法性の基準はEU等の最も厳しい水準と同等に設定し、最低限以下の事項を確認すべきである。

水産物調達コードをめぐる課題解説

調達に関する基本原則では、東京2020組織委員会が大会の準備・運営段階で提供する物品(選手村で提供される食材なども含む)について、誰が、どこからとってきたのか、どのように供給されているのか、について、資源の保全や、生物多様性、生態系へ配慮することをうたっています。

しかし、現在の調達コード、つまり実際にそれらをどのように満たすか、を定めた「基準」は、生態系を保全し、持続可能性を担保する上で、不十分な内容となっています。どこにその課題があるのか、どのような基準が必要なのか、を解説します。

【解説】現在の調達コードについて

調達に関する基本原則では、誰が、どこからとってきたのか、どのように供給されているのか、について、資源の保全や、生物多様性、生態系の保全へ配慮することをうたっています。

調達コードの原則については、こちらを参照(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のサイト)

基本原則としては、持続可能性を担保するためのポイントが網羅されているものの、現在の調達コード、つまりそれらをどのように満たすか、を定めた具体的な調達基準は、十分な内容になっていません。
特に生態系の保全と、それによって求められる、持続可能性を担保する上では、困難な内容となっています。
特に大きな課題は次の3点です。

水産物調達コード3つの課題

  • エコラベルの認証などを取得した品でなくても「資源管理計画(漁業)」、「漁場改善計画(養殖業)」が導入され、行政機関に確認されていればよいとされており、生態系保全の視点が不十分である。
  • 透明性等に問題が残る認証制度も認めており、その認証を取得した水産物もよいとされている。
  • 現状追認コードで、国産の9割が該当する内容になっている。また、持続可能な調達を後押しするレベルの内容になっていない。

【解説】課題点

水産物の調達について、その原則としては(持続可能性に配慮した水産物の調達基準の2.)、資源だけでなく生態系にも配慮をするとしています。これは、方向性としては評価すべきものです。
しかし、水産物の持続可能性を担保するためには、「水産資源の状態」「生態系への影響」「管理体制」の3つのポイントをすべて網羅しなければ、それは持続可能な水産物とは言えません。

水産資源の状態 資源量が良好な状態で維持されているのか、資源管理がきちんと行われているか
生態系への影響 絶滅危惧種を漁獲していないか、他の魚介類や海洋生物を混獲していないか、また漁業や養殖業が、その周辺の環境や生物多様性に配慮しているか
管理体制 上記2つのポイントを管理する規制や仕組みがあり、かつそれが遵守されるための運用やマネジメントがなされているか

現在の調達コードの課題点は、これらがすべて網羅されていない点にあります。
特に、生態系への影響に関しては、まったく考慮しなくても、その水産物は調達できることになってしまっています。

根本的に大きく問題となるのは、認証をうけた水産物以外の水産物について基準をさだめた調達基準の4.です。

【持続可能性に配慮した水産物の調達基準 4】

上記 3 に示す認証を受けた水産物以外を必要とする場合は、以下のいずれかに該当するものでなければならない。

(1)資源管理に関する計画であって、行政機関による確認を受けたものに基づいて行われている漁業により漁獲され、かつ、上記 2 の④について別紙に従って確認されていること。

(2)漁場環境の維持・改善に関する計画であって、行政機関による確認を受けたものにより管理されている養殖漁場において生産され、かつ、上記 2 の④について別紙に従って確認されていること。

資源管理計画もしくは漁場改善計画を作成していない場合、または行政機関による確認を受けていない場合→ 
(3)上記 3 に示す認証取得を目指し、透明性・客観性をもって進捗確認が可能な改善計画に基づく漁業・養殖業により漁獲または生産される場合を含め、上記 2 の①~④を満たすことが別紙に従って確認されていること。

※上記2④:当該水産物の漁獲または生産に当たり、関係法令等に照らして適切に措置が講じられていることを確認する。

このように、認証を受けていない水産物については、法令を遵守の上で、資源管理計画もしくは漁場管理計画があれば、これを調達することが可能、つまり持続可能性を担保するとされています。

*資源管理計画とは:漁業を対象にしたもので、国や都道府県が策定する資源管理指針に基づき、漁業者が、魚種または漁業種類ごとに、自主的に行う資源管理措置について作成するもの。対象の魚種・漁業種類の現状、海域、資源管理措置(休漁や漁獲量制限、網目の拡大など)、取組期間等を記載している。

*漁場管理計画とは:養殖業を対象にしたもので、漁協などが共同または単独で作成するもの。養殖による環境への負荷を漁場の範囲内におさえることにより、養殖漁場環境の維持・改善をはかり、持続的な養殖生産を行うため、養殖業者自らが、自主的に行う管理措置について作成するもの。対象の魚種、水域、その水域の動植物の種類、漁場の改善目標、改善を図るための措置等を記載している。

しかし、このように計画がある、というだけでは、環境に配慮したことにはなりません。

さらに、これらの「計画」には、対象の魚の資源管理とは別に、生態系への配慮を行う視点が不十分であったり、そもそもその配慮されていない内容が含まれています。

その漁業または養殖業の対象の水産物の数だけ守れば良い、というのは、持続可能性を担保する、という観点からは不十分です。また、「生態系への影響」のポイントが抜け落ちていることも、持続可能性が担保できていないことを物語っています。

また、計画があれば良しとする場合については本来、持続可能性を担保した計画があり、かつそれがきちんと実行されていることが必要になります。

しかし、水産庁の資料によれば、現在ある1930の漁業資源管理計画を検証した結果のうち、約63%はその資源の状況が横ばいもしくは減少の傾向にあり、一方で資源が増加している魚種は、36.7%にとどまっています。(水産庁 規制改革推進会議水産ワーキンググループ資料より)

つまり、持続可能性を担保するために網羅すべき3つのポイントの中で、「資源の状態」のみをみても、6割以上の資源が増加していないことがわかります。

また、3つめの「管理体制」についても、「漁業資源管理計画」および「漁場改善計画」が確実に実行されるための仕組みがあるかどうかは、明らかにする必要がなく、そのプロセスが不透明であるといわざるを得ません。

ここで定められている「漁業資源管理計画」の対象となる魚種は、実際に日本の漁獲量の9割をカバーしています。また、「漁場改善計画」があるものについても、日本の養殖生産量の9割が、この対象です。

つまりこれらの計画の対象となる漁業を、全て認めている調達基準は、実質的にどのような水産物でも「持続可能なもの」と見なしてしまう危険性をはらんでいる、ということです。

資源状態、生態系への影響への配慮、管理体制が不十分であるにもかかわらず、調達基準をクリアしている、と認めてしまえば、現状を何も改善することなく水産物が調達され、持続可能性が確実に担保できないリスクがあります。

以上より、持続可能性に配慮した水産物の調達基準としては、大きな課題があると言わざるを得ません。

また、認証を受けた水産物については、持続可能性の観点の基準を満たすものとして、認めることとしています。

大会組織委員会が認める認証制度

大会組織委員会はMSC、ASC、MEL、AELという4つの認証を、持続可能性に配慮した認証制度として認めています(持続可能性に配慮した水産物の調達基準 3)。このうち、MSCとASCは国際的に認められている認証制度であり、取得のためには、「資源状況」「海洋環境影響」「管理システム」について、科学的かつ客観的な指標を用いて、調査・報告を行ない、第三者機関のチェックを受けることで、信頼性を担保しています。

しかし国内の認証制度にとどまっているMELとAELは現状、そうした透明性を担保する手続きが十分に行なわれていない例があり、それらを判断する情報も不十分で、国際的な信頼と持続可能性を担保できるのか、疑問が残ります。

【水産物に関し推奨する調達コード】

国際的な大会として、また未来にのこすべきレガシーとして今、どのような基準が、持続可能性を担保する上で必要なのでしょうか。
WWFジャパンは次のような調達基準を推奨しています。

■確認事項

  • 漁獲対象や餌となる魚の資源状況
  • 混獲等、生産活動に起因する海洋環境への影響
  • 中長期的視野に立った、適切な資源管理体制および漁業管理体制の有無
  • 先住民族・地域社会に関わる社会紛争の有無や労働者の労働環境
  • 製品から漁獲・養殖した生産現場まで追跡可能なトレーサビリティの有無

■推奨する確認方法

  • IUU(違法・無規制・無報告)漁業由来の水産物の排除、保護価値の高い海洋の保全、労働環境など社会面での配慮にコミットする調達方針を策定し、適合する水産物の供給をサプライヤーに要求すること
  • 適切な記録等によって生産現場まで遡ることが可能な、透明性あるトレーサビリティを確立すること
  • 方針へ合致した調達の手段として、天然魚についてはMSC認証製品、また養殖魚についてはASC認証製品を、その加工・流通・販売時の管理に必要なCoC認証を取得した上で調達することが最も確実である。  MSC、ASC認証製品の調達が困難な場合は、科学的かつ客観的な指標を用いた方法で、①資源状況、②海洋環境影響、③管理システム(管理体制と管理制度)の3点に関するリスクアセスメントを行い、これらにつき客観的に進捗確認が可能な中長期的な漁業・養殖業の管理及び改善計画を、多様なステークホルダーと協働して実施している生産者からの調達を優先すること
  • 認証製品や中長期的管理・改善計画を行っている製品の調達が困難な場合は、事業にて調達する可能性のある水産物について、科学的かつ客観的な指標を用いた方法で、①資源状況、②海洋環境影響、③管理システム(管理体制と管理制度)の3点に関するリスクアセスメントを行い、その結果を参考としてリスクの低いものを取扱い、かつリスクの高い水産物の取扱いを避けること
  • 具体的方法の検討・導入については、国内外供給元、国内外有識者、NGO、民間企業などからなる多様なステークホルダーが参加可能な透明性のあるプロセスを確保すること

i. Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO), 2016
ii. WWF-ZSL, 2018, “Living Blue Planet report”
iii. D.J. Agnew, J. Pearce, G. Pramod, T. Peatman, R. Watson, J.R. Beddington and T.J. Pitcher. 2009. Estimating the worldwide extent of illegal fishing. PLoS ONE, 4(2): e4570
iv. The World Bank-FAO, 2008, The Sunken Billions: The Economic Justification for Fisheries reform,
v. FAO, 2016

3.木材調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮した木材調達コード」

適切に利用すれば木材は再生可能な資源であり、積極的に利用することが望まれるが、木材生産の現場では違法伐採や、合法であっても環境面・社会面で持続可能ではない伐採が行われている場合がある。森林減少・劣化を引き起こさず、生物多様性や地域社会に配慮した木材を選んで調達することが消費国に求められている。なお、木材調達にあたっては、一般に以下のようなリスクが想定される。

  • 「合法性」の範囲を狭く定義することにより、一部の法律の適合のみをもって「合法」としてしまい、確認範囲外になった法律の順守について確認がなされない
  • 「合法性」のみの確認に留まり、伐採による生物多様性や地域社会への悪影響のないことが確認できていない、あるいは悪影響が実際に発生している。特に自然林の植林地や多用途への転換に関連して指摘を受ける
  • サプライヤーの自己宣言等に基づく合法性証明が、十分に違法伐採リスクを緩和できていない
  • 自然林を転換して開発された植林木に対して与えられた森林認証材について、生物多様性等への配慮がされていないと指摘を受ける
  • 「森林認証(CoC認証)」を取得しているサプライヤーであることの確認にとどまり、購入している木材製品そのものが「森林認証製品」かどうかの確認が行われない
  • 各種の証明書等が、分別管理の不徹底などにより、実際に調達した木材に紐づいていない
  • 環境面・社会面で問題が報告される事業者が、外部からの購入など一部適正に調達した原料による製品のみを選んで納入したため、購入者の調達方針には合致したものの、そのような事業者と取引すること自体を疑問視される
  • オリンピック・パラリンピック大会に特有のリスクとして、森林資源の持続可能性に関心のある国際的な利害関係者が、調達した木材の追跡調査等を行った結果、調達コードへの不適合を指摘されるようなケースも想定されうる

木材調達コードをめぐる課題解説

「持続可能性に配慮した木材の調達基準」が掲げる持続可能性の原則には、合法性確認に加えて地域の生態系や先住民族・地域住民の権利に配慮することなど、持続可能性を担保するうえで重要なポイントが網羅されており、現行の日本のグリーン購入法を上回るものであると評価できます。一方で、その原則を担保・確認する方法には問題があります。どこにその課題があるのか、どのような基準が必要なのか、解説します。

世界の森林資源をめぐる問題

世界の森は年々減少を続けており、国連食糧農業機関(FAO)が発表した「世界森林資源評価2015」によれば、世界の森林面積約40億ヘクタールのうち、毎年760万ヘクタール(日本の面積の約1/5)に相当する森林が減少しています。図1のとおり、WWF発表の報告書「森林減少の最前線」によれば、2010年-30年までの森林破壊の80%が、世界の11の地域で起こると予測されており、特にアマゾン、インドネシアなど赤く示された熱帯林の減少が深刻です。

図 1 森林減少の最前線 (出典:WWF報告書「世界森林資源評価2015」)

図 1 森林減少の最前線 (出典:WWF報告書「世界森林資源評価2015」)

森がなくなる、ということはそこに暮らす野生生物や、森の恵みに依存しながら暮らす人々に負の影響があるだけではなく、森林伐採の過程で行なわれる火入れや泥炭地を開発する際の水抜きなどにより、大量の温室効果ガス排出も引き起こします。特に、熱帯林減少の要因としては、地域住民による薪炭材としての利用や森林火災のほか、植林地・農地への転換を目的とした森林伐採、木材自体の利用など、人間の消費活動が深く結びついています。

このような森林減少を引き起こし、温室効果ガスの排出を増大させるような生産活動であっても、森林資源の原産国政府が企業に開発のための大規模な伐採権を与えることがあります。明らかに非持続可能な開発行為も、原産国では合法として認められているのです。つまり、原産国の法律に照らして合法性を証明できたとしても、持続可能性を担保することには必ずしもならない可能性に留意する必要があるということです。

調達した森林資源が持続可能でないサプライチェーンに由来するかもしれない、というリスクを管理するためには、とくに、ガバナンスの弱い国では、合法性をみるだけでは不十分な可能性が高いため、持続可能性基準を慎重に検討し、確認する必要があるでしょう。

WWFは、森林減少の原因となる生産活動自体を全てなくすべきであるとは考えていません。森林資源は、周辺の生態系や地域社会などにも配慮した、持続可能な方法で生産・利用される必要があると考えています。
木材や紙であれば、特に、インドネシアやマレーシアなど熱帯地域での森林減少が、日本における消費も深い関係があると考えられており、これら木材を取り扱う企業が森林減少に関する課題に適切に、責任を持って対処することは重要です。例えば、原材料の調達、加工、輸送などサプライチェーン上の情報を、認証制度などを活用して確認することで、森林減少に関わる原材料の排除や、地域住民や労働者の権利に十分な配慮を行なうことができます。
このように、企業が森林減少防止や人権遵守を目的として、社内基準や調達方針等を整備することは、持続可能な社会の実現を大きく加速させるものだといえます。

【解説】木材の調達基準について

木材の調達基準は他コモディティに先駆けて2016年に第1版が策定されました。その後改定を経て、2019年1月時点のものが現時点での最終版となっています。

調達コード第1版が公表された翌年の2017年9月11日、環境 NGO含む47の市民団体から国際オリンピック委員会(IOC)理事会あてに、木材の調達に関する公開書簡が提出されました。書簡は熱帯木材および他のリスクの高い供給源からの木材の使用に警告を鳴らしたもので、特に問題にされたのは国立競技場の建設に使われた木材です。その木材は森林減少が深刻なマレーシアのサラワク州で産出されたもので、同地域の森林減少を引き起こした企業の一つであるシンヤン社の製品でした。インドネシアやマレーシアは世界的にみても生物多様性の宝庫といえる場所です。保護価値の高い森林がたくさんあり、多種多様で希少な野生生物も生息。森の中で森林資源を使って生計を立てる住民も多く暮らしています。このような場所に由来する森林資源を使用する際には環境面・社会面で極めて慎重なリスク管理を行なうことが求められます。IOCへの公開書簡提出の翌年、木材調達基準の見直しが2018年7月から11月にかけて開催された持続可能な調達ワーキンググループで議論され、2019年1月には改定版の木材調達基準として公表されました。

木材調達基準の持続可能性原則

2019年1月改定版「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(以下、「木材調達基準」という)で掲げる持続可能性の原則は図2のとおりです。合法性確認に加えて地域の生態系や先住民族・地域住民の権利に配慮することなどが盛り込まれており、内容としては現行の日本のグリーン購入法を上回るものであると評価できます。

木材調達基準の持続可能性に関する原則
  1. 伐採に当たって、原木の生産された国又は地域における森林に関する法令等に照らして手続きが適切になされたものであること
  2. 中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来するものであり、森林の農地等への転換に由来するものでないこと
  3. 伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること
  4. 伐採に当たって、先住民族や地域住民の権利に配慮されていること
  5. 伐採に従事する労働者の安全対策が適切に取られていること

図 2 持続可能性に配慮した木材の調達基準(項目2)
(出典:https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-timber-code2.pdf

木材調達基準の課題

基本原則としては、持続可能性を担保するためのポイントが網羅されているものの、その原則を担保・確認する方法は以下3つの点において十分とはいえません。

  • 項目3で、FSC、PEFC、SGECという異なる認証がどれも「項目2の①~⑤への適合度が高いものとして原則認める」とされていること
  • 項目4(別紙1)における非認証材の持続可能性についての確認は自主確認任せになっていること
  • 項目7に、製品そのものだけでなく、地域やサプライヤーのリスク管理についても実施する推奨基準が追加されたが、義務ではないこと

大会組織委員会が認める認証制度

項目3ではFSC、PEFC、SGECという3つの認証がすべて上記①~⑤に合致する、としていますが、前出の国立競技場で問題となったサワラク材はPEFC認証材でした。PEFCというのは各国の認証システムを相互に認めるもので、FSCのように統一された基準を全世界で執行するシステムとは異なります。例えば日本ではSGECという認証制度がPEFCの相互認証を受けているように、国や地域によって異なる認証材が「PEFC認証材」として流通することになります。PEFCの精度には、国や地域によるばらつきが出てしまいますし、ガバナンスの弱い国と強い国では、基準を担保するための運用能力にも差が出てきます。また、FSCには、伐採を行なう企業を評価して問題があれば関係を断絶する措置があるのに対し、PEFCはこのような企業評価を行なっていません。持続可能性を担保する手段としてPEFC認証が適切であるかどうか、十分な精査が必要だと考えられます。

非認証材の持続可能性

次に、非認証材の確認方法についても課題があります。木材調達基準の項目4(別紙1)には、「国産材の場合は森林所有者、森林組合又は素材生産事業者等が、輸入材の場合は輸入事業者が、説明責任の観点から合理的な方法に基づいて以下の確認を実施し、その結果について書面に記録する」とあります。これは、非認証材の持続可能性についての確認は自主確認で良いということを意味し、持続可能性の原則に則った適切な調達が実施されたかどうかを確認する手段としては十分とはいえないと考えられます。

地域やサプライヤーのリスク管理

2019年1月の改定の際、新たに項目7番として地域やサプライヤーのリスクを確認する文言が、「可能な範囲で原材料の原産地や製造事業者に関する情報を 収集し、リスク低減に活用することが推奨される」として追加されました。法律や認証だけに頼るのではなく、サプライヤー自身がトレーサビリティや製造事業者に関する情報を収集し、追加的な確認を行うことは重要であり、本項目の追加は評価できます。一方で、本項目は「推奨」にとどまっており、「義務」ではありません。拘束力がないことから、実際に持続可能性を担保する方法としては十分な基準とはいえません。

【木材に関し推奨する具体的な調達コード】

国際的な大会として、また未来にのこすべきレガシーとして今、どのような基準が、持続可能性を担保する上で必要なのでしょうか。
WWFジャパンは次のような調達基準を推奨しています。
これは、オリンピック・パラリンピック大会がグローバルなイベントであることに鑑み、上記のようなリスクを十分に管理しつつ適切に生産された木材を積極的に利用することを求めるものです。そのためには、合法性の基準はEU等の最も厳しい水準と同等に設定し、最低限以下の事項を確認すべきと考えます。

■確認事項

  • 必要十分な合法性の確認および違法伐採の疑いが排除できない木材の調達見合わせ
  • 原料調達における保護価値の高い地域(泥炭地含む)の保全、非持続可能な植林地等への転換がないこと
  • 社会面(伐採地周辺の地域住民および先住民族、林業労働者の権利等)での配慮

■推奨する確認方法

  • 調達コードへの合致を確認する手段として、CoC認証が正しく繋がったFSC認証材または市中回収された原材料のみで生産された再生木材製品を調達する
  • FSC認証材が入手できない場合には、調達コードに対する適合について、Due Diligenceを実施する他、調達コードへの不適合のリスクが高い地域や樹種について現地確認などの追加的なリスク低減策を実施する。この際のDue Diligenceやリスク低減策については、既に責任ある木材調達方針を有して運用しているサプライヤー、専門家、木材生産地の事情に詳しいNGO等に相談することも有用である
  • 各種の第三者監査・認証、業界団体による証明や木材サプライヤーの自己宣言等については、確認事項への合致を担保するものかどうか、保証の範囲・程度を判断することが求められる。確認事項への適合を部分的にしか担保できない場合には、追加的な確認をすること

なお、東京2020大会に関わる全ての調達を行う組織およびその納入者に、調達コード適合に関する実績の集計およびその情報の透明性確保を求める。

4.紙調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮した紙調達コード」

紙の原料となる木材は、適切に利用されれば再生可能な資源であるが、世界の森林では、違法伐採ないし、合法であっても環境・社会面での配慮が十分ではない非持続可能な原料調達が報告されている。とりわけ、製紙原料調達においては、保護すべき価値の高い地域を転換して開発された産業用植林地からの調達に関して、自然林破壊、生物多様性の損失、社会紛争等の問題が指摘されている。購入者の認識の有無に関わらず、問題が指摘される紙製品を調達し、問題へ加担することは、国際的な非難の対象となりかねないことから、生産者だけではなく紙製品に関わるサプライチェーン全体で責任ある調達を徹底することが消費国に求められている。なお、紙製品の調達にあたっては、一般に以下のようなリスクが想定される。

  • 原材料が「植林木であること」の確認に留まり、保護すべき価値の高い自然林から植林地への転換にともなう生物多様性保全や地域社会への悪影響が確認できていない。
  • 事業者自身による主観的な調達方針や宣言等が、十分に環境面・社会面のリスクを緩和できていない。
  • 保護すべき価値の高い自然林を転換して開発された植林地に対して与えられた森林認証材について、自然林破壊、生物多様性の損失、社会紛争等への配慮がされていないと指摘を受ける。
  • 「森林認証(CoC認証)」を取得しているサプライヤーであることの確認にとどまり、購入している製品そのものが「森林認証製品」であるかどうかの確認が行われない。
  • 環境面・社会面で問題が報告される事業者が、外部からの購入など一部適正に調達した原料による製品のみを選んで納入したため、購入者の調達方針には合致したものの、そのようなサプライヤーと取引すること自体を疑問視される。
  • オリンピック・パラリンピック大会に特有のリスクとして、森林資源の持続可能性に関心のある国際的な利害関係者が、調達した紙製品の追跡調査等を行った結果、調達コードへの不適合を指摘されるようなケースも想定されうる。

オリンピック・パラリンピック大会がグローバルなイベントであることに鑑み、上記のようなリスクを十分に管理しつつ適切に生産された紙製品を積極的に利用するために、最低限以下の事項を確認すべきである。

紙調達コードをめぐる課題解説

「持続可能性に配慮した紙の調達基準」の原則は、合法性の確認や周辺地域の生態系保全、先住民族・地域住民の権利の尊重など、基本的な持続可能性を担保する上で重要な要素が方針として掲げられています。これは、現行の日本のグリーン購入法と比較しても、より高い目標を示したものとして評価できます。しかし、その原則が満たされているかどうかを確認する手段には不十分な点が見られます。その課題とは何か、あるべき基準として必要なポイントは何なのかを解説します。

自然林の減少と紙生産

紙の生産は、今も世界の森を減少させる、大きな原因の一つです。特に、東南アジアの熱帯などでは、長年にわたり深刻な自然林破壊が続き、生態系の消失のみならず、地域社会への影響なども大きな問題になっています。
日本が多く紙を輸入している国の一つである、インドネシア、スマトラ島では、過去30年間に自然林の55%(1400万ha)が消失。その主因の一つとして、紙の生産を目的とした伐採や、パルプの原料となる植林(プランテーション)の拡大といった、非持続可能な開発が挙げられます。
また、こうした問題は、製紙メーカーやそのサプライチェーン上にある伐採業者と、地域住民と間で、強制的な立ち退きや暴力行為をともなう社会紛争に発展するケースもあるほか、すみかを失ってプランテーションに現れるゾウやトラなどの希少な野生生物が、人との遭遇を起こしたり、害獣として殺される事件につながることも珍しくありません。
さらに、泥炭湿地 の上にある森を人為的に乾燥させて植林地を開発するケースでは膨大な量の温室効果ガスが排出され、火災や煙害なども暮らしや健康に被害をももたらす例が指摘されています。
2015年に起きた大規模な森林火災で排出されたCO2(二酸化炭素)は17億トン以上。2013年の日本一国のCO2排出量(14.06億トン)を上回る規模となっています。

日本は、中国、アメリカに次ぐ世界第3位の紙・板紙の生産国であり、国民1人当たりの紙・板紙消費量も209kg/年と世界平均の57kgを大きく上回っています。
この大きな消費を支えるために、日本の製紙メーカーは、東南アジアをはじめ世界各地から原料を輸入し、日本で紙製品を生産しています。

この他に、海外から輸入される紙製品も多くあり、特にインドネシアからの輸入は、日本に直接輸入されるコピー用紙の58%、家庭紙の24%を占めており、インドネシアの最大の木材輸出国である中国を経由して日本に輸入される紙製品も相当量あることを考慮すれば、国内の紙の消費によって生じる自然林(天然林)減少、またそれに伴うさまざまな問題について、責任を持った行動と対処を行なうことが、日本には強く求められている、ということです。

【解説】紙の調達基準について

紙調達基準の持続可能性原則

紙の調達基準の特に持続可能性の原則に関しては、生態系保全、天然林の保全といった環境面での要件に加え、先住民や地域住民の権利尊重といった社会的な要素が盛り込まれており、現行の日本のグリーン購入法を上回る要件となっています。

紙調達基準の持続可能性に関する原則
  1.  伐採・採取に当たって、原木等の生産された国又は地域における森林その他の採取地に関する法令等に照らして手続きが適切になされたものであること
  2. 中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林その他の採取地に由来すること
  3. 伐採・採取に当たって、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること
  4. 森林等の利用に当たって、先住民族や地域住民の権利が尊重され、事前の情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること
  5. 伐採・採取に従事する労働者の労働安全・衛生対策が適切にとられていること

図 2 持続可能性に配慮した紙の調達基準(項目2)
(出典:https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-paperproducts-code2.pdf

紙調達基準の課題

一方で、持続可能性を実質的に担保する上で、課題と見られる点があります。
たとえば、PEFC認証を持続可能な認証として認めている点です。PEFC認証は、世界共通の原則と基準に基づき運用されるFSC認証と異なり、例えば日本のSGEC(『緑の循環』認証会議)やオーストラリアのAFS(Australian Forestry Standard)といったその国や地域それぞれにある認証と相互認証する形で行なわれています。
そのPEFCと相互認証する制度の一つである、インドネシアの森林認証制度IFCC(Indonesian Forest Certification Cooperation)は、環境・社会面の両面から、持続可能とはいえない森林管理に対し、認証が行なわれている例が報告されています。

・項目3
上記2(2)の1~5を満たすバージンパルプを使用した紙として、FSC、PEFC(SGECを含む)の認証紙が認められる。これらの認証紙以外を必要とする場合は、バージンパルプの原料となる木材等について、別紙に従って1~5に関する確認が実施されなければならない。

実際に、認証を取得していても持続可能性が疑われるケースとして、2015年、主にインドネシアで原料調達を行う製紙メーカーがIFCC/PEFCを取得。早期に100%認証を取得することを明言しましたが、WWFインドネシアは「これらの認証は(中略)森林や泥炭湿地が再生、保全、管理され、社会紛争が解決されたことの証拠とは言えない」と表明。
実際、近年、自然の熱帯林を破壊して開発された多くのインドネシアの製紙用植林地では、未解決の社会紛争も多数報告されています。

サプライヤーのリスク低減措置の課題

項目5では、現行の持続可能性の確認方法(項目3)では、最もリスクが高いとされる、上記のようなインドネシアからの製品・事業者を避けることができない、という指摘がなされています。

【項目5】では
「サプライヤーは、伐採地までのトレーサビリティ確保の観点も含め、可能な範囲で当該紙の原材料の原産地や製造事業者に関する指摘等の情報を収集し、その信頼性・客観性等に十分留意しつつ、上記2 を満たさない紙を生産する事業者から調達するリスクの低減に活用することが推奨される。」

とされていますが、この状況下でリスク低減のための情報収集が「推奨」では、方策として不十分と言わねばなりません。

信頼ある森林認証の推奨

一方で、紙の調達基準では、国際的にも信頼性の高いFSC®(Forest Stewardship council ®、森林管理協議会)認証も推奨しています。
FSCは世界共通の10の原則、70の基準に基づいた国際制度。現在までに、約2億100万ヘクタールの森林が認証されており、約39,000件のCoC認証(流通過程における認証)が実現しています。
また、FSCには、森林区画や工場単位での部分的な評価だけではなく、事業者の操業全体を評価する制度があります。
これは、大規模な自然林破壊などFSCのミッションに反する操業を行なう事業者が、一部の問題のない森林、もしくは工場でのみFSCを取得することで「環境に配慮している」と見せかけることを防ぎ、FSCの信頼を守るための措置です。

FSCが関係する組織に認めない許容できない活動
a) 違法伐採、または違法な木材または林産物の取引
b) 森林施業における伝統的権利及び人権の侵害
c) 森林施業における高い保護価値(HCV)の破壊
d) 森林から人工林または森林以外への土地利用への重大な転換
e) 森林施業における遺伝子組換え生物の導入
f) 国際労働機関(ILO)中核的労働基準 への違反

東京都ではこれをグリーン購入ガイドの水準2(推奨項目)に取り入れ、2018年版まで見られた「持続可能なもの」「森林認証材」といった曖昧な表記が、2019年6月の最新版では、より具体的にFSCのみを採用する内容に改められました。

公共調達においてこのような判断と記載がなされたことは、持続可能な紙調達を実現する上で、大きな一歩です。

東京都のグリーン購入ガイドライン
改訂版【水準2】推奨項目
①古紙パルプ配合率100%など古紙パルプの配合率が可能な限り高いものであること。
②バージンパルプが原料として使用される場合にあっては、FSC認証を受けたもの又は間伐材等パルプであること。
③製品の包装又は梱包は、可能な限り簡易であって、再生利用の容易さ及び廃棄時の負荷低減に配慮されていること。

【紙製品に関し推奨する具体的な調達コード】

■確認事項

  • 伐採や土地入手等における合法性
  • 原料調達における保護価値の高い地域(泥炭地含む)の保全、また保護価値の高い地域(泥炭地含む)を転換して開発された植林地からの調達でないこと
  • 先住民族・地域社会・労働者等に関わる深刻な社会紛争の有無

■推奨する確認方法

  • CoC認証が正しく繋がったFSC認証製品またはリサイクル原料を主原料として生産された再生紙であるかどうか。
  • 上記の調達が困難な場合には、確認事項に対する適合について、サプライヤーへのヒアリング、アンケートなどを行い追加的な確認をすること。
  • 各種の第三者監査・認証、サプライヤーの自己宣言等については、確認事項への合致を担保するものかどうか、保証の範囲・程度を判断することが求められる。確認事項を部分的にしか担保できない場合には、追加的な確認をすること。その際、生産地の事情に詳しい専門家やNGO等の発信する情報の確認や相談を行うこと。

なお、東京2020大会に関わる全ての調達を行う組織およびその納入者に、調達コード適合に関する実績の集計およびその情報の透明性確保を求める。

5.パーム油調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮したパーム油調達コード」

パーム油をめぐる問題

パーム油はアブラヤシの実から得られる油脂で、世界で最も多く生産される植物油脂です。カップ麺、お菓子、パンなどの加工食品や、化粧品・パーソナルケア用品、洗剤、医薬品などの消費生活用製品からバイオ燃料に至るまで幅広く利用されており、日本で使われる植物油のうち、菜種油に次いで2番目に多く消費され、国民一人当たり年に4~5リットル消費しています。パーム油の需要は世界的に増加傾向にあり、主要生産国であるインドネシアとマレーシアでは、パーム油生産を目的とした無秩序なアブラヤシ農園の開発が森林減少、生物多様性損失、人権侵害といった様々な問題を引き起こしています。
近年、欧米を中心とした先進諸国において、持続可能なパーム油の調達は当然と考えられており、日本でも同様の基準を持ちパーム油生産の課題解決に貢献することが期待されています。

なお、パーム油調達にあたっては、一般に以下のようなリスクが想定されます。

  • 何も確認せずにパーム油 /パーム油製品を購入したら、調達元の農園において強制労働や児童労働が行われていると指摘を受ける
  • 「RSPOに加盟している」もしくは「サプライチェーン認証を取得している」サプライヤーであることの確認にとどまり、購入している製品そのものが「RSPO認証製品」かどうかの確認が行われない
  • 事業者自身による主観的な調達方針や自主宣言等が、十分に環境面・社会面のリスクを緩和できていない
  • オリンピック・パラリンピック大会に特有のリスクとして、森林資源の持続可能性に関心のある国際的な利害関係者が、調達したパーム油/パーム油製品の追跡調査等を行った結果、調達コードへの不適合を指摘されるようなケースも想定されうる

オリンピック・パラリンピック大会がグローバルなイベントであることに鑑み、上記のようなリスクを十分に管理しつつ適切に生産されたパーム油を積極的に利用すべきと考えます。

パーム油調達コードをめぐる課題解説

オリンピック・パラリンピック大会において、パーム油の調達コードが策定されたのは今回の東京大会が史上初となります。この点は高く評価すべきですが、現状の調達コードでは、持続可能性を担保できる基準であるとは言えません。どこが課題なのか、どのような基準が必要なのか、について以下で解説します。

【解説】原則

調達基準2.に書かれている、持続可能性の原則は環境面及び社会面において満たすべき項目は、最低限ではありますが「確保されていなければならない」点として規定しています。

調達基準2.原則
  1. 生産された国または地域における農園の開発・管理に関する法令等に照らして手続きが適切になされていること。
  2. 農園の開発・管理において、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること。
  3. 農園の開発・管理において、先住民族等の土地に関する権利が尊重され、事前の情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること。
  4. 農園の開発・管理や搾油工場の運営において、児童労働や強制労働がなく、農園労働者の適切な労働環境が確保されていること。

【解説】課題1:担保方法

問題は、上記原則を確保するため調達基準3.に規定されている担保方法にあります。特に以下の点において、不十分と言えます。

  • (1)で、「小規模農家を含め幅広い生産者が改善に取り組むことを後押しする」という理由で、国際的な認証制度であるRSPOだけではなく、国内制度であるMSPOとISPOも「2項の1~4の考え方に沿っている」と認めていること
調達基準3.担保方法

上記2の1~4の考え方に沿ってパーム油の生産現場における取組を認証するスキームとして、ISPO、MSPO、RSPOがある。

(1)これらの認証については、実効性の面で課題が指摘される場合があるものの、小規模農家を含め幅広い生産者が改善に取り組むことを後押しする観点から、これらの認証を受けたパーム油(以下、「認証パーム油」という。)を活用できることとする。

(2)上記(1)の認証パーム油については、流通の各段階で受け渡しが正しく行われるよう適切な流通管理が確保されている必要がある。

(3)上記(1)の認証パーム油の確保が難しい場合には、生産現場の改善に資するものとして、これらの認証に基づき、使用するパーム油量に相当するクレジットを購入する方法も活用できることとする。

(4)組織委員会は、ISPO、MSPO、RSPOを活用可能な認証として位置づけることが適当であることを確認するために、これらの運営状況を引き続き注視する。

(5)上記の 3つの認証と同等以上のものとして組織委員会が認める認証スキームによる認証パーム油についても同様に扱うことができるものとする。

生産現場において上記2の1~4を確保するためには、調達基準別紙にもある通り、パーム油を生産した農園や搾油工場を特定し、そのすべてで問題がないことを第三者が確認する必要があります。しかしこうした方法は現実的ではなく、通常は信頼できる国際的な第三者認証を担保手法として活用します。パーム油の場合、国際的に持続可能性の担保として利用されているのはRSPOのみです。

MSPOとISPOは国内制度であるため合法性は担保されますが、持続可能性はいまだ不足しているという複数の比較分析も出ており、現状で持続可能性が担保できる方法はRSPOの活用のみと考えています。

また、「小規模農家を含め幅広い生産者が改善に取り組むことを後押しする」ことは、国際的に取り組まなければならない重要課題ですが、東京2020大会の持続可能な調達基準が第一の目的とすべき点ではないと考えます。調達基準はあくまでも2.1~4を満たすことができる手法かどうかという観点で考えるべきものです。

<参考情報> 比較分析(英語のみ)

【解説】課題2:苦情処理システム

近年、持続可能性基準を策定する場合、基準の不遵守に関する通報窓口を用意することが求められます。商品によっては、原料の生産・製造過程も含めるととても複雑なサプライチェーンになる場合も多く、見えない部分で問題が起きていることもあるからです。
東京2020大会でも当然窓口は設置されており、人権面・環境面など基準に沿っていない事実があった場合、国や人を問わず苦情申立ができるシステムです。しかし、パーム油は製品の原料として使用されているため、使われているパーム油がどこで生産・加工されているかを外部の私たちが知ることは困難です。だからこそ、オリンピック・パラリンピックに提供されたパーム油の詳細情報が公開される必要があります。
本来、苦情処理システムと情報公開はセットで進められるべきですが、現状では組織委員会からの情報公開は予定されていません。更に、調達基準5.には「…記録した書類を東京2020大会終了後から1年の間保管し、組織委員会が求める場合はこれを提出しなければならない」とあります。言葉の通り理解すると、組織委員会が求めなければ、または苦情申立がなければ、組織委員会は記録した書類を確認さえしない、ということです。

調達基準5.

サプライヤーは、上記1の対象のうち、上記3または4に該当するパーム油が使用されているものについて記録した書類を東京2020大会終了後から1年の間保管し、組織委員会が求める場合はこれを提出しなければならない。

【パーム油に関し推奨する具体的な調達コード】

国際的な大会として、また未来にのこすべきレガシーとして今、どのような基準が、持続可能性を担保する上で必要なのでしょうか。
WWFジャパンは次のような調達基準を推奨しています。

■確認事項

  • 新規農園開発、火の使用等における合法性の確認
  • 保護価値の高い地域(泥炭地含む)の保全、非持続可能な農園等への転換がないこと
  • 先住民族・地域社会・労働者等に関わる社会紛争の有無

■推奨する確認方法

  • サプライチェーン認証が正しく繋がったRSPO認証製品(MBもしくはSG/IP※)を調達すること
  • RSPO認証製品の調達が困難な場合には、調達をしている全ての農園(小規模農家を含む)までさかのぼりアンケートや現場調査により上記について確認すること
  • 確認の際には、農園開発に伴い泥炭地を含む保護価値の高い地域が保全されているか、火を使用していないか、開発の際に自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)が実施されていたか、強制・児童労働がないかといった点を特に重点的に確認する必要がある。確認の際には、専門家やNGO等への確認も有用である
  • また、確認のためには独立した第三者監査が必要不可欠であり、事業者の自己宣言だけでは確認事項を満たしているとは限らない。確認事項への適合を部分的にしか担保できない場合には、追加的な確認をすること

なお、東京2020大会に関わる全ての調達を行う組織およびその納入者に、調達コード適合に関する実績の集計およびその情報の透明性を求める。

※MB(マスバランス)、SG(セグリゲーション)およびIP(アイデンティティ・プリザーブド)はRSPOの認証モデルの種類。いずれも認証油のことを示す。

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