3.木材・紙・パーム油調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮した木材・紙・パーム油調達コード」


木材調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮した木材調達コード」

適切に利用すれば木材は再生可能な資源であり、積極的に利用することが望まれるが、木材生産の現場では違法伐採や、合法であっても環境面・社会面で持続可能ではない伐採が行われている場合がある。森林減少・劣化を引き起こさず、生物多様性や地域社会に配慮した木材を選んで調達することが消費国に求められている。なお、木材調達にあたっては、一般に以下のようなリスクが想定される。

  • 「合法性」の範囲を狭く定義することにより、一部の法律の適合のみをもって「合法」としてしまい、確認範囲外になった法律の順守について確認がなされない
  • 「合法性」のみの確認に留まり、伐採による生物多様性や地域社会への悪影響のないことが確認できていない、あるいは悪影響が実際に発生している。特に自然林の植林地や多用途への転換に関連して指摘を受ける
  • サプライヤーの自己宣言等に基づく合法性証明が、十分に違法伐採リスクを緩和できていない
  • 自然林を転換して開発された植林木に対して与えられた森林認証材について、生物多様性等への配慮がされていないと指摘を受ける
  • 「森林認証(CoC認証)」を取得しているサプライヤーであることの確認にとどまり、購入している木材製品そのものが「森林認証製品」かどうかの確認が行われない
  • 各種の証明書等が、分別管理の不徹底などにより、実際に調達した木材に紐づいていない
  • 環境面・社会面で問題が報告される事業者が、外部からの購入など一部適正に調達した原料による製品のみを選んで納入したため、購入者の調達方針には合致したものの、そのような事業者と取引すること自体を疑問視される
  • オリンピック・パラリンピック大会に特有のリスクとして、森林資源の持続可能性に関心のある国際的な利害関係者が、調達した木材の追跡調査等を行った結果、調達コードへの不適合を指摘されるようなケースも想定されうる

木材調達コードをめぐる課題解説

「持続可能性に配慮した木材の調達基準」が掲げる持続可能性の原則には、合法性確認に加えて地域の生態系や先住民族・地域住民の権利に配慮することなど、持続可能性を担保するうえで重要なポイントが網羅されており、現行の日本のグリーン購入法を上回るものであると評価できます。一方で、その原則を担保・確認する方法には問題があります。どこにその課題があるのか、どのような基準が必要なのか、解説します。

世界の森林資源をめぐる問題

世界の森は年々減少を続けており、国連食糧農業機関(FAO)が発表した「世界森林資源評価2015」によれば、世界の森林面積約40億ヘクタールのうち、毎年760万ヘクタール(日本の面積の約1/5)に相当する森林が減少しています。図1のとおり、WWF発表の報告書「森林減少の最前線」によれば、2010年-30年までの森林破壊の80%が、世界の11の地域で起こると予測されており、特にアマゾン、インドネシアなど赤く示された熱帯林の減少が深刻です。

図 1 森林減少の最前線 (出典:WWF報告書「世界森林資源評価2015」)

森がなくなる、ということはそこに暮らす野生生物や、森の恵みに依存しながら暮らす人々に負の影響があるだけではなく、森林伐採の過程で行なわれる火入れや泥炭地を開発する際の水抜きなどにより、大量の温室効果ガス排出も引き起こします。特に、熱帯林減少の要因としては、地域住民による薪炭材としての利用や森林火災のほか、植林地・農地への転換を目的とした森林伐採、木材自体の利用など、人間の消費活動が深く結びついています。

このような森林減少を引き起こし、温室効果ガスの排出を増大させるような生産活動であっても、森林資源の原産国政府が企業に開発のための大規模な伐採権を与えることがあります。明らかに非持続可能な開発行為も、原産国では合法として認められているのです。つまり、原産国の法律に照らして合法性を証明できたとしても、持続可能性を担保することには必ずしもならない可能性に留意する必要があるということです。

調達した森林資源が持続可能でないサプライチェーンに由来するかもしれない、というリスクを管理するためには、とくに、ガバナンスの弱い国では、合法性をみるだけでは不十分な可能性が高いため、持続可能性基準を慎重に検討し、確認する必要があるでしょう。

WWFは、森林減少の原因となる生産活動自体を全てなくすべきであるとは考えていません。森林資源は、周辺の生態系や地域社会などにも配慮した、持続可能な方法で生産・利用される必要があると考えています。
木材や紙であれば、特に、インドネシアやマレーシアなど熱帯地域での森林減少が、日本における消費も深い関係があると考えられており、これら木材を取り扱う企業が森林減少に関する課題に適切に、責任を持って対処することは重要です。例えば、原材料の調達、加工、輸送などサプライチェーン上の情報を、認証制度などを活用して確認することで、森林減少に関わる原材料の排除や、地域住民や労働者の権利に十分な配慮を行なうことができます。
このように、企業が森林減少防止や人権遵守を目的として、社内基準や調達方針等を整備することは、持続可能な社会の実現を大きく加速させるものだといえます。

【解説】木材の調達基準について

木材の調達基準は他コモディティに先駆けて2016年に第1版が策定されました。その後改定を経て、2019年1月時点のものが現時点での最終版となっています。

調達コード第1版が公表された翌年の2017年9月11日、環境 NGO含む47の市民団体から国際オリンピック委員会(IOC)理事会あてに、木材の調達に関する公開書簡が提出されました。書簡は熱帯木材および他のリスクの高い供給源からの木材の使用に警告を鳴らしたもので、特に問題にされたのは国立競技場の建設に使われた木材です。その木材は森林減少が深刻なマレーシアのサラワク州で産出されたもので、同地域の森林減少を引き起こした企業の一つであるシンヤン社の製品でした。インドネシアやマレーシアは世界的にみても生物多様性の宝庫といえる場所です。保護価値の高い森林がたくさんあり、多種多様で希少な野生生物も生息。森の中で森林資源を使って生計を立てる住民も多く暮らしています。このような場所に由来する森林資源を使用する際には環境面・社会面で極めて慎重なリスク管理を行なうことが求められます。IOCへの公開書簡提出の翌年、木材調達基準の見直しが2018年7月から11月にかけて開催された持続可能な調達ワーキンググループで議論され、2019年1月には改定版の木材調達基準として公表されました。

木材調達基準の持続可能性原則

2019年1月改定版「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(以下、「木材調達基準」という)で掲げる持続可能性の原則は図2のとおりです。合法性確認に加えて地域の生態系や先住民族・地域住民の権利に配慮することなどが盛り込まれており、内容としては現行の日本のグリーン購入法を上回るものであると評価できます。

木材調達基準の持続可能性に関する原則
  1. 伐採に当たって、原木の生産された国又は地域における森林に関する法令等に照らして手続きが適切になされたものであること
  2. 中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来するものであり、森林の農地等への転換に由来するものでないこと
  3. 伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること
  4. 伐採に当たって、先住民族や地域住民の権利に配慮されていること
  5. 伐採に従事する労働者の安全対策が適切に取られていること

図 2 持続可能性に配慮した木材の調達基準(項目2)
(出典:https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-timber-code2.pdf

木材調達基準の課題

基本原則としては、持続可能性を担保するためのポイントが網羅されているものの、その原則を担保・確認する方法は以下3つの点において十分とはいえません。

  • 項目3で、FSC、PEFC、SGECという異なる認証がどれも「項目2の①~⑤への適合度が高いものとして原則認める」とされていること
  • 項目4(別紙1)における非認証材の持続可能性についての確認は自主確認任せになっていること
  • 項目7に、製品そのものだけでなく、地域やサプライヤーのリスク管理についても実施する推奨基準が追加されたが、義務ではないこと

大会組織委員会が認める認証制度

項目3ではFSC、PEFC、SGECという3つの認証がすべて上記①~⑤に合致する、としていますが、前出の国立競技場で問題となったサワラク材はPEFC認証材でした。PEFCというのは各国の認証システムを相互に認めるもので、FSCのように統一された基準を全世界で執行するシステムとは異なります。例えば日本ではSGECという認証制度がPEFCの相互認証を受けているように、国や地域によって異なる認証材が「PEFC認証材」として流通することになります。PEFCの精度には、国や地域によるばらつきが出てしまいますし、ガバナンスの弱い国と強い国では、基準を担保するための運用能力にも差が出てきます。また、FSCには、伐採を行なう企業を評価して問題があれば関係を断絶する措置があるのに対し、PEFCはこのような企業評価を行なっていません。持続可能性を担保する手段としてPEFC認証が適切であるかどうか、十分な精査が必要だと考えられます。

非認証材の持続可能性

次に、非認証材の確認方法についても課題があります。木材調達基準の項目2(別紙1)には、「国産材の場合は森林所有者、森林組合又は素材生産事業者等が、輸入材の場合は輸入事業者が、説明責任の観点から合理的な方法に基づいて以下の確認を実施し、その結果について書面に記録する」とあります。これは、非認証材の持続可能性についての確認は自主確認で良いということを意味し、持続可能性の原則に則った適切な調達が実施されたかどうかを確認する手段としては十分とはいえないと考えられます。

地域やサプライヤーのリスク管理

2019年1月の改定の際、新たに項目7番として地域やサプライヤーのリスクを確認する文言が、「可能な範囲で原材料の原産地や製造事業者に関する情報を 収集し、リスク低減に活用することが推奨される」として追加されました。法律や認証だけに頼るのではなく、サプライヤー自身がトレーサビリティや製造事業者に関する情報を収集し、追加的な確認を行うことは重要であり、本項目の追加は評価できます。一方で、本項目は「推奨」にとどまっており、「義務」ではありません。拘束力がないことから、実際に持続可能性を担保する方法としては十分な基準とはいえません。

【木材に関し推奨する具体的な調達コード】

国際的な大会として、また未来にのこすべきレガシーとして今、どのような基準が、持続可能性を担保する上で必要なのでしょうか。
WWFジャパンは次のような調達基準を推奨しています。
これは、オリンピック・パラリンピック大会がグローバルなイベントであることに鑑み、上記のようなリスクを十分に管理しつつ適切に生産された木材を積極的に利用することを求めるものです。そのためには、合法性の基準はEU等の最も厳しい水準と同等に設定し、最低限以下の事項を確認すべきと考えます。

■確認事項

  • 必要十分な合法性の確認および違法伐採の疑いが排除できない木材の調達見合わせ
  • 原料調達における保護価値の高い地域(泥炭地含む)の保全、非持続可能な植林地等への転換がないこと
  • 社会面(伐採地周辺の地域住民および先住民族、林業労働者の権利等)での配慮

■推奨する確認方法

  • 調達コードへの合致を確認する手段として、CoC認証が正しく繋がったFSC認証材または市中回収された原材料のみで生産された再生木材製品を調達する
  • FSC認証材が入手できない場合には、調達コードに対する適合について、Due Diligenceを実施する他、調達コードへの不適合のリスクが高い地域や樹種について現地確認などの追加的なリスク低減策を実施する。この際のDue Diligenceやリスク低減策については、既に責任ある木材調達方針を有して運用しているサプライヤー、専門家、木材生産地の事情に詳しいNGO等に相談することも有用である
  • 各種の第三者監査・認証、業界団体による証明や木材サプライヤーの自己宣言等については、確認事項への合致を担保するものかどうか、保証の範囲・程度を判断することが求められる。確認事項への適合を部分的にしか担保できない場合には、追加的な確認をすること

なお、東京2020大会に関わる全ての調達を行う組織およびその納入者に、調達コード適合に関する実績の集計およびその情報の透明性確保を求める。

紙調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮した紙調達コード」

紙の原料となる木材は、適切に利用されれば再生可能な資源であるが、世界の森林では、違法伐採ないし、合法であっても環境・社会面での配慮が十分ではない非持続可能な原料調達が報告されている。とりわけ、製紙原料調達においては、保護すべき価値の高い地域を転換して開発された産業用植林地からの調達に関して、自然林破壊、生物多様性の損失、社会紛争等の問題が指摘されている。購入者の認識の有無に関わらず、問題が指摘される紙製品を調達し、問題へ加担することは、国際的な非難の対象となりかねないことから、生産者だけではなく紙製品に関わるサプライチェーン全体で責任ある調達を徹底することが消費国に求められている。なお、紙製品の調達にあたっては、一般に以下のようなリスクが想定される。

  • 原材料が「植林木であること」の確認に留まり、保護すべき価値の高い自然林から植林地への転換にともなう生物多様性保全や地域社会への悪影響が確認できていない。
  • 事業者自身による主観的な調達方針や宣言等が、十分に環境面・社会面のリスクを緩和できていない。
  • 保護すべき価値の高い自然林を転換して開発された植林地に対して与えられた森林認証材について、自然林破壊、生物多様性の損失、社会紛争等への配慮がされていないと指摘を受ける。
  • 「森林認証(CoC認証)」を取得しているサプライヤーであることの確認にとどまり、購入している製品そのものが「森林認証製品」であるかどうかの確認が行われない。
  • 環境面・社会面で問題が報告される事業者が、外部からの購入など一部適正に調達した原料による製品のみを選んで納入したため、購入者の調達方針には合致したものの、そのようなサプライヤーと取引すること自体を疑問視される。
  • オリンピック・パラリンピック大会に特有のリスクとして、森林資源の持続可能性に関心のある国際的な利害関係者が、調達した紙製品の追跡調査等を行った結果、調達コードへの不適合を指摘されるようなケースも想定されうる。

オリンピック・パラリンピック大会がグローバルなイベントであることに鑑み、上記のようなリスクを十分に管理しつつ適切に生産された紙製品を積極的に利用するために、最低限以下の事項を確認すべきである。

紙調達コードをめぐる課題解説

「持続可能性に配慮した紙の調達基準」の原則は、合法性の確認や周辺地域の生態系保全、先住民族・地域住民の権利の尊重など、基本的な持続可能性を担保する上で重要な要素が方針として掲げられています。これは、現行の日本のグリーン購入法と比較しても、より高い目標を示したものとして評価できます。しかし、その原則が満たされているかどうかを確認する手段には不十分な点が見られます。その課題とは何か、あるべき基準として必要なポイントは何なのかを解説します。

自然林の減少と紙生産

紙の生産は、今も世界の森を減少させる、大きな原因の一つです。特に、東南アジアの熱帯などでは、長年にわたり深刻な自然林破壊が続き、生態系の消失のみならず、地域社会への影響なども大きな問題になっています。
日本が多く紙を輸入している国の一つである、インドネシア、スマトラ島では、過去30年間に自然林の55%(1400万ha)が消失。その主因の一つとして、紙の生産を目的とした伐採や、パルプの原料となる植林(プランテーション)の拡大といった、非持続可能な開発が挙げられます。
また、こうした問題は、製紙メーカーやそのサプライチェーン上にある伐採業者と、地域住民と間で、強制的な立ち退きや暴力行為をともなう社会紛争に発展するケースもあるほか、すみかを失ってプランテーションに現れるゾウやトラなどの希少な野生生物が、人との遭遇を起こしたり、害獣として殺される事件につながることも珍しくありません。
さらに、泥炭湿地 の上にある森を人為的に乾燥させて植林地を開発するケースでは膨大な量の温室効果ガスが排出され、火災や煙害なども暮らしや健康に被害をももたらす例が指摘されています。
2015年に起きた大規模な森林火災で排出されたCO2(二酸化炭素)は17億トン以上。2013年の日本一国のCO2排出量(14.06億トン)を上回る規模となっています。

日本は、中国、アメリカに次ぐ世界第3位の紙・板紙の生産国であり、国民1人当たりの紙・板紙消費量も209kg/年と世界平均の57kgを大きく上回っています。
この大きな消費を支えるために、日本の製紙メーカーは、東南アジアをはじめ世界各地から原料を輸入し、日本で紙製品を生産しています。

この他に、海外から輸入される紙製品も多くあり、特にインドネシアからの輸入は、日本に直接輸入されるコピー用紙の58%、家庭紙の24%を占めており、インドネシアの最大の木材輸出国である中国を経由して日本に輸入される紙製品も相当量あることを考慮すれば、国内の紙の消費によって生じる自然林(天然林)減少、またそれに伴うさまざまな問題について、責任を持った行動と対処を行なうことが、日本には強く求められている、ということです。

【解説】紙の調達基準について

紙調達基準の持続可能性原則

紙の調達基準の特に持続可能性の原則に関しては、生態系保全、天然林の保全といった環境面での要件に加え、先住民や地域住民の権利尊重といった社会的な要素が盛り込まれており、現行の日本のグリーン購入法を上回る要件となっています。

紙調達基準の持続可能性に関する原則
  1.  伐採・採取に当たって、原木等の生産された国又は地域における森林その他の採取地に関する法令等に照らして手続きが適切になされたものであること
  2. 中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林その他の採取地に由来すること
  3. 伐採・採取に当たって、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること
  4. 森林等の利用に当たって、先住民族や地域住民の権利が尊重され、事前の情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること
  5. 伐採・採取に従事する労働者の労働安全・衛生対策が適切にとられていること

図 2 持続可能性に配慮した紙の調達基準(項目2)
(出典:https://tokyo2020.org/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-paperproducts-code2.pdf

紙調達基準の課題

一方で、持続可能性を実質的に担保する上で、課題と見られる点があります。
たとえば、PEFC認証を持続可能な認証として認めている点です。PEFC認証は、世界共通の原則と基準に基づき運用されるFSC認証と異なり、例えば日本のSGEC(『緑の循環』認証会議)やオーストラリアのAFS(Australian Forestry Standard)といったその国や地域それぞれにある認証と相互認証する形で行なわれています。
そのPEFCと相互認証する制度の一つである、インドネシアの森林認証制度IFCC(Indonesian Forest Certification Cooperation)は、環境・社会面の両面から、持続可能とはいえない森林管理に対し、認証が行なわれている例が報告されています。

・項目3
上記2(2)の1~5を満たすバージンパルプを使用した紙として、FSC、PEFC(SGECを含む)の認証紙が認められる。これらの認証紙以外を必要とする場合は、バージンパルプの原料となる木材等について、別紙に従って1~5に関する確認が実施されなければならない。

実際に、認証を取得していても持続可能性が疑われるケースとして、2015年、主にインドネシアで原料調達を行う製紙メーカーがIFCC/PEFCを取得。早期に100%認証を取得することを明言しましたが、WWFインドネシアは「これらの認証は(中略)森林や泥炭湿地が再生、保全、管理され、社会紛争が解決されたことの証拠とは言えない」と表明。
実際、近年、自然の熱帯林を破壊して開発された多くのインドネシアの製紙用植林地では、未解決の社会紛争も多数報告されています。

サプライヤーのリスク低減措置の課題

項目5では、現行の持続可能性の確認方法(項目3)では、最もリスクが高いとされる、上記のようなインドネシアからの製品・事業者を避けることができない、という指摘がなされています。

【項目5】では
「サプライヤーは、伐採地までのトレーサビリティ確保の観点も含め、可能な範囲で当該紙の原材料の原産地や製造事業者に関する指摘等の情報を収集し、その信頼性・客観性等に十分留意しつつ、上記2 を満たさない紙を生産する事業者から調達するリスクの低減に活用することが推奨される。」

とされていますが、この状況下でリスク低減のための情報収集が「推奨」では、方策として不十分と言わねばなりません。

信頼ある森林認証の推奨

一方で、紙の調達基準では、国際的にも信頼性の高いFSC®(Forest Stewardship council ®、森林管理協議会)認証も推奨しています。
FSCは世界共通の10の原則、70の基準に基づいた国際制度。現在までに、約2億100万ヘクタールの森林が認証されており、約39,000件のCoC認証(流通過程における認証)が実現しています。
また、FSCには、森林区画や工場単位での部分的な評価だけではなく、事業者の操業全体を評価する制度があります。
これは、大規模な自然林破壊などFSCのミッションに反する操業を行なう事業者が、一部の問題のない森林、もしくは工場でのみFSCを取得することで「環境に配慮している」と見せかけることを防ぎ、FSCの信頼を守るための措置です。

FSCが関係する組織に認めない許容できない活動
a) 違法伐採、または違法な木材または林産物の取引
b) 森林施業における伝統的権利及び人権の侵害
c) 森林施業における高い保護価値(HCV)の破壊
d) 森林から人工林または森林以外への土地利用への重大な転換
e) 森林施業における遺伝子組換え生物の導入
f) 国際労働機関(ILO)中核的労働基準 への違反

【紙製品に関し推奨する具体的な調達コード】

■確認事項

  • 伐採や土地入手等における合法性
  • 原料調達における保護価値の高い地域(泥炭地含む)の保全、また保護価値の高い地域(泥炭地含む)を転換して開発された植林地からの調達でないこと
  • 先住民族・地域社会・労働者等に関わる深刻な社会紛争の有無

■推奨する確認方法

  • CoC認証が正しく繋がったFSC認証製品またはリサイクル原料を主原料として生産された再生紙であるかどうか。
  • 上記の調達が困難な場合には、確認事項に対する適合について、サプライヤーへのヒアリング、アンケートなどを行い追加的な確認をすること。
  • 各種の第三者監査・認証、サプライヤーの自己宣言等については、確認事項への合致を担保するものかどうか、保証の範囲・程度を判断することが求められる。確認事項を部分的にしか担保できない場合には、追加的な確認をすること。その際、生産地の事情に詳しい専門家やNGO等の発信する情報の確認や相談を行うこと。

なお、東京2020大会に関わる全ての調達を行う組織およびその納入者に、調達コード適合に関する実績の集計およびその情報の透明性確保を求める。

パーム油調達コードの評価と、本来あるべき「持続可能性に配慮したパーム油調達コード」

パーム油をめぐる問題

パーム油はアブラヤシの実から得られる油脂で、世界で最も多く生産される植物油脂です。カップ麺、お菓子、パンなどの加工食品や、化粧品・パーソナルケア用品、洗剤、医薬品などの消費生活用製品からバイオ燃料に至るまで幅広く利用されており、日本で使われる植物油のうち、菜種油に次いで2番目に多く消費され、国民一人当たり年に4~5リットル消費しています。パーム油の需要は世界的に増加傾向にあり、主要生産国であるインドネシアとマレーシアでは、パーム油生産を目的とした無秩序なアブラヤシ農園の開発が森林減少、生物多様性損失、人権侵害といった様々な問題を引き起こしています。
近年、欧米を中心とした先進諸国において、持続可能なパーム油の調達は当然と考えられており、日本でも同様の基準を持ちパーム油生産の課題解決に貢献することが期待されています。

なお、パーム油調達にあたっては、一般に以下のようなリスクが想定されます。

  • 何も確認せずにパーム油 /パーム油製品を購入したら、調達元の農園において強制労働や児童労働が行われていると指摘を受ける
  • 「RSPOに加盟している」もしくは「サプライチェーン認証を取得している」サプライヤーであることの確認にとどまり、購入している製品そのものが「RSPO認証製品」かどうかの確認が行われない
  • 事業者自身による主観的な調達方針や自主宣言等が、十分に環境面・社会面のリスクを緩和できていない
  • オリンピック・パラリンピック大会に特有のリスクとして、森林資源の持続可能性に関心のある国際的な利害関係者が、調達したパーム油/パーム油製品の追跡調査等を行った結果、調達コードへの不適合を指摘されるようなケースも想定されうる

オリンピック・パラリンピック大会がグローバルなイベントであることに鑑み、上記のようなリスクを十分に管理しつつ適切に生産されたパーム油を積極的に利用すべきと考えます。

パーム油調達コードをめぐる課題解説

オリンピック・パラリンピック大会において、パーム油の調達コードが策定されたのは今回の東京大会が史上初となります。この点は高く評価すべきですが、現状の調達コードでは、持続可能性を担保できる基準であるとは言えません。どこが課題なのか、どのような基準が必要なのか、について以下で解説します。

【解説】原則

調達基準2.に書かれている、持続可能性の原則は環境面及び社会面において満たすべき項目は、最低限ではありますが「確保されていなければならない」点として規定しています。

調達基準2.原則
  1. 生産された国または地域における農園の開発・管理に関する法令等に照らして手続きが適切になされていること。
  2. 農園の開発・管理において、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること。
  3. 農園の開発・管理において、先住民族等の土地に関する権利が尊重され、事前の情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること。
  4. 農園の開発・管理や搾油工場の運営において、児童労働や強制労働がなく、農園労働者の適切な労働環境が確保されていること。

【解説】課題1:担保方法

問題は、上記原則を確保するため調達基準3.に規定されている担保方法にあります。特に以下の点において、不十分と言えます。

  • (1)で、「小規模農家を含め幅広い生産者が改善に取り組むことを後押しする」という理由で、国際的な認証制度であるRSPOだけではなく、国内制度であるMSPOとISPOも「2項の1~4の考え方に沿っている」と認めていること
調達基準3.担保方法

上記2の1~4の考え方に沿ってパーム油の生産現場における取組を認証するスキームとして、ISPO、MSPO、RSPOがある。

(1)これらの認証については、実効性の面で課題が指摘される場合があるものの、小規模農家を含め幅広い生産者が改善に取り組むことを後押しする観点から、これらの認証を受けたパーム油(以下、「認証パーム油」という。)を活用できることとする。

(2)上記(1)の認証パーム油については、流通の各段階で受け渡しが正しく行われるよう適切な流通管理が確保されている必要がある。

(3)上記(1)の認証パーム油の確保が難しい場合には、生産現場の改善に資するものとして、これらの認証に基づき、使用するパーム油量に相当するクレジットを購入する方法も活用できることとする。

(4)組織委員会は、ISPO、MSPO、RSPOを活用可能な認証として位置づけることが適当であることを確認するために、これらの運営状況を引き続き注視する。

(5)上記の 3つの認証と同等以上のものとして組織委員会が認める認証スキームによる認証パーム油についても同様に扱うことができるものとする。

生産現場において上記2の1~4を確保するためには、調達基準別紙にもある通り、パーム油を生産した農園や搾油工場を特定し、そのすべてで問題がないことを第三者が確認する必要があります。しかしこうした方法は現実的ではなく、通常は信頼できる国際的な第三者認証を担保手法として活用します。パーム油の場合、国際的に持続可能性の担保として利用されているのはRSPOのみです。

MSPOとISPOは国内制度であるため合法性は担保されますが、持続可能性はいまだ不足しているという複数の比較分析も出ており、現状で持続可能性が担保できる方法はRSPOの活用のみと考えています。

また、「小規模農家を含め幅広い生産者が改善に取り組むことを後押しする」ことは、国際的に取り組まなければならない重要課題ですが、東京2020大会の持続可能な調達基準が第一の目的とすべき点ではないと考えます。調達基準はあくまでも2.1~4を満たすことができる手法かどうかという観点で考えるべきものです。

<参考情報> 比較分析(英語のみ)

【解説】課題2:苦情処理システム

近年、持続可能性基準を策定する場合、基準の不遵守に関する通報窓口を用意することが求められます。商品によっては、原料の生産・製造過程も含めるととても複雑なサプライチェーンになる場合も多く、見えない部分で問題が起きていることもあるからです。
東京2020大会でも当然窓口は設置されており、人権面・環境面など基準に沿っていない事実があった場合、国や人を問わず苦情申立ができるシステムです。しかし、パーム油は製品の原料として使用されているため、使われているパーム油がどこで生産・加工されているかを外部の私たちが知ることは困難です。だからこそ、オリンピック・パラリンピックに提供されたパーム油の詳細情報が公開される必要があります。
本来、苦情処理システムと情報公開はセットで進められるべきですが、現状では組織委員会からの情報公開は予定されていません。更に、調達基準5.には「…記録した書類を東京2020大会終了後から1年の間保管し、組織委員会が求める場合はこれを提出しなければならない」とあります。言葉の通り理解すると、組織委員会が求めなければ、または苦情申立がなければ、組織委員会は記録した書類を確認さえしない、ということです。

調達基準5.

サプライヤーは、上記1の対象のうち、上記3または4に該当するパーム油が使用されているものについて記録した書類を東京2020大会終了後から1年の間保管し、組織委員会が求める場合はこれを提出しなければならない。

【パーム油に関し推奨する具体的な調達コード】

国際的な大会として、また未来にのこすべきレガシーとして今、どのような基準が、持続可能性を担保する上で必要なのでしょうか。
WWFジャパンは次のような調達基準を推奨しています。

■確認事項

  • 新規農園開発、火の使用等における合法性の確認
  • 保護価値の高い地域(泥炭地含む)の保全、非持続可能な農園等への転換がないこと
  • 先住民族・地域社会・労働者等に関わる社会紛争の有無

■推奨する確認方法

  • サプライチェーン認証が正しく繋がったRSPO認証製品(MBもしくはSG/IP※)を調達すること
  • RSPO認証製品の調達が困難な場合には、調達をしている全ての農園(小規模農家を含む)までさかのぼりアンケートや現場調査により上記について確認すること
  • 確認の際には、農園開発に伴い泥炭地を含む保護価値の高い地域が保全されているか、火を使用していないか、開発の際に自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)が実施されていたか、強制・児童労働がないかといった点を特に重点的に確認する必要がある。確認の際には、専門家やNGO等への確認も有用である
  • また、確認のためには独立した第三者監査が必要不可欠であり、事業者の自己宣言だけでは確認事項を満たしているとは限らない。確認事項への適合を部分的にしか担保できない場合には、追加的な確認をすること

なお、東京2020大会に関わる全ての調達を行う組織およびその納入者に、調達コード適合に関する実績の集計およびその情報の透明性を求める。

※MB(マスバランス)、SG(セグリゲーション)およびIP(アイデンティティ・プリザーブド)はRSPOの認証モデルの種類。いずれも認証油のことを示す。

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