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「スマトラ持続可能な天然ゴムプロジェクト」3年目の活動がスタート

この記事のポイント
2026年1月、株式会社ブリヂストンとWWFジャパンとのパートナーシップの一環で始まった小規模な天然ゴム農家を支援し、持続可能性向上を目指すプロジェクトが3年目を迎えました。長年、地域の主要な農作物の一つとして人々の暮らしを支えてきた天然ゴム。その収量や品質の改善による農家の生計向上、森林破壊の防止、アグロフォレストリーによる収入の安定と多角化など、「持続可能性」には、環境、社会、経済的な要素が含まれます。「自然保護のため」だけでは解決しない現地の課題にも向き合いながら、生産地のステークホルダーとの協働が進んでいます。
目次

プロジェクト概要

目的 スマトラ島の森林保全:
持続可能な天然ゴム生産を目指す小規模農家への支援
期間 2024年1月~2026年12月
場所 インドネシア スマトラ島リアウ州、ジャンビ州
実施体制 【日本】WWFジャパン、株式会社ブリヂストン
【インドネシア】WWFインドネシア、PT. Bridgestone Sumatra Rubber Estate(BSRE)
関連リンク インドネシアでブリヂストンとの協働がスタート(2024年)
生産地での二年目の活動がスタート(2025年)

スマトラの自然 プロジェクトサイトの選定の背景

インドネシア西部に位置し、日本の1.5倍ほどもある巨大な島、スマトラ島。赤道直下に位置するこの島は、かつてそのほとんどが豊かな自然の熱帯林に覆われていました。ところが、特に1980年代頃から、広大な土地を必要とする大規模な農園や植林地の造成や鉱物資源の採掘などが加速。スマトラの自然はその姿を大きく変えていきました。

現在も残る自然の熱帯林には、絶滅危惧種となってしまったスマトラトラやスマトラゾウ、スマトラオランウータンなどの島固有の野生生物が生息。しかし生息地の減少や分断は、そうした野生生物の生存に大きな影響を与えています。

スマトラ中部に広がる自然の熱帯林。森林生態系が生み出す自然の恵みは地域の人々の暮らしを支えてきた。

スマトラ中部に広がる自然の熱帯林。森林生態系が生み出す自然の恵みは地域の人々の暮らしを支えてきた。

これまでの主な活動と進捗 持続性と自立を見据えて

2024年に始まったこのプロジェクトは、1990年代よりスマトラ島で自然保護活動を展開してきたWWFインドネシアの知見や地域との繋がりと、ブリヂストンが長年培ってきた天然ゴム生産に関わる専門的な知見や技術とを組み合わせて実施されています。

天然ゴムの木の表面近くを削ると出てくる白い樹液が天然ゴムの原料となる(左)。収穫した天然ゴムを集め、出荷まで容器に入れて保管(右上)。

天然ゴムの木の表面近くを削ると出てくる白い樹液が天然ゴムの原料となる(左)。収穫した天然ゴムを集め、出荷まで容器に入れて保管(右上)。

1年目:指導者となる農家の育成

将来的には、他の農家を指導できるリーダーを育成するためのトレーニングを実施しました。1年間で4回、約4週間にわたり、作業時の安全確保、ゴムを収穫するためのナイフの研ぎ方、樹液を正しく採取する技術、人に教える際の伝え方などを幅広く訓練。ブリヂストンの専門家から直接指導を受けた農家たちは、徐々に指導者として力を身につけていきました。

2年目:育成した指導者によるトレーニング

翌年は、1年目に研修を受けた農家が指導者となり、同じ生産者組合や農家グループに所属する仲間へのトレーニングを開始。天然ゴム農家として長年生計を立ててきた経験ある農家たちだからこそ、これまでと異なる手法を即座に取り入れることは難しそうに見える場面もありました。そんな時は、指導者が「なぜそれが優れているのか」の科学的根拠やメリットを説明できるよう、指導者としてのトレーニングも継続し、地域全体でより多くの農家が正しい知識や技術を持続的に学べる仕組みづくりにも着手しました。

活動2年目のトレーニングの様子。1年目に研修を受けた農家が中心となり、他の農家へのトレーニングを行ないました。

活動2年目のトレーニングの様子。1年目に研修を受けた農家が中心となり、他の農家へのトレーニングを行ないました。

見えてきた成果と課題

一連のトレーニングを通じて、品質や収量の向上が見えてきた一方で、それまで気が付いていなかった課題が見えてくることもあります。例えば、この地域で栽培されている天然ゴムの木は生産に適した樹齢を過ぎたものが多く、また病気も広がっていることから、正しい知識や技術を身に付けてもすぐには収量改善に結びつかず、農家が効果を実感しにくい場合もあることです。さらに地域には苗の供給業者も限られていることから、植え替えを行い、中長期的に生産を継続することが難しいということも分かりました。

このため地域の天然ゴム生産組合と協議を重ね、ブリヂストンからの支援を得て天然ゴムの苗を育てる施設を組合に持たせ、さらにパイロット的に古いゴム農園の植え替えをすることにしました。苗を植えてから樹液の収穫ができるようになるまでは約7年かかります。その間農家が収入を絶やさずにすむように、またその後も天然ゴム価格の下落などによる悪影響に備えるため、複数の作物を栽培する農業の手法、アグロフォレストリーを導入。収入源の多角化にも取り組むことにしました。

この植え替えを行った農園は、地域の農家が実際に見て、学べる場とすることも意図されています。今後の活動では、生産者組合が自立して活動を継続できるよう、組織体制の強化なども予定しています。

収穫期を過ぎた天然ゴムを植え替え(画像右)、同時に野菜(画像左は落花生)やドリアン、コーヒー(画像中央)など、天然ゴムだけに頼らない作物の苗を植えました。

収穫期を過ぎた天然ゴムを植え替え(画像右)、同時に野菜(画像左は落花生)やドリアン、コーヒー(画像中央)など、天然ゴムだけに頼らない作物の苗を植えました。

サプライチェーン上流地域での取り組みの先進例

このように、企業がサプライチェーン上流地域に直接入り込み、調達物の生産現場で具体的な取り組みを見せる事例は決して多くありません。生産地との物理的な距離や必要なリソースの確保だけでなく、プロジェクトの進捗や成果の測り方などについて、情報が限られていることも要因の一つと考えられます。

一方で、自然への依存や貢献を、指標や数値をもって可視化しようという動きは世界的に加速しています。その土台となっているのが、2022年の国連生物多様性条約の第15 回締約国会議で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(KMGBF)」です。これには「2030 年までに自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急行動」すなわち「ネイチャーポジティブ」を実現するという国際目標が掲げられています。

特に企業の間では、事業と自然との関わりを評価し、リスクや機会についての情報を開示するTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)の開示枠組みや、自然分野における目標設定のフレームワーク、Science Based Targets for Nature(SBTs for Nature)への注目が高まっています。

2025年4月には、ブリヂストンと実施する本プロジェクトを実例に、策定作業が進行中のSBTs for Natureのガイダンスに基づく分析や評価手法との整合性を検証するトライアルも実施しました。

関連リンク:SBTs for Natureトライアル分析についての報告書を発表(2025年)

『SBTs for Natureトライアル分析 -2030年ネイチャーポジティブ国際合意とランドスケープエンゲージメントの有用性の視点から-』

『SBTs for Natureトライアル分析 -2030年ネイチャーポジティブ国際合意とランドスケープエンゲージメントの有用性の視点から-』

プロジェクトの開始以降、農家や生産組合などの生産現場のステークホルダー、そしてブリヂストンとWWFは、共に知恵を出し合い、試行錯誤を繰り返しながらさまざまな挑戦を続けてきました。これまでの活動を通じて築いた信頼関係や知見を礎に、これからも対話を続けながら3年目の活動を行っていきます。

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