© WWF Japan

「持続可能な天然ゴム」を目指して インドネシアでブリヂストンとの協働がスタート

この記事のポイント
世界屈指の豊かな自然を誇るインドネシア。しかし近年は、大規模なプランテーション開発などにより、その自然が失われつつあります。パーム油や紙パルプと並び、この国の重要な商品作物でありながら、森林減少の要因の一つともなってきた天然ゴム。WWFはスマトラ島で「持続可能な天然ゴム」を目指す取り組みを展開。2024年1月には、新たに世界的なタイヤメーカーとの協働による取り組みがスタートしました。
目次

スマトラ島 大自然とそこに生きてきた人々

インドネシア、スマトラ島。島といっても日本より一回り大きなこの島には、野生のゾウ、トラ、オランウータンといった絶滅の危機に瀕する野生生物が今も息づく、希少な熱帯林が存在します。

ほとんど人の手が入っていない自然の熱帯林(インドネシアスマトラ島)
© Neil Ever Osborne / WWF-US

ほとんど人の手が入っていない自然の熱帯林(インドネシアスマトラ島)

特にスマトラ島中部(リアウ州とジャンビ州)と、その西部に位置する山間部(西スマトラ州)は、WWFが保全上の優先度が高い地域として重視してきた地域。なかでも生息地の減少や密猟などにより急激にその個体数を減らすスマトラトラにとって、この地域の森は「最後の砦」ともいえる場所となっています。

多くの野生の動植物が生息する豊かな熱帯林は、自然科学的な観点からの重要性はもちろんのこと、古くからこの地域に生き、森や川などからもたらされる自然の恩恵に支えられてきた人々の暮らしにとっても、極めて重要なものです。

人々の生活を支えてきた豊かな森林や川の恵み

人々の生活を支えてきた豊かな森林や川の恵み

関連リンク:インドネシアスマトラ島の熱帯林の減少

急速に失われてきた自然の森

世界屈指の豊かな自然が残ることで知られるインドネシアのスマトラ島は、紙パルプやパーム油、天然ゴムといった農林産物の一大生産地としても有名です。

インドネシアの経済発展と世界の消費を生産地として支える一方で、自然の森を大規模に伐採し造成されるプランテーション(大規模な農園や産業用植林地)開発などにより、スマトラ島の熱帯林は、過去30年間で43%減少。森林の減少に加え、大量の温室効果ガスの排出につながる泥炭湿地の開発も、自然生態系や気候変動に与える影響が大きく、周辺に暮らす人々への反発の一因ともなってきました。

泥炭湿地からの排水を行ない、人為的に土地を乾燥させ、プランテーションが開発されている様子(左)。泥炭湿地にある植林地からは煙があがっている(右)

泥炭湿地からの排水を行ない、人為的に土地を乾燥させ、プランテーションが開発されている様子(左)。泥炭湿地にある植林地からは煙があがっている(右)

人と自然が共存できる社会の構築を目指し、1990年代からこの地でも活動を展開してきたWWF。インドネシアでは、森林パトロールや野生動物のモニタリング、国内外への情報発信や企業等との対話を通じ、その実現に向けて取り組みを行なっています。

世界有数の天然ゴム生産地 消費国の責任

世界的な経済発展や人口の増加によって、今後も消費量が拡大すると予測される天然ゴム。世界の天然ゴムの80%以上がインドネシアとタイなどの東南アジアで生産され、これを支える農家の軒数は600万にものぼるとされています。

多くの農家の生計を支えながらも、森林を減少させる要因の一つという課題に直面し、近年では気候変動問題や生物多様性の損失に関する危機感などからも、これを利用する立場の企業への要求がかつてない高まりをみせています。

持続可能な天然ゴムに関する記事

そのような背景もあり、2018年には「GPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber):持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム」が設立されました。これはグローバルにビジネスを展開するタイヤメーカーや自動車メーカーに加え、NGOや小規模な生産農家も参加し、世界の天然ゴム生産が自然生態系や地域社会に配慮しながら行なわれるよう、サプライチェーンが協力して取り組んでゆくことを目的とした組織です。

さらに2023年には欧州連合(EU)で森林破壊防止法が承認されました。これは、森林破壊に関連して生産された農林畜産物のEU圏内への輸出入を禁じるというこの法律で、天然ゴムもその対象となりました。これにより企業には、自社が扱う天然ゴムが森林破壊に関与していないことの根拠となる情報として、詳細な生産地の位置情報などが求められるようになりました。

ゴムの木の表面近くを削ると出てくる白い樹液が天然ゴムの原料となる(左)。天然ゴム農園(右)。

ゴムの木の表面近くを削ると出てくる白い樹液が天然ゴムの原料となる(左)。天然ゴム農園(右)。

日本企業との協働により新たな取り組みが開始

そして2024年、株式会社ブリヂストンとの新しい取り組みがスタートしました。

WWFジャパンは2017年頃から、持続可能な天然ゴムの生産や調達の実現を目指す同社と、調達方針の策定やデューデリジェンスなどについての対話と協働を継続してきました。本取り組みは、天然ゴムの持続可能性において課題の一つとなっている、小規模農家への支援に焦点を当てたものです。

トレーニングの様子

プロジェクト概要

目的: 持続可能な天然ゴム生産を目指す小規模農家への支援
場所: スマトラ島リアウ州、ジャンビ州
実施体制:
 【日本】WWFジャパン、株式会社ブリヂストン
 【インドネシア】WWFインドネシア、PT. Bridgestone Sumatra Rubber Estate (BSRE)

スマトラ島にも数多く存在する天然ゴム農家は、平均で数ヘクタール程度の限られた土地で天然ゴムや他の農作物を生産しています。その多くは苗の育成やタッピング(天然ゴムを収穫するために樹皮を削ること)、その後の集荷などについての知見、技術やリソースが不十分で、品質や効率面などにおいて改善の余地があるとみられてきました。

初回のトレーニングは2024年1月から2月にかけての1週間にわたって実施されました。自社農園を保有するブリヂストンが培ってきたノウハウを伝えるべく、同社から講師として複数名が参加し、まず道具の安全な使い方や、メンテナンス方法についての講習からスタートしました。その後、タッピングや病害の対策などについても講義と実演があり、特にタッピング技術については連日指導・訓練が行われました。将来的には、それぞれの参加農家が各自の村や農家グループなどで知見を展開できるようになることが期待されています。

タッピングの訓練

タッピングの訓練

こうした取り組みによって、持続可能な天然ゴム生産に取り組む小規模農家の生産性や品質が改善し、生計向上につながること。さらにその波及効果により、地域全体で新たな農地開拓のため森林減少が抑制されることを目指します。

WWFは引き続き、生産地の人々や自然環境に配慮した持続可能な方法で、暮らしに欠かせない農産物や林産物の生産が行なわれるよう取り組みを継続します。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP