© Aaron Gekoski / WWF-US

生物多様性スクール第6回――生物多様性保全の未来 気候対策とのシナジーは?

この記事のポイント
世界の生物多様性は過去50年で69%損失し、また地球の平均気温は産業革命前よりすでに1度以上上昇したと報告され、地球環境はいま、危機的な状況にあります。WWFジャパンは、生物多様性の劣化を食い止め、回復に転じさせる「ネイチャー・ポジティブ」に向けて、著名な有識者を招いて身近な切り口で生物多様性について考えるオンラインセミナー「生物多様性スクール」を開催。2023年シリーズでは、気候(Climate)と自然・生物多様性(Nature)の2つの危機の同時解決や双方への配慮をテーマにして、取り組みの先進事例なども紹介しています。9月27 日に行なった第6回「生物多様性保全の未来」のポイントをお届けします。
目次

生物多様性保全の未来

シリーズ最終回は、数十年にわたり生物多様性の保全・再生に献身されてきた、東京大学名誉教授の鷲谷いづみ氏をゲストに迎え、「生物多様性保全の未来」と題して開催しました。鷲谷氏は、生物多様性の保全とその持続可能な利用を実現するための学問「保全生態学」の日本における第一人者です。研究活動に加え、国や自治体への政策提言、市民との協働事業、人材育成、発信など精力的な活動を展開してきました。年々損失が進む生物多様性の状況と私たちの社会をどのように見つめてきたのか、未来をどう考えているのか、お話を伺いました。

さらに、一般社団法人 Change Our Next Decade(COND)で、若者による生物多様性保全のための政策提言、普及啓発、国際協働の取り組みを率いてきた矢動丸琴子氏、WWFジャパンで現在は生物多様性関連の政策提言取り組みの責任者を務め、長年気候変動の国際交渉にも携わってきた山岸尚之も登壇し、今後の生物多様性保全のあり方、進むべき道筋について共に考えました。

進行はWWFジャパン理事で共同通信編集委員の井田徹治氏が全回務めています。

スクールのポイントをグラフィックレコーディング(グラレコ)を使ってお伝えします。(グラレコ制作:aini 出口未由羽さん)

湿地の保全が鍵!

(鷲谷氏の講演)

鷲谷氏は、気候変動対策と生物多様性保全の政策の連携を考えるために、「気候・生物多様性・人間社会を一体のシステムとして扱うことが、有効な政策の鍵」という2020年IPBES-IPCC合同ワークショップでのメッセージを紹介し、2つの危機への同時対応の重要性を強調しました。生態系を気候変動の緩和に生かすには、炭素の隔離(二酸化炭素を大気中に放出させないこと)と貯留(二酸化炭素を土壌などに吸収固定させること)が重要で、「湿地」が非常に有効です。湿地は炭素ホットスポットで、合計面積は地表の1%未満にも関わらず、地球の生態系貯留有機炭素の20%を保持(隔離)していると言います。熱帯域では、炭素ホットスポットが農地開発で急速に消失しており、湿地の保全・再生は非常に重要です。鷲谷氏は、英国で湿地フェンの再生を試みたグレートフェンプロジェクトなど、世界には成功例がたくさんあり、やればできると激励しました。湿地は生物多様性も豊かで、水を貯めることから水害防止にも役立ちます。

自然が持つ再生力を最大限に活かすために

(鷲谷氏の講演)

鷲谷氏は、日本では、人々の暮らしに古来より身近だった「野」の再生が、特に重要な課題と言います。野は火入れをした草原で、従来、炭素隔離が行なわれてきました。野の植物、蝶などが絶滅危惧種となる現在、野の再生は生物多様性の保全や文化面からも大切です。
鷲谷氏は、自然が持つ再生力を最大限に活かすことが重要で、私たち人間ができることはあくまで手助けをし、見守ることだと言います。自然再生のために重要なポイントは、科学的な計画・モニタリング、多様な主体が参加・協働の2点であると言います。日本では2002年に成立した「自然再生推進法」をもっと有効活用すべきと紹介しました。同法律では「自然再生協議会」を通じて、地域の多様な主体が参加し、国や地方公共団体は必要な協力をしなければいけないとされています。民主的な情報・意見交換と協働を地域からボトムアップで行ない、その土地ならではの「野」をよみがえらせ、その恵みを活用していくことが大切です。

ユースの参画/自然を基盤とした解決策への期待

(矢動丸氏とWWFからの発表)

矢動丸琴子氏は、大学院生時代に国際自然保護連合日本 委員会(IUCN-J)でのアルバイトで国際会議に参加し、他国の若者の生物多様性への本気度、熱量の高さに触れました。それを機に、日本でも生物多様性条約COP15に向けて若者がアクションを起こすために、2019年にChange Our Next Decade(COND)を設立。大人が形式的にユースの話を聴く「ユースウォッシュ」やユースが一括りにされる課題を指摘。若者や世代間対話の重要性、ユース側も自分から動いてみる「ちょっとの勇気」の大切さを訴えました。

長年、気候変動問題に関わってきたWWFジャパンの山岸尚之は、生物多様性取り組みへの期待について語りました。IPCC第6次報告書では、生態系での炭素貯留により、世界の温室効果ガスの年間総排出量590億トン(2019年)のうち80⁻140億トンもの量が削減できる可能性が指摘されています。マルミミゾウなど野生生物が果たす炭素貯留の役割も紹介。また、気候変動対策には、水力発電など生物多様性には負の影響を及ぼす施策もあるので留意すべき一方、生物多様性対策で気候変動対策に負となるものは圧倒的に少ないという報告を紹介。一度失われた自然の再生は非常に難しいため、「まもって、管理して、再生する」という活動の優先順位についても触れました。

ネイチャー・ポジティブに向けた各主体の役割は?

(ディスカッション)

井田氏の「社会に生物多様性や環境問題への危機感がないのでは?危機感をどう共有するか?」という問いに対し、鷲谷氏は何を「自然の恵み」と感じるかは、人によって違うので、情報発信の仕方を工夫することや自分が大事だと思う生物がいなくなる危機から考える切り口を提案しました。矢動丸氏は、伝えたい相手が大事だと思っている「推し」から考えることや、ポジティブメッセージの効果を強調。また、「各主体がどういう役割を果たすべきか?」という問いについて、鷲谷氏は、自治体に対し生物多様性の専門性を支援する仕組みや、その土地の歴史や特性に目を向けたボトムアップ型の取り組みの重要性を指摘しました。矢動丸氏は、政策決定者に対し、ユースが意味のある参画ができる枠組みを求めました。山岸は、気候と生物多様性の同時解決を目指すにあたり、適切な温度感で取り組む大切さをNGOとして政府や企業に伝え、気候変動分野での学びや巻き込み方を生物多様性分野にも生かしていきたいと語りました。井田氏は、人間が自然の再生力をうまく手助けできれば、ネイチャー・ポジティブも夢ではないのかもしれないとして、会を締めくくりました。

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