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生物多様性スクール2023第4回「生物多様性と金融」開催報告―お金の流れをネイチャー・ポジティブに変える!

この記事のポイント
世界の生物多様性は過去50年で69%損失し、また地球の平均気温は産業革命前よりすでに1度以上上昇したと報告され、地球環境はいま、危機的な状況にあります。WWFジャパンは、生物多様性の劣化を食い止め、回復に転じさせる「ネイチャー・ポジティブ」に向けて、著名な有識者を招いて身近な切り口で生物多様性について考えるオンラインセミナー「生物多様性スクール」を開催。2023年シリーズでは、気候(Climate)と自然・生物多様性(Nature)の2つの危機の同時解決や双方への配慮をテーマにして、取り組みの先進事例なども紹介していきます。6月21日に行なった第4回「生物多様性と金融」のポイントをお届けします。
目次

生物多様性と金融

世界経済フォーラムによれば、世界のGDPの50%以上(44兆米ドル)は、自然環境や生物多様性に大きく依存し、その危機はあらゆる産業部門の企業や投資家にとって、大きなリスクとなります。そうした中、世界では気候変動分野での先行事例を踏まえ、企業と自然環境の関わり、リスクや機会等について情報開示を促す枠組み「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の策定が進んでいます。

このたびTNFDタスクフォースメンバー原口真氏をお招きし、生物多様性と金融、企業の情報開示等について考えました。宮城県でFSC認証林の経営に取り組む南三陸森林管理協議会の事務局長佐藤太一氏も迎え、林業の現場から見た自然関連の情報開示についてもお伺いしました。WWFジャパンからは金融グループ長の橋本務太、森林グループ長の相馬真紀子が、国際環境NGOの役割について紹介。進行はWWFジャパン理事で共同通信編集委員の井田徹治氏が全回務めています。

スクールのポイントをグラフィックレコーディング(グラレコ)を使ってお伝えします。(グラレコ制作:aini 出口未由羽さん)

自然を回復すればするほど成長するビジネスモデルへ

原口氏は、自身が30数年前に社会に出るときに志した「自然を回復するほど稼げる世界へ」という動きが、いま始まろうとしていると言います。原口氏は企業価値創造のための6つの資本と、自然の4領域のTNFDの定義を自身で追記した「SDGsウェディングケーキ」の最新改訂バージョンを紹介。人も地下資源も豊富だった20世紀型のビジネスは、株主と顧客のために「気合と根性」で環境や社会を犠牲にしながら頑張るモデルでした。一方、それにより引き起こされた気候変動や生物多様性の損失、格差、差別が経営リスクにまで至った21世紀は、SDGsケーキのようにESG(環境、社会、ガバナンス)を重視したSDGs経営が求められます。企業は環境や社会を経営基盤と考え、自然を回復すればするほど成長し、「誰一人取り残さない社会」という価値を生み出すビジネスモデルに転換する必要があります。

TNFDで、お金の流れをネイチャー・ポジティブへ転換

(原口氏の講演)
TNFDの目的は、世界のお金の流れをネイチャー・ネガティブからネイチャー・ポジティブへ転換させること、つまり20世紀型から21世紀型のビジネスモデルへと転換させること。そのためにTNFDという世界共通のフレームワークを開発して、企業のリスク管理と情報開示を進めようとしています。TNFDは2023年9月18日にニューヨーク証券取引所で公表予定で、段階的に策定が進められています。TNFDでは自然の中に人や社会があるとし、企業はまず自社の事業がどう自然に依存し、自然に影響(インパクト)を与えているのかを理解し、情報開示することが求められます。その中でネイチャー・ポジティブな影響を生む活動は「機会」、ネガティブな影響の活動は「リスク」と評価され、金融機関はそれを基に企業への投融資等を検討します。TNFDは開示のための提言と、そのための方法論「LEAP」の二本柱で構成されます。主に大企業等が開示部分を行ないますが、中小企業や一次生産者も、開示する大企業等のためにLEAPによる事業の分析と情報提供が期待されます。

TNFDとFSC認証はどれくらい似ているか?

(WWFと生産者からの活動紹介)
WWFジャパン金融グループ長の橋本務太は、WWFは金融機関に対して環境・社会に配慮した投融資方針の策定などを求め、また事業会社には原材料調達によって生産現場に悪い影響が出ないよう認証制度の活用等を求めてきたと紹介。森林管理の適切性を見るFSC®認証制度とTNFDの仕組みが似ていると考え、今回、南三陸森林管理協議会と一緒に関連や親和性を調べてみました(詳細はこちら)。

南三陸森林管理協議会 事務局長の佐藤太一氏は東日本大震災を経て、南三陸町にとって「山は決して全壊しない揺るがない財産」と悟り、持続可能な林業を目指して宮城県初のFSC認証を取得。FSCとTNFDの親和性が認められたら、自身の木材を調達する企業の情報開示に役立ち、ネイチャー・ポジティブと評価され、生物多様性に寄与するお金の流れが実現できるのではと考えました。調査の結果、FSC認証の要求事項はTNFD LEAPで求められる情報要件に、最低限ほぼ応えられると確認しました。

「正直者が馬鹿を見ない」経済のあり方を

(ディスカッション)
原口氏は、この事例について地域企業でLEAPを試みたのは世界初とし、TNFD活用法として高く評価。日本の上場企業は資源調達を商社に頼り、どこでどのような調達をしているのか把握していない場合が多いと指摘。WWFジャパン森林グループ長の相馬は、FSC取得の林業家は価値を知ってもらえない悩みを抱えるが、TNFDにより調達網の下流企業が情報を求める今後、胸を張れると期待を示しました。佐藤氏は、生産者が環境や社会に配慮して情報を開示して、それを価値として買ってもらえたら、都会の大企業と地方の生産者との良い関係ができるのでは、自然と共存できる社会を一緒につくっていけたらと語りました。また、国と政策の役割はという問いに対し、原口氏は海外から調達する資源の情報を国が整備することが、日本の産業界全体にとって必要と訴えました。橋本は気候変動と同様、企業の自然情報開示について国の指針が重要と語りました。最後に原口氏は、極端に安価なものが日本で流通する背景に、原材料調達に適正なコストを払っていない可能性を指摘。日本経済のためにも「正直者が馬鹿を見ない」ように、改めて政策や政治の役割に期待を示しました。

次回

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