©Fritz Pölking / WWF

バイオマス発電に関する企業向けアンケートから見えてきたこと

この記事のポイント
脱炭素化を急ピッチで進める必要がある日本。事業活動の変革に加え、消費する電力を再生可能エネルギーに転換する企業も増えています。しかし、再エネの一つとされているバイオマス発電については、懸念も指摘されています。燃料によっては化石燃料よりも温室効果ガス排出量が多くなる可能性や、需要の高まりを受けた燃料の生産増加により森林破壊などの負の影響が生じる可能性があるためです。この問題に対し、大手の電力需要家である企業は使用電力について、どのように捉えているのか。WWFでは独自のアンケートを実施。その結果をまとめました。
目次

脱炭素化に取り組む日本企業へのアンケート

2021年4月、当時の菅首相が「2030年までに日本の温室効果ガス(GHG)排出量を46%削減する」と宣言して以来、日本企業は待ったなしの脱炭素化を求められるようになりました。

自社の事業活動から出る排出量を減らすために、オフィスや工場で使用する電力を再生可能エネルギー由来に切り替える企業も増加しています。

WWFが2021年5月、企業向けに行なったアンケートでは、バイオマス発電にテーマを絞って質問させて頂きました。

対象としたのは、自社の利用する電力の切り替えを含む、気候変動への対応に早くから取り組んできた、SBTiやRE100に加盟する企業144社です。

このアンケートに対する回答を通じて明らかになった主なポイントは、以下の通りです。

  1. バイオマス発電は石炭火力発電より、GHG排出量が多くなる可能性があることを認識している企業 79%(95社中75社)
  2. GHG排出量が多くなる可能性を認識しながらバイオマス由来電力を購入している企業 33%(75社中25社)
  3. GHG削減効果を期待してバイオマス由来電力を調達している企業 76%(25社中19社)
  4. 燃料を確認していない企業 28%(25社中7社)
  5. 燃料のライフサイクルGHGを把握している企業 17%(95社中16社)

アンケート結果から見えた企業の認識

バイオマス発電は再生可能エネルギーとは呼ばれていますが、太陽光や風力と大きく違う点があります。

一つは、発電用の燃料となる原材料が必要なこと。
そして、その燃焼時にCO2等のGHGが発生することです。

実はこの燃焼時のCO2排出量が、燃料によっては石炭火力より多くなる可能性を、世界中の科学者や研究機関などが指摘しており、欧州議会が2021年1月に発行した報告書でも同様の結論となっています。

今回アンケートを実施した対象企業のうち、このような議論についてすでに認識していた企業は79%と多数を占めました。

また、バイオマス発電由来の電力を購入している企業は全体の約3割と少なかったことからも、多くの企業がバイオマス発電のリスクについては何となく認識していることが推測できます。

一方で、バイオマス発電由来の電力を購入している3割の企業のうち、76%はGHG削減効果を期待してバイオマス発電由来の電力を購入しているという結果になりました。

これらの企業には、購入している電力が本当にGHG削減に寄与しているのか、ぜひ発電事業者に情報開示を求めて頂きたいとWWFは考えます。

そのうえで、もしGHG削減に寄与しない燃料を使っていると判明すれば、別のエネルギー源に変えるなど、リスクを低減する措置を検討する必要があります。

一言で「バイオマス燃料」と言うけれど

「バイオマス燃料」と聞いて、どのような設備や燃料を思い浮かべるでしょうか?木材を破砕し固形化した木質ペレットをイメージされる方が多いかもしれません。

他にも、バイオエタノールなどの液体、バイオガスなどの気体、と形状だけでも幅広く、原料は木材の他、農産物の収穫後に生じるもの、家畜や食品廃棄から生じるもの、食品にも使用できる油とその内訳はさまざまです。

しかし、この多様な発電方法は、いずれも「再エネ」、「カーボンニュートラル」といった言葉で一括りにされています。

© 経済産業省 エネルギー庁

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/
saiene/renewable/biomass/index.html#denki

2021年1月の欧州議会の報告書では、この中の木質燃料に焦点を当て、丸太から小枝、流木まで様々な種類の木材を24種類に分類し、GHG削減効果と、生物多様性への影響をマトリックスにして比較しました。

バイオマス燃料は多くが林産物や農産物であるため、GHG排出に加えて、燃料の栽培現場における生物多様性への影響も考慮する必要があります。

その結果、GHG削減効果と生物多様性の両面でポジティブな効果がある、またはリスクが少ないと判断されたのは24種類のうち1種類の原材料だけでした。

それ以外はすべて、GHGか生物多様性のどちらか、もしくは両方にマイナス影響しかない、と結論づけられたのです。

このような議論は、気候変動対策や生物多様性保全に熱心に取り組む一部の企業や消費者を除き、日本ではまだ、あまり知られていません。

多くの企業や消費者は「バイオマス発電は再エネだから日本の脱炭素化にも寄与するはずだ」と認識しているのが実態ではないでしょうか。

求められるさらなる情報公開

企業がGHG排出量を報告するスタンダードの一つである GHGプロトコルのスコープ2向けのガイダンスには、次のような記載があり、バイオマス燃料を燃焼した際に排出されるCO2を含むGHGの報告を義務付けています。(*1)

「バイオマスは、依然としてGHGを排出し、『ゼロ」の排出係数としては取り扱うべきではない。 コーポレート・スタンダードに基づき、生物起源エネルギー源からのCH4及びN2Oの排出量は、スコープ2で報告がなされなければならない(shall)、一方、バイオ燃料燃焼のCO2部分はスコープの外で報告がなされなければならない(shall)」

さらに、バイオマス燃料使用を含む森林・農業分野での吸収・排出についても報告させる方向に議論が進んでいます(*2)。

また、今回のアンケートでは、バイオマス発電に関するライフサイクルのGHG計算をしている企業は17%にとどまり、GHGプロトコルの指示通りスコープ外でバイオマス燃料燃焼時のCO2排出量を公開していることが確認できた企業も少数でした。

何より、ライフサイクルGHGの計算上は仮にカーボンニュートラルとなる場合でも、その仮定は伐採後数十年という時間をかけて森林が回復してこそ成り立つものです。

そのためバイオマス燃料の利用については、その調達先において、「本当に持続可能な森林管理が実現しうるか」という視点も重要です。

無条件に「バイオマス発電=カーボンニュートラル」とはならない中、それでもバイオマス発電を利用される際は、化石燃料比で大幅なGHG削減が確認できていることを含めた、より詳細な情報公開が必要でしょう。

加えて、バイオマス発電が生物多様性に与える影響についても、日本では十分に検討されていません。

再生可能エネルギーとしてバイオマス燃料の使用量が増え続けると森林産品の需給のひっ迫が起こり、森林等の重要な生態系への負の影響を及ぼす可能性があります。

自然林を伐採してバイオマス燃料用の人工造林地に転換した場合や、自然生態系として存在する草地を燃料作物用のプランテーションに転換した場合、仮に炭素貯留量という観点では負の影響がなかったとしても、そこに存在していた生態系はダメージを受けることとなり、結果として生物多様性の損失につながりかねません。

(*1)GHG Protocol Scope 2 Guidance An amendment to the GHG Protocol Corporate Standard (2020), SLSV CES 研究所 温室効果ガス(GHG)スコープ2研究会 齊藤ら訳
(*2)GHGプロトコルでは、土地利用や土地利用変化、生物由来のCO2除去に関して、新しいガイダンス(The GHG Protocol Land Sector and Removals Guidance)の策定が進んでおり、2022年を目途に発表される予定である。2021年10月時点でのドラフトはこちら。https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/GHG%20Protocol%20-%20Land%20Sector%20and%20Removals%20Initiative%20-%20Overview%20%287-21%29.pdf

脱炭素社会の実現と生物多様性の保全に向けて

日本ではFIT(固定価格買取)制度により、「バイオマス発電」であればGHG排出量の計算をしていなくても、助成される仕組みになっており、木質ペレットやチップをはじめとする燃料輸入が増加しています。

そしてFiT制度の原資は、国民から毎月徴収されている「再エネ賦課金」が充てられています。

国民の負担で進められている政策だからこそ、本当に脱炭素にも生物多様性保全にも繋がるのかどうか、公共性という観点で今一度慎重に検討すべきではないでしょうか。

WWFでは、再生可能エネルギーの拡大は必要不可欠と考えています。

だからこそ、バイオマス発電については、ライフサイクルという観点から、化石燃料比でも大幅なGHG削減があることを確認すべきと考えます。

また、政府には、バイオマス発電を推進するのであれば、適切な持続可能性基準を設定するよう求めます。

© Luis Barreto / WWF-UK

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