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「バイオマス発電は本当に推進すべきか」欧州委員会の報告を受けて

この記事のポイント
日本では固定価格買取制度(FiT法)により、再生可能エネルギーの活用が促進されています。しかしその対象の一つである、燃料が必要となるバイオマス発電については、温室効果ガス(GHG)排出が本当に抑えられているのかなど、さまざまな懸念が指摘されています。そうした中、2021年1月に、EUは初めて「森林バイオマスはカーボンニュートラルではない」ということを認める趣旨の報告書を発表しました。そもそも燃料を大量に使用するバイオマス発電を、温暖化対策として拡大推進していくべきなのか? ライフサイクルGHGの算定や持続可能性基準の検討が進められている日本でも、見直していく必要があります。
目次

「森林バイオマスはカーボンニュートラルではない」と認めたEUの報告書

欧州委員会は、2021年1月25日に発表した報告書『The use of woody biomass for energy production in the EU』の中で、ほとんどの森林バイオマス(主に木質ペレットなどの木質バイオマス燃料)は、石炭、石油、ガスよりも多くの温室効果ガスを排出すると結論付けました。

また、欧州委員会の委託を受け、この報告書を手掛けた共同研究センター(JRC)の調査では、対象とした24のシナリオのうち23のシナリオにおいて、バイオマスが気候や生物多様性、あるいはその両方に悪影響を及ぼしていたことが示されています。

報告書によると、EUで現在エネルギーのために燃やされている森林バイオマスのほとんどは、化石燃料に比べて排出量が増加するだけでなく、何十年にもわたって排出量が増加することがわかっています。

これは、EUの2050年のネット・ゼロ目標の達成や、激化する気候変動の影響を食い止めることが、困難になる可能性を明らかに示したものといえるでしょう。

報告書が指摘するバイオマスの課題

実際、この報告書は、次のような点を課題として指摘しています。

  • 欧州委員会の科学者が検討した森林バイオマス利用に関する24のシナリオのうち、生物多様性を損なうことなく化石燃料と比較して短期的な排出削減を実現できる可能性が高いと判断されたのは、流倒木の破片など、一部の残さの限定的な利用という1つのシナリオのみであった。その場合でも、「短期的」という条件が付いており、20年間を超えると化石燃料よりも温室効果ガス排出量が多くなるとされている。
  • 気候変動の観点から重要なのは、何が燃やされているかということであり、燃料がどれだけ持続的に生産されているかや、森林の炭素ストック全体に何が起こっているかということではない。しかし、この何を燃やすか、というバイオマス原料の問題と、それに対する制限は、現在のEUの再生可能エネルギー指令に欠けている要素である。2018年には、800人近い科学者がまさにこの点をEUの立法者に訴えた。
バイオマス発電の燃料利用のために伐採された森
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バイオマス発電の燃料利用のために伐採された森

気候政策に矛盾したエネルギー政策

こうした問題のある種類のバイオマスの利用を奨励しているEUのエネルギー政策は、現状でEUの気候政策に相反する内容となっています。

それにもかかわらず、欧州委員会の対応は、各国に是正措置を求めるとどまり、現行のEUのエネルギー政策を変更しなければならない、という結論を導き出すことができていません。

WWF欧州政策事務所のシニア・ポリシー・オフィサーであるアレックス・メイソンは次のように述べています。

「欧州委員会は責任を回避しています。欧州委員会はこの報告書で、EUのバイオエネルギー政策が気候変動を加速させていることを基本的に認めているにもかかわらず、問題を解決するためのボールを加盟国の裁判所に投げている。これ以上の被害が出る前に、EU再生可能エネルギー指令(EU-RED)によって、バイオマスの規制を強化することが急務です」

こうした問題は、EU内だけの問題ではありません。

現在、日本でも、菅首相の発表した「2030年に向けた温室効果ガスの削減目標を2013年度比46%減」という目標を掲げ、その実現に向けた動きが加速。

その中でバイオマス発電も大きな注目を集めており、現在、経済産業省 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 バイオマス持続可能性ワーキンググループでは、ライフサイクルGHGの算定や持続可能性基準の検討が進められています。

しかしその中で、EUでも明らかにされたバイオマス燃料の課題が、十分に認識され、検討されているといえるでしょうか。

化石燃料よりも温室効果ガス排出量が多いとされる森林バイオマスを燃料としたバイオマス発電の促進は、本当に日本の削減目標の達成に貢献するのか。政府としても、その見直しを行なっていく必要があります。

なお、WWFは2021年7月14日に、EUが発表する再生可能エネルギー指令(EU-RED)の改定草案について、このバイオマス問題に関連した6つの致命的な欠陥を指摘する文書を公開しました。

欧州委員会 の バイオエネルギー 提案 6つ の 致命的 な 欠陥(PDF)

この中でWWFは、改定案が再生可能エネルギーを適切な形でグリーンなものにするのではなく、グリーンウォッシュをしている点を指摘。さらにEUは、木や農作物を燃やしてエネルギーを得る事業への支援をやめるよう求めています。

参考資料

JRC報告書「The use of woody biomass for energy production in the EU」
なお、EURED改訂版は7/14に公開される予定です。
https://ec.europa.eu/info/files/amendment-renewable-energy-directive-implement-ambition-new-2030-climate-target_en

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