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アジア5つの市場で新型コロナウイルスと野生生物の取引市場に関する意識調査を実施

この記事のポイント
WWFは「世界保健デー」にあたる2020年の4月7日、日本を含むアジアの5つの市場で、野生生物の取引市場に対する意識調査の結果を発表しました。これは現在、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染の拡大が起きる中、ウイルス感染症の温床としてその危険性が指摘されている、違法または規制が不十分な野生生物市場に対し、それぞれの市民がどのような意識を持ち、政府を始め誰にどのような行動を求めているかを調査したものです。今回の調査では、東南アジアおよび香港の回答者の90%以上が、政府主導によるこうした違法・規制が不十分な市場の閉鎖を支持するという結果が明らかになりました。

図 調査を行った五カ国の取引市場の全体像

図 調査を行った五カ国の取引市場の全体像

違法・無規制な野生生物取引市場の危険性

新型コロナウイルスの発生により、人獣共通感染症、すなわち動物と人間の間で相互に伝染する病気と、野生生物の取引市場の関連性が注目されています。

世界保健機関(WHO)は、人の疾患をもたらす病原菌の少なくとも61%は、その起源が人獣共通であることを報告。SARS、MERS、エボラ出血熱といった危険な感染症も、すべてこの動物から人に広がるウイルスを原因としたものでした。

そして、これらの感染症を拡大させる主因の一つと目されているのが、食用などを目的としてアジア各国で行なわれている、野生動物の取引です。

これらの取引は、主に多くの人が出入りする市場で、時に生きた家畜や家禽、魚介類やその他の生鮮品や農産物などと共に行なわれており、危険な病気を媒介する多くの鳥類や霊長類(サル)などの野生生物も、その対象に含まれています。

今回の新型コロナウイルスについても、中国の武漢市における野生動物を扱う取引市場から発生した可能性が指摘されました。

これを受け、中国政府は2020年2月24日、国内での野生動物の取引を原則として全面禁止することを発表しました。アジア各地の同様な市場の中には、野生生物の保護や公衆衛生などに関連した法律に違反していたり、そもそもの野生生物の取引に関する規制や法律が不十分で、それが機能していない例が、今も多く認められます。

中国の市場で売られていた生きたカメ。こうした光景はアジア各地で見られる。
© Michel Gunther / WWF

中国の市場で売られていた生きたカメ。こうした光景はアジア各地で見られる。

野生生物の取引に対する意識

そこでWWFは2020年3月、香港、日本、ミャンマー、タイ、ベトナムで、新型コロナウイルス感染と野生生物取引に関する市民の意識を調べるため、世論調査会社のGlobeScanに調査を委託。4月7日、その結果をまとめ発表しました。

この調査は、人間社会に対するリスクの高い感染症と野生生物取引市場との関係性に対する各地域の意識と、対策に向けた政府の決定や行動を多くの市民が支持する意思があるかどうかを調べるものです。

*本調査では「野生生物」を家畜・家禽を除く陸性動物(哺乳類、鳥類、爬虫類)と定義し、水産物は含みません。


調査対象は各国・行政区からそれぞれ約1000人ずつ、性別・年齢人口構成を反映し、無作為に抽出。3月3日から11日にかけ、WWFの専門家とGlobeScanの調査員が用意した質問票にオンラインで答える形で行なわれました。

ここで得られた回答からは、主に下記の傾向が認められました。

1)違法または規制が不十分な野生生物の取引市場を閉鎖する各政府の政策を
   支持する:93%(香港、ミャンマー、タイ、ベトナム)
2)こうした市場の閉鎖が大規模な感染の対策として有効だと思う
   そう思う:79%
3)違法または規制が不十分な野生生物取引市場をなくすために、個人でできることは
   食べるのをやめる:55%
   購入・食用をやめるよう他の人を説得する:53%
   関連する報道やキャンペーンを共有する:50%
4)過去12カ月の間に、自分自身または知人が野生生物を購入したことがある
   はい:9%

違法または規制が不十分な野生生物の取引市場を閉鎖する政府主導の規制導入に関しては、ミャンマー、タイ、ベトナム、香港で、実に90%以上の回答者の支持が得られるなど、高い危機感が認められました。

一方、回答者の9%が、過去12カ月間に、自分自身または知人が野生生物を購入したと述べている点は、いまだにこうした野生生物取引がアジア各地の社会の中で、大きな位置を占めていることを示すものといえます。

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市場閉鎖を求める声は少ない?日本の回答者の反応

なお、今回調査対象となった、日本の回答者の意識には次のような傾向が見受けられました、

1)違法または規制が不十分な野生生物の取引市場を閉鎖する政府の政策を支持する:54%
2)こうした市場の閉鎖が大規模な感染の対策として有効だと思う:72%
3)違法または規制が不十分な野生生物取引市場は日本に存在しない:59%

特筆すべきは、日本でも市場閉鎖が対策として有効であると考える人が、アジアの他の4つの地域と同程度の割合でいるにもかかわらず、その措置を実施する政策を支持する人の割合が少ない点です。

この傾向の背景には、日本にはほとんど関係のない対策だ、という認識が、多くの日本人の間にあることが、強く関係していると考えられます。

しかし、違法または規制が不十分な野生生物取引市場の問題は、決して日本と無関係ではありません。

確かに、日本では野生動物の肉がすぐ手に入る市場は、日常生活の中にはありませんが、生きた野生動物の輸入や販売は「ペット」利用を目的に、現在も数多く行なわれているためです。

日本で開かれているペットの販売フェア。大規模なものでは数万人が集まり、鳥類や爬虫類、哺乳類など、さまざまな生物が取引されている。
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日本で開かれているペットの販売フェア。大規模なものでは数万人が集まり、鳥類や爬虫類、哺乳類など、さまざまな生物が取引されている。

WWFジャパンの野生生物取引調査部門TRAFFICでは、これまで独自の調査に基づき、十分な管理体制が整っていない日本のペット取引が、感染症を媒介する危険性についても課題を指摘。

ペット目的で国内外で密猟された個体や、密輸された個体が国内取引市場に紛れ込んでも、区別することができないなど、多くの問題があることを訴えてきました。

つまり日本にも、こうした規制管理の不十分な野生生物の取引市場は存在しており、そこには国内に存在していなかった感染症拡大のリスクが潜んでいる可能性が、十分にあるということです。

未来のために求められる「ワンヘルス・アプローチ」

今回行なわれた調査では、感染症のリスクという観点から見た、野生生物の消費の抑制や、違法または規制が不十分な野生生物取引の排除を求める意識が、アジアの国や地域の人々の間に広くあることが示されました。

もちろん、途上国の地域社会の中には、必要な食料やたんぱく源として野生生物を頼っている人々がいます。
そうした利用の在り方については、持続可能性に配慮しつつ、許容していくべきものですが、密猟や密輸を通じて、絶滅のおそれの高い種を単に嗜好品として消費したり、食品の安全管理の適切な手段をとらず利用することは、今や国際的なリスクに他なりません。

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また、野生生物の過剰な利用や、開発による自然環境の破壊と人の世界の拡大が、新しい病気を蔓延させる要因となっている点についても、指摘する声が高まっています。

今後は、自然や野生生物の絶滅危機、また人間へのリスクだけでもない、それら全ての健康を保てるような「ワンヘルス・アプローチ」という視点でも、野生生物取引の問題を考え、対応していく必要がある、といえるでしょう。

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日本でもそうした課題への正しい理解を広めてゆくと共に、リスクの重大さに応じた、高い効果の期待できる「ワンヘルス・アプローチ」を意識した感染症対策を、早急に検討することが求められます。

未来に向けた人獣共通感染症の流行を防ぎ、人の命と生活を守る上でも重要な、違法または規制が不十分な野生生物取引市場の閉鎖。

WWFはその実現のために、環境保全、野生生物保全を専門とする組織として、このような感染症拡大のリスクの高い市場の閉鎖を政府に働きかけ、その取り組みを日本を含めアジアを中心に全力で支援してゆきます。

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