© Tom Vierus / WWF-US

世界初の水産物トレーサビリティ世界標準GDST1.0の発表

この記事のポイント
世界で水産物のサプライチェーンを構成する60以上の主要企業が参加するフォーラムGDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)が、2020年3月16日、世界で初となる水産物を漁獲時から販売時まで一貫してトラッキングできるトレーサビリティの世界標準、GDST1.0を発表しました。これを導入することで、企業が効果的なIUU漁業対策を推進することが可能になります。

IUU漁業根絶に必要なフルチェーン・トレーサビリティ

IUU漁業とその問題点

IUU漁業とは、違法(Illegal)・無報告(Unreported)、無規制(Unregulated)漁業のことです。

「違法」とは密漁や禁止漁具の使用など、「無報告」とは漁獲量を報告しなかったり少なく報告したりすることなど、「無規制」とは漁業、漁船が所属する国家や操業海域の規制に従わないことなどを指します。

このIUU漁業は、海洋生物資源の持続可能な利用に対する深刻な脅威であるだけでなく、海洋の生物多様性の保全、そして労働者の人権の保護においても、大きな脅威となっています。

また、養殖業についても、養殖のための稚魚や餌魚が、主に天然漁獲されていることから、IUU漁業への対策が求められます。

SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」においても、ターゲットの一つとして、「2020年までのIUU漁業根絶」が定められており、2019年6月に発表されたG20大阪サミット首脳宣言でも、「IUU漁業に対処する重要性を認識しIUU漁業を終わらせるというコミットメントを再確認する」と明記されました。

そしてIUU漁業対策を進めることは、水産物を取り扱う企業においても社会的な義務となっているのです。

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フルチェーン・トレーサビリティの必要性

IUU漁業を根絶するためには、各国が、IUU漁業由来の水産物の輸入及び国内市場における流通の防止について、実効性のある規制を導入することが求められます。

既に世界の水産物の輸入(金額ベース)でトップのEUと2位のアメリカにおいては、IUU漁業対策の一環として、輸入水産物に対して漁獲情報の証明・提供を義務づけたり、域内での一貫したトレーサビリティを求めるなどの措置を導入しています。

同3位の日本は、2020年3月の時点では一部の魚種を除き同様の措置は導入されていませんが、政府が主催しWWFジャパンからも委員が参加する「漁獲証明制度に関する検討会(*1)」において、国内漁獲水産物と輸入水産物双方に対し、漁獲証明を含めIUU漁業対策に向けた議論が行なわれています。

IUU漁業由来の水産物の輸入や流通を防止する際の前提として重要なのは、水産物が漁獲されてから、実際に最終消費者に購入されるまでをトラッキングできるようにする、生産・加工・流通・販売を通じた一貫したトレーサビリティ(フルチェーン・トレーサビリティ)が確保されることです。

一貫したトレーサビリティの確保は、漁獲証明や漁獲報告と併せ、実効性のあるIUU対策を行なう上での前提となります(図1)。

図1 トレーサビリティ、漁獲証明、漁獲報告の関係

出所:(一社)食品需給研究センター

出所:(一社)食品需給研究センター

GDSTとそれで解決を図る問題

トレーサビリティを確保するにあたっての問題点

企業は社会的責任方針を果たすために、また、サプライチェーンを可視化してリスクを管理するために、製品由来に関する証明可能な情報に迅速にアクセスする必要性が高まっています。

そして、信頼でき、手頃な負担で導入が可能な水産物の一貫したトレーサビリティを確保することは、今日の世界の水産業において競争力を維持したい企業にとっていまや「必須」となっています。

電子的な技術の発達により、トレーサビリティを確保するシステムを導入することは、以前よりも容易となりつつあります。

しかし、広範に効果的なフルチェーン・トレーサビリティを実現させるためには、次の2つの大きな障害があります。

1)情報の一貫性の欠如
まず、トレーサビリティの確保のために使用している情報に必ずしも一貫性がないということです。これが、関係者の混乱と、費用の増加、意欲の低下につながっています。

2)システム間の互換性の欠如
次に、使用している各情報管理システムの間で連携が取れておらず、情報に互換性がないこと。これにより、他のシステムを利用する企業との一貫したトレーサビリティの管理が難しくなっています。

GDST とは

こうした問題を解決するために、2017年4月に、WWFとグローバル・フード・トレーサビリティ・センター(GFTC)の呼びかけにより、世界中の水産物のトレーサビリティシステムが相互運用と検証とができる新たな標準を策定することを目指し、Global Dialogue on Seafood Traceability(GDST *2)が立ち上げられました。

当初24社だったGDST参加企業は、2020年3月現在、世界中の小売業者、食品メーカー、水産加工業者60社以上が参加するまでに拡大し、世界で最大かつ、最も多様性の高いB2B業界フォーラムの1つとなっています。そして日本からも、日本水産、日本生協連、味の素の3社がGDSTに参加しています。

2018年8月に香港で開催されたGDST 第2回 技術ワークショップ

2018年8月に香港で開催されたGDST 第2回 技術ワークショップ

GDST 1.0の発表

2020年3月16日、3年間にわたる対話を経て、GDSTは「相互運用可能な水産物トレーサビリティシステムに関するGDST標準およびガイドライン バージョン1.0」(GDST 1.0)を発表しました。
*GDSD1.0エグゼクティブサマリー(和訳版)
*GDST 1.0エグゼクティブサマリー(英文)

*GDSD1.0中核的規範標準(和訳版)
*GDSD1.0中核的規範標準(英文)

このGDST 1.0は以下の2部から構成されています:
1. GDSTに対応する水産物サプライチェーン内で記録・伝達する必要のある最低限のデータ要素を特定するための標準。これらは天然漁獲製品、養殖製品を含めて、GDSTの「重要データ要素(KDEs)の基本汎用リスト」において、技術的な詳細が規定されています。
2. 相互運用可能なトレーサビリティシステム間でデータを共有するための技術フォーマットおよび命名法を管理する標準。

GDST 1.0は、既に食品や非食料品分野などで広く使用されているGS1 EPCISという国際トレーサビリティ規格を基に、水産業界の「目的に合う」よう、拡張・洗練化することで構築されました。

この標準は、米国でIUU輸入水産物の流入を規制する米国水産物輸入監視制度や、EUでの同様の規制であるEU/IUU漁業規則といった制度・規則を遵守できるようにも設計されています。

GDST 1.0は、「画一的な」ソリューションを課すものではありません。

一方で、ブロックチェーンなどの最先端技術を含む複数のシステムで柔軟に実装できるように設計されています。

また必ずしも一度に全て導入する必要もなく、各企業の実状に合わせて段階的に導入していくこともできます。

さらにGDST 1.0は、世界中でサプライチェーンへの導入が進む電子化の動きに対応しています。

これにより、複数の専門家やステークホルダーが参加した実証実験により、既に実際のビジネスでも運用が可能なことが確認されています。

つまり、GDST 1.0は、すぐにでも導入可能なものとなっているのです。

そして、GDST 1.0の発表に伴い、GDSTに参加する世界の主要企業は、この標準を採択し、水産物サプライチェーンの全参加者に対し、同様に同標準を推薦し、実装に着手することを求めるとする、GDST1.0採択宣言を発表しました。

*GDST1.0採択声明(和訳版)

GDST1.0採択声明(英文)

日本の水産市場のIUU漁業リスクと、日本企業に求められること

日本市場におけるIUU漁業リスク

世界の三大水産輸入市場である日本でも、IUU漁業由来の水産物が流通しているリスクが決して低くはないことが指摘されています。

2015年に日本に輸入された215万トンの天然水産物の内、24~36%が、違法及び無報告に由来する素材を用いていると推定されています(*3)。

つまり、日本人が食する輸入水産物の約1/3が、IUU漁業由来である可能性があるのです。

また、WWFジャパンが2017年に発表した「日本の水産物市場におけるIUU漁業リスク」レポートでは、リスクが高いとされる魚種における日本の水産市場国としてのIUUリスクは、3段階1.81~2.16と概ね中レベルであることが示されました。

WWFジャパンレポート『日本の水産物市場における、IUUリスク』

日本は水産物の生産高においても世界有数です。世界の水産売上高におけるトップ15社の内、1位と2位を含み日本企業が1/3にあたる5社を占めています。

このように、IUU漁業リスクが低くはなく、しかも漁業の生産と消費において世界的にも責任と影響力が大きい日本において、その対策を進める必要性は特に高いと考えられます。

日本の水産物取扱企業へ求められること

環境問題や労働問題の解決において、企業には、自社内だけの対応ではなく、自社が関わるサプライチェーン全体への対応が求められています。

日本においては、特に水産物のサプライチェーンは複雑であり、最終的にフルチェーン・トレーサビリティ確立を図るために、データの相互運用性、信頼性の確保の面などで課題が残っています。

GDST 1.0の導入は、日本で水産物を生産・加工・流通・販売する企業において、これらの課題への対応を可能とすることで、IUU漁業由来の水産物を取り扱うリスクを抑えて事業活動を行うための重要な解決策となります。

他の食品や非食料品と同様に、水産物においても、情報伝達は電子化されてきており、世界の規制当局も、水産物に関する報告や証明のために電子化されたデータを要求するようになりつつあります。

電子化された情報を、セキュリティを確保しつつ、互換性と信頼性を持たせて相互利用していくことで、企業がよりしっかりと水産物のサプライチェーンを管理していくことが可能となります。

GDST 1.0は、フルチェーン・トレーサビリティの構築に必要な、主要データ要素(KDEs: Key Data Elements)を定めており、このKDEsを使って各企業や業界が用いる仕組みに相互運用性を持たせていくことで、世界のトレンドや技術開発と一致した効率的な投資をしていくことが可能となります。

WWFジャパンとしても、水産資源を含めた海洋の生態系やそこで働く人たちにとって持続可能な海洋環境を構築・保全していくために、水産物の生産や加工、流通、販売に関わる関係者に、GDST1.0を採択し運用することを働きかけていきます。

*1 https://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/gyokakusyoumei.html
*2 https://traceability-dialogue.org/gdst_launch/
*3 Pramod et al., (2019) 

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