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日本の象牙取引管理はいまだ不十分 調査報告を発表

この記事のポイント
象牙を狙った密猟により、現在2万頭が犠牲になっているといわれるアフリカゾウ。その象牙を高値で違法に海外に持ち出す密輸行為は、深刻な犯罪として国際的にも大きな問題になっています。中国をはじめ、各国・地域が象牙の国内市場を閉鎖する動きを見せる中、WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFICは、2017年に続き、国内の象牙取引を合法的に認めている日本の現状を調査。 最新の市場の動向とともに、2018年6月に施行が開始された「種の保存法」改正法の遵守状況について報告書『Slow Progress:日本の象牙市場の再評価(2018年)』を発表しました。調査の結果からは、いまだ十分とはいえない国内の象牙取引管理の実情が見えてきました。

象牙をめぐる日本市場の現状

1989年以降、象牙は「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)」で、国同士の間での国際取引が禁じられています。
これはアフリカゾウ保護の取り組みの一つで、国際的な取引の圧力を抑える一方、消費国での需要を下げ、密猟を抑止することを目的とした施策です。

しかし、輸出入は禁じられていても、国内での象牙取引を合法的に認めてきた国は少なくありません。

1951年から1989年までに、推定で6,700tを超える象牙を輸入してきた日本も、国内で印鑑などの販売を含めた象牙の取引が存在し、現在でも継続している国の一つです。

1989年に象牙の国際取引が禁止された後も、すでに多くの象牙の在庫を抱えていた日本では、1995年より「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」で象牙の国内取引の管理を開始。

新たに密猟された象牙などが国内に違法に持ち込まれることの無いよう、法制度を改正しました。

しかし、この中で規制の対象とされてきたのは、象牙を取り扱う事業者に限られ、製品の規制対象となるのも全形象牙(カットされていない全形を保持した象牙)のみ。

さらに「種の保存法」は、2013年の法改正で罰則が強化されるまで、約20年間にわたり、大きな改正が行なわれてきませんでした。

その後、2017年に再度、法改正が行なわれ、象牙取扱事業者の管理強化が決定。2018年6月から施行されましたが、拡大するインターネットを介した取引の問題や、製品に対する合法性の証明やトレーサビリティ(追跡可能性)についての対策が不十分なままであることが指摘されてきました。

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TRAFFICによる日本市場の調査

こうした現状の中で、日本国内で象牙やその製品の取引が問題のない状態にあるのか。WWFジャパンの野生生物取引調査部門のTRAFFICでは、2017年に調査を実施。
日本の象牙市場が憂慮する状況にあることを明らかにしました。

この2017年の調査の結果から明らかになった主な問題は、以下の通りです。

・2011年~2016年に日本から海外へ違法に輸出された象牙の押収量は2.4トン以上にのぼること(そのうち95%が中国向け)
・象牙製品を扱っている日本の販売業者の73%が、海外へ違法に持ち出されることを承知の上で、販売を行なっていたこと
・そうした事業者の中には、明らかに外国人(主に中国の消費者)向けの象牙製品の製造・販売を行なっている例が確認されたこと

また、2017年11月30日には、印章(ハンコ)の材料となる605点の象牙を、日本から中国に密輸出しようとした中国人2人が逮捕され、その後の裁判で有罪判決を受けた事件も発生。
さらにこの事件では、最終的に不起訴となったものの、日本の象牙取扱事業者も事件に関与した疑いで2018年1月に逮捕されています。

一連の現状が示す、日本国内の象牙市場の問題を受け、WWFジャパンは「日本の国内市場が、ワシントン条約の決議が勧告する、「閉鎖すべき市場」に該当する」と評価。
2017年12月、日本政府に対し、次の2点を提言しました。

I. 日本における違法取引を阻止するための緊急対策をとること
II. 密猟または違法取引に寄与しない狭い例外を除き、象牙の国内取引を停止すること

そして、2018年に再度、国内の象牙取引の現状を調査しました。

報告書「日本の象牙市場の再評価(2018年)」表紙

2018年の新たな調査とその結果

今回の調査で主に対象としたのは、下記の2点です。

  1. 最新の市場の動向
  2. 2018年6月より施行を開始した「種の保存法」改正法の遵守状況

特に、二番目の法改正の結果については、実際の規制に効果が見られたのかどうかを、調査しました。

この改正では、
・事業者の登録義務化:象牙を取り扱う事業者を登録制に変更(改正前は届出制)
・事業者情報の掲示義務化:登録している事業者の登録番号・名称(氏名)・住所、登録の有効期間などを見やすい場所に表示することを義務化
・その他、登録の更新制(5年毎)、罰則の強化 など
といった点が、新たに追加、修正されました。

1)最新の市場の動向

【調査対象】骨董市場と観光エリアを中心とした象牙を取り扱う実店舗/出店ブース
2017年に実施した主要な調査場所に加え、6カ所の骨董市場と、43のハンコ販売店を対象に追加。
屋内骨董フェア、屋外骨董市、骨董・古美術街、観光エリア・象牙専門店、ハンコ販売店、オークションで調査を行ないました。

結果、屋内骨董フェアでは、象牙製品を取り扱う出店数および量が半減しましたが、その他ではほとんど変化が見られませんでした。

図 1. 東京、京都と大阪の骨董品の販路における象牙製品の取扱量。2017年と2018年の両方で調査された場所のデータのみを含む(屋内骨董フェアの4カ所、屋外骨董市の3カ所、骨董・古美術街の4カ所)上:平均ブース数。ブース/店舗の総数は各棒の上に記載し、販売されている象牙の数は濃色で示した(2018年には屋外骨董市の骨董品を販売する店舗の総数は収集しなかったが、全ての市場は同規模であった)下:1カ所当たりの象牙製品個数の平均。調査日に営業をしていなかった店は、窓から中の様子を観察することができた場合を除き、骨董・古美術街の店の数に含まれていない

出店数の減少は、2017年のTRAFFICの調査・報告以降、経済産業省がフェア主催者へ指導を行なうなど、管理強化を実施してきた効果の可能性が考えられます。

しかし一方で、東京の主要な観光エリアである浅草には、2017年に確認した形態と同様の外国人客をターゲットにした店舗が新たに開店しているのを確認しました。主に中国系外国人に好まれるデザインの新しく製造されたと思われる象牙製品を販売しているもので、これらの店舗には、中国語やフランス語など多言語に対応ができる販売員が常駐する例もありました。

©TRAFFIC

東京の有名な観光エリアである浅草で展示販売されていた、中国などの消費者に好まれるデザインの新たに製造された象牙の装身具図

さらに、2017年時の調査の時と同様、2018年の調査でも、象牙製品が日本から違法に持ち出されることを認識しながら販売する姿勢を見せた販売者が、いまだに半数以上を占めました(60%)。

図3.製品に興味を持った客を装って象牙を日本国外に持ち出しても良いか聞いた際の販売者の回答の2017年(N=33)と2018年(N=75)の比較。インタビューは骨董市場と観光エリアの販路で行なわれた(ハンコ販売店は除く)

改善の見られた点もあり、海外への持ち出しについて「認めない」ことを示した販売者は2017年と比較すると9%から26%に増加し、このうち11%は、「外国人客には販売しない」ことを明言しました。象牙の国外輸出が禁止されていることを示すステッカーなどの掲示をしている店舗も数店ながら確認しました。

しかしながら、インタビューをした半数以上60%の販売者が、依然として違法輸出につながる販売を促したことには懸念が残ります。この中には、小さいもの、古いものや少数であれば構わない、身につけて私物とすれば良い、マンモス牙だと言えば良い、といった抜け道を示すような言及もいくつか確認しました。
その他には、「中国系の客が象牙を買わなくなった」と言及した例(7人/34人)があり、これは中国本土の象牙市場閉鎖と、中国当局の法執行の強化により、中国系外国人の購買頻度の減少につながった可能性が考えられます。

しかし、引き続き外国人客が象牙製品に興味を示していると言及する例も多く、客もフィリピン、台湾、香港、ヨーロッパなど中国に限られないこともわかりました。
さらに、インターネットを通じた違法輸出が依然として続いている、という発言も聞かれました。

なお、日本の市場において大手ショッピングモールでは、株式会社イトーヨーカ堂とイオンモール株式会社が、2016年と2017年にそれぞれ象牙販売終了の方針を打ち出し、テナントに告知するなど、自主的な対策に乗り出しています。

©TRAFFIC

2)改正法の遵守状況

「種の保存法」の改正により、2018年6月からは、象牙の販売を行なっている事業者の登録義務付けと、登録している事業者であることの情報の掲示が義務となりました。
2018年の調査では、どれくらいのこの義務が守られているかも調査しました。

その結果、ハンコ販売店を除くと、遵守状況は場所により差があるものの、全体として低いものでした。

図 4. 2017年と2018年の事業者登録情報(以前の届出制)の掲示状況(6月から8月に調査)。2018年6月1日より登録情報を掲示することが義務付けられた。2017年と2018年にサンプルとした数は以下である。屋内骨董フェア(N=326,199)屋外骨董フェア(N=75, 70)、骨董・古美術街(N=29, 40)、観光エリアと象牙専門店(N=15, 12)、ハンコ販売店(N=43)。「掲示」には改正前の種の保存法のもとで発行された届出ステッカーの掲示、およびその他の方法で登録情報を掲示、またはこれら情報を調査員の質問に答える形で提示した場合も含めた

こうした店舗の中には「最近規制が厳しくなった」など規制の変更に触れた発言(16人/75人)や、規制強化を理由に象牙の販売から撤退する意向を示した事例もありましたが、規制の変更が2018年6月からであることに言及した販売者はそのうち2人でした。

また、実際の登録については、店舗名や事業者名、住所が判別できた、確認可能な店舗において調べたところ、52店舗中16店舗、31%が義務である事業者登録の確認が取れませでした。

他方、販売に際して、合法的なものであることの証明が必要とされる「全形象牙」の取り扱いについては、改善が見られました。

骨董市場で販売されていた20本の全形象牙うち、義務付けられている登録票が添付されていなかったものの比率は10%で、2017年時の68%を大きく下回る結果になりました。
また、その他、オークションに出品されていた全形象牙は、すべてに登録票が添付されており、2017年の調査時より改善が見られました。

ただし、こうした全形象牙は、骨董市場で確認された5,000点以上の象牙製品のうちのごく一部(0.5%)にすぎません。

今後、日本に求められる取り組み

2017年の調査と、2018年の調査の結果、政府によるいくつかの法的・規制的な変更がなされ法執行面での努力の結果、販売者の姿勢の変化や象牙取扱量の減少など見てとれる要素がいくつかあったことがわかりました。

しかし、その内容は限定的で、現状の象牙をめぐる課題を、根本的に解決するものではありません。また、改正法の遵守状況も極めて不十分で、多くの課題が残ることが分かりました。

特に、外国人客による象牙製品の関心と需要や、それに応えるような販売者の姿勢には一定の懸念が健在。特別な注意喚起や抑止力となるような措置が取られている様子はごく一部でしか確認できず、日本からの違法な象牙の輸出を、十分に取り締まれていない現状は、看過できないものといえます。

東京オリンピック・パラリンピックに向け外国人観光客の増加が見込まれることからも、日本の象牙市場が、世界の違法取引を促進するようなことが無いよう、早急な取り組みが求められます。

WWFジャパンでは、今回の調査の結果を受け、2017年に引き続き、下記の点を政府に対して提言していきます。

・密猟または違法取引に寄与しない狭い例外を除いた、象牙の国内取引を停止するため、法的・規制的な措置を緊急に検討すること
・日本からの象牙の違法輸出を阻止するため、水際での法執行強化に加え、国内事業者の監視強化や注意喚起などの対策を強化すること

このほか、遵守状況に課題の見つかった改正法の規制を効果的に執行することも重要です。

さらに、野生生物の国際取引を規制するワシントン条約の第70回常設委員会が、2018年10月1日より開幕することを受け、TRAFFICでは、同委員会でこうした市場の最新状況の評価を踏まえた厳格な議論がされるように働きかけます。

TRAFFICとしては、常設委員会に対し、日本の国内象牙市場の最新の評価を考慮して、条約の下で監視と進捗評価が行われる国内(国別)象牙行動計画(NIAP)プロセスへの参加を、日本にも求めるよう、検討することを要請していきます。

報告書

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