©Greg Armifield / WWF-UK

日本におけるインターネットでの象牙取引 2018年の調査報告を発表

この記事のポイント
2018年9月13日、WWFジャパンの野生生物調査部門TRAFFICは、報告書『System Error, Reboot Required:日本におけるインターネットでの象牙取引』を発表しました。これは、楽天株式会社、株式会社メルカリといったEC業界の主要企業が、象牙を禁止商材とする先駆的な取り組みを開始したことと、2018年6月の国内法の改正を受け、日本のインターネットでの象牙取引と規制の遵守状況が、どう変化したかを調査したものです。この結果、国内最大のインターネット取引のプラットフォームであり、象牙取引の場を提供し続けるヤフー株式会社が、国内規制の欠如により合法性の証明がなされない象牙取引を、相当量許容していることが分かりました。

アフリカゾウの危機と国際的な取り組みの変化

象牙を狙ったアフリカゾウの密猟と、その違法取引による危機が今、過去10年間で危機的なレベルに達しているとされています。
現在1年間に殺されるアフリカゾウの数は推定で約2万頭。

©Greg Armifield / WWF-UK
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この現状を受け、野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約」では、2016年9月、それぞれの国内市場が、アフリカゾウの密猟や象牙の違法取引に寄与することがないようにあらゆる手段を取ることを各国に求めました(決議10.10改訂CoP17)。
国内で合法的な象牙の売買を認めてきた主要な各国政府は、国レベルで厳格な規制を導入し始めました。
2017年末には、世界最大の違法象牙の需要の中核と考えられていた中国が、市場を閉鎖。

さらに香港と台湾も、それぞれ2021年と2020年までに、象牙製品の製造と国内取引を停止する政策を正式に打ち出しました。
しかし、同じく国内での合法的な象牙取引を認めている日本では、あまり積極的な動きが見られず、国際的にも象牙産業と国内市場の拠点として取り残された形になっています。

2017年6月に閣議決定され、2018年6月1日に施行がはじまった改正「種の保存法」では、象牙を取り扱う古物商などの事業者に対する管理と規制が強化されたものの、それ以上に踏み込んだ国策としての政策転換や、規制内容を抜本的に見直す意向は示されていません。

一方で、象牙取引のプラットフォームとして利用されることの増えてきた、オンライン取引の業界では、楽天(楽天市場、ラクマを有する)、メルカリといった企業が、こうした世界の動きと日本の現状を背景に、自社プラットフォームを介した象牙の取り扱いを禁止する、自主的な規制を開始。特にWWFジャパンの野生生物調査部門TRAFFICが行なった2017年の日本における象牙のインターネット取引の調査で、無規制に行なわれるC to C取引の大きなリスクを指摘したことにも起因しています。

両企業は、政府や他のEC企業に先立った、先駆的な取り組みを始めました。

©Shikiazhuang Customs

2016 年8月に河北省石家荘税関によって押収された日本から違法輸出された象牙製品。日本のeコマースサイトで購入された。

法改正、そしてEC産業の取り組み… その後の変化は?

「種の保存法」の改正と、EC業界による自主的な取り組み。その結果、日本国内の象牙取引の現状は、どう変化したのか?
2017年8月に日本のインターネットにおける象牙取引の現状を明らかにし、問題の大きさを強く指摘したTRAFFICでは、その後の国内状況の変化を調べるため、2018年6月から7月にかけて、再調査を実施しました。

サイバーモール(ショッピングサイト)の現状

まず、2017年から象牙取引の自主規制を開始した楽天市場では、TRAFFICの前回調査で「本象牙」のキーワード検索で確認された55の象牙製品の販売店舗がゼロに減少。
また、今回新たに調査対象に含めた次のサイトについては、店舗数が限られていることが分かりました。ポンパレモール(13店舗)、Wowma(6店舗)、Qoo10(3店舗)、BASE(9店舗)、minne(11店舗)。
しかし、国内最大級のショッピングサイトであるヤフーショッピングでは、「本象牙」のキーワードで確認できた店舗数が2017年の調査時の58店舗から、54店舗に変化したのみでした。
しかも、その54店舗うちの8店舗は、2017年の調査時とは別の店舗であるなど、いまだに活発な取引の動きがあることが明らかになりました。

ネットオークションの現状

2018年6月にTRAFFICが実施したこの調査では、4週間の間に落札されたほぼ全体(見た目90%)が象牙から作られている製品をカウントしました。
その結果、ヤフーオークション(ヤフオク)では、現在も大規模かつ盛んな象牙取引が行なわれている現状が明らかになりました。結果の概要は以下の通りです。

ヤフオクで4週間に落札された象牙製品
  2017年 2018年
落札総額 4,520万円 3,780万円
商品数 9,788個 4,414個
全形象牙 22本(総額87万円) 35本(総額445万円)
装身具(アクセサリなど) 5,262個 1,368個

ヤフオクでの2017年(5月8日から6月4日)と2018年(6月3日から6月30日)の4週間にわたるモニタリング期間の象牙製品落札価格
※ほぼ全体が象牙から作られている製品のみをカウントした。
(包装やケース、台座をのぞく見た目で90%を目安とした)

商品総数や装身具の取扱数は、2017年と比べて大きく減少しましたが、落札総額の下落は16%どまり。全形象牙(カットしていない象牙)の出品については、むしろ前年よりも増加しています。
さらに、日本国内で合法性の証明が求められる象牙製品は、登録が義務付けられている全形象牙のみ。それ以外にあたる落札総額3,780万円の88%については、合法性の証明に欠けた象牙による製品であるということです。

今回の調査では、新たにモバオクでも出品状況を確認しましたが、確認できた象牙製品は、全体で4製品のみ。これと比較しても、いかにヤフオクを使った象牙取引の規模が大きなものであるかが分かります。

C to C取引の現状

2017年に行なった調査では、メルカリで「本象牙」を検索すると100件、ラクマで45件の広告がヒットしました。これが、今回の2018年の調査では、ほぼゼロになりました。

また、メルカリで2018年6月11日~7月8日の4週間にかけて新たな広告のモニタリング調査を実施。
2017年の調査時に販売が確認された象牙製品が4週間で573個であったのに対し、2018年の調査では13個となり、約98%の減少となりました。

メルカリで4週間のモニタリング期間中新たに広告された象牙製品の数
(2017年は5月8日~6月4日、2018年は6月11日~7月8日)

これらの調査手法では、明らかに象牙と判断できるもののみをカウントしていますが、それでもメルカリやラクマでの自主的な措置の効果が確認できたといえます。国内法でほぼ規制のないCtoC取引を削減するという意味で、こうした企業の自主的措置は大きな意味を持ちます。

一方、今回の調査では、企業の措置に反していまだにこうしたC to Cサービスを利用した執拗な象牙の取引が行なわれている実情も見えてきました。
より厳密に広告をモニタリングしたところ、タイトルから容易に象牙製品と判別できない広告の中にも、「象牙風」や「象牙色」といった表現を故意に利用していたり、製品写真を精査したところ本物の象牙を使った製品である可能性の高い広告の例が確認されました。
購入者がこうした隠れ広告の中から本象牙を探し、素早く取引を行なっている現状が課題として浮かび上がりました。

メルカリでは自主的なチェックにより、こうした広告の監視や削除にも取り組みを開始しています。

SNSの現状

2018年6月11日~7月8日にかけて、下記3つのSNSで、「象牙」というキーワードの検索を通じた調査を実施。
これらのSNSでも、象牙を含む絶滅が心配されている野生生物を使った製品の広告を禁止していますが、それらに違反するような広告や投稿が少なからず確認されました。

4週間のモニタリング調査期間(6月11日から7月8日)にSNS上で確認された一般公開の投稿

これら出品者のほとんど全てが事業者で、SNSが象牙製品販売の広告に利用されていることも確認されました。
その中で、象牙を取り扱う事業者に必要な登録情報を、正しく掲示していたのはInstagramで投稿していた1事業者のみでした。
また、こうした事業者を含むユーザーによる、非公開の取引については、調査が困難であり、動向の把握が難しいことに注意する必要があります。

「種の保存法」規制遵守状況の調査

今回の調査では、こうした一連のインターネットを介した象牙取引の実情の他、改正「種の保存法」(2018年6月1日施行)の遵守状況についても効果を確認しました。
この改正では、象牙製品を合法的に取り扱う事業者に対し、主に2つのことが義務付けられています。

  1. 国に対して「事業者登録」を行なうこと
  2. その登録情報をサイトや店頭などで掲示すること

この登録情報は政府により公開されているため、登録を行っている事業者かどうか、誰でも掲示情報の確認ができる仕組みです。
ところが、今回調査を行なったサイバーモール(ショッピングサイト)を使った象牙の取引については、この義務を果たしていない事業者による利用も行なわれている実態が明らかになりました。

  • 事業者の非登録率:12%
  • 事業者情報の非掲示率:28%

調査したサイバーモールでの事業者情報掲示状況(2018年6月1日より義務)

調査したサイバーモールでの事業者登録状況(2018年6月1日より義務)

また、「象牙 買取」で検索した結果、掲示された個別のサイト上位50店舗を調べると、国に登録しているとみられる事業者は50のうち37にとどまり、そのうち登録情報を掲示している事業者は24にとどまるなど、改正された法の施行に、いまだ課題があることが分かりました。

検索したうち上位50店舗の事業者情報掲示状況(2018年6月1日より義務)

検索したうち上位50店舗の事業者登録状況(2018年6月1日より義務)

さらに、B to C取引とC to C取引が混在するヤフオクにおいては、「本象牙」で検索し、上位100件の広告を掲示していた45の出品者を調査したところ、登録事業者であることを確認できたのは22出品者。ヤフオクでの23出品者および、C to C取引であるメルカリとラクマで検索して見つかった出品者に関しては、出品者の実態が不明であり、これらはオンライン取引の匿名性の高さから、法的義務の対象者となるか(象牙製品を扱う事業者として種の保存法の対象とされるのか)を確認するのは実質的に不可能であると考えられます。

こうした匿名性の高い取引を可能にする、インターネットを介した象牙の取引は、現状の日本では即時に法律でも禁止すべき課題を抱えた問題といえます。

また、象牙製品のうち唯一合法性の証明を義務とする全形象牙の取引においては、今回の法改正以前の1995年より施行されている規制ですが、今回の調査ではヤフオクで落札が確認された1件(2本)で、この証明が伴わない違法行為にあたる取引が認められました。(関連省庁、企業より警察に通達済)

ヤフオクにおけるモニタリングで落札を確認した全形象牙35本のうち2本の牙については義務である登録票の添付がないまま取引が成立していた


法令遵守状況が94%と高いものであったことを踏まえても、このように出所が法的に証明されないまま落札されたことは非常に憂慮すべきことと言えるでしょう。

明らかになった課題と求められる対策

改正「種の保存法」の課題

©Greg Armifield / WWF-UK

今回の一連の調査の結果、2018年6月から施行された改正「種の保存法」の効果は、ごく限られた範囲にとどまることが明らかになりました。
最も大きな課題は、改正法で強化された事業者に対する規制が、実店舗などでの象牙製品の販売、すなわちB to C(事業者→個人)取引を主対象としたものであることです。
近年急拡大してきた、オンライン取引というC to C(個人→個人)のマーケットが抱える、出品者の特定が困難である現状や、事業者が個人を装って行なうビジネス目的の取引の区別といった問題については、いまだ日本は対応する法的な手立てを持っていないといえるでしょう。また、製品の合法性の証明についても、取引される象牙製品のうち全形象牙にしか課されておらず(たとえばこれはヤフオクにおいては取引の約22%のみ)、C to Cによる象牙取引の不透明さと合法性の証明の欠如という点が、規制の大きな抜け穴として残っています。

この現状では、残念ながら日本のとっている対策は、ワシントン条約をはじめ国際社会が目指し、求めているところの世界の野生生物犯罪の撲滅という目標の達成にも大きく後れを取るものと言わざるを得ません。

EC業界による成果と課題

一方、EC業界として楽天とメルカリが導入した自主的な取り組みは、無規制に行なわれるインターネットでの象牙取引を抑え、縮小させるという点で、重要な成果を挙げているといえます。
「象牙」キーワードの排除など規制を逃れた取引が続いている側面はあるものの、メルカリではこうした取引を防止する手段の確立に着手。TRAFFICもその社内勉強会の実施をサポートするなど、さらなる取り組みへの支援を行なっています。

しかし、国内最大のプラットフォームを有したヤフーの各サービス(ヤフーショッピング、ヤフオク)では、インターネットを介した膨大な量の象牙が、今も取引されており、合法性の証明が欠如した取引を相当量許容している状態にあることが懸念されています。

また、2010年11月~2012年4月にかけて、合計3.2トンの象牙を中国に密輸していた容疑者たちが、現地の当局に逮捕され有罪判決を受けた事件では、象牙の一部を日本のヤフオクで手に入れたことが法廷で明らかにされており、こうしたインターネットのプラットフォームを使ったビジネスが密輸につながるケースは、今もあると懸念されています。

同社が違法な行為を直接行なっているわけではありませんが、象牙取引に関しては、国内規制が求める最低限度の取り組みを行なうにとどまっていることは、日本の象牙問題を解決し、国際的な違法取引を撲滅してゆく上で、大きな阻害となっているといえるでしょう。

今、世界では、大手のEC企業が、自社のプラットフォームの境界内で規制を強化するだけにとどまらず、国際的な協力のもと違法取引を阻止し、野生生物保護に対するユーザーの意識を向上することで、より大きな貢献を果たす動きを見せています。
2018年3月には、世界有数のeコマース、ソーシャルメディア、テクノロジー企業21社が、WWF、TRAFFIC、IFAWと共同で、業界としての国際的な連合体「野生生物の不正なオンライン取引終了に向けた国際的な連合体(Global Coalition to End Wildlife Trafficking Online)」を設立。日本企業では2018年8月より楽天がこれに参加し、産業界としての責任を強く打ち出すとともに、その履行を果たす意思を示しました。

ヤフーにおいても、社会的な影響力を持つ企業の責任として、メルカリや楽天と同様、自主的な取引の停止に踏み切ることが、強く求められます。

調査結果を受けたWWFジャパンによる提言

国内象牙市場の問題を解決するため、取引規制の強化という行動をとり始めたアジアの主要な市場に対し、日本の対策は遅れを取っています。
その中で、WWFジャパンは主に次の2点について、改善と実現を求めます。

政府に対し:規制のないインターネット上での象牙のC to C取引を実質的に禁止する手段を導入し、新しい象牙製品においては合法性とトレーサビリティを確実に担保する仕組みを構築すること

ヤフーはじめ日本のEC業界に対し:C to C取引など特に違法取引を仲介する危険性が高いと考えられるプラットフォームについては、早急に象牙取引の自主的禁止措置を導入すること

なお、 ヤフー株式会社に対しては、トラフィックの報告書の発表と同時にWWFジャパンから象牙取引の自主的禁止措置の早急な導入を求める要望書を提出しました。
この要望書には、WWFジャパンだけでなく、アフリカゾウの保護および象牙の違法取引の撲滅を目指す世界各国のWWFの代表も連名で請願しています。
ヤフー株式会社には、大きな影響力と責任を有した企業として、最良かつ迅速な判断を期待します。

賛同を得たWWFネットワークの国/地域:
インターナショナル、オーストラリア、ブータン、ブラジル、カンボジア、中国、メコン川流域、香港、インド、インドネシア、ラオス、モンゴル、モザンビーク、ミャンマー、ネパール、ニュージーランド、南太平洋、パキスタン、フィリピン、シンガポール、タイ、英国、米国、ベトナム

報告書

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