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守ろう!ペンギンたちの海 チリ初の海洋保護区の管理計画

この記事のポイント
豊かな自然環境と生物多様性の高さから、「命の海」ともいわれる、南米チリの海。WWFジャパンは2014年より、WWFチリと共にこの場所の保全を進めてきました。その重要な目標の一つに、チリでは初の例となる、海洋保護区の管理計画の策定があります。これは、2015年からWWFが政府や地域の関係者と進めてきた取り組みの一つで、ペンギンやアシカなどが数多く生息する海洋保護区の適切な管理運営を実現するためのもの。そしてその管理計画案が2020年1月31日、ついにチリの環境省によって正式に承認され、実施される運びとなりました。

「命の海」に迫る危機

シロナガスクジラやチリイルカ(ハラジロイルカ)などの鯨類、マゼランペンギンやフンボルトペンギンをはじめとする、数多くの海鳥が息づく、南米チリの「命の海」。

フィヨルドに代表される独特な地形や気候により、良好な水質と豊富なプランクトンがもたらされるこの海は、多種多様な生きものの命を育んでいます。

© Sonja Heinrich/ WWF-Chile

チリイルカ(ハラジロイルカ)

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マゼランペンギンとミナミオオセグロカモメ

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しかし近年、サケ(サーモン)養殖業などによる海の利用が拡大。大規模な養殖場の周辺では、生息する生きものや、自然環境への深刻な影響が指摘されるようになりました。

日本は、チリで養殖されるサケを世界で最も多く輸入している国の一つ。この環境の悪化には、大きな責任を負っています。

そこでWWFジャパンは2014年より、現地のWWFチリと協力し、以下の活動を開始。主に3つの活動に取り組んできました。

1. 継続した鯨類や海鳥の生態調査

2. 海洋保護区の拡大と保護区の適切な管理事例の構築

3. 自然環境や地域社会に配慮した持続可能なサケ養殖への転換

この中の「2. 海洋保護区の拡大と保護区の適切な管理事例の構築」について、今回、大きな成果をあげることができました。

「ピティパレーナ・アニーウェ(Pitipalena-Añihué)海洋保護区」で関係者と協力して進めてきた保護区の管理計画が2020年1月31日、チリの環境省によって正式に承認されたのです。

チリ初となる海洋保護区の共同管理

ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区の設立

「ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区」は、チリ南部、チロエ島と本土を隔てる湾の一つ、コルコバド湾にあります。

「ピティパレーナ・アニーウェ(Pitipalena-Añihué)海洋保護区」の地図

ここは保護区に指定される以前から、WWFが行なった鯨類や海鳥の調査により、保全価値の高い重要な海域として特定されていました。

実際に、シロナガスクジラやチリイルカなどの鯨類の他、オタリア、ミナミウミカワウソやチリカワウソなど、さまざまな海洋哺乳類が生息。

また、マゼランペンギンやサカツラウなどの海鳥を中心とした鳥類も43種が確認されています。

さらに、冷水性サンゴを代表に、海底にも豊かな生態系が育まれています。

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ミナミウミカワウソ。海に生息するカワウソの一種で、絶滅の危機が指摘されている。

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オタリア。南米大陸沿岸に分布するアシカの一種。魚などを主食とし、数十頭の群でくらしている。

この海の貴重な自然環境と野生生物を保全していくため、WWFは調査の結果に基づき、海洋保護区を設立するよう、チリの環境省や地方政府の環境部局に対し、働きかけを行なってきました。

その結果、2014年2月、チリ政府によって「ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区」の設立が宣言されたのです。

保護区の適切な管理・運用に向けた課題

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「ピティパレーナ・アニーウェ(Pitipalena-Añihué)海洋保護区」

しかし、保護区の設立が決まっただけで、自然や野生生物が保全できるわけではありません。とりわけ海洋保護区の運営は、その海域で漁業などを生業として生活する地域住民への配慮や、保全への理解が大きな課題となります。

「ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区」も、保護区の海域に面した集落ラウル・マリン・バルマセーダ(Raúl Marín Balmaceda)に住む人々にとって、ウニやムール貝などの貝類や海藻類を採る、大切な漁場となってきました。

さらに、周辺の海域では、企業による大規模なサケの養殖場が敷設され、多くの人たちが働いているなど、暮らしに深くかかわる要素が数多くありました。

そのため「ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区」は、人による海の利用を禁止するのではなく、自然環境の保全と人の利用の両立を目指す趣旨で、設立されました。

しかし、これを実現するためには、漁業や養殖業を、海の自然環境に配慮した「持続可能」なかたちで行なっていく必要があります。そうでなければ、せっかく保護区が設立されても、実際には自然環境や野生生物に悪影響がもたらされかねません。

加えて、この海域をはじめサケ養殖が集中するチリ南部の沿岸は、サケ養殖企業と地域の住民、また先住民との間で、トラブルが頻発。各地で問題となってきました。

ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区のある地域でも、住民とサケ養殖企業の関係は決して良いとは言えず、保護区の利用に関する両者の話し合いも、ほとんど行なわれてきませんでした。

保護区の管理に向けた関係者への働きかけを開始

そこでWWFは、2015年9月よりこの海洋保護区で、地域住民、サケ養殖企業、政府の「協働」による、適切な海洋保護区の管理計画の策定に向けた活動を開始しました。

当初、関係者の保護区に対する重要性の理解や保全への意欲は低く、その向上が大きな課題となりました。

そのため、WWFチリのスタッフたちは、まず、地域住民の方々との関係構築を図るため、一軒一軒家を回り、保護区の重要性を説明。さらに、サケ養殖企業とも話し合いを重ね、協働に向けた働きかけを実施することにしました。

こうした地道な取り組みの結果、関係者の意識が少しずつ変化し、保護区の管理計画を、共に作っていくための協働体制が構築されていったのです。

そして、さまざまな地域の関係者の努力と協力により、持続可能な漁業の実施を含めた、海洋保護区の管理計画案が、策定されることになりました。

保護区の協働管理に向けた計画の策定

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保護区の管理計画策定に向けたワークショップ。さまざまな立場や利害を超えた協力が実現しました。

この保護区の管理計画案では、地域の人たちが漁業などで保護区の海域を利用するにあたり、どこの場所で、どのようなことに気をつけなければならないのか、などを明らかに定めました。

そのためにまず、保護区の中で、野生生物が多く確認されている場所や、地域の方々が利用する場所、またサケの養殖企業が利用している場所を、それぞれ地図に落とし、重ねていく作業を実施。

それぞれの観点から重要な地域を明らかにした情報をもとに、保護区をいくつかの区域に分け、それぞれの場所で、気をつけるべきことを明確化しました。

加えて、持続可能な漁業や養殖業の在り方についても話し合いを重ね、地域住民が自主的に貝類について休漁期間を設けるなど、資源の保全・回復を図るための取り組みも、今回の計画策定により実現することになりました。

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保護区の管理計画に関するミーティング

また、管理計画の策定に向けては、地域住民、サケ養殖企業、政府が共に話し合う場も設定。

保護区を協働で管理していく上で欠かせない、関係者間の信頼と協力を培い、特に地域住民とサケ養殖企業の関係向上に努めました。

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保護区の自然や生きものについて学ぶ子どもたち。世界的にも貴重な自然が、身近に広がっていることを学ぶ大事な機会となった。

この他、検討プロセスと並行して、保護区の自然や生きものに関する環境教育活動も実施。

子どもたちから大人まで、地域全体で保護区への理解や関心を高めるとともに、保護区の管理にかかわることへの意欲を持っていただきました。

これらはいずれも地域の方々が主体的に、管理計画の策定に関わる要因にもなりました。

さまざまな困難を超えて

海洋保護区の設立宣言から3年。計画の策定活動が開始されて以来、続けられてきた、関係者の方々の努力と取り組みの結果、2018年についに管理計画の草案が完成しました。

このような海洋保護区の管理計画が、WWFのような自然保護団体や地域の人たちの手で作られたのは、チリでは初めての例です。

何より、利害が異なり、対立さえあった地域の関係者が、思いを一つにし、自分たちの地域の海を守る、実のある行動に踏み出し、成し遂げたことには、大きな意味があります。

しかし、この挑戦にはまだ多くの困難が待ち受けていました。

出来上がった管理計画の草案は、地元の州の環境部局での確認を経て、2019年中にチリの環境省に承認される予定でした。

ところがチリでは期を同じくして、政権交代や、首都サンティアゴの地下鉄運賃の引き上げに端を発した大規模なデモなどが勃発。政情不安がつのり、さまざまな政策の実施や行政の対応に、深刻な遅れが発生しました。

このため、計画案の検討や承認も、一時は目途が立たなくなり、かかわった人々やWWFのスタッフたちは、不安を抱えたまま、待つことを余儀なくされたのです。

しかし、2020年1月31日、計画案はついに、チリ環境省よる正式な承認を得ることができました。計画は実際の海洋保護区での実行計画の指針として、これから実現をめざし、動き出すことになったのです。

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保護区周辺の集落「ラウル・マリン・バルマセーダ(Raúl Marín Balmaceda)」の人々と管理計画策定に関わった関係者

「命の海」の守る 日本からのご支援

今回の取り組みの実現は、南米チリの「命の海」の保全を推進していく上での大きな一歩でもあります。

そして、この長く地道な活動を支えてくれたのは、WWFジャパンを通じ、日本のサポーターの皆さまより、「命の海」や「イルカが教えてくれること」キャンペーンを通じてお寄せいただいた、ご寄付によるご支援でした。

WWFサポーターの皆さまには、この場をお借りして、改めて感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

今後もWWFは、ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区で適切な管理を進めるために関係者をサポートしていくとともに、海洋保護区の拡大や同様の協働管理事例の他地域への展開に向けて取り組んでいきます。

引き続き、南米チリの「命の海」を守る活動を応援いただければ幸いです。

WWFスタッフより:ついに実現した、地域の人たちの「海洋保護区」

WWFジャパン海洋・水産グループ 吉田誠
WWFジャパン海洋・水産グループ 吉田誠
 

サポーターの皆さまの多大なるご支援により、チリでは初となる、海洋保護区の管理計画を実現することができました。誠にありがとうございます。

現場である「ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区」は、チリの首都サンティアゴから、飛行機と車を乗り継ぎ丸一日かけてようやくたどり着く、行くだけでも一苦労な場所です。

しかしそこには、非常に美しい自然が広がり、さまざまな生き物が息づいています。実際に私が訪れた短い間でも、ミナミカマイルカ、マゼランペンギン、オタリア、ミナミウミカワウソなど、数多くの生き物たちを見ることができました。

この貴重な自然と多様な生き物たちを守りながら共存していくため、保護区周辺の集落ラウル・マリン・バルマセーダの方々を中心に、サケ養殖企業や政府の関係者が協力して、試行錯誤しながら管理計画づくりを行なってきました。

当初は完全な部外者だったWWFチリのスタッフたちも、地道な取り組みを通じて地域の一員として受け入れられ、計画の中身をつくるサポートや関係者間をつなぎ協働を推し進めるなど、共に奮闘してきました。

その努力の結晶が、チリの環境省による正式承認という目に見える成果として実現し、チリの海の保全が前進したことは、非常に大きな成果であり、喜びもひとしおです。
日本は、「サケ(サーモン)」の生産と消費という観点からチリとつながっており、サケ養殖業による自然環境や野生生物への影響にも深く関わっています。そのため、チリの海の保全を進めていく上で、特にサケ養殖企業を動かしていくために、日本からの応援がとても重要です。

今後もピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区をはじめ、豊かな生態系をもつチリの海の保全を進めていきます。引き続き、南米チリの「命の海」の保全にご注目、ご支援いただけますよう、よろしくお願いいたします。

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