© WWF-Sweden / Ola Jennersten

トラにとってはどんな寅年だった?トラにまつわるハイライト

この記事のポイント
年が明け、皆様の心はすっかり兎年かと思います。しかしトラが生息している東アジア・東南アジアの国々では、旧暦もよく使われており、その寅年の終わりは2023年1月22日でした。これらの国ではこの時期、旧正月や春節として休日となっており、一年を振り返りながら来る新年を祝います。 それでは、今回の寅年はトラにとってどんな一年だったのでしょうか。トラにまつわる一年間の活動や成果を振り返ります。

トラの個体数が回復に転じていることが明確に

トラは、100年前には世界に約10万頭が生息していたと考えられています。

それが密猟や生息地の減少などによって、2010年時点で野生では3,200頭にまで減少してしまいました。

その後、各国でのさまざまな保全の努力が功を奏して、2016年時点で回復傾向にある可能性が指摘されるようになりました。

そして2022年、IUCN(国際自然保護連合)が発表した推定個体数は4,500頭となり、トラの個体数が回復しつつあることは、ほぼ確実と見られるようになりました。

もちろん、絶滅の危機にある野生生物の個体数が、増加に転じた例はこれまでにも多数ありますが、トラのような大型肉食動物では珍しいことです。

ただし、東南アジアのインドシナ半島やインドネシアでは、現在もトラの数は減少し続けていると考えられており、更なる保全の努力が必要です。

トラ個体数の歴史 ©WWFジャパン

トラの生息地の拡大は可能!?

トラは個体数だけでなく、森林やサバンナといった野生での生息環境も、開発により広く失ってきました。

その生息地は、かつての95%が失われたと考えれています。

これだけの生息地を失うというのは、どのような状況なのでしょうか?それこそ、トラが直面している現実です。

下の地図の淡いオレンジ色が、かつての生息地で、濃いオレンジが現在の生息地です。

数が回復し、増えてきているとはいえ、それは非常に限られた地域での話です。

トラがこれから、何世代にもわたって生存していける状況を作り出すには、生息地も回復していくことが急務です。

それでは、どこなら生息地を拡大させられるでしょうか?

WWFの科学者が分析した結果、緑色のエリア(約170万km2)は、現在トラが生息していないものの、将来的にトラが生息しうる可能性があることが分かりました。

これらの地域は、いずれもかつて野生のトラが生息していたと考えられている場所です。

もしも緑色全部のエリアで、トラの回復が実現できれば、現在のトラの生息地は約65万km2なので、3倍以上に拡大できるかもしれないという計算になります。

1900年ころのトラの生息地(淡いオレンジ)、現在の生息地(濃いオレンジ)、将来生息地となりうるエリア(緑)

©WWF “Restoring Asia's Roar” https://tigers.panda.org/reports/?uNewsID=7362966

ネパール:倍増どころかほぼ3倍増を達成

2022年の寅年は、「世界の野生のトラの数を倍にする」という、2010年の寅年に立てられた国際目標「TX2」を達成するゴールの年でした。

トラの生息国は、それぞれこの国際目標を意識した保全活動に取り組み、国によっては、目標を大幅に上回る成果をあげました。

その代表が、ネパールです。

2009年時点で、ネパールのトラの個体数はわずか121頭でした。

それが2022年に発表された最新データでは、3倍近い355個体と推定されたのです!

この素晴らしい成果は、重要な生息地の保全や、離れた場所にある生息地同士をつなぐコリドー(緑の回廊)の設置、地域住民との協働、密猟防止など、ネパールが国を挙げて実施してきた努力の賜物です。

© Shutterstock / PACO COMO / WWF-International

ネパールのバルディア国立公園で駆け回る仔トラ

マレーシア:4頭の赤ちゃんトラの撮影に成功

トラの生息状況がきわめて厳しい、東南アジアの生息国マレーシアからも、明るいニュースが報じられました。

マレーシアに生息するトラは、150頭以下と言われ、しかも、その数は減少し続けていると考えられています。

そんな苦しい状況の中、2022年1月に調査用の自動カメラで、4頭もの赤ちゃんトラを連れた!母トラの画像が、撮影されたのです!

通常、トラが生む仔の数は、多くても2、3頭。4頭の仔トラが撮影されるというのはきわめて珍しいことです。
調査と保全に取り組むWWFマレーシアのスタッフが、この写真を見た時の驚きと喜びはいかほどだったでしょう。

もう一つ、マレーシアの明るいニュースは、2023年初めに、首相を長とした国のトラ・タスクフォースが設立されたことでした。

これにより、トラの保全活動により多くの資金が配分されることが期待されています。

© WWF-Malaysia / PSPC

母親に連れられた仔トラたち。マレーシアのロイヤルブルム州立公園でのカメラトラップ調査で撮影されました。

タイ:トラの獲物となる草食動物を保護区に再導入

タイ西部のミャンマー国境近くにあるメーワン国立公園では、トラの獲物となる草食動物の数が、密猟などによって自然増加は望めないほどにまで減ってしまい、そのことが、トラの個体数の回復を妨げる要因の一つになっていると考えられています。

写真は、サンバーと呼ばれるシカの一種で、トラの主要な獲物の一つですが、このサンバー自体も絶滅危惧種なのです。

そこでこの国立公園では、飼育下で繁殖させたサンバーを、森に再導入することで、トラと同時にサンバーの数も回復させる試みを実施しています。

2022年には、40個体以上のサンバーが放たれました。

それと同時に、サンバーなどの草食動物が利用する、草地の整備や、人工の塩舐め場の造成など、生息環境の改善にも取り組んでいます。

© Worrapun Phumanee / DNP / WWF-Thailand

発信機を装着したサンバー。発信機は数週間で自然に脱落する。

タイ:トラの生息地をつなぐコリドー再生プロジェクト開始

ミャンマー国境沿いの森林地帯では、トラの個体群は北側のWestern Forest Complex(西部森林群)と、南側のKaeng Krachan Forest Complex(ケーン・クラチャン森林群)に生息しています。

しかし、この2つの生息地は、100キロ以上の距離をあけて、南北に分断されていました。

しかし、この2つの生息地の間を、森林などの緑地帯つなぎ、トラやその他の野生動物が安全に行き来するようにできれば、個体群の交流が生まれ、将来的な増加が期待できると考えられています。

このようなつながりのことをコリドー(緑の回廊)と言います。

今回の取り組みで計画されているのは、南北に長さ100kmのテナセリム・コリドー(オレンジ色)と名付けられた地域で、緑の回廊としての働きを確立・拡大させよう、という壮大なプロジェクトで、そのための森林再生や密猟対策、開発防止などが進められようとしています。

長い時間を必要とする取り組みですが、コリドーの確立によるトラ保全の有効性は、ネパールやブータンでも証明されつつあり、タイでも同様の効果が期待されます。

© WWF-Thailand

テナセリム・コリドー(オレンジ)

くくり罠の脅威は続く

2022年の寅年のトラにまつわるニュースは、明るい話題ばかりではありませんでした。

くくり罠という、針金や紐で簡単に作ることのできる罠の脅威は、アジア全体に広がっています。

TRAFFICとWWFが公式データをまとめた報告によると、2012年から2021年の間に、少なくとも387頭の大型ネコ科動物がくくり罠の犠牲になっています。

その中には、トラ130頭、ヒョウ245頭、ライオン1頭も含まれていました。

このデータは、把握できたものを集めただけに過ぎず、把握できなかった数も加えれば、犠牲になった動物の数はもっと多くなるでしょう。

また、トラにおいては、トラを狙った罠の犠牲になったのは約半分に過ぎず、残りの半分は草食動物など他の動物を標的とした罠の犠牲になったものでした。

くくり罠は、無差別にどんな野生動物も捕えてしまうため、大きな問題となっています。

© Lau Ching Fong / WWF-Malaysia

くくり罠

このように、トラの数が全体では回復傾向にあるとはいえ、国や地域によっては、絶滅につながる大きな脅威が、いくつも残されています。

いかがでしたでしょうか?

ご紹介した活動と成果は、現地のWWFスタッフをはじめ、共に取組む保全団体や地域住民、自治体、政府、企業、教育機関といった多くの人々の総力の結果です。

そして何より、こうした現地の活動は、日本をはじめ、トラが生息していない国々の皆さまからのご支援がなくては成しえなません。
2021年12月から2022年5月にかけてWWFジャパンが実施したトラ保全のキャンペーン「トラに願いを。」には、延べ6,020名の方々がご協力くださり、合計で6,218万3,180円ものご支援を賜りました。お寄せいただいたご寄付は、トラと、トラが生息する森の保全のために、大切に使わせていただいております。

この場をお借りし、ご支援いただきました皆さまに、あらためて心より厚く御礼を申し上げます。
12年に一度の寅年は終わり、全体的にトラは回復傾向にあるものの、まだまだトラの数は少なく、生息地の課題は多く残されています。

アジアの生態系の頂点に立つトラと、それが象徴するアジアの自然の危機を解決していく活動は、まだ道半ばです。

WWFはこれからも、トラの保全において、もっと明るい報告を皆さまにお届けできるよう、活動を続けていきます。

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