© WWF Japan

東日本大震災から10年目の3月11日を迎えて


皆さんこんにちは。WWFジャパン事務局長の東梅です。

2021年、あの東日本大震災から10年目となる3月11日がやってきました。

WWFを代表し、犠牲になられた方々のご冥福をあらためてお祈りいたしますとともに、ご遺族ご友人ならびに被災地にお住まいの皆さまへ、お見舞いを申し上げます。

また、WWFにご期待とご支援をお寄せいただき、震災からの復興にもかかわる、さまざまな取り組みの実践を可能にしてくださった、多くのサポーターの皆さまには、この場をお借りして、あらためてお礼を申し上げます。

私自身、岩手の出身でもあり、震災からのこの10年間には深く思うところが、数多くありました。

その中には、私たちWWFがさまざまな方々と協働し、取り組んできた環境保全の活動も多々あります。

被災地の海から

中でも印象深いのは、宮城県南三陸町戸倉地区での、持続可能なカキ養殖の実現を通じた震災からの復興です。

戸倉では、地域の特産品だったカキの養殖設備が、津波で全壊。しかし、戸倉の方々はこれを機会に、それまでの過密で海の環境に負担をかけていた方法をやめ、養殖筏(いかだ)を三分の一以下に減らす大きな決断をしたのです。

その結果、養殖用の筏の間隔が広くなり、カキへの養分が行き渡りやすくなったため、カキの成長が促進され、以前は収獲まで3年かかっていたカキが1年で、しかも大きく成長するようになりました。

売り上げも向上し、さらに労働時間の改善や若い世代の方々の参入も実現。地域産業そのものが生まれ変わることになりました。

そしてこのカキ養殖は、2016年には日本で初となる、持続可能な養殖水産物の国際認証であるASC認証を取得し、世界的にも、その価値が認められることになったのです。

また、ASC認証を受けたカキ養殖方法は、海の生態系を改善する役割を果たしていることも、新たに分かってきました。

カキは、若い方が養分の吸収率が高く、排泄物の量も少ないため、成長が早く短期間で収穫できるようになると、海の環境への負荷がより少なくなります。

このように、戸倉の皆さまが海の自然と真摯に向き合い、環境の収容力には限りがあることを受け入れ、それを活かすことで、新たな人と海の関係を築いたことには、大きな意味がありました。

10年という年月の中、ただ震災前に「復旧」するのではなく、私たちにはそれを超えたよりよい「復興」が確かにできる、という希望を、この戸倉の取り組みは教えてくれたのです。

新しいエネルギー社会の実現に向けて

もう一つ、震災をきっかけに、私たちWWFが全力を注いだ取り組みがあります。

福島第一原子力発電所の事故を受けて急遽前倒して行なった、脱炭素社会の実現に向けた「エネルギー・シナリオ」の発表です。

震災後約半年で完成させたこの「シナリオ」の中で、私たちはさまざまなデータを基に、日本の電力エネルギーの需要を、徹底した省エネと、再生可能な自然エネルギー大胆な拡大の組み合わせでまかなうことができることを示しました。

2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、その未来に向けた希望を社会に向けて訴えたのです。

それは、これ以上原子力に頼らず、地球温暖化の脅威を防ぐことにもつながる、新しいエネルギー社会に日本が生まれ変わる、という選択肢を、私たち国民が選べるのだということを提案するものでした。

また、2011年に行なわれた、日本のエネルギー基本計画の見直しに際しては、この「シナリオ」を踏まえて、国民からの意見募集「パブリックコメント」に、応じるよう呼びかけを実施。その結果、約1万人もの方々が私たちの声に応じ、「コメント」を政府に届けてくださったのです。

それから10年が経った2020年10月、菅首相は「2050年温室効果ガス 排出量ゼロ」を表明。
WWFではこれを受けて、最新の改訂版「シナリオ」を同年12月にすばやく公開し、脱炭素社会の実現が可能であること、そしてそのためには選択すべきエネルギーの組み合わせを、具体的に示しました。

しかし、この「未来」を求める多くの人の「声」は、実はあの震災の直後から、確かに上がり始めていたのです。

これからの10年に向けて

私は、震災からの10年を振り返った時、「自分たちには未来を選び、変える力がある」と気づいたより多くの人たちが、自ら「声」を上げ、行動するようになった、と感じています。

実際に、その声と行動は、これから先の10年間、社会をよりよいものに、より持続可能な形へ変えていく、大きな原動力となるでしょう。

持続可能な養殖の取り組みも、生産現場の自然環境や、法律などのルールを守ったシーフードを、買い物をする人たちがその意義と努力を知り、選ぶ行動をしなければ、社会には広がっていきません。それは自分たちが使うエネルギーについても同様です。

暮らしの中で知ること、声を上げること、行動に移すこと、それが真の復興を支え、人と自然の共生を実現させる。それは、震災からの10年間に私たちが深めてきた確信です。

これからの10年は、人と自然の共生に欠かせない、世界の生物多様性を取り戻していく上で、重要な10年となります。

世界各地での森林破壊や野生生物の不適切な取引が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような感染症のパンデミックを、再び引き起こすようなリスクもありますが、それもまた、多くの人が解決のカギである「ワンヘルス」への理解をより深め、声を上げて行動することで、防ぐ可能性を高めることができます。

未来を変える声と行動を信じ、一人ひとりの皆さまと共に、私たちWWFは、2030年に向けたこれからの10年を、歩んでいきたいと思います。

この記事をシェアする

事務局長
東梅 貞義

国際基督教大学教養学部理学科卒業(生物専攻)。英国エジンバラ大学修士号(Master of Science)取得(自然資源管理専攻)
1992年WWFジャパンに入局以降、日本全国各地の重要湿地の保全活動に携わる。
2019年からはシニアダイレクターとして、WWFジャパンが手掛ける地球環境保全活動全般を統括。
2020年7月 WWFジャパン事務局長就任
座右の銘は、Together possible 「一緒なら達成できる」

自然保護に取り組み30年近く。これまでのフィールドは、日本では南は石垣島のサンゴ礁から、北海道の風蓮湖まで、世界ではペンギンの生きる南米の海から、極東ロシアのトラの森、渡り鳥の楽園の黄海、そしてミャンマー・タイの東南アジア最大級の手つかずの森まで。野生生物と人の暮らしが交差する現場で、現地の人々や研究者、グローバル企業、国際機関の方々とご一緒に、自然保護と持続可能な未来を目指して日々取り組んでいます。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは世界約100か国で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP