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WWFレポート「震災復興から生まれた持続可能な養殖」を発表

この記事のポイント
2011年3月に起こった東日本大震災から10年の月日が経とうとしています。WWFではこの間、震災直後に開始した「暮らしと自然の復興プロジェクト」の一環として、宮城県南三陸町戸倉地区における、海洋環境に配慮した養殖業への転換を目指す復興の取り組みを支援。この宮城県南三陸町の戸倉かき生産部会は、2016年に日本初の持続可能な養殖の国際認証「ASC認証」も取得しました。WWFジャパンでは震災復興を通じ10年にわたって行なわれた、戸倉での一連の養殖の改善、そして自然環境、経済、社会、そして人の変化と、その取り組みの価値を、今回報告書にまとめ発表しました。

東日本大震災から環境と社会に配慮した養殖業を目指して

2011年3月11日に発生した、宮城県沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震とその後の津波によって、東日本太平洋沿岸の地域は甚大な被害を受けました。

東北地方の南三陸沿岸で主幹産業となっていた養殖業も、深刻な被害を受けた産業の一つです。

必要な設備が全て津波で流され、養殖の再開すら危ぶまれる中、宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所のカキ生産部会は、被災直後から復興に向けて動き始め、ある決断を下しました。

「養殖施設を震災前の3分の1にまで削減する」
それは、これまでの過密養殖によるカキの成長不良や品質の低下を改善するための大胆な決断でした。

これは、結果として大成功を収めました。
海の環境が改善され、栄養がカキの一つひとつに行き渡るようになったことで、震災前、収穫に3年を要していた育成期間が、1年に短縮されたのです。

そして震災から5年後の2016年3月には、日本で初めてとなるASC(水産養殖管理協議会)認証を取得するに至りました。

ASC認証とは自然環境と地域社会、労働環境に配慮した養殖業に与えられる国際認証です。

さらに、養殖業にかかる労働時間も短縮され、若い後継者の参入も加わるなど、この戸倉での試みは、さまざまな面で大きな成果を挙げました。

養殖業をただ震災前に戻すのではなく、震災を機に、新たな「人と海との共生」の実現を目指したこの復興は、世界的に価値のある、21世紀の持続可能な社会のモデルとなったのです。

環境と社会に配慮した戸倉のカキ養殖がもたらしたもの

WWFジャパンは震災から10年を迎えた2021年3月11日、この戸倉での取り組みの経緯と成果をまとめた、報告書『震災復興から生まれた持続可能な養殖~南三陸町戸倉の挑戦~』を発表しました。

報告書は、6名の方に執筆いただき、戸倉で目指したカキ養殖の改革がどのような変化をもたらしたのか、自然環境、経済、社会、そして人の視点から、意義や課題についてまとめています。

主な内容は次の通りです。

  • 海洋環境への影響の軽減
    カキは水中の微粒子を摂取するため、浄化機能があると言われますが、過密養殖状態では、排泄物により環境が悪化します。またこの排泄物は年数がたった個体ほど、体重当たりの量が増えることから、戸倉の事例では養殖施設数(イカダ)を減らしたことによる直接的効果に加え、1年の生産サイクルに短縮されたことでより環境への影響が低減されたことが分かりました。
  • 養殖カキの生産量の増加
    養殖施設数を減らしたことで、海水の循環が改善され、カキの成長速度が向上しました。これまで成長が芳しくないとされた湾奥(外洋から離れた陸に近いエリア)でも遜色がないこと、志津川湾全体で比較した時、施設数をより多く減らした戸倉海域(南側)のほうがより成長が早いことも分かりました。また波浪などによりカキが自然脱落することがありますが、収穫までの期間が短縮されたことで生産ロスも下がったと考えられます。結果として生産量は震災前の約2倍となりました。
  • 収益の増加
    品質が向上したことやASC認証の取得による知名度の向上により、戸倉のカキの取引単価は県内の平均単価より高値を維持しています。生産額は生産量の増加もあり、震災前の1.5倍に伸びています。また施設数を減らし事業規模を縮小したことで、経費を大幅に節減することができました。設備や種苗にかかるコスト、燃料費など、震災前と比較して約4割のコストを抑えることができました。
  • 労働時間の短縮
    事業規模の縮小による収穫作業や維持管理にかかる時間が減ったことに加え、殻が薄く身入りの良いカキが生産できるようになったことから、殻剥きに要する時間も4割削減されました。以前は土日関係なく仕事に従事していたが、今では日曜を定休日にしているそうです。
  • 災害リスクの低減
    津波災害は稀だとしても、台風や低気圧による暴風波浪による被害は毎年のように生じます。しかし、養殖施設の減少に伴う経費の削減や、収穫が1年でできるようになり収入サイクルも短期化したことで、3年間収獲を待っていた震災前よりも、災害時に生じる損失額がより少額で済むようになりました。
  • 若者の増加
    震災後、戸倉かき生産部会が行った改革のひとつが、施設配分の見直しです。これまでの既得権益を含む配分を見直し、後継者がいる生産者により手厚く配分することにしました。また生産や収入の安定化、労働条件の改善、さらには日本初のASC認証の取得による知名度向上なども、若い漁業者にとっての魅力につながったといいます。
  • 生産者の意識の変化
    東日本大震災を契機にこれまでの生産手法を見直し、日本初のASC認証の取得を実現したことで、生産者も、より自然環境や将来に続く養殖業を意識するようになったと言います。2015年当時、ASC認証の取得を目指すかどうかを協議した場では、費用対効果や作業負担などを懸念する声も聞こえましたが、認証取得から3年後の認証の更新時期には、誰一人反対する人はいなかったそうです。

WWFジャパンの役割と今後に向けて

WWFジャパンは、2011年7月より「暮らしと自然の復興プロジェクト」を立ち上げ、宮城県南三陸町にて、震災による環境影響の評価と適切な自然再生への提言、持続可能な水産業の変革支援を目指し、南三陸町戸倉で活動を行なってきました。

宮城県漁協志津川支所戸倉出張所のみなさんや地元内外のたくさんの関係者の方々と連携できたことで、2016年には被災地から日本初のASC認証の取得が誕生するという、原型復旧ではない、持続可能な将来を見据えた復興の事例を示すことができました。

そして戸倉のみなさんが実現した改革は、環境に配慮した持続可能な水産業を目指すことが、経済や社会的な付加価値、さらには生産者や関係者の意識の変化にもつながる可能性を証明しました。

この可能性の追求は、WWFが世界的な視野で目指している「持続可能な社会」の実現と、そのモデルを体現するものであり、歴史的にも価値の高い、大きな意味を持つものと考えます。

WWFは今回作成した報告書の結果を、国内外の関係者に届け、環境と社会に責任のある養殖業がもたらす付加価値と重要性に関する理解と関心を深めていきたいと考えています。

報告書

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