ブリ類・スギ類水産養殖管理検討会第3回会合 報告


水産養殖業を持続可能なものとするための認証制度「ASC(水産養殖管理協議会)」は、サケやアワビなど計12品目の養殖魚種について、順次、認証基準の策定を進めています。このうち、ブリ類・スギ類の養殖に関する認証基準を検討する円卓会議の第3回会合が、2013年2月12日、13日の2日間にわたって東京都内で開かれました。

責任ある養殖業の確立を目指すASC(水産養殖管理協議会)

世界では、養殖水産物が目覚ましい勢いで伸びています。この15年間についてみると、年率8~10%という急成長を続けています。今では、水産物の半分近くを養殖水産物が占めるまでになりました。しかも、2050年には世界人口が90億人に達するとの予測がある中、養殖水産物の生産を倍増させなくては、世界の食の需要を満たせないとの見方もあります。

ただ、やみくもに生産高の増大だけを追い求めれば、周辺の環境や地域社会におよぼす影響も大きくなってしまいます。そこで、WWFはオランダのIDH社(Dutch Sustainable Trade Initiative)とともに、2010年に「ASC(水産養殖管理協議会)」を立ち上げました。ASC認証は責任ある養殖業の確立を目指す認証制度です。水産養殖業の持続可能性をたしかなものにするために、ASC認証の今後の普及拡大が望まれます。

ASC認証では、サケ、二枚貝、エビなどについて、独立した「水産養殖管理検討会」が認証基準の策定を進めています。基準を満たしたもののみがASCのラベルをつけることができ、店頭に並んで、消費者の手に渡るようになります。これまでに7つの基準の策定がおおよそ完了し、うちリーガル・スプリングス社がインドネシアにもつティラピア養殖場から認証製品第一号が誕生しています(2012年8月20日発表)。

ASCのマーク

第3回ブリ類・スギ類水産養殖管理検討会

基準策定のための会議が東京で開催

ブリ類・スギ類の基準策定作業

まだASC認証基準の策定が済んでいないブリ類・スギ類について、東京で会合が開かれました。ASCの認証基準は、「水産養殖管理検討会(Aquaculture Dialogue)」というすべてのステイクホルダーに開かれた公開の円卓会議で議論がなされた上で、決められていきます。ブリ類・スギ類水産養殖管理検討会の第3回円卓会議が東京に誘致され、開催されました。日本はブリ類・スギ類の養殖と消費がもっとも盛んな国であることから、WWFジャパンが調整役を務めて、実施の運びとなりました。

2013年2月12日、13日の2日間、東京海洋大学において、養殖業、流通業、研究者、NGO、政府関係者など、多方面から約40名の参加を得て、「第3回ブリ類・スギ類水産養殖管理検討会」が開かれました。

運営委員会によって会議が進行

大切なのは、基準策定作業が、このように多くのステイクホルダーが関与するなかで、客観的かつ透明性のあるプロセスを経て決められていくことです。このプロセスが、厳格で強固な基準作りに貢献します。そして、ASC認証を科学的評価にも耐えうるような測定可能な基準へと鍛えていくのです。
今も、養殖業は各地でそれぞれの基準に従って営まれていますが、ASCはグローバルに通用する基準を設けることで、一層の持続可能性を担保していくものです。ブリ類・スギ類水産養殖管理検討会は環境および社会に与える影響をなくす、もしくは最小化することを目標にしています。将来的に、世界の上位15%のブリ類・スギ類養殖業を、この基準に沿ったものにしていきたいと、運営委員会(Steering Committee)が将来ビジョンを示しました。

基準の原案提示と意見の聴取

会議の舵取りをする運営委員会は、研究者、NGO、養殖業者などからバランスを考慮してメンバーが選出されています。この検討会では、7つの原則(principle)と、それぞれが遵守されていることを確認するための指標(indicator)および基準値(standard)が、運営委員会から原案として提示されました。

<ブリ類・スギ類の養殖に関する7つの原則>

  1. 国際法、国内法などの法令遵守
  2. 自然環境、生物多様性および生態系の保全
  3. 天然個体群の健康と遺伝的健全性の保持
  4. 飼料などの資源利用の適正な手法
  5. 病害虫の抑制と薬剤使用の管理
  6. 責任ある労働慣行による養殖場の運営
  7. 地域社会との良好な関係維持

検討会の参加者は、示された指標と基準値について意見を述べ、その妥当性について議論を重ねました。日本人の参加者は、自らの養殖業の実際と照らし合わせるなどしながら、多数の改善提案を出し、疑問点を解消しようとしました。

運営委員会のメンバーは出された意見のひとつひとつに丁寧に耳を傾け、より妥当な基準の設定になるよう、対話を続けました。このブリ類・スギ類の養殖基準の第一草案は、検討会で提示されたのと同時に、WWFアメリカのウェブサイトでも公開され、60日間(2013年4月12日まで)のパブリックコメントの受付が始まりました。運営委員会のメンバーは、今回の検討会に参加しなかった関係者にも意見を提出してほしいと呼びかけました。
日本語でのパブリックコメントの提出も可能です。詳しい方法はWWFジャパンのホームページをご覧ください。

パブリックコメント募集期間に寄せられた意見を参考に、基準の第一草案の改定作業が運営委員によって行われます。その後、改定基準案について、2回目のパブリックメントの募集と、第4回検討会が開催されます(予定:於日本)。2013年中には最終版を確定する予定で、運営委員会からASC(水産養殖管理協議会)に対して、ブリ類・スギ類の養殖基準の策定が完了したとして報告がなされます。策定が済んだ基準は、5年ごとのレビューによって見直しがおこなわれていきます。

WWFジャパンは、ブリ類・スギ類の養殖基準が現実的かつ堅牢なものとなるよう、引き続き働きかけをしていく予定です。

<検討会参加者の声> (社名50音順)

東町漁業協同組合 品質管理室 課長 石田幸生氏

ASC認証を取得すべきかどうか、費用対効果をしっかり考慮に入れて、見極めていきたいところです。超えなければならないハードルがたくさんあることが、今回の検討会から分かりました。
東町漁協では、30年にわたって養殖環境に関するデータを蓄積してきたので、その点は何らかの形で認めてほしいと思っています。自分たちは、これまでも高い水準で養殖業を営んできたという自負をもっています。長期にわたって環境負荷を低減させてきた取り組みをこれからも続けるとともに、そのことを理解してもらえるように努力していきたいと考えています。

黒瀬水産株式会社 代表取締役社長 黒田哲弘氏

持続可能な養殖業を目指すというASCの主旨には賛同できます。WWFなどが率先して基準作りを進めてくれるのは歓迎したい。
ただ、日本では家族経営による養殖業が多いので、大規模産業化している海外の養殖業とは事情が異なります。こうした日本の実態にも則した基準となることが期待されますが、自分たちとしても基準に近づける努力をしていきたいと思っています。
ASCは日本ではまだあまり知られていません。安全・安心な魚の供給に取り組んでいる養殖漁業自体への理解向上を図りながら、付加価値を生む制度としてASCが発展していってほしいと願っています。


コンサベーション・インターナショナル 代表 日比保史氏

環境NGOとして、認証制度の普及に期待しています。養殖業の盛んな日本には、養殖業を持続可能なものに転換していく仕組みとして、早い段階からブリ類・スギ類の認証制度の促進役を果たしてほしいです。そして、それがグローバルに受け入れられていけばいいと思います。こうした認証制度の普及にあらためて力を入れていく必要性を感じました。そして、今回のような、マルチステイクホルダー・ダイアログが総合的な海洋持続性につながっていくことを期待しています。

ヤンマー株式会社 伊澤あらた氏(社長室 ソリューショニアリング部 マリンファーム 所長)

漁船向けのエンジンを中心に養殖機器を提供するメーカーの立場から、持続可能な養殖業が広まっていってほしいと考えています。私自身が、これまでMSC(海洋管理協議会)の国内導入に関わったり、認証業務に携わった経験をもとにして、策定が済んでいるほかの養殖魚種の基準を参考に、より分かりやすく実用的な基準になるよう、積極的に発言することを検討会では心がけました。
ステイクホルダーミーティングにはいろんな立場の人たちが参加しているので、こうした機会を捉えて建設的な意見をインプットしていくことが大切だと思います。この2日間の議論で終わらせずに、ASCとステイクホルダーが継続的にコミュニケーションをとることが必要でしょう。

黒瀬水産株式会社の黒田哲弘社長


ヤンマー株式会社の伊澤あらた氏

検討会は2013年2月12日、13日に開催

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